【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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弱い女

 ヴィー・ガーランドは、コンスタンティン王立学園でも劣等生だった。

 

 理由は簡単。ヴィーの得意分野は授業では評価されない分野だったからだ。最愛の弟、テクトと一緒に鍛えたステルス能力は、学校では評価されなかった。

 

『ガーランドさん? ああ、騎士家であの弱さはちょっとね。はは』

『座学も魔法もさほどだしねぇ。騎士としては有名なとこの出って聞くけど』

『クラスの男子と一回ケンカして、今は村八分状態なんだって? バカだよねぇ』

 

 状況はイジメ一歩手前。とはいえ、学校の評価というフィールドから外れれば、クラスの連中なんてヴィーの敵ではなかったから、さほど問題はなかったけれど。

 

『やめっ、わ、私たちが悪かったから! 謝るから、ごめんなさ、ぎゃあっ!』

 

『はぁ……もう二度とこんなつまらないことしないでよね?』

 

 イジメを企てていた五人を、計画を企てていたその場で全員懲らしめても、蔑まれていることに変わりはない。事実、ヴィーにはそれを覆す力はなかった。

 

 だって、評価される剣や魔法、座学において、確かにヴィーは劣等生だったから。

 

 そして、劣等生を選ぶ男子も、反抗的な女子を選ぶ男子もいなかったから。

 

 だから、ヴィーはコンスタンティン王立学園入学から一年間を、孤独に過ごした。婚活どころか、まともに友達もできない日々。

 

 楽しみも悲しみもない、虚無感に包まれた一年だった。

 

 転機が訪れたのは、一年後。テクトの入学時。

 

 入学式は背中に抱き着きたかった。だが、ヴィーには鬼のように厳しい母に逆らう度胸はない。しかし幸いにも、テクトは初夏に差し掛かるくらいで、ヴィーを見つけてくれた。

 

 だが、テクトは格好いいし、才能も溢れていたからか―――すでに三人の女の子に囲まれていた。

 

 その姿を見て、やっぱり、と思った。

 

 テクトみたいな素敵な男の子を、騎士の子だからなんてつまらない理由で、すべての女が無視するなんて、ヴィーは無論信じていなかった。

 

 だから拉致を企てて、しっかりと失敗した。それでもヴィーはテクトの独占を諦めなくて、女子三人に言い放った。

 

『うっ、み、認めないもん! テッ君はわたしの弟なんですー! わたしこそ鍛え直して、テッ君にふさわしいのはわたしだけって認めさせてやるんだから!』

 

 それから、ヴィーは必死に抗った。だが、連戦連敗。

 

 頭の良さでは到底ウィズには敵わなかったし、財力ではアイギスに花を持たせられた。シア王女はシンプルにクビにされた。

 

 空回っている自覚はあった。ここでも上手く行かないんだ。そう裏で泣いたりもした。

 

 本当は分かっていたのだ。ヴィーはどうにか自分の土俵に相手を引きずりこめるから辛うじて勝てるだけで、テクトを見初めた少女たちよりも、自分は劣っているのだと。

 

 認めてあげるべきだと、ヴィーは本心では思っていた。けれど、胸の中に燻る劣等感が、焦燥が、それを認めない。ヴィーの器が小さいだけだと、自覚していても。

 

 それでも、テクトと二人で話す時間は、ヴィーに安らぎを与えてくれた。

 

 テクト相手だと、自然体になれる。やっぱりヴィーは、テクトの傍が居場所なんだと思った。それが嬉しくて、テクトの力になりたいと思った。

 

『……そんなに欲しいなら、わたしが取ってきてあげよっか?』

 

 そんな風に言った。テクトは最初戸惑いつつも喜んでくれた。それがまた嬉しかった。

 

 だから、翌日の早朝から早駆けした。馬を駆り、長い距離を急いで進んだ。一秒でも早く、テクトを喜ばせたくて。

 

 そんな風に急いだのが、きっと悪かったのだ。

 

 太陽石の石板を発見して、意気揚々と帰るところだった。

 

『女が一人! 簡単な獲物だ! 練習とはいえ、しっかり狩るんだよぉ!』

 

『ッ!?』

 

 突如ヴィーは、矢を射かけられた。夜。鬱蒼とした森の一本道。その両脇と正面を押さえるように、十数人の夜盗が現れたのだ。

 

 普段なら、そんな奇襲に引っかかるヴィーではなかった。だが、テクトをいち早く喜ばせたいと、警戒を怠った。

 

 結果ヴィーは、盗賊の7割を戦闘不能に追い込みながらも、敗北した。

 

『はぁっはっはっはぁっ! すごいねぇあんた! 数人は新入りだったが、そこに倒れてるのはウチのベテランだよ? それをその若さで、たった一人で倒すとはねぇ!』

 

 その盗賊は、月明かりに照らされながら姿を現した。

 

 青い髪をした、しなやかで巨大な女だった。背も胸も巨大な、豹を思わせる獣人。

 

『弱っちそうに見えたが、骨があるじゃないか。あんた、気に入ったよ。売り飛ばすには惜しい。あたしの盗賊団に入らないかい?』

 

 その言葉を聞いて、ヴィーは揺らいだ。

 

 家族以外で、ヴィーを評価するような言葉を聞いたのは初めてだった。目の前に立つ女は、獰猛で、しかし底抜けに明るく、まるで夜の月のように笑っていた。

 

『あたしは、パンテラ。「青豹」のパンテラさ。あんたの名は?』

 

 それに、ヴィーは―――――

 

『教えないよ~。わたしのこと高く買ってくれてるのは嬉しいけど……盗賊なんかになったら、テッ君に嫌われちゃうもん』

 

『ありゃ、そうかい? 残念だねぇ』

 

 軽い口調で残念がるパンテラ。直後、何でもない素振りでパンテラは、ヴィーのこめかみを殴り、気絶させた。

 

『仕方ない。あんたは売り飛ばすよ。だが、部下にこのことは伝えておくからね。心変わりしたら、いつでも言うんだよ』

 

 そうして、ヴィーは気絶した。以来ヴィーは、パンテラの青豹盗賊団が居を構える砦の牢に、入れられている。

 

 思うのは、弟のこと。ちょっとしたお願いすら達成できない自分が、ヴィーは恥ずかしくて、情けなくて。

 

「ごめんね、テッ君。お姉ちゃん、役立たずだね」

 

 一人牢屋の闇の中ですすり泣きながら、ヴィーは言う。

 

「テッ君の傍が、わたしの居場所だと思ってた。けど、違ったね。わたしの居場所は、どこにもなかったんだね」

 

 そんな自嘲に、答える者はいなかった。

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