【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
今回の後始末について
まず済ませたのは、俺たち四人の間での約束だ。
色々あったが、内容が内容なので、表沙汰にせず俺たちの胸の内に収めておこう、ということになったのだ。
何せ、誰にとっても不都合な事実となる。俺は下級貴族なのに王族を危険にさらす要求をしているし、シアは考えなしに危険な儀式を執り行った。ウィズアイギスも微妙な立場。
そして、重要なのがもう一つ。
「……幻影騎士のほとんどが、呼び出せなくなってしまいましたね」
シアがハンドベルを振って現れる幻影騎士が、俺が戦った騎士団長ただ一人になってしまったというのも、かなり重要な点だろう。
シアは『幻影妃』の血統の第一席で、将来を有望視されている王女である。そのシアが呼び出せる幻影騎士の数が少なくなるというのは、露見すればかなりの醜聞になると。
一方で朗報なのが、その呼び出せる幻影騎士団長の実力が、べらぼうに上がっていたこと。
以前の使役状態とは比べ物にならないほど、鋭い動きをするようになったのだという。
「元から強い幻影騎士ではありましたが、今の実力なら一人で今までの幻影騎士全員の、半分程度の働きになりそうです。他の幻影騎士問題を解決すれば、さらなる力になるかも」
「そんな簡単に行くか?」
「うふふっ、テクトはお見通しですね。実際他の幻影騎士は、無理に呼び出せばわたくしに刃を向けるでしょう。騎士団長のように認めさせる必要はあります」
―――ですから、頑張りどころですね。シアはそんな風に、ポジティブシンキングだ。
とにもかくにも、俺たちは疲れ切っていたので、一旦各々自分の寮に戻ろう、という事になった。
さて、その翌日である。
「……」
自室にて。俺は呪刀を見つめながら、じっと考え込んでいた。
使い勝手は悪いが、パイルバンカーの魔石が切れても、窮地から
俺は呪刀を睨み、睨み、睨みまくって、ついに口を開いた。
「明鏡止水……キタ! これだろ! きーめた! お前の名前、これから明鏡止水な! けってーい!」
呪刀・明鏡止水。うわ――――! 超かっこいいじゃん。完璧すぎる。由来にもぴったし合ってるし。
ということで、俺は大変にホクホクな気持ちで刀に名前を付けてから、登校した。
今日はすでに解雇された身なので、シアの寮には行かなかった。代わりに中断していた朝訓練を再開させたのだが……。
「何か物足りない……」
朝にシアを甘やかしていないと、物足りなさを感じる始末になっている。くっ、どうしたって言うんだ、俺の体……!
「……バイト代も出るし、朝は復帰しようかな」
放課後みんなと遊べないのだけネックだったから、朝だけシフト入れる感じにしようかな、なんて考えていると、すぐに学園についていた。
「テクト君っ! おはようございます」
「お、ウィズ、おはよう」
いつものように、駆け寄ってきたウィズに挨拶する。その向こうでは、ビクビクした目で俺を見るナルシスに、それを取り巻く女子たちがいる。
「いやぁ、昨日は大変でしたねっ。でも、テクト君が無事あの憎き姫君から離れられてよかったです!」
「憎き姫君て」
「私とちびっこは半分魔王扱いしてましたよ」
「憎まれ過ぎだろ」
というか、この世界は『歪んだ魔女』という魔王に侵略された後の世界、という見方もできるのが恐ろしいところだが。
シアはあの通り甘えん坊の可愛い奴なのだが、ほとんど接していないと見え方も変わってくるというところか。
「うぇへへへ……これで昼まではテクト君を独占……。付き人中は昼でも偶に呼び出されてたりしましたからね……。私の天下です……!」
そしてウィズが妙なことを言っている。俺は半笑いで聞き流しの構えだ。
そう思っていたら、教室に現れる影が二つ。
「アレ? アイギスにシアじゃん」
「なっ!?」
上級貴族クラスの生徒が現れ、にわかに教室がざわつき出す。
そんな喧騒も気にせず、アイギス、シアの順で俺たちに近づいてきた。
「やっほ、テクト。王女様がお話したいっていうから、それを口実に会いに来たわ」
「名目が本音に負けたな今」
『それを口実に会いに来た』がメインになっちゃってたもんな。
「……何をしに来たんですか、ちびっ子。お姫様。テクト君は渡しませんよ……」
二人の前に立ち塞がり、ウィズは威嚇の構え。その姿は、さながら両手を上げるレッサーパンダがごとく。
そんなウィズをするりと躱して、シアが俺に話しかけてくる。
「おはようございます、テクト。昨日は、結局わたくしがお世話になってしまいましたわね」
「え? ああ、良いよ別に。世の中助け合いだろ?」
俺が軽く言うと、「うふふっ。テクトならそう言うと思っていました」とシアは微笑む。
それから、微笑みを湛えたままシアは俺を静かに見つめ、小さな声で言う。
「わたくしは、あなたに呪いを解いていただきました。そのお礼をできないままと気付いて、今日はお礼に来たのです」
「? いや、その呪いは元々俺が掛けられてた奴だろ。俺が呪いを解いたってのは何かおかしくないか?」
「ふふっ、違いますわ、テクト。わたくしが言っているのは、違う呪いの話です」
違う呪い? と俺は首を傾げる。
「テクト、わたくしが殺されかけた時、あなたが助けてくれた時、わたくしは救われたのです。誰も助けてくれない。誰も信じられない。そういう呪いから」
俺はまったく心当たりがなくて、パチパチとまばたきする。
「……そりゃよかった、な……?」
「うふふっ、いきなり言われても、分かりませんわよね。ですから、これを」
シアが俺の手を取る。「あっ!」「は?」とウィズとアイギスの二人が色めき立つ。
シアは俺の手に、小さな箱を握らせた。「どうぞ開けてください」とシアが言うので、俺は訝しみながらパカっと開く。
そこには、王冠が入っていた。
「んっ?」
俺は顔を上げ、シアを見る。シアは頬を朱に染め、照れた様子で言った。
「付き人契約は終わりました。ですが、新しい契約を結んではならないと言う事ではなかったはずです。ですから―――テクトには、今度はパパになって欲しいのです」
「んんっ?」
俺はまばたきを繰り返す。
それに、優しく説くようにして、シアは言葉を紡いだ。
「テクトとの蜜月は、わたくしにとって本当に大切な日々でした。それを、今日ヘッダに叩き起こされて理解したのです」
「う、うん……?」
「そして思ったのです。テクトの優しい起こし方。その後のお世話……テクトはまさに、わたくしのパパにふさわしい方!」
「んんんっ?」
シアが何か言っているが、どういうことだろうか。俺の脳が理解を拒んでいる。
何? 何で王冠なの? パパって何が? ……あ、シアが姫様だから、そのパパは王冠だろうってこと? は?
「はぁぁああああ!? アンタ、アタシのテクトに何言ってんのよ!」
キレるのはアイギスである。俺は助け船が来た、と期待の目を向け、
ん? アタシの?
「テクトはとっくに、アタシがプロポーズ済みなんですけど!? テクトはアタシのお婿さんなんですけど!?」
「アイギス?」
何という事だろうか。アイギスが援軍じゃなく、第三勢力として参戦してきた。
アイギスとシアがガンつけ合うのに、俺は困惑しきりである。おいどうすんだよこれ。
そうしていると、不意に俺の背後から腕が伸びてきた。
「え?」
気づいたら俺は、その細腕にお姫様抱っこされている。
抱っこ主はウィズ。俺が困惑にウィズを見つめると、ウィズは俺に優しく微笑んで言った。
「安心してくださいね、テクト君。―――こんな連中に、テクト君を渡したりしませんから」
「は――――」
直後、ウィズは全力で駆け出した。
「うぉぉおおおおおおお!?」
「あっ! テクトが陰キャに盗まれた!」「っ!? 何ですって!?」
慌てて二人が追ってくる。俺は全然状況が分からず、「なになになになに!? どういうこと!?」と声を上げる。
するとウィズが答えるのだ。
「テクト君! テクト君私の天使ですよね!? あの二人のじゃないですよね!」
「ウィズまで正気を失うなぁぁああああ!」
何!? どういうこと!? 何でみんな連鎖的に発狂してんの!? 媚薬でも盛られた!?
「はぁ! はぁ! 誰にも! 誰にもテクト君は渡しま、せんっ!」
早々に息切れを起こしながら、ウィズはめちゃくちゃに駆けまわる。校舎を抜け出し、校庭脇の道を爆走する。
そこで俺は、「あ」と言った。
「ヤバい。やばいウィズ」
「大丈夫です! 私が全部何とかしますからね、テクト君!」
「いや違う。見られた。俺の姉に見られた」
「えっ、何が―――」「捕まえたぁぁあああ!」「逃がしませんわっ!」「きゃぁああああ!」
追ってきたアイギス、シアにウィズが捕まり、俺は解放されて受け身を取りつつ立ち上がる。
そのままウィズ、アイギス、シアが取っ組み合いのケンカに突入するが、俺はそれどころではない。
俺は素早く姉がいた方角を見る。だが、姉の姿は消えている。
つまり、アレだ。
俺と一緒に育ち、俺と同じ訓練を乗り越えた、えげつないブラコンの姉の襲撃イベントを回避するのには、もう手遅れってワケだ。
「……」
俺は、背後にワチャワチャ響く姦しい大切な友達たちのケンカの声を聞きながら、これからまた起こるだろう騒動を想像して、頭を抱える。
そして、こう呟くのだ。
「どうしてこうなった……?」
確かに俺は、強くなって女の子を守り、何とかこの世界で生きて行こうと考えていた。
でも何か、思ったのとは微妙に違う状態になりつつある気がする。
ハーレムを築くには独占欲の強い女の子とばかり仲良くなるし。そもそも仲のいい女の子、全員身分が釣り合わないから結婚がまず難しいし。
いや、不満があるとは言わない。みんな可愛いし優しいし、不満なんてあろうはずもない。
……ないのだが、俺には過ぎた存在過ぎるから、気持ちには応えられそうにない。
「何でこんなことに……!」
俺の背後では、熾烈なキャットファイトが続いている。
その激しさに、俺の困惑は飲み込まれ、儚く散っていくのだった。