【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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青豹

 俺が提案した、五ねぇ救出後の方針は、砦完全破壊作戦だった。

 

『前みたいに?』

 

『前みたいに』

 

 確認したアイギスに頷くと、アイギスは額を押さえてため息を吐いた。

 

 だが、今回の砦は盗賊の使う現役のもの。支柱をぶっ壊せば壊滅、とはいかない。

 

 なので、それはもう徹底的にやった。

 

 最初にアイギスのハンマーで入り口を塞ぎ、その後俺は飛び回って、城壁にパイルバンカーを撃ちこみまくった。

 

 基本的に夜にグラップリングフックで立体機動するのは危険なのだが、今回は関係ない。何故なら、暗視ゴーグルがあるからだ。

 

 幸い魔石は現在潤沢で、回数を気にせずバッコンバッコンやれた。お蔭で砦は穴だらけ、所々崩落し、ほとんどの盗賊は伸びている。

 

 そう。ほとんどの盗賊は、だ。

 

「……凄まじいね。あんたら、何者だい?」

 

 崩落し、所々の地面に穴が開き、瓦礫もたくさん転がる、砦二階の大広間。

 

 その中央に、ケダモノは立っていた。

 

「少数精鋭だろうとは睨んでたけどね。まさか学生が片手で数えるほどとは思わなかったよ。それが、砦をボコボコにするような暴れっぷりだ」

 

 ハハ、とケダモノは笑う。パチパチと松明の火が爆ぜる。

 

「もうこの砦は使えない。大変な損害を出してくれたもんだよ。どう落とし前を付けてくれるんだい?」

 

「落とし前? お前が今付けてんだろ。俺の姉ちゃんを捕まえやがって」

 

 俺が答えると「ふ、はは」とケダモノは足を踏み出す。

 

「男。こんな修羅場に出てきて、よく肝が据わってるもんだ。どれ、顔を見せなよ。影から出てきな」

 

 誘われ、俺は暗視ゴーグルを上げながら前に出る。五ねぇが制止に俺の腕を掴むが、俺は逆に五ねぇに合図を出して下がらせた。

 

 ケダモノも、俺同様に前に歩み出る。そうして俺たちは、同じ月明かりに照らされて対面した。

 

 ―――青豹盗賊団の頭領は、先ほど見た通り、巨大で、しなやかな、美しい女だった。

 

 真っ青な毛並みに獣耳が、月明かりでさらに青く輝いている。巨大な胸は激しく自己主張していて目が離せない。それでいて上半身全体では、まるで黒豹のような美しさがあった。

 

 一方で、下半身はやはり穴だらけのタイツめいた履物をしていた。それはヒョウ柄を思わせ、やはりこのケダモノの美しさを際立たせている。

 

 だが、敵だ。そう俺が構えを取ろうとした瞬間、ケダモノは言った。

 

「……いい男だねぇ、あんた……」

 

「……ん?」

 

 見れば、ケダモノは月明かりの中でもわかるくらい、赤面していた。それから、「ハハ」と犬歯をむき出しにして笑う。

 

「男を自由にしたことなんざないが……一目惚れしたこともなかった。だが、あんたには惚れたよ。強くて、雄々しい人間の男。あたしは、あんたの子を産みたい」

 

「……お、おぉ……」

 

 あまりに大胆な告白を受け、俺はおののく。

 

 その時だった。

 

 騎士団長が、ケダモノの背後から切りかかった。まったく同時にウィズの赤い魔法陣がケダモノの足元に移動し、血茨を発動させた。

 

 だが、無意味だった。

 

 ケダモノは騎士団長の剣を、背面のまま手で受け止め、騎士団長ごとぶん投げて無力化した。同時伸びあがる血茨を素早く躱し、踏みつけて潰した。

 

 圧倒的。身体能力一つで考えるなら、俊敏さでも強靭さでも、ただ圧倒的なフィジカルでもって、ケダモノは奇襲を潰して見せた。

 

 ―――正面から敵う相手ではない。騎士団長は、正面対決なら俺と同等の相手なのだから。

 

 俺は冷や汗を流す。だがケダモノは一瞬たりとも、俺から視線を外す事はなかった。

 

「決めたよ、男。あんたを、あたしのものにする」

 

 舌なめずりをして、ケダモノは俺を見る。

 

「名乗りな。あたしは青豹盗賊団が頭領。『青豹』のパンテラ」

 

「……プロテクルス・ガーランド。ガーランド家の長男だ。テクトって呼ばれてる」

 

「テクト、テクト、テクト……覚えたよ、テクト。あたしの男。あんたを倒して、他の女も全部倒す。女は強そうだから手下にして、あんたは一晩中可愛がってやる」

 

 お互いに、構えを取る。人間相手にパイルバンカーは使いたくないが、これほどの相手ならば選択肢に入る。盗賊なんてやっているのが不思議なほどの手練れだ。

 

 勝負は、一瞬で決まる。俺は深呼吸する。

 

 するとその時、カタカタ、と腰に刷いた呪刀が揺れた。

 

 自分を使え、と言っているのか。それに俺は苦笑して、押さえた。

 

「お前は使わない。殺すほど悪い奴じゃなさそうだし」

 

 つーかお前意思あんの? 放っといたら形変わるし、適応した相手は即殺するし、謎だ。

 

 が、今回は関係ない。そう、俺が拳に力を込めた瞬間だった。

 

 パンテラが弾けるように、前に出た。

 

「ッ」

 

 俺でも目で追えるギリギリの速度。しかし俺の体は反応した。

 

 拳を放つ。すでにパイルバンカーは内側に炎を抱いている。あとは、解放してやるだけ。

 

「パイルッ、バンカーァァァアアアアア!」

 

「見え見えだよぉっ、テクトぉ!」

 

 パゴォオオン! と杭が放たれ、炎が爆ぜる。だがそれを、パンテラは俊敏に回避した。

 

 それに俺は笑う。

 

「ああ、そうだろうさ! お前は避ける! そう思ったよ!」

 

 この夜闇の中でパイルバンカーを食らっても、目を潰されない。眼すら性能が違うのか、と思う。見れば目は猫のように、縦長に瞳孔を狭めている。

 

 それほどの至近距離。それほどの肉薄。この一瞬で状況をひっくり返せなきゃ俺の負け。

 

 迫るはパンテラの拳。魔力の防御のない俺は、一撃で倒される必殺の手。

 

 だから俺は、ただ暗視ゴーグルを外して、背後にぶん投げた。

 

「悪いな。もう勝負は終わってるんだ」

 

 ふっ、と松明の火がすべて消える。この場が闇に包まれる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

 それに、パンテラは動揺した。ネコ科っぽい獣人だから、闇には元々強いのだろう。だが、パイルバンカーを至近距離で見た直後に闇に包まれては、そうもいかない。

 

 そして、俺が暗視ゴーグルを投げた先では、五ねぇが闇の中で待機していた。暗視ゴーグルを掴み、装着し、駆け抜ける。

 

「パンテラさん。わたしの実力、認めてくれてありがとう。でも」

 

 五ねぇは、家族がみんな持つ刀を峰に持ち替え、パンテラに向かって一閃した。

 

「ごめんね。わたしはテッ君のお姉ちゃんで、相棒だから。あなたとは、組めない」

 

 ゴンッ、と鈍い音がして、パンテラはひっくり返った。頭をやられたらしい。殺しはしないための峰打ちとはいえ、五ねぇも中々容赦がない。

 

 そうして意識を落としながら、パンテラは声を絞り出す。

 

「そう、かい……あんたの、弟だったか……。いい男な、ワケだねぇ……」

 

 パンテラは目を閉ざす。それを確認して、俺たち姉弟は、言い合う。

 

「や、やったかな、テッ君」

 

「それやってないフラグだから止めてくれ」

 

 俺が言うも、五ねぇはキョトンと首を傾げている。くっ、日本のミームが通じない!

 

 そうこうしていると、ウィズ、アイギス、シアの三人娘が、どうにか内部に侵入して、俺たちの下に現れる。

 

「だっ、大丈夫ですか!? 今助太刀しま、……アレ?」

 

「何よ。イリューシアの騎士がやられたって聞いて飛んできたのに、倒してんじゃない」

 

「……テクト君のお姉様、よく倒せましたね……」

 

 三人が揃って、目を丸くして五ねぇに視線を送っている。五ねぇはそれに気付いて、パチパチとまばたきして、俺に視線を向けながら五ねぇ自身に指を向けた。

 

「そうだよ。倒したのは五ねぇだろ?」

 

 ぽん、と背中を押すと、五ねぇは「え、あ、う」と戸惑いに声を上げた後、言った。

 

「で、でっしょ~!? これでもテッ君のお姉さんだからねっ。このくらい頑張るよ~!」

 

 でも、と五ねぇは続ける。

 

「みんなのアシスタントもすごかったよ! お蔭で無事脱出できたし、盗賊の親分もスムーズに倒せました。みんな、ありがと~っ」

 

 五ねぇが言う事で、三人娘がキャアッと沸く。俺は後方腕組み弟面で肩を竦める。

 

 五ねぇと三人娘に必要なのは、相互的な承認だった。五ねぇは劣等感があるからこそ素直に三人を認められないし、五ねぇが認めてくれないから三人娘も意地になる。

 

 ここに向かう最中に思いついた策だったが、上手く行ったようで何よりだ。そう俺が踵を返そうとしたところで、五ねぇは言った。

 

「でも、今回のMVPはやっぱりテッ君だよ~! 助けに来てくれてありがとね♡」

 

 背後から五ねぇに抱き着かれ、他の三人も、まぁ今くらいはね、みたいな顔をして見守っている。

 

「……恥ずかしいから勘弁してくれ」

 

「えぇ~? テッ君の恥ずかしがり屋さ~ん♡」

 

 抱き着いてきた五ねぇが、そのまま俺の頬を指でツンツンとつつく。

 

 それを俺は誤魔化して「ほ、ほら、盗賊が貯め込んだ財宝漁りに行くぞっ」と歩き出した。

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