【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
俺が鍛冶を始めてからさらに数年。俺に、十五歳の春が訪れていた。
「みんな恐ろしくギャン泣きしている」
「おにいちゃぁ~ん……! 行かないでよぉ~!」
「そうだよ! お兄ちゃんなしで、母さんの訓練耐えらんないよ!」
「兄ちゃんはみんなの癒しだったのに! 貴族学園なんか嫌いだ!」
「お前らもいずれ学園に通うんだぞ」
馬車を前にした、出立の日の朝のことだった。
兄離れの出来ていない妹たちが、揃ってぎゃあぎゃあと泣いている。ここまで懐かれたと思うと、嬉しい反面寂しさもあり、という感じだ。
そう思っていたら、両親が近づいてきた。
「ほら! 散れ! 散れガキども!」
「ぎゃあ! もう、母さん!」
「母さんのムスコン! 子離れしろ!」
「お兄ちゃんの独占を許すな!」
「散れ!」
戦闘力に差がありすぎる妹たちは、母親に蹴散らされ散っていく。貞操逆転してるからって、女の子の扱いが雑すぎる。
それから、母親は俺に微笑んだ。
「……テクトも大きくなったのね。鍛冶はできるようになった?」
「なったよ。昨日ギャン泣きする師匠に、免許皆伝って言われた」
「よし、じゃあ自信もっていってらっしゃい。ああ、そうだ。ウチの城のお嬢様も、今年の入学生らしいから、会ったらご無礼のないようにするのよ」
「分かってるよ。っていうか昔は仲良かったし、普通に仲良くするよ」
懐かしい、と思う。城のお嬢様。つまりは、この領地の領主の娘という事だ。
母親が地位のある騎士なので、そのツテで幼少期知り合った女の子だった。小柄で可愛らしい子だった記憶がある。幼い頃の記憶だ。
とはいえ、仲良くなっても家格が釣り合わないし、嫁の一人に、とかはできないんだけどな。俺はめちゃくちゃ強くなって、平民の女の子を落としまくる必要があるのだ。
……そういえば、貴族学園だし、平民の女の子ってほぼいないか? 特待生くらい? あとは同じ騎士の娘とか……?
そんなことを考えていると、今度は父親が前に出てくる。
「テクト。お前は女仕事にばかり精を出す、妙な子だったが……これから苦難が待っていることは、分かっているな」
「分かってるよ、父さん」
父親はもちろん、俺に十人の嫁という義務が課されていることを知っている。きっとそれを鼓舞してくれるのだろう。
そう思っていたら、父はこう言った。
「男は婚活が上手く行かなきゃ野垂れ死ぬから、頑張れよ。でも女にばかり媚を売るのもよくない。貴族の男はみんなクズだが、嫌われたら終わりだから気を付けろ」
「俺もっと父さんとしっかり話した方がいい気がしてきた」
強くなることばかり考えてて、男社会に馴染む方法とか全然知らない。
すっごくまずい気がしてきた。大丈夫かな。やるしかねぇか。やるしかない。頑張ろう。
「じゃあみんな、行ってくる」
『いってらっしゃい!』
そうして俺は惜しまれながら馬車に乗り込み、生家を離れることになるのだった。
馬車で旅に出て数日。俺はやっと貴族学園に到着していた。
「おぉ……壮観だ」
小高い丘を越えて下り坂。その先に、その学園は存在した。
まるで広大な城のような、林立する尖塔の数々。その根元に広がる学生街。
周辺には、豊かな森に広々とした草原、峻烈な岩山など、様々な自然が広がっている。
確かにここなら、特別な武器に必要な素材が手に入りそうだ。俺はワクワクしてくる。
そうやって馬車の窓から顔を出していると、不意に俺は、物陰に隠れた何かを見つけた。
「ん……? すいません、止まってください」
馬車の御者に声をかけて、近くの林の近くで止めてもらう。俺は馬車から降りて、そちらに近づいていった。
そこにいたのは、恐らく俺と同じ入学生と思しき、一人の少女だった。
「うぅ……置いてかれちゃった……。安い共同馬車はやっぱりダメだったよ……」
前髪が長く、目がほとんど隠れている黒髪長髪の女の子だ。学生服に丈夫そうなフードを被り、胸元にバラを差している。
安い共同馬車? と言われ、俺は少し考える。基本的に平民や、こっそり貧乏貴族が乗るような馬車のはずだが……。
俺は振り返る。俺が乗ってきた馬車は、ちゃんとした個人用の奴だ。
「……あっ」
そうか! 俺、前世の女の子扱い的な感じで、ちゃんとした馬車に乗せてもらってるのか! 何か嫌だなそう思うと! ちょっと恥ずかしいんだけど!
そういえば、姉たちはもっと雑な馬車だったような、と思い出す。うわ、何か嫌。女の子よりも優遇されるの、ゾワゾワして気持ち悪い。
そんな風に思っていると、「アレ?」と女の子が俺に気付く。
俺は咳払いして気持ちを切り替えてから、女の子に声をかけた。
「あの、大丈夫ですか? 困ってそうに見えたので」
「ひゃっ! おおおお、男の子!? あっ、あのあのあの、ち、違くて、怪しいものじゃないんです!」
前髪がひさしになっているメカクレちゃんの慌てぶりに、「疑ってないですよ。俺と同じ新入生でしょ?」と苦笑する。
女の子なんだから、そんなこと疑わないってのに。
……んん? いや、だからか? そうか貞操逆転世界だもんな。脳がバグる……。
と思っていると、女の子が事情を話し始める。
「そのっ、きょ、共同馬車で学園に向かってて、最後の小休止でトイレしてたら、忘れられちゃったのか置いてかれてしまって……!」
「あー、そうなんですね。確かにそれは困るな。歩きだとまだまだ距離あるし」
もっとも、日ごろ俺が走ってる距離ほどじゃないが。持久力はあんまり魔力と関わりない部分だから、鍛えてないと厳しい距離だろう。
俺は女の子に、提案を持ちかける。
「じゃあ、俺の馬車乗ってきます?」
「え……? あ、えと、あの、い、いいんです、か……?」
「もちろん。助け合い、大事ですから」
俺の目標は、女のピンチに駆けつけて守る、優しくて強くて稼ぐスーパージェントルマンだからな。そうじゃないと騎士でハーレムなんて作れないともいう。
それでなくとも、女の子には優しくするものだ。
俺は手を差し出し、彼女に言う。
「俺はプロテクルス。みんなからはテクトって呼ばれてる。君は?」
「わ、私は、ウィズ・デルフィアと申します」
手を取り、立ち上がらせる。か細い手だ。魔力を除けば、基本女の子は華奢なんだよな。
「……お、おおお、男の子と手を握っちゃった。男の子と、て、てててて、手を……!」
「あの?」
「はっ、ひゃい! なんでひょう!」
この子ずっと慌ててるな、と苦笑しつつ、俺は手招きする。
「馬車、乗るんでしょ。ほら、早く早く」
「はっ、はい! いっ、今行きます!」
慌ててウィズは荷物をまとめて、俺の馬車の下に駆け寄ってくるのだった。