【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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夜闇をかき分け

 俺たちが馬を止めたのは、鬱蒼とした森の一本道でのことだった。

 

 日が沈む寸前。森の中ともなれば、ほとんど夜。そういう中で、俺は馬から降りてしゃがみ、地面を見つめていた。

 

「争いの痕跡がある」

 

「ホントですわね。足跡が激しく入り乱れています」

 

 シアが分析する。一方、ウィズは「サーチ」と呪文を唱え、素早く何かを見つけていた。

 

「テクト君、これ、見覚えありますか?」

 

「見せてくれ。これは……俺が五ねぇに渡した、太陽石の欠片だ」

 

 確信。ここで五ねぇは襲われた。そして、この周辺にこれ以上のものが残されていないのなら、確実だろう。

 

「五ねぇは、推測通り盗賊団に囚われてるみたいだな」

 

 みんなで頷き合う。すると、アイギスが言う。

 

「じゃ、作戦通りやりましょう。待機組はこの森の砦付近で待機。潜入は―――心配だけど、テクトに任せるわよ」

 

 

 

 

 

 アイギスの立てた作戦はこうだ。

 

 まず俺が単身、砦に忍び込んで五ねぇを救出する。他メンバーは遠隔で補佐に徹する。

 

 というのも、生身であれば、潜入に適した能力を持っているのが俺だけだからだ。一方で、この場には二人、遠隔補佐ができるメンツも揃っている。

 

 一人はウィズ。ウィズの血薔薇の魔法陣は、遠隔でも作動可能にアップグレードした。非常時に敵の足止めに使えるので、俺を追尾するように動かすとのことだ。

 

 もう一人はシア。幻影を顕現させないままに、座標を指定できるのだそうだ。だから戦闘となったら、即時俺のそばに騎士団長が現れるのだと。

 

 残念ながらアイギスはその手の補佐ができない分、砦外を監視して異常がないかの判断と、情報を統合しての指揮を執るとのことだった。

 

 そんなワケで、俺は(ほぼ)一人で、砦の中に侵入に掛かっていた。

 

「おし、じゃあ行くか」

 

 左腕を前に出し、グラップリングフックを放つ。刺さり、巻き取りで一気に砦の防壁上に辿り着く。

 

「相変わらずイカレた機動力よね……。城塞を守るときに、敵がグラップルを使いこなしてたらと思うとゾッとするわ」

 

「じゃ、行ってくる」

 

 引いているアイギスたちに手を振って、俺はひょいと飛び降り、内部に足を踏み入れた。

 

「さて。この手の砦は、牢屋は地下にあるのが定石だからな。地下への入り口は~っと」

 

 軽い足取りで歩き、適当な窓から室内に。石造りの内部を歩き、下り階段を探す。

 

 その途中で、俺は足を止めた。

 

「おうおう! 明日は闇商人が来るから、準備を急げぇ!? 大事な顧客を困らせんじゃないよ! ハッハッハ!」

 

 低いながら、艶のある女の声。盗賊団の幹部か何かか、と俺は覗き見る。

 

 そして、驚いた。

 

「……何もかもがデカイ……」

 

 ポツリと呟く。そう。驚くほど、何もかもがデカイ、しなやかな女だった。

 

 青色の髪に、ネコ科っぽい獣耳。これが獣人か、と全身を眺める。

 

 背丈は、恐らく190cmを越えていた。胸も尻もデカく、ゴクリと俺は唾を飲む。

 

 上半身は胸元を隠すだけの布で覆われ、腹はあけっぴろげに露出していた。一方下半身は、豹柄を思わせる穴あきタイツのような履物で、太ももを扇情的に晒している。

 

「……」

 

 何だあいつ。性癖の塊か? 恐らくはこの盗賊団の頭領なのだろうと思いつつ、真っ先に出てくる感想はそれだった。

 

 ま、まぁいい。俺はそっとその場を離れ―――

 

「あ」

 

「あん? 男?」

 

 俺は咄嗟に跳躍し、目の前にいた女盗賊に飛び掛かった。それから背後に抱き着き、素早く首に腕を回して締め落とす。

 

「ぐ、ぐが、ぁぁ、か……」

 

「あっぶねぇ……!」

 

 分かりやすい怪我や衝撃には強い女の体だが、意外にも締め技には弱い。だから素手で倒さなければならないときは、チョークスリーパーが猛威を振るう。

 

 俺は盗賊をそっと適当な家具にもたれかからせ、その場を後にする。すると偶然にも、そこに地下への入り口となる、下り階段を見つけることができた。

 

「よし」

 

 俺は忍び足を保ちながら、素早く階段を下りていく。

 

 しばらく行くと看守役の盗賊がいたから、俺はパシュッとグラップルを天井に飛ばした。

 

「ん? 何か音が聞こえたような……?」

 

 キョロキョロと周囲を見回す盗賊を、俺は()()()()()()真上から見下ろす。

 

 そしてゆっくりと手を伸ばし、女の首に腕を絡ませ、持ち上げた。

 

「うごっ、ごが、ががが、ぁ……?」

 

 カク、と盗賊の体から力が抜ける。俺は手を放して盗賊を地面に落としてから、上下反転して地面に降り立った。ついでに盗賊からカギを貰っておく。

 

「さて、五ねぇはどこにいるかなっと」

 

 看守役はこの盗賊一人らしい、と俺は牢屋の前を練り歩く。

 

 牢屋には、まぁまぁな人数の女の子が捕まっていた。男は、意外にも見つからない。旅人をメインで襲っているからだろうか。男は旅には基本出してもらえないから。

 

 そんな牢屋の最奥に、五ねぇはいた。

 

「……」

 

 五ねぇは体育座りで、牢屋の片隅に身を寄せていた。じっと俯き、身を縮こまらせている。

 

 そのまま声を掛けようとしたが、他の掴まっている女の子たちに見つかって、騒ぎが起こるのもよくない。俺は鍵を探して開け、牢屋の中に足を踏み入れた。

 

 同じ牢屋の中でなら、多少知らない声が聞こえても、気にはしないはず。

 

「五ねぇ?」

 

 軽く話しかけながら、近づく。すると五ねぇは、びくりと肩を跳ねさせた。寝てはいない。

 

「五ねぇ」

 

 だから俺は、呼びかけながら、その傍に歩み寄る。それから、肩を揺らしてもう一度。

 

「五ねぇ、助けに来た。ここを出よう」

 

 それに、五ねぇは―――

 

「ッ……! 放っておいて……!」

 

 俺の手を、払った。

 

「……、……?」

 

 俺は、それにキョトンとしてしまう。え、救出拒否? 何で?

 

 よく見れば、五ねぇは涙を流して、震えていた。俺はそれに、ふと昔のことを思い出す。

 

 五ねぇは言った。

 

「わたしは、テッ君のちょっとしたお願いもちゃんと成し遂げられなかった、役立たずなの……! だから、放っておいてよ。わたしには、売られるのがお似合いなんだから……!」

 

 言われ、俺はまばたきをする。それに、俺は一層デジャブを覚える。

 

 自分の不出来に、嫌気がさしていじける五ねぇの姿。それは、かつて少年時代、俺が慰めた姿によく似ていて。

 

 俺は何も言わずに、そっと隣に座りこんだ。

 

「……だから、あっち行っててって、言ってるでしょぉ……!」

 

「うん。ごめん」

 

 それだけ言って、俺は動かなかった。五ねぇは俺を押しのけようと腕を伸ばすが、俺は押されても動じない。

 

 すると、五ねぇはこう言った。

 

「……わたし、男に生まれればよかった」

 

「え、何で」

 

「だって、役立たずでも許してもらえるもん……。わたしは、無能で、弱くて、みんなからバカにされてて。何にも良いところなんてなくてさ」

 

「……」

 

「女、辛いよ……。すごく、大変なんだよ? 男の子と違って、困ってても誰も助けてくれないの。だから、どんなに苦しいことがあっても、歯を食いしばって立ち上がるしかなくて」

 

「うん」

 

「……わたし自身、こんな情けないことを言ってる自分が、嫌い。情けない。女らしくないって、思う……。でも、わたしには、こんなことを言うしかなくて……」

 

「うん」

 

「……テッ君が女に生まれればよかったみたいに、わたしは男に生まれればよかったんだよ。神様が、わたしたちの性別を間違えたんだよ。だから、だから……」

 

 うじうじと言い募る五ねぇに、俺は言う。

 

「でも俺、頑張る五ねぇ、好きだよ」

 

「えっ……」

 

 涙でボロボロの顔で、五ねぇは俺を見る。俺は微笑んで手を伸ばし、涙を親指で拭う。

 

「最初は、マジでただ弱かった。偶に俺に正面から負けるくらい。けど、俺たちで頑張って、森の乱戦訓練で全員ぶっ倒したじゃん。あの時のこと、覚えてるか?」

 

「……うん……」

 

「みんな、目を丸くしてたよな。だって俺たちのチームは、間違いなく最弱だった。でも、俺たちでルールを変えた。かくれんぼと奇襲だけで、俺たちは全員オトした」

 

 誰もが俺たちより強かった。だがそれを、何でもやって勝利を掴んだ。

 

「あのとき俺たちは相棒だった。俺が危ない瞬間を、五ねぇは何度もフォローしてくれた」

 

「で、でも、テッ君もわたしのこと、何度も助けてくれて」

 

「ああ。そうやって、俺たちは勝ったんだ。あの時の、歯を食いしばって勝ってやるって訓練してた時の五ねぇのこと、今でも覚えてる」

 

「……テッ君……」

 

 俺は、立ち上がる。それから、手を差し出す。

 

「今回捕まったのだって、ただ捕まったワケじゃないだろ? 俺の知る五ねぇなら、絶対に敵に痛手を負わせたはずだ。違うか?」

 

「……襲ってきた十数人の内、十人は倒した、と思う……」

 

「そんな倒したの? じゃあ十分じゃね?」

 

 何で凹んでんだこいつ。と俺は五ねぇを半眼で見る。

 

「だからさ」

 

 俺は、笑いかける。

 

「立ち上がれよ、相棒。五ねぇを捕まえて舐め腐ってる敵に、俺たちの本気を見せてやろう」

 

「――――っ」

 

 五ねぇは、ぶわ、と再び涙を流した。だがそれをすぐに腕で拭って、俺を見る。

 

 そこには、もう、弱々しく泣きじゃくる少女の姿はなくて。

 

「うん。やろう、テッ君―――わたしの、相棒」

 

 五ねぇが、俺の手を掴む。そうして二人で、立ち上がる。

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