【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
ウィズを学園まで送り届けると、無事共同馬車に乗せたままだった荷物を回収できたようだった。
「あっ、ありがとうございます。ありがとうございます! 本当にっ、ありがとうございました! こっ、この恩は、必ず!」
「いや、いいよいいよ。このくらい」
「いっ、いえ! ガーランドくんには、かっ、返しきれない恩があるので、なっ、何か困ったら、絶対言ってください!」
緊張しつつも、とても熱心に訴えてくるウィズに、俺は肩を竦める。
「テクトで良いって。じゃあ、そうだな。困った時は頼らせてもらおうかな」
「はっ、はい! ぜひ! 是非頼ってください。……あ、あとその、て、テテテテテ、テクトくん、も、わ、私のこと、うぃ、ウィズ、で……」
「そう? じゃあよろしくな、ウィズ」
「はっ、ひゃい!」
赤面し緊張仕切りのウィズが可愛くて、俺はカラカラ笑ってしまう。妹の一人が人見知りで、初対面の相手だとこうだったのを思い出す。
そうして俺はウィズと別れて、諸々の手続きを済ませた。
男子寮の鍵をもらって自室に向かうと、騎士なんていう最下級貴族の息子でも、なんと一人部屋だ。
「数が少ないからかねぇ」
俺はくぁああとあくびをし、まずは旅の疲れをベッドで癒すことにするのだった。
俺が入学したコンスタンティン王立貴族学園は、年に620人も入学するマンモス校だ。
一つで41、42人もいるクラスが、学年で15個もある。まぁここに全国の貴族(騎士の子女含む)が入学するんだから、そのくらいにはなるか、という感じだ。
そこで驚くのが、今年入学の男子生徒数である。その数なんと20人。世間の男女比1:30をきっかり守った人数しか、このマンモス校には存在しない。
一学年に、男は20人、女は600人である。
そんなだから、男子寮から出て驚いた。周囲に歩くのはほとんどが女女女! しかも俺が男というだけで、衆目を集めるのだから居心地が悪い。
とはいえ、入学式自体はつつがなく進んだ。
やたら多い女子の中に埋もれて入学式を行ない(そういえば今年の新入生代表は、ウチの領主のお姫様だった。スゲー)、その後クラスごとに教室移動。
俺は騎士の息子だから、下級貴族クラスだ。
学園の一学年は、伯爵以上の上級貴族クラス5クラスと、子爵以下の下級貴族クラス10クラスで構成されている。
やっぱ下になるにつれ数も多くなるんだな、なんて再確認だ。
教室移動後、流れでガイダンスが始まった。女教師が、授業は何があって成績がどーで就職にあーだこーだと話していた。
……成績いいと就職先に有利なんだな? と、稼がなければならない俺は、そこだけちゃんと聞いた。
事態が動いたのは、ガイダンス終わりの休憩時間だ。
「こんにちは! 初めまして、私は」「ちょっと、抜け駆けしないでよ! あ、私はね?」「幅取るの止めてくれる!? せめて列作りなさいよ列!」
周囲の女子たちがぞろっと俺の机を囲い始めて、俺は「うぉぉおおおっ?」と瞠目する。
流石は男女比1:30の世界だ。42人もいる教室で、男子は俺ともう一人だけ。圧迫感がすごい。
と思いつつ、俺は初対面の女子にこんなもてはやされる事は初めてだったから、つい『俺モテてる? 俺モテてる!』と舞い上がってしまう。
と思っていた直後、男子の声が響いた。
「いやぁ、随分と女に群がられて嬉しいみたいだね、ガーランド騎士のご子息君?」
そう言われて、俺は暢気に、何で詳しく俺のこと知ってる奴がいるんだ? とキョトンとした。
反応が顕著だったのは、俺を囲んだ女子たちだ。
「……あー……騎士、なんだぁ……」「え、じゃあ平民以下じゃん……」「領地貴族でもないのにハーレムはちょっと……」
すすす、と女子たちが揃って俺から離れて行く。俺は「あっ、え、そ、そんな露骨に」と動揺だ。
そんな俺を見て、高笑いを上げる男が一人。
「ハーッハッハッハ! 騎士の息子なんていう身分で、学園に来たのが間違いだったね、ガーランド君? 身の程をわきまえないからそうなるのさ」
俺の代わりに、クラス中の女子を独占して、奴は言う。
いかにも嫌味な貴族男子、という外見の男だった。なよッとしつつも長身。甘いマスクに切れ長の目をして、これ見よがしに金髪の髪を手櫛でかき上げる。
名簿で「俺以外にも男子がいる!」とチェックしていたので、知っていた。
ナルシス。ナルシス・オルヴィエート。それが奴の名前だ。
くそ、いかにもナルシストみたいな名前しやがって。クラスに二人の男子だし、仲良くしたかったのに。
俺はそんな同級生男子を、動揺と共に見返した。
「……貴族の子女は、全員学園入学が義務だろ」
「はて、そうだったかな? それは失敬したね。僕は騎士なんて一代限りの連中のことを、貴族とは認めていないものだから」
ハーッハッハッハ! とナルシスは高笑いする。こいつ。
俺は歯をむき出しに唸る。
「お前……俺に何の恨みがあるんだよ」
「恨み? 君のごとき下級も下級、最下級貴族の人間に、わざわざ恨みなど持つような僕ではないさ。シンプルな話だよ」
ふっ、と気障ったらしく、奴は笑う。
「騎士家の君と、子爵家の僕で、40人を分けるなんてありえないだろう? 男子はね、自分の囲いの女子の数が、そのまま箔になるんだよ」
その所作があまりにもイケメンで、周囲の女の子たちから「キャー!」と黄色い悲鳴が上がる。
……いいのか? 今のが。言ってることちゃんと最悪だったぞ? 雰囲気だけで判断してないか?
っていうか、子爵か。下級貴族クラスの中では、一番偉い爵位になる。しかも男なら、家督を継ぐ立場が基本だ。相当の財力もあるのだろう。
一方騎士の息子は、制度の抜け穴に落ちたような存在だ。貴族のうまみはないが義務を負う立場。
……大前提、騎士って貴族の義務は大半が免除されてるんだよな。だから一対一の結婚だし、子供もボチボチの数になる。そもそも男の子が生まれる想定じゃないのだ。
そんな絶対数が極めて少ないがゆえに、制度的に救われない俺である。
泣きたい。
「オルヴィエート君! 初めまして、私」
「ナルシスで構わないよ、君たち。ところで、春先だけど少し暑いね? どうにかしてくれた子と今日はお話してあげよう」
「わっ、私! 私が窓を開けて涼しくしてくるね!」
「あっ、ズルい! じゃあ私、魔法で風を送って」
「魔法なんて加減ミスったらナルシス君が怪我するでしょ!? 何考えてんの!?」
クラスの女子たちは揃ってナルシスの周りに集まり、ギャーギャーといさかいを起こしている。そしてそんな姿を眺めて、ナルシスはニヤニヤしていた。
何だこいつら、と俺はドン引きするも、閑古鳥が鳴いている俺はそれ以下なのだと悲しくなる。
「……はぁ、うまい話はないってか……」
やはり俺には、強く優しく女の子を助けられる男になるしかない、というワケだ。
そう考えつつも、女子人気のすべてを奪われた俺は、ため息交じりに賑やかなナルシスの周囲を見つめるしかないのだった。
そんな、人気が極端に偏る教室の片隅。
「……騎士家。身分的には、ダメ、だけど。でも、この、この状況は」
たまたま同じクラスになっていたウィズは、好きな男の子が孤立状態という絶好のチャンスを前に、バクバクと心臓を跳ねさせていた。