【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
学園に入学して数ヶ月。気付けば季節は、初夏に差し掛かっていた。
俺は早朝に起き出してきて、いつものように装備を整える。時間は四時。まだ日も昇っていない東雲の空。まだ若干肌寒さが残る時期。
俺は軽い足取りで学生寮、学生街を抜け出し、近くのオークの森に足を踏み入れる。
深呼吸。濃密な自然の匂いと、じわりと感じ始める生物の視線。
「よし、朝の狩りと行くか」
「一人で~?」
振り返る。するとアイギスがそこに立っていて、「出たな」と俺はニヤリとした。
アイギス。小柄な金髪ツインテールの少女の、俺の幼馴染。すごく気さくで、仲良しで居る一方で、アラゴニア侯爵家のお嬢様なのだから、身分差を考えてしまう今日この頃。
「おはようアイギス。一緒にやるか? 訓練」
「おはよ、テクト! そうしましょ。今日の目標は?」
「軽い運動だし、ゴブリンを十匹くらい駆除すればいいだろ」
「ゴブリンはすーぐ増えるしね。おっけ、じゃあ競争しましょ。勝ったら何してくれる?」
「えー? じゃあ言う事一つ聞くとか」
「えっ!?」
「はいじゃあ始めっ!」
「あっ! ズル!」
軽い提案で何故か挙動不審になったアイギスを置いて、俺は早速ゴブリンを発見して走り出す。
振るうは左腕。グラップリングフック。先端に矢尻を付けたワイヤーが射出され、ゴブリンに突き刺さり、強烈な力で巻き取り始める。
「ギャッギュァアアア!?」
「お前にパイルバンカーはもったいないからな。こいつで―――シッ」
腰から抜き放つは、俺の愛用の刀、呪刀・明鏡止水。
知り尽くした相手のことを、いとも容易く切り裂く刀だ。ゴブリンは大量に狩ってきた俺にとっては、すでに知り尽くした相手。
だから明鏡止水は、まるで豆腐を切るように簡単に、ゴブリンを一刀両断した。
「まず一匹!」
「くっ、テクト早すぎ……ッ」
こんな調子で、俺はグラップルと呪刀を駆使して、アイギスとのゴブリン駆除対決で、見事6対4で勝利した。
ドヤ顔で、俺は言う。
「俺、勝ち。アイギス、負け」
「あぁぁあああっ! ムカツク! ズルされた上で速度は確実に負けてるのがなおさら!」
指差しして煽ると、大変いい反応を示すアイギス。
それから、アイギスは大人しくなって、赤面がちにこう言った。
「そ、それで……? て、テクトが勝ったんだし、どんなお願いを聞いて欲しいのよ……?」
そんな約束したな、とか思う。アイギスが勝ったら何かあってもいいとは思ったが。
「いいよ、別に。いつもアイギスには良くされてるし。これからもよろしくって感じで」
「えっ」
俺が答えると、アイギスは肩透かしを食らったような顔になる。
「え、な、何か、何かないの? 買って欲しいものとか、それにかこつけてデートとか」
「別に? あ、そろそろ時間だ。じゃあ先帰るな。また学校で!」
「え、あ、ちょっと!」
グラップルを活用して爆速で帰宅する。俺の朝は忙しいのだ。
さて、朝の訓練が終わったら、次はバイトの時間である。
「おはよーございます」
「あら、おはようございます、テクトさん」
「ヘッダさんおはようございます。今日もメイド姿がキマってますね」
「うふふっ。年寄りを捕まえて、何を言ってるの」
老齢のメイド長ヘッダさんに軽く挨拶し、俺は執事服で二階へと上がり、扉を開ける。
するとそこには、天蓋付きのベッドで姿勢よく眠る、眠り姫がいた。
「ふー……、おし、やるか」
朝の大仕事の始まりだ。
まず俺は、スタスタとベッドに歩み寄り、眠り姫ことシアを揺する。ピンクのドリルの髪が、体の揺れに伴って優美に揺れる。
「はーいシア~、朝だぞ~。起きる時間だぞ~」
「んん……、テクトぉ……?」
俺が揺すると、シアはにへら、と赤ちゃんみたいに無垢な笑みを向けてくる。
シア―――イリューシア・ファラーチェ・コンスタンティン。このコンスタンティン王国の第三王女である。
普段は腹黒系完璧超人王女様という振る舞いをしているが―――最近テンパリストの赤ちゃんと判明した、ギャップの塊のような少女だった。
「おはよぉございます……。すぴ……」
そのまま再び寝てしまうシア。俺は一つ頷き、言った。
「揺すっただけでちょっと目覚めたな。今日は調子が良いぞ」
俺は屈み、背中側に手を回して、シアの上体を起こしにかかる。
要注意なのがシアの豊満なおっぱいである。この貞操逆転世界において、男がちょっとおっぱい揉んだからってどうという事はないのだが、俺が気にしてしまうので、接触はNGだ。
逆にこの世界で、女が男の胸元に触れたら社会的な死が待っているというのだから、恐ろしい話である。男が胸板触られた程度で気にすんなよ。
というワケで俺は、細心の注意を払ってシアの体を起こす。今日はシアが覚醒に向かっているだけあって、揺れてはいるが安定感があった。
「じゃ、次は着替えだな」
満を持して俺は、持参してきた布で自分の目を覆う。
シアの着替えにも慣れたもの。シアは寝るとき下着を付けない派なので、ネグリジェを脱がすと生まれたままの姿を晒すことになる。
だからこうして俺は目隠しをして、シアを着替えさせることとなるのだ。俺の目とかどう思ってるんだろう。貞操逆転で考えても全裸を女の子に見られるのは多少恥ずいだろ。
「シア~、ブラ付けるぞ~」
「はい~……」
半覚醒のシアに言って、俺は目隠ししたままブラを付ける。童貞なのにブラの付け外しは完璧だ。余計なスキルツリーが伸びている感覚がある。うん、相変わらずおっも。
ブラを付けて制服を着せたら、後は楽なもの。シアもある程度目が覚めているので、両手を引いて「あんよが上手♪ あんよが上手♪」と洗面台に連れて行けばいい。
そして顔を洗って歯磨きをしてやれば、シアも完全覚醒である。
「……テクト、最近わたくしのことを赤ちゃん扱いしていませんか?」
「してるけど」
「あのですね。わたくしは確かに朝が弱いですし、テクトなしの朝が耐え難すぎてパパになって欲しいと言ったこともありましたが、王女なのですから尊厳というものが」
「はい、最後に歯磨きし上げするからイーってして。イーって」
「イー」
「はーいゴシゴシ~、よし。完璧」
「ですから、同い年扱いとまでは言いませんが、ある程度は大人扱いをしていただきたくて」
「同い年なんだからそこは譲歩するなよ」
中途半端に自覚がある分、娘みが高まっているシアの今日この頃なのだった。
そんな風にして、朝訓練、朝バイトを乗り越え登校時間。制服に着替えて男子寮を出ると、俺を待ってくれていたウィズが、表情を華やがせて俺を迎えてくれた。
「おはようございますっ、テクト君!」
「おはよう、ウィズ。今日も元気だな」
ウィズ。俺が最初に仲良くなった、クラスメイトの女の子。黒髪ロングの正統派美少女な外見をしていながら、中身はガジェットオタク気質のマッドサイエンティスト少女。
そんなウィズは、俺にこう答えた。
「はいっ! テクト君が今日最初に会うのが私なんだって思ったら、嬉しくなっちゃって」
「……ソウダネ」
可愛らしい満面の笑みでそう語るウィズに、俺は何も言えなかった。