【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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ワガママ道具のメイ

 常識を教えるには、まず世間に連れ出す必要がある。

 

 というか、何度か「留守番してろ」「ヤ」という問答を経て、こいつは閉じ込めておくことはできないと判断し、その路線に切り替えることにした。

 

「ひとまず、これからお前のことは『メイ』と呼ぶ。明鏡止水(メイキョウシスイ)の『メイ』だ。分かったか?」

 

「了解ご主人」

 

 メイはピシッと敬礼の所作を取る。何か全体的に軽いよなこいつ。

 

「じゃあメイ。指輪になれるか? 腕輪とか、身に着けるモノなら何でもいいんだけど」

 

「なれる」

 

 頷いたメイは、白い光と共に変身し、俺にぴったりサイズの指輪となった。

 

「じゃあメイ。ひとまずこの姿なら、一緒に連れ出してやることができる。ただし、俺の言う事はちゃんと聞くこと。そして勝手に動かないこと。いいな?」

 

『りょ』

 

「せめて『了解』くらいちゃんと言え」

 

『り』

 

「原形をとどめろ」

 

 そんなやり取りを交わしていると、ウィズが言う。

 

「ちびっこ2の声が聞こえるんですか?」ちびっこ2て。

 

「ああ、うん。ウィズには聞こえないのか?」

 

「はい。魔力で直接テクト君にパスを通して、思念を飛ばしてるんでしょうか。興味深いですね……。ん? はい。ワタシにだけ聞こえるようにも出来るんですね! へー!」

 

 ウィズが興味を示しているがそれは置いておいて、メイとの会話は他の人には聞こえないらしい。指輪から声が聞こえたら騒ぎになるし、これは好都合だ。

 

 そう思いながら指輪メイを右手中指につけると、脳内に直接言葉が届く。

 

『ご主人、違う。付ける指そこじゃない』

 

「ええ? じゃあどこがいいんだよ」

 

『左手の薬指』

 

「俺の人間関係めちゃくちゃになるわバカタレ」

 

 指輪にデコピンすると『痛い……』と唸るような声が聞こえて静かになった。

 

 ひとまず、今日はこれで乗り切るしかない。一限はズル休みしてしまったが、二限目からでもちゃんと出席しなければ、と俺たちは学園へ向かう。

 

 

 

 

 

 ウィズと揃って遅刻した俺は、変な勘繰りをされても嫌なので、タイミングをズラして教室に向かった。

 

 とはいえ、男子の俺はどうしても一挙手一投足が注目を引く。もはやそれは仕方ないと、ウィズが目立たずに登校できただけでも良しとした。

 

 カバンを置き、席につく。俺は独特の立場なので、近づいてくる女子はウィズくらい。

 

 と、そこで指輪が震え、メイの声が脳に直接響いてきた。

 

『ご主人、どこココ』

 

「……あー……」

 

 こっちから言葉を伝える手段が発声しかないことに気付いて、俺は曖昧に声を漏らす。

 

 すると、メイの指輪が震えた。

 

『ご主人、ご主人。無視しないで。相手してくれないなら人間の姿に戻る』

 

「ッ!? わ、分かった。分かったから。いや、反応したいとは思ってるんだけどさ」

 

 俺は咄嗟に考える風の姿勢を取って、左手で口元を隠し、その内側に右手を入れて囁く。

 

 その動きが急だったからか、女子数人から怪訝な目で見られるが、仕方ない。一方ウィズは、労しそうな目で見ている。ウィズは理解してくれて助かるよ……。

 

 っていうか、え? 俺、メイの機嫌損なうと突如指輪が半裸ロリに変身すんの?

 

 貞操逆転フィルターに通しても、それ社会的には死じゃない? 半裸ショタを指輪として携帯する女子はドン引きじゃない? 俺は戦慄である。

 

「……メイ。その、すぐ答えられる状況じゃないときもあるからさ。多少は我慢してくれると助かるんだけど……」

 

『ヤ。話しかけたら答えて。寂しい』

 

「……はい」

 

 そんな直球に『寂しい』と言われると弱い。俺は考えを巡らせながら、頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 そんなメイの寂しがりは、授業中も続いた。

 

『ご主人、何してるの』

 

「……授業だよ」

 

 俺は考えるポーズになって、小声で答える。

 

 すると、メイは言うのだ。

 

『ふーん。ご主人が握ってるこれは?』

 

「え? ペンだけど」

 

 俺は羽ペンをくるくると手元で回す。魔法のかかった頑丈な奴だ。

 

 するとメイは言うのだ。

 

『ご主人、よく分かんないけど、そんなの握るよりワタシを握って』

 

「は?」

 

 俺がポカンとすると、コロン、と指輪が取れて、メイが羽ペンの形に変わる。

 

「……」

 

『さ、使って。ワタシの方が優秀。だってワタシは聖剣だから』

 

「い、いや。そういうことじゃ」

 

『使って。使わなきゃ人間の姿になる』

 

「……。はぁぁああ……」

 

 俺はため息を吐きながら、メイペンをインクに漬ける。

 

 するとメイが言った。

 

『!? ご主人、ワタシがワガママばっかりだからって、汚して意地悪しないで』

 

「お前がペンの代わりになるって言ったんだろうがぁぁああああああ!」

 

「ガーランド君!? どうしたのいきなり叫んで!」

 

「あっ、いやその、スイマセン。何でもないです」

 

 俺は先生に謝りつつ、メイペンを睨みつける。

 

『もしかしてペンってインクに漬けられる運命にある? 汚れるのヤ……』

 

 メイはぺんの形から、再び指輪に戻る。いまだインクの汚れが付いたままだ。

 

『ご主人、早く指につけ直して。ペンはもうこりごり』

 

「……」

 

 俺はインクを拭おうにも、ちょうどいいハンカチ類を切らしていた。

 

 だからどうしたものかと考えていると、メイは言う。

 

『早く。早く付けてくれないと……』

 

「分かったよ……! 付ければいいんだろ、付ければ!」

 

 俺はもう破れかぶれで、インクまみれのメイを指につける。

 

『ふぅ、人心地』

 

 俺は指をインクで汚しながら、仏頂面で耐える。それから、思うのだ。

 

「……え? これからずっとこれ……?」

 

 このワガママ放題に付き合い切れる気がしなくて、俺は意識が遠くなる。

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