【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
翌週の放課後、訓練場にて、シアが幻影の騎士団長と向き合っていた。
曰く、騎士団長との直接対決で勝利することが、幻影騎士団の取り戻し方であるらしい。だから俺は、ウィズ、アイギスと供に流れを見守っていた。
「やっ! たぁ!」
『ふっ、はっ、脇が甘い!』
「きゃあっ! ……まだ、まだぁ!」
駒ではなく、調伏すべき相手として呼び出される場合、騎士団長は割と喋る。だからシアの方が幾分か弱いのもあって、師弟での模擬戦という雰囲気になっていた。
「頑張れー、シアー」
「頑張ってくださーい王女様ー」
「イリューシア! もっと前に踏み込みなさい前に! 魔力防御的なスペックはアンタのが上なんだから、スペックでゴリ押してぶっ倒せ!」
「アイギスだけ熱の入りようが違う」
「いっけぇぇえええええ!」
シアと騎士団長の戦闘も見応えがあるが、それ以上にアイギスが面白い。
そんな風に思っていると、不意にウィズが、俺に聞いてきた。
「そういえばテクト君。お姉様は今日顔を出しませんでしたね」
「ああ、そういやそうだな。いや、実はさ」
俺は先週の約束の話をする。つまり太陽石の石板を五ねぇが取りに行ってきてくれた、という話を。
「でも、ちゃんと取って帰れたなら、すぐにでも来そうなもんなのに……」
話し終えて、俺は何だか不安に駆られる。些細だが、確かな違和感を抱く。
それはまさしく、虫の知らせに近かった。
僅かな違和感を依り代に、強烈な不安が膨れ上がった。体が、それに突き動かされる。
それで、立ち上がった。
「ごめん、ちょっと出てくる」
「えっ? テクト君?」
俺は駆け足で訓練場を離れる。そのままの足で、五ねぇの教室に赴く。
すると、下級生男子が息せき切って現れるのが珍しかったのか、「えっ、男子!? どうしたの?」と二年女子が近づいてきた。
「あのっ、すいません。五ねぇ……ヴィー・ガーランドを探してるんですが」
「え、ぷっ、ガーランドさん? あの?」
「……あの?」
僅かだが混じった嘲笑。それに俺は眉を顰める。すると女子は慌てて取り繕う。
「と、とりあえず今日は見てない、けど……。そういえば先生が無断欠席とか言ってたなぁ」
「――――」
「ところで君、ガーランドさんの何? 彼氏? なんて、そんなワケな、あっ、ちょっと!」
半笑いで何か言おうとしていた女子を置いて、俺は駆けだす。中庭を抜けて訓練場へ戻る。
その途中、中庭で男に声をかけられた。
「おい、男が無闇に走るな。みっともない」
「は……?」
声をかけてきたのは、大柄で端正な顔立ちをした男子だった。制服を見るに、二年生の上級貴族クラス。
「そんなに慌ててどうした。取り巻きも連れず」
「……ちょっと、姉が危険かもしれなくて」
無下にするのも良くないか、と簡単に伝えると、偉丈夫男子は鼻で笑った。
「お前、男の癖に女のことで走ったのか? 女なんて、掃いて捨てるほどいるだろう」
「っ。……!」
俺は踵を返す。気分が悪いが、今はどうでもいい。
「おい、答えろ。だから走るなと―――」
聞き流して走る。そのまま駆け抜け、訓練場に戻った。
「あ、テクト君お帰りなさい。ちょうど王女様の勝負が終わったところですよ」
「あー! シア! アンタ何負けてんのよ! あ、テクトお帰り」
「分かってます! 外野がうるさいと集中できないから、野次はやめ、……テクト?」
みんなの視線が、俺に集まる。俺は冷や汗を拭い、言った。
「五ねぇに、何かあった。みんな、手を貸してくれ」
三人に、素早く事情を話した。五ねぇが俺へのプレゼントを取りに遠出したこと。今日は無断欠席したとかで姿が見えないこと。
「地図見せて」
アイギスに地図を渡す。素早く確認したアイギスは、「ここ」と五ねぇが向かった目的地の中間点を指さす。
「ちょっと厄介な盗賊団の拠点ね。寮にもいないなら、ここで捕まってる可能性が高いわ」
「……っ」
俺は歯噛みする。それから、拳を固く握りしめる。
行かせるべきじゃなかった。この貞操逆転の世界でも、女の子を守れる男になると決めたのなら、一人で五ねぇを遠出させるべきではなかった。
「ちょっと私、お姉様の寮の部屋、確認してきます!」
ウィズが素早く立ち上がる。するとシアが「付き合いますわ。王族がいた方が情報の集まりも良いでしょう」と続く。
そうして、俺とアイギスの二人が残される。アイギスは息を吐き、話しだす。
「血統の関係でね。こういう勢力情報がよく耳に入ってくるのよ。事前に教えて上げられれば良かったんだけどね」
「……アイギスは悪くない。悪いのは、俺だ」
「テクトだって悪くないわよ。プレゼントを提案して、一人飛び出したのはヴィー。悪いのは当然盗賊団だけど、それでも強いて言うならヴィー本人の自己責任」
「でも! 俺は行かせたんだ! だから、俺が悪いんだよ!」
俺は激しく訴える。だが、アイギスの冷静な目に見つめられて、浮かせた腰を下ろした。
「……ごめん」
「いいわ、気にしてない。続けて良い?」
「―――ああ、続けてくれ」
俺は深呼吸して、アイギスに向かう。
アイギスは、地図を指で叩いて、説明を始めた。
「ここにいるのは青豹盗賊団。何度か討伐隊が組まれて、そのすべてを跳ねのけてる。強いわ。特に、頭領はね」
「頭領……?」
「ええ、『青豹』のパンテラ。青豹盗賊団の頭領で、凄腕の盗賊。獣人でね。魔力は低いけど、身体能力が高いのよ」
アイギスは、俺を見る。
「救いは、殺しはやらないところね。かなり強いから、襲われた人はあまり傷つけられずに、そのまま売られるか身代金にされる。騎士家の女なら売り物ね」
「つまり、この盗賊団が五ねぇが帰ってこない原因なら、まだ猶予がある……?」
「そういうこと」
ほっと息を吐く。確定ではないが、一つの安心材料だ。
それから、俺は深く考え込む。時間をかけて、地図と睨めっこして、様々なことを。
ちょうど考えがまとまったタイミングで、アイギスは言った。
「それで?」
アイギスが、悪戯っぽい目で俺を見る。
「テクトの言う事は分かってるわよ。それに、止めても聞かないこともね」
「……俺は」
そこで、ウィズ、シアが帰ってくる。「お姉様、寮にもいませんでした!」「部屋にちゃんと入れていただいての確認ですので、間違いはないかと」と説明する。
それに俺は、言った。
「今すぐ、五ねぇを救出に向かう。みんな、着いてきてくれるか?」
俺の言葉に、ウィズ、シアが目を丸くする。だがすぐに目つきをキリリとさせた。
「いいですね! 助け出されたら、流石のお姉様も私たちを認めざるを得ないはず!」
「お付き合いしましょう。ヘッダに諸々手続きをお願いしなくては」
アイギスを見る。肩を竦めて「行かないと思う?」と短く行った。
俺は、宣言する。
「よし。急いで遠乗りの準備を整えよう。まずは―――」
俺は段取りを整える。
盗賊団だか何だか知らないが、俺の家族によくも手を出してくれたな。
ギリ、と歯ぎしりして、俺は口の中で呟くのだ。
「五ねぇは、俺の自慢の姉だぞ。怪我の一つでもしてたらぶち殺してやる」