【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
廃城跡に入ると、中にはゴーレムだったらしき瓦礫が無数に転がっていた。
全長三メートルのゴーレムとはいえ、剣や弓といった常識的な武装なら、相当な強敵のはずだ。なのに、ゴーレムたちは徹底的に討伐されている。
「幻影騎士たちに、討ち漏らしがないか探らせています。万一もあり得ませんので、安心してください」
気遣うようなことを言いながら、自身でも緊張に顔を強張らせて、シアは進む。
階段を上り、広い空間に出る。何となく、ここが怪談の、騎士が貴族を殺した酒盛りの場かな、なんて思う。
その中心に移動して、シアは言った。
「ここで、儀式をしましょう。開けていますし、いざという時にまっすぐ階段を下りれば出口に辿り着けます」
「ん、ああ」
相槌を打ちながら、思う。
……いざという時?
「なぁ、シア。もしかしてだけど、解呪の儀式って危険なのか?」
「分かりません。ですが、テクトは付き人を立派に果たしました。ならば、わたくしも約束を果たさねばならない。でしょう?」
「お、おう……」
何だか妙な雰囲気だ、と思う。シアは密かに、よろしくないタイプの覚悟を決めている、というオーラを醸している。
「あの、シア? 解呪のことだけどさ、確かに呪いはダルイんだけど、危険なやり方しかないのならもう少し調査に費やしても―――」
「テクト」
俺が、ヤバそうならやめとけよ、と告げようとした言葉を遮って、シアは俺を呼んだ。
それから、皮肉っぽい、シアにしては珍しい笑みを浮かべて、話し出す。
「いいのです。これは、わたくしの自業自得というもの。わたくしはあなたのような男の子と知り合い、楽しい日々を過ごしてしまいました。ですが、それは不当なものでした」
「不当? ……何が」
「誠実に接するなら、あの場で断るべきだったのです。ですが、容易に解呪できるとのたまって、あなたに対価を求めた。そしてテクトは正しく対価を支払った」
であれば、とシアは言う。
「わたくしは、例えどれだけ危険でも、約束を果たさねばなりません。でなければ、それは王族にあるまじき不徳。それをわたくしは、自分に許すことができません」
そう言ってのけたシアの目は、どこまでもまっすぐだった。
ヘッダさんの教育が、シアの根っこに根付いている。そういう目だった。不誠実を、不義理を、そして不躾を決して許さない、そういう芯が感じられた。
だから、俺は悟ってしまう。どれだけ危険でも、どれだけ止めても、シアは解呪をやめないと。そういう覚悟を決めてきたのだと。
「……」
となると、俺には止められない。止める術が、ない。
俺はため息を吐いて、頷く。
「分かったよ。やってくれ」
「はい」
「……ここまで言って、すんなり終わったら面白いな」
「ぷっ、うふふふふふふっ。……この土壇場で笑わせないでください」
シアに睨まれる。俺は舌を出して茶目っ気たっぷりにとぼけてやる。
するとシアは、「右手を出してください」と言った。
言われるがままに、右手を差し出した。俺の、呪いの巻き付いた右腕。その呪いを、シアはじっと見下ろしている。
そして、言った。
「―――裏切らないで、とは言いません。でも、あなたはすごい男の子。可能なら、わたくしに分からないように、裏切ってください」
「は?」
シアが何を言っているのか分からない。そう俺が混乱しているタイミングで、シアは俺の右手を握った。
右腕に、痛みが走る。「ガッ」と俺は呻く。
そして、呪いが蠢いた。
それは、シアとの接触面から、シアの腕目がけて殺到した。
呪いが、その紋様が、シアの腕に移動する。シアは歯を食いしばり、痛みに耐える。
その時、シアの懐から、ハンドベルが零れ落ちた。
それは地面に落ち、コロコロと地面を転がった。それから、不思議に宙に浮きながら、主もないままにリンリンと音を立てる。
次々にこの場所に、幻影騎士たちが現れる。騎士たちは続々と得物を抜き放ち、シアを前に構えだす。
「っ! シア! これはどういうことだ! 何が起こってるんだよ、これ!」
「く……! 呪い、が、真骨頂を発揮しているの、です。元より、その呪いは『幻影妃』の血統の者を狙った呪い。その効果は」
シアは、絞り出すように口にする。
「
その時、ものすごい殺気が、俺に飛んできた。
振り返る。そこには、幻影騎士の騎士団長が立っていて、鋭い眼光で俺を射抜いている。
『貴公、―――何故魔女どもの味方をしている』
「は? 何言って」
「避けなさい、テクト!」
叫びながら、シアは俺を突き飛ばした。
俺たちが立っていた場所に、騎士団長の剣が通過する。それで俺は、ハッとする。混乱で、まともに動けていなかった。
だがその行動で、俺とシアが分断されてしまう。シアの姿が幻影騎士で隠れて見えなくなり、逆に俺もシアから見えなくなっていることだろう。
周囲を探る。先ほど言った通り、俺の背後には脱出まで道があった。まっすぐに駆け抜ければ、俺は逃げ切れる。
何故なら、幻影騎士の目的は、俺ではないから。
「―――そういう事かよッ、シア!」
今までの、シアの言動の不自然さが、俺の中で像を結ぶ。
つまり、シアは最初からこうするつもりだったのだ。幻影騎士たちが一気に反乱する中で、しかし俺だけは逃がそうと。
だが同時に、シアの心のひどく脆い部分が、悲鳴の代わりに言葉を紡いだのだ。
裏切ってください。見捨ててください。逃げ延びてください。でもせめて、それと分からないようにしてください、と。
それに、それに俺は――――