【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
その日の昼休み、俺はウィズを連れて、いつものように中庭に移動していた。
中庭で待っていたのは、昼食を持ち寄ったアイギス、シアの二人だ。
最近は、この四人で昼ご飯を取ることが多かった。少し前にひと悶着があったのを契機に、俺、ウィズ、アイギスの輪に、シアも入ることとなったのだ。
もっとも、シアには他に取り巻きがいたりもするので、毎回参加とはいかないようだが。
「それで、テクトは食べながら何を描いているのですか?」
シアに問われ、俺はサンドイッチを咥えながら、膝上で雑に描いているモノを答える。
「暗視ゴーグルの仮設計図」
「暗視ゴーグルですか? テクトは発明に凝ってるとは聞きましたが、ちょっと地味……」
「地味とは何だ地味とは。
俺が言い返すと、シアはよく分からない、という顔。
一方、俺の肩を持ってくれるのはウィズだ。
「いやいや、姫様もよく考えてくださいよ! 地味なのは否定しようがありませんが、暗視ゴーグルがあれば、蝋燭も立てられない深夜でも作業が出来るんですよ!」
「ウィズの擁護から薄っすら社畜臭が……」
ド深夜に何するんだろう。あと地味なのがさらりと肯定されている。
続いて言うのはアイギスだ。
「夜間軍事演習とかであったら捗るわよね。敵の姿なんて、闇の中じゃろくに分からないし。闇の中でいきなり大勢に背後から襲われたりしたら、ホント恐怖よ」
「アイギスそんなのしてんの?」
「実家の方でね。アタシはほら、軍事の血統だから」
実家での経験から、闇夜を見渡す力の威力が分かる、ということらしい。確かに、苦労した経験の有無で価値評価が変わってくる装備か、と思う。
「なるほど……? 話は分かりましたが、つまり暗視ゴーグルが必要になるのは、暗闇のシチュエーションありきですよね。何かそういう想定が?」
シアに言われて、俺は「あー」と僅かに逡巡してから、結局全部話した。
「近々夜襲を受ける予定があってな。どうなるか分からんから作ってみようかと」
「「「はい!?」」」
三人の声がハモった。ちょっと面白い。
「てっ、ててててっ、テクト君!? やっ、夜襲!? どういうことですか!?」
「テクト、敵は誰? 先んじて潰した方が早いなら乗るわよ」
「おちっ、おちちちち、あわ、あわわわわわわわ」
「あー……そうだよな。初見はそうなるよな。まぁ一旦落ち着け。成り行きを話すから」
慌てつつも事情を聞き出そうとするウィズ、冷静沈着に攻めの手を提案するアイギス、パニクリすぎて人の言葉を話せていないシアの三人を諫め、俺は話す。
「姉とさっき久々に会ったんだけど、俺とみんなのひと悶着を見てたらしくってさ、過敏になってんだよ。ほら、みんな身分が高いだろ? 俺が遊ばれてんじゃないかって」
『……』
沈黙。三人は黙して、お互いに目配せし合い、再び俺を見る。
そして一言。
「真逆では……?」「真逆じゃない?」「真逆でしょう」
「真逆まで言われると、俺も自分の振る舞いに自信がなくなってくるぞ」
俺は別にみんなで遊んでたりしないが。何で俺がプレイボーイ扱いになる。
甚だ遺憾で腕を組む俺に、「真逆ってそこじゃ、いや、それは一旦良いです」とウィズは目を細めて微妙な顔。それから、「ううん……」と悩ましそうに唸る。
「確かに、気持ちは分かるかもしれません。私も異母兄弟の弟がいますけど、王女様とか上級貴族とばかり付き合ってるって聞いたら、『騙されてるんじゃない?』って思います」
俺はそれを聞いて、先ほどフィルターに掛けて辿り着いた、『純朴な妹が高い身分の相手に~』という想定は正しかったのだと知る。
するとアイギスも、ウィズに賛同した。
「そうね。しかもテクト、家族から相当可愛がられてたでしょ。そんなテクトが遊ばれてるとなったら、穏当に済まないのも分かるわ」
「とすると、私たちって、テクト君のご家族に警戒されてるってことですか? うわ、それ嫌です。ど、どうにか弁解できませんかね」
「弁解って何を? テクトを取り合ってたのはガチの本気で、遊びじゃないです、って?」
「……わ、私たちは何を弁解するんでしょうか……?」
「アタシに聞かないでよ陰キャ」
「ちびっこだって同じ立場じゃないですか! 何を他人事みたいな顔してるんですか!」
「アタシはテクトの家族と仲いいもーん!」
ウィズとアイギスがいつものように睨み合うのを横目に、シアが俺に聞いてくる。
「……流れは掴めましたが、何故夜襲となるのでしょう? そもそも、誰が誰を? そこがわたくしの中でつながりません」
シアの疑問に、俺は答える。
「その、ウチの姉妹って、ブラコンが何故か多くてさ」
「何故か……? テクトのご姉妹でしょう? 自明では?」
自明って何がだよ。
「で、人によってはちょっと派手な動きをするというか、何というか」
俺は眉間を押さえながら、こう続ける。
「みんな何回か俺を拉致った前科があって」
「らっ、拉致!? 家族間でですかっ!?」
シアが瞠目する。その反応に俺は慌てて「いや、その、聞いてくれ」と言い訳を始める。
「元々さ、ウチでは色んな訓練をやるんだけど、その中で人質奪還訓練ってのがあってな。建物内で人質を守るチームと、人質を奪還するチームの二つに分かれるんだけど」
俺は目を泳がせつつ、こう続ける。
「その訓練の影響で、拉致が結構カジュアルでさ。二人で話したいから、みたいな動機で寝て起きたら知らない天井、とかよくあるんだよ」
しかも別の訓練に、監禁脱出訓練もみたいなのもあって、ウチの家族は全員、全身の関節を外して縄抜けができたりもする。なので、監禁が不満なら脱出しろよ的な風潮も。
「俺はしたことはないんだけど、拉致られた経験は家族の中じゃ最多というかさ。あの様子だと、まぁ間違いなくやられるだろーなー……みたいな」
だから姉が異常者というワケではないんだよ、という弁明を込めて説明すると、三人はドン引きの目で俺を見ていた。
くっ、ダメか! いやでも、あるだろ!? 教わった技術を私的に使っちゃう子供のノリ! 俺だって腹減った時はブービートラップで動物狩ってたし!
と思っていたら、俺を除け者に、女子三人が固まってコソコソ話し出す。
「……ど、どう思います? テクト君のご家族……」
「テクトのお母さんは伝説的な騎士だから、訓練でそういうのがあるのは違和感ないわ。ただ、兄弟を拉致るのはおかしいでしょ」
「そうですよね!? いくらブラコンで拉致がカジュアルでも、兄弟でしないですよ!」
コソコソ話は大盛り上がりのようで、ウィズが熱弁する。するとシアが小声で核心を突く。
「思うに……テクトは恐らく、ご家族にもああなのでしょうね」
「イリューシア、
「ですから、テクトがわたくしたちに対する態度、と言いますか」
「「「……」」」
沈黙。何事か見守っていると、おずおずとウィズが前に出てきて、こう言った。
「あの、私たちの方でも結論が出たんですけど、多分テクト君が悪いんじゃないかなって」
「何で?」
驚愕の結論である。過程を見せろ。
「ともかく、テクトはそれで拉致られるのを警戒して暗視ゴーグルの開発に入ったワケね」
アイギスの総括に、俺は頷く。
「ああ。って言っても、正直拉致そのものはさほど気にしてないっていうか、どうせ拉致られるんだけどな」
「……はい?」
まばたきをして俺を見つめるシアに、「いやさ」と続ける。
「俺、寝付きも寝起きもいいんだけど、寝たら全然起きないから、夜襲にスゲー弱いんだよ。そもそも今夜に来るだろうから、開発も間に合わないし」
「え? じゃあテクト君、拉致られるんですか? 抵抗とかせず?」
「うん。拗れたら数日間出席しないかも。そうだな、それだけ前もって伝えておくべきだったな。だから数日姿が見えなくても、あんま心配しないでくれ」
俺が何でもないような口ぶりで言うと、アイギスが詰め寄ってくる。
「ま、待って待って待って。何で甘んじて受け入れてんの? 拉致よ? 拉致監禁よ?」
「え、でも家族だし。そもそも女の子に多少拉致られたとしても、目くじら立てるほどじゃ」
「目くじら立てるでしょ! 女が! 男の子を拉致ってんのよ!?」
俺は強く言われて、キョトンとしてしまう。その様子に、三人は顔を青ざめさせる。
「ダメだわ。テクト、女に甘すぎる。アタシ達で対処しましょう」
「私も手伝います。王女様はどうしますか?」
「えっ、あっ、えっ、げ、幻影騎士団を取り戻すための儀式を始めます!」
「イリューシア、アンタはまず深呼吸して落ち着きなさい。そこまでの時間はないから」
よく分からないが、三人は五ねぇに対抗する方針で動くらしい。
それを見て、俺はポツリと一言。
「それそのものはありがたいけど……みんなVS五ねぇだろ? 暗視ゴーグルがないと、相手にならなくないか?」