【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
脱出後、まずは没収された五ねぇの装備を回収しようと、俺はとある小部屋に案内した。
あらかじめ、違和感のある場所に目星をつけていたのだ。狙いは完璧。五ねぇは「これ、わたしのだ」と装備を回収した。
すると回収ついでに、五ねぇが自分の装備の中から石板を渡してきた。
「五ねぇ、これ……」
「うん、太陽石の石板。欲しかったんでしょ?」
受け取る。太陽石は軽石の類で、光を受けると独特の光り方をする。これなら、このままでも使えそうだと思う。
「よし」
俺は持ってきた暗視ゴーグルのフィルター部分に、太陽石の石板を入れた。火のついた設置松明を消し、ゴーグルに魔石を入れ、目を覆う。
すると、視界が昼のように明るくなった。「五ねぇ、周りは暗いままだよな?」と聞くと「うん。かなり暗いよ」と答える。それに俺は、笑った。
「よし、暗視ゴーグルの完成だ。視界はすっきりだぜ」
「うふふっ。おめでとう、テッ君」
小さく拍手して祝ってくれる五ねぇ。俺は頷いて、五ねぇに頼む。
「じゃあ、五ねぇは脱出して、茂みに隠れてるみんなと合流してくれ。んで、俺が合図したら俺のところに戻ってきてくれるか?」
「え? テッ君をこの場に一人にするってこと? それは」
「信じてくれ。っていうか、この場に一人って感じにはならないから、そこも安心してくれ」
「そ、そうなの……? じゃあ、どうするつもり?」
俺はそっと五ねぇのこめかみを撫でる。青あざ。それから獰猛に笑って、こう答えた。
「五ねぇに怪我を合わせた分、ここの盗賊団には地獄を見てもらう」
青豹盗賊団の女盗賊は、そのとき酒を飲んでいた。
「ふぅ~、にしても昨日のガキには笑ったよなぁ」
盗賊団で乗っ取った砦の、大広間。日も落ちて松明の明かりがあるばかりの薄暗い中で、仲間と酒盛りをしていたのだ。
「あんな弱っちいのに、一人で遠乗りとはよ。それもあたしらの砦の近くで!」
バカだよなぁ、という思いで言うと、他の仲間が「そうか?」と首をひねる。
「あいつ、目を離すとすぐに消えて、気付いたら一人仲間が倒れてるんだぜ? 急いで木登りして、奇襲してるだけって分かってからも、数人やられたし」
「あー? でも倒した奴は、正面から切りかかったらザコだったって言ってたぜ?」
「そんなこと言ったら、やられたベテランさんはどうなるんだよ」
「けど、見てくれからして弱っちかったろ。あんなの大したことないね! ギャハハ!」
そうバカにして笑うと、仲間の盗賊は肩を竦めて酒を飲む。
轟音が聞こえたのは、その直後だった。
ドカァァアアアアアアアン! と音がして、その場の全員が身を竦ませた。まるで砲撃が砦に直撃したかのような、すさまじい破壊音。
「なっ、何だ! 襲撃か!? 軍隊の情報はなかったよな!?」
「おい! あいつだ! あいつがアレをぶん投げたんだ!」
仲間の言葉につられ、盗賊は窓に駆けつけた。二階から玄関の方を見下ろすと、そこには妙な奴が立っていた。
小柄。極めて小柄な鎧が、そこに立っていた。そしてその視線の先には、人間が持てるのかも怪しいほどの巨大なハンマーがめり込み、砦の入り口を破壊している。
「はぁっ!? なっ、何だあいつ! 気持ちわりぃ!」
「クソっ! 舐めやがって! おいお前ら! 武器を持て! あのチビも明日の売り物に加えてや――――」
その言葉は、パゴォォオオオオン! という奇妙な爆発音に遮られて言えなかった。
砦が、揺らぐ。パラパラと天井から、土埃が落ちてくる。
「こっ、今度は何だ! 何が起こって」
パゴォォォォオオオオオオオオン!
「っ!?」
再び聞こえた爆発音に、またも砦が揺れる。頭上から天井の一部だった岩が落ちてきて、「ひ」と仲間と揃って息を飲む。
「な、な、な、何だ! 何なんだぁ!? 砲撃されてんのかぁ!?」
「いや、そんなワケない! 大砲を使うような軍が近づいてたら、報告に上がらないはずがない! だから砲撃じゃないんだこれは!」
「じゃあ何だってんだよ! 砲撃を受けないと、砦がこんな風にはならな」
パゴォォォォオオオオオオオオン!
「「「ギャァアアアアアア!」」」
さらに聞こえた爆発音に、悲鳴が重なった。直後、頭上の一部が崩落し、仲間が数人巻き込まれて石に潰される。
「ひぃっ! なん、何なんだ! 何なんだよぉ! 何が起こってるんだ! どうなって」
そう盗賊が半泣きで叫んだ瞬間だった。
足元に、赤い魔法陣が展開された。「は?」と声を漏らした次の瞬間、足元が真っ赤な茨によって拘束され、盗賊は倒れる。
「いぎゃあっ! なっ、何だ!? 何なんだァ!? ひ、これ」
赤い茨は、盗賊の足から血を流させる。するとその血は地面に落ち、そこから新しい魔法陣が生成された。
それが、茨にやられた人数分。魔法陣は次の被害者を求めて、すいーっ、と移動していく。
「な、なん、なん……!」
盗賊はもはや完全に恐慌状態にあって、とにかく腕力で血の茨を剥がそうと力を籠める。だが茨は太く頑丈で、まるで木を押そうとしているような無力感に襲われる。
そのとき、盗賊に声がかかった。
「大丈夫かっ、あんたらぁ!」
「頭領!」
素早く駆け抜けた頭領が、血茨をその鋭利な爪で引き裂き、岩を砕く。それで何人かが動けるようになる。
「何があった! あたしはまだ状況を把握してなくてね! 教えちゃあくれないかいッ?」
「あ、あの、頭領! 玄関に変な奴が立ってて、入り口を破壊して、かと思ったら所々で妙な爆発が起こってるし、妙な魔法で足を拘束されるし……!」
「なるほど、敵は少数精鋭ってところかねぇ。――――っ、アレは何だい!」
頭領が指をさす。その方向を見ると、窓の外で飛び回る影を見つけた。
人間。しかもそれは、男だった。妙な覆面で目を覆い、伸縮自在の紐で砦の周囲を飛び回っている? そんな奇妙な光景に、一同は動揺する。
その時、男はこちらに飛び込んできて、くるりと回転した。
男は拳を振りかぶる。そして、盗賊たちの視線の先、壁に向かって飛んできて―――
「ぶっ壊、れろぉぉおおおおおお!」
パゴォォォォオオオオオオオオン!
それは、闇に慣れた目を焼く、派手な爆発だった。壁はいとも容易く破壊され、余波を食らった盗賊たちが気絶してその場を転がる。
そうして、男は砦の中に足を踏み入れた。
すらりとした四肢に筋肉の付いた、上物の男だった。思わず下腹部がうずくような、いい男。街の暗がりを歩いていたら、問答無用で組み伏せてしまうような、そんな。
だが、ことこの場においては、流石に性欲に支配される奴はいな、
「お前がやったのかぁ! テメェ犯される覚悟はできてんだろうなぁぁああ!」
いた。性欲丸出しで飛び掛かる女盗賊の仲間に、「おまっ、そいつは得体が知れな」と制止を飛ばすも、遅かった。
突如男の横に現れた、幻影のように透ける騎士が、仲間に剣を振り下ろし、またたく間に制圧した。騎士はそれに留まらず、他の仲間たちを倒し始める。
盗賊は、状況に歯噛みした。どうする。何が起こってる。分からない。分からないが―――この男がすべての元凶であることだけは、分かる!
「テメェぇええええ! 男の癖にふざけてんじゃ」
そう盗賊は叫びながら切りかかる。それに男は、防御もしようとしない。
だが、盗賊の武器は、男には届かなかった。
「わたしの相棒に、手を出さないで」
「ガァッ……!?」
背後から聞こえた冷たい声。首元に走った衝撃。盗賊は倒れながら、うめく。
「お前、昨日の、ガ、キ……ぎゃっ!」
「寝てて。テッ君! 大丈夫だった!?」
盗賊は、バカにしていた少女に頭を踏みつぶされ、衝撃に意識を失った。