【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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暗視ゴーグルと無銘の一振り
ガーランド家のおちこぼれ


 これは、幼少期の思い出だ。

 

「えぐっ、ぐす……っ」

 

 俺がまだ幼い頃。訓練を始めたてくらいの時、訓練終わりに物陰で、泣き声を聞いた。

 

 俺は当時すでに『女の子を守る男になる』という覚悟が決まっていたから、一人泣いている女の子の声を聞いて、居てもたってもいられずその場に駆けつけた。

 

 果たして、そこにいたのは俺の一つ上の姉だった。

 

(いつ)ねぇ? どしたの? 何か嫌なことでもあった?」

 

 ガーランド家には、十人の姉妹がいる。その内五番目までは俺の姉に当たるので、俺は名前ではなく、数字に姉を足した呼び方をすることが多かった。

 

 つまりヴィー……一人体育座りですすり泣く五ねぇは、俺のすぐ上の姉に当たる人物で。

 

 なので普段から仲良くしていたのだが、その時はご機嫌斜めのご様子だった。

 

「うるさいっ……! テッ君には関係ないから、あっち行っててよ……!」

 

 ぐじぐじと涙を拭って、俺のことを遠ざけようとする五ねぇ。

 

 俺は、この手の遠ざけは基本的に天邪鬼だと思っていたので、「分かった」と言いながら近づき、そっと隣に腰掛けた。

 

「……だから、あっち行っててって、言ってるでしょぉ……!」

 

「うん。ごめん」

 

 俺は軽く聞き流して、隣に座っていた。そうしてしばらくすると、五ねぇは口を開いた。

 

「……テッ君はいいよね。男だもん。一番弱くても、みんなから甘やかされてさ」

 

「……」

 

 目を向けると、五ねぇは涙を流しながら、震える声で言っていた。悔しさに歪んだ唇で、精いっぱい嘲笑を作るように。

 

「そもそも、男に強さなんて、求める人、いないし。結婚できないから、強くなるとか言ってるけどさ。テッ君くらいカッコ良ければ、どうせ誰かしら結婚してくれるし」

 

「……」

 

「でも、わたしたちは、違うの……! 強くなきゃ、お婿さんなんて見つからない。弱いままじゃ、誰からも振り向いてもらえない……!」

 

 なのに、と五ねぇは言った。

 

「わたしは、いっつも訓練で最下位で、落ちこぼれで! 剣術も、体力も、お姉ちゃんたちどころか、妹たちにすら負けてて!」

 

 ガーランド家の子供たちは、総じて多才だ。年下でも年上を負かすことなんて、しょっちゅうあった。例えば末の妹は、剣だけで言えば姉妹一だったほど。

 

 そういう意味では、確かに五ねぇは落ちこぼれだった。あらゆる分野でビリ。姉妹の中には、五ねぇを蔑む者すらいた。

 

 五ねぇは自傷めいた力で頭を掻きむしって叫んだ。

 

「だから、ほっといてよ! 落ちこぼれの姉のことなんか、ホントはどうでもいい癖に! テッ君は一番弱くても、みんなにチヤホヤしてもらえるんだから!」

 

 五ねぇの言葉は、正直、胸に来た。

 

 突っぱねられたからではない。前世の苦労が、まざまざと脳裏に蘇ったからだ。そういえば俺も、泣くなと育てられたよなと、そんなことを思った。

 

 だから俺は、五ねぇにこう言った。

 

「そうだよな。俺、男の癖に優しくされててさ、みっともねぇよなぁ……」

 

 長いため息を落とすと、キョトンとした様子で、五ねぇが俺を見て「え?」と言った。

 

「……テッ君、何言ってるの?」

 

「自分で自分が情けないって話。周りみんな女の子なのに、俺はいっつもドンケツ。なのにみんな俺に優しくて、情けないったらありゃしない」

 

 自分で言ってて結構ダメージが入り、俺は落ち込んだ。それから五ねぇを見て、苦笑する。

 

「それに比べて、五ねぇは偉いよ。女の子なのに必死になって頑張ってさ。追い詰められてもヤケにもならず、一人で泣いてんだもんな」

 

 俺はそっと五ねぇの頭に手を伸ばし、優しく撫でた。

 

 すると五ねぇは、呆気にとられた表情のまま、ぽろ、と涙を流し始めた。

 

「あ、え、な、なに、これ」

 

「たまにはさ、思いっきり泣いてもいいんじゃないか? 情けない弟の肩でも良ければ、いくらでも貸すからさ」

 

「……っ、う、ぅぁ、ぁ、ぁぁあああああああぁぁぁ……!」

 

 そうして、五ねぇは俺の肩に縋りついて、大声で泣き出した。

 

 数人、上の姉が様子を見に来たが、俺がこっそり『静かに』のジェスチャーをすると、苦笑気味に去っていった。それからしばらく俺は、五ねぇに肩を貸し続けた。

 

 それから数分して、五ねぇは泣き止んだ。目を腫らして、しかしどこかスッキリした様子で、俺の肩にもたれかかってこう言った。

 

「……さっきは、ごめんね。テッ君に、ひどいこと言った」

 

「いいよ、別に。どうせ誰かしら結婚してくれる、っての以外は本当のことだし」

 

「それが一番本当だけど……?」

 

 不思議そうな顔をする五ねぇをスルーして、俺は立ち上がった。それから、こう持ち掛けたのだ。

 

「ところで五ねぇ。一つ提案があるんだけど、どうよ。俺たち落ちこぼれの一発逆転作戦」

 

「え、何?」

 

 困惑する五ねぇに、俺は言った。

 

「俺たちは弱い。……けど、目と耳はいいし、結構器用だろ? なら、他の道もあるんじゃないかと思ってさ」

 

 俺は、人差し指をピンと立てる。

 

「戦いは、真剣勝負(ガチンコ)だけじゃない。その前に情報戦(かくれんぼ)機動力戦(鬼ごっこ)があるんだって、みんなに教えてやろう」

 

 それから、悪い笑みを浮かべた。

 

「みんなの度肝を抜いてやろうぜ、相棒」

 

「あ、相棒?」

 

「おうよ。チームを組むんだ。なら俺たちは相棒だろ?」

 

 ―――それから半年後、何でもありの模擬戦にて、俺と五ねぇのコンビは姉妹全員を下して、家族全員を愕然とさせることとなる。

 

 ……とはいえ、その分野でも情報戦(かくれんぼ)は九番目の妹、機動力戦(鬼ごっこ)は四番目の姉がトップに躍り出ることとなるのだが……。

 

 ともかく、これが俺の一つ上の姉、五ねぇとの思い出。

 

 ガーランド十姉妹『最弱』。陽炎。捨てがまり。たった一人の決死隊。何故か勝利して帰ってくる蟷螂の斧。

 

 ……そして極度のブラコン、五ねぇことヴィーとの、幼き日の記憶なのだった。




連続投稿再開!

新作も投稿してます! 合わせてどうぞ!
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