【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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幻影騎士は城の中

 シアを抱きしめた俺は、グラップリングフックで素早く廃城の中から脱出した。

 

 空中に投げ出される。シアが俺をぎゅっと抱きしめながら、「きゃああああっ!?」と声を上げる。

 

「テクトっ! テクト落ちてます! くっ、しっかり掴まっててください。わたくしがクッションになって」

 

「ならんでいい」

 

 俺は近くの木に向かってグラップルを放って、その周りをぐるぐる回るようにして体に掛かる落下の勢いを誤魔化す。

 

 そこから刺さった先端を外して、土煙を上げながら着地した。シアは「景色が、ぐるぐるとぉ……」と目を回している。

 

 俺はグラップルのワイヤーを素早く巻き取りながら、廃城の脱出口を見上げた。

 

 小高いそこからは、幻影騎士たちが俺たちの様子を見下ろしている。

 

 その目に殺意が込められているのは、一目で分かった。シアを殺さずにはいられないという目をしている。その邪魔をする俺を、確実に殺そうと考えている。

 

 だが、どこか違和感があった。以前見た傀儡然とした姿よりも、目配せなど知性の窺える動きをしている。

 

 それに、真ん中で俺たちを見下ろす、一番鎧の豪勢な、騎士団長のような幻影騎士も……。

 

 そこでシアは我に返り、「というか、テクト!」と詰め寄ってくる。

 

「いっ、今のは何ですか! あなたは男でしょうっ? 何故これほどの戦闘力を有しているのですか!」

 

「そりゃあ、俺は努力しないとまともな人生を送れそうになかったからな」

 

「どういうことですか!」

 

 軽くパニックを起こしているシアに、俺は言う。

 

「俺は騎士の息子だ。領地も財産もないのに、貴族の義務がある。だから稼ぐだけの力が必要なんだよ。女の子に選んでもらえるようにな」

 

「……それは……」

 

 シアが口をつぐむ。法律は王家が定めるもの。その法律で苦しめられている俺は、言うなればシアにとって、身内が出した被害者になる。

 

 けれど、そんなことはどうでもよくて。今は喫緊の問題を片付けなければならない場面だ。

 

 俺はシアに問う。

 

「呪いで幻影騎士たちはおかしくなったのか?」

 

「……逆、と聞き及んでいます。つまり、あの呪いは『かつての自我を取り戻す』呪いだと」

 

「……そうか」

 

 俺は目を細める。考えることは多いが、不確定要素も少なくない。まずは動こう。

 

 シアに尋ねる。

 

「連中が追ってくる前に手を回そう。動けるか?」

 

「は、はい。ですがテクト、幻影騎士たちの制御を失った今、私は血統魔法を持ちません。彼らを抑え込む術は……!」

 

「ああ、それなら心配しなくていい」

 

 俺はニヤリ笑って、シアに告げる。

 

「最初からこの解呪のことは、きな臭いと思ってたからな。あらかじめ声をかけてたんだ」

 

「はい……? テクト、それはどういう」

 

 俺はアイギスに渡された指輪を擦りながら、言霊を発する。

 

「サモン、アイギス。ウィズも連れてな」

 

「はいはーい! 来てあげたわよ~!」

 

「私も来ましたよ、テクト君!」

 

 俺が呼ぶのと同時、二人がどこからともなく現れる。俺は嬉しくなって、駆け寄り二人にハイタッチだ。

 

 一方驚くのは、シアである。

 

「なっ、それ、その指輪は、一体」

 

「アイギスに貰ったんだよ。アイギスを呼べる召喚指輪だってな。ウィズもいた方がいいからって声をかけて、待機してもらってたんだ」

 

 戦闘の真髄は準備にあり、というワケである。ニヤリと俺はドヤ顔だ。

 

 しかし幻影騎士たちの動きを感じて、冗談めかした空気が切り替わる。

 

「テクト君っ、私たちは何をすればいいですか?」

 

「指示通りに動くわ。テクトは視野が広いしね」

 

「助かる。まずアイギス。あの入り口を潰してくれ」

 

「了解! ―――来なさい、リトルフォートレス」

 

 指輪に触れながらアイギスが言うと、全身鎧が展開される。右手には巨大な槌、左手には岩のような盾だ。

 

 アイギスは巨大な槌を構えて、思いっきりぶん投げた。向かうは廃城の入り口。幻影騎士が降りてこようとしたところに、巨大な槌が突き刺さる。

 

 瓦解。

 

 ゴォオオオオン! と、とてつもない音を出して、槌は廃城の入り口を破壊した。周囲の石壁を崩壊させ、幻影騎士たちの出口を塞ぐ。

 

「次にウィズ。あの城の中にいる敵全員を、バラの杖で拘束できるか?」

 

「できます! 血薔薇の杖は最近改良したので、ゴーレムでも連鎖できますよ!」

 

 胸元から、ウィズはバラの杖を構える。棘だらけの茎を強く握り、血を流す。その血を、廃城の近くに落とす。

 

 そして、ウィズは詠唱を始めるのだ。

 

「啜れ、滴れ。そして、花開け―――血薔薇の杖(ブラッド・ローズ・ワンド)

 

 城の内部で、『ぐっ』『ぐぁああ!』とノイズ掛かった悲鳴が上がる。騎士団長以外の幻影騎士たちも喋れるのか。

 

 だが、ひとまず連中がウィズの魔法に捕まったのは確定で良いだろう。ウィズは詠唱を続けて、敵を苦しめ続けている。

 

「て、テクト……」

 

 戸惑うシアに、俺は説明する。

 

「シア、廃城を解呪の場に選んだのは何でだ?」

 

「え、はい。その、反旗を翻した騎士たちが、散らばるのを防ぎたかったのです。あの場なら拠点としてその場にとどまり、討伐隊が対処しやすいだろう、と」

 

「うん、俺もそうだろうなと思ってた。だから、それを戦術に転用したんだよ」

 

 俺は廃城の入り口を指し示す。

 

「あの廃城は箱だ。入り口を塞げば、飛び降りないと脱出できない檻になる。で、高いところから重装備で飛び降りるのは嫌だろ? その隙にウィズの魔法で、拘束できると踏んだ」

 

 俺は、両腕を振るう。魔石を仕込み直したパイルバンカーの燻る炎と、グラップルのワイヤーがうねる。

 

「あとは―――箱ごと圧し潰すだけだ」

 

 俺は廃城上部にグラップルを放つ。

 

 高速で俺は飛び上がる。屋上近くまで上がったら、シュピンッ、という甲高い音と共にワイヤーを外し、空中に投げ出される。

 

 崩れた部屋の隙間から、俺の狙い通りに、幻影騎士たちが血茨に拘束されているのが見て取れた。

 

 だが、唯一例外がいる。先ほど気になった騎士団長。奴だけは血茨を切り伏せ、剣を片手に俺を見上げている。

 

 空中の俺と、廃城の中の騎士団長の目が合う。俺は奴を油断なく見つめ、奴は俺に奇妙な目を向けていた。

 

 騎士団長が言う。

 

『再度問う。貴公は何故、魔女どもの味方をしている』

 

 俺は答えずに、パイルバンカーの加熱を始めた。

 

 内燃機構で火が燃える。その熱にパイルバンカーが赤くなる。

 

 落下。狙うは廃城の主柱。ここを砕けば、廃城は瓦解する!

 

「パイルッ、バンカーぁぁああああ!」

 

 パゴォォオオオオン! と金属音を奏でながら、杭が放たれた。

 

 その凄まじい威力に、城の主柱が根元まで崩れ去る。そこを起点に、石壁が内側に倒れこんでいく。

 

 ガラガラと崩れ行く廃城に、幻影騎士たちが巻き込まれていく。男の悲鳴が上がり、瓦礫の崩壊音と混ざりながら地面に潰れていく。

 

 俺はグラップリングフックを木の枝に打って、くるりと逆上がりの要領で一回転してから、軽やかに地面に着地した。

 

「ふぅっ、こんなもんだろ」

 

「「「……!?」」」

 

 俺がそう言いながら戻ると、三人は絶句していた。

 

「え、どした」

 

「い、いや、『どした』じゃないですよテクト君! あ、あれ! テクト君の一発で、城が崩れちゃったんですけど!」

 

「そうよ! いや、ええ!? パイルバンカーってそんな威力あんの!? アタシのハンマー投げでも、城一つぶっ壊すのは大変なんだけど!」

 

「ああ、建物壊すのはコツがあってさ。基本的に支えてる柱をぶっ壊すと上手く行くんだけど」

 

「「そういう話じゃない」です!」わよ!」

 

 ウィズとアイギスが俺に訴えてくる。俺は何なんだと思いながら首を傾げていると、シアが「ぷっ、うふふふふっ」と笑い始める。

 

「て、テクト。ふふっ。あ、あなたたちは、いつもこうなのですか? うふふふふっ」

 

「何だよシア。ツボに入って、緊張感のない奴だな」

 

「うふふふふっ、あははははっ。あ、あなたに言われたくないですわっ! あははははっ」

 

 緊張の糸が切れてしまったのか、シアは腹を抱えて笑っている。

 

 だが、俺はシアの肩を叩いて、言った。

 

「いや、マジで言ってる。まだ緊張は解くな。……敵は全滅してない」

 

「っ?」

 

 シアが息を飲む。他の二人も、素早く警戒態勢に戻る。

 

 そして俺が城に向かって振り返った直後、瓦礫の中から立ち上がる影が一つ。

 

『……』

 

 それは、先ほど俺に声をかけてきた、幻影騎士の騎士団長だった。

 

 瓦礫を退かし、ゆっくりと立ち上がる。精悍な足取りで、確実に俺たちに近づいてくる。

 

 そして、剣を振るった。

 

 ぶわぁっ、と全身に鳥肌が立つ。咄嗟に俺は、腰に刷いていた呪刀を抜き放つ。俺以外の全員も、顔を緊張と恐怖に強張らせている。

 

 格上。

 

 直接対決する距離感になって、初めて分かった。奴は、格上だ。たった一人で、俺たちを圧倒する力を有している。

 

三度(みたび)、問う』

 

 騎士団長は、剣の切っ先を俺に向ける。

 

『何故貴公ほどの男が、魔女に与する。我ら男から魔力を奪い、生まれる前より命を奪い、身勝手な恨みですべての男を虐げようとする、魔女の子らに』

 

 俺は強張った笑みを浮かべながら「何の話してるか分かんねぇよ」と正眼に構えた。

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