【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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ナルシスの助力

 その後の授業も、まぁ地獄だった。

 

 休み時間に耐えきれる気がしなかった俺は、ウィズに助けを求めたのだ。ウィズは快く引き受けてくれて、メイは『ご主人がいい』とワガママを言うも、ウィズの圧で従った。

 

 とはいえ、ウィズも次の授業が終わる頃にはげっそりしていた。

 

「た、大変ですね、この子のお守……。筆箱と張り合うし、授業中ずっと話しかけてくるし、答えないと拗ねるし……」

 

「お疲れ様だよ、ホント……」

 

 一時間分休憩した俺は、ウィズからメイを受け継いで、四時間目の授業を乗り切った。

 

 そして待望の昼休み。俺とウィズは、上級貴族クラスのアイギス、シアの二人にメイを押し付ける気満々でいると、上級貴族の生徒が俺たちに伝聞を寄越してきた。

 

「え? アイギスもシアも、近づいてきた討伐演習の準備で忙しい?」

 

「はい。ですのでお二人はしばらく中庭で共に食事を取るのは難しい、ということでした」

 

 討伐演習、というのは全校的に行われる、魔物退治を兼ねた遠足のようなものだ。

 

 運動会にも性質が似ていて、上級貴族の指揮を執る立場の人間や、下級クラスでも騎士になる気満々の人間がハイスコアを目指す傾向にあるという。

 

 そういえばそんなのあったな、と俺は思う。そもそも男子は名目のみの参加だし、ウィズも目標にしていなかったから忘れていた。

 

「では、確かに伝えましたので」

 

 そう言って去っていく上級貴族生徒。その背中を、俺とウィズは絶望的な目で見送った。

 

「……テクト君。お姉様は頼れたり、しません?」

 

「ガーランド家はみんな、討伐演習ガチだからなぁ……五ねぇ一人ならワンチャンあったかなって思うんだけど、学校には他の姉もいるから……」

 

 無理だろう。何せ進学前から、家で気合の入りようを聞いて育ったくらいだ。

 

 恐らくは抜け駆けして俺に会っていたのもこみこみで、今頃討伐演習用の訓練のために、上の姉からしごかれているはず。顔すら出さないというのは、そういうことだ。

 

「……つまり、私たちで面倒を見る以外の選択肢は」

 

「ない、な……」

 

 そしてそれは、俺たちの絶望そのものなワケで。

 

『ご主人、ウィズ。暇。面白い話して』

 

「終わった……」

 

「終わりましたね……」

 

 そう俺たちが教室でぐったりしていると、不意に近づいてくる影があった。

 

「これはこれは。いつも騒々しいガーランド君たちが、随分と珍しい姿を晒しているじゃないギャッ!」

 

「おうナルシス、今俺たちは機嫌が悪い。煽るなら蹴られる覚悟をするんだな」

 

「もう蹴ってるじゃないかぁ!」

 

 ナルシス・オルヴィエート。このクラスに所属するもう一人の男子だ。

 

 俺に蹴られて、涙目ですねをさすっている。男子に相当甘いウィズでも、ナルシスが蹴られて何も言わないあたり、かなりの恨みを買っている模様。

 

 それもそのはず。以前こいつは、俺たちを追い込んで酷い目を見せてきた張本人である。もっとも、殺意はなく事情があったことから、しばき回して和解となったのだが。

 

 そんな経緯があるから、俺は警戒の目でナルシスを見る。しかしそこで違和感に気付いた。

 

「ナルシス、お前誰も取り巻き連れてないのか?」

 

 ナルシスは学園の男子の標準装備として、連れに女子を数人取り巻きに連れている。

 

 だが、今日はその限りではないらしかった。「そのことなんだけどね……」とナルシスは、視線を落とす。

 

 その先にあるのは、俺の指輪。変身したメイ。

 

 ナルシスが、親指を教室の外に向ける。

 

「少し、話がある。デルフィアさんも同席すると良い。君はどうやら、事情を知っているようだからね」

 

 

 

 

 

 ナルシスに連れられて、中庭を抜けてウィズと共に校舎裏の人気のない場所に行くと、ナルシスは開口一番こう言った。

 

「その指輪、『王家の秘密』で君が抜いた剣だろう」

 

 ナルシスが言うなり指輪が震え、キラキラと光りを放ち、メイが人間の姿になる。

 

「その通り、素晴らしい観察眼。そう、ワタシこそ聖剣、明鏡止水」

 

 そして目を輝かせて胸を張るメイに、ナルシスはすごい顔で俺を見る。

 

「君、子供にこんなみすぼらしい恰好を……」

 

「ちがっ、今朝! 今朝こうなったんだよ! それで服とか諸々手が回ってないんだ!」

 

 俺は必死で弁明する。ナルシスは「そうかい……? まぁ君の趣味嗜好には何も言わないけれどね」と誤解がとけていない。

 

「指輪をめぐって妙な動きをしているから、様子を聞こうと思ったんだけど……まさか人間の形になって動いているとはね」

 

「……そういえば、あの鏡はナルシスの家が作ったものだったな」

 

 『王家の秘密』と言われる鏡の中に、迷宮や巨大ゴーレム、メイは存在していた。そしてその鏡は、ナルシスの家が、今の正妃暗殺のために作ったものだという。

 

 となれば、メイの秘密を知っているのではないか。そんな希望を込めて、俺は問う。

 

「ナルシス。何か情報を知ってるなら教えてくれ。この通り振り回されて大変なんだ」

 

「そうです! 本当に! さっきの魔法の授業中なんか、『あれワタシもやりたい』とか言い始めて、勝手に魔力を使いだして!」

 

「それでウィズの手元でいきなり爆発が起こったのか」

 

 というか地味に魔力を使っている。いや、魔剣だから不思議ではないのだが。

 

 俺は微妙な顔でメイを見る。メイは「楽しかった」と満足そうな顔をしている。こいつちゃんと躾けないとダメだな……と俺はガーランドブートキャンプの計画を練り始める。

 

「っ? な、何か今悪寒がした……」

 

「まぁ、君たちの戯れには興味がないのだけどね」

 

 ナルシスは言う。

 

「僕の家の事、第三王女に隠してくれただろう? その恩は無視できないからね。あの剣について厄介ごとがあるのなら、手伝う義理くらいあると思ったのさ」

 

「おぉ……」

 

 俺は感嘆に声を漏らしてしまう。「何だい」とナルシスは嫌そうな顔だが……。

 

 俺は笑みと共にナルシスに肩を組む。

 

「お前、何か成長したな。ガーランドブートキャンプのお蔭か?」

 

「ひっ。二度とその名前を口にしないでくれ! くっ、震えが……!」

 

「PTSD患ってんじゃん」

 

 ごめんな。そこまで効果あると思ってなくて。

 

「とはいえ、僕もあの件については詳しく知ってるわけじゃない。できることとしては、家に手紙を書いて、詳細を教えてもらうことくらいだ」

 

「いや、助かる。こっちも何が何やらでさ。情報はいくらあってもいい」

 

 便利な刀だから重宝する一方で、こうも言う事を聞かないとなると、何か対処法が必要だろう。まだ午前なのに、俺とウィズはダウン寸前だ。

 

「一つ前置きしておくけれど」

 

 ナルシスが言う。

 

「どんな情報だとしても、僕はあくまで調べただけだからね。そこを忘れて逆恨みなどはやめてくれよ。内容も決して外部に漏洩しないように」

 

「しねぇよ。人のこと何だと思ってんだ」

 

「僕の家でも暗部の情報になるんだ。このくらいの予防線は引かせてくれ。僕だって王室や聖教会には睨まれたくないものでね」

 

 俺は肩を竦める。王室、聖教会。コンスタンティン王国における権力と権威そのもの。まぁ俺だって睨まれたくはないが。

 

「分かったよ、お前は調べただけ。逆恨みも口を滑らしたりもしない。これでいいか?」

 

「信じるよ。さ、話がまとまったなら、教室に戻ろうか」

 

 ナルシスは俺の腕を振り払って歩き出す。つれない奴だな、と思ってからウィズに振り返ると、ウィズは何かちょっと嬉しそうにしている。

 

「薔薇は微笑ましくていいですね……相手がナルシス君でも、外見は良いですし……」

 

「どうした? ウィズ」

 

「いっ、いえ、何でもないですよ。ナマモノは本人には知らせないのが鉄則なので」

 

「?」

 

 首を傾げつつ、「ほらメイ。指輪に戻れ」とメイを装着しつつ、俺たちはナルシスの後に続く。

 

 そうして教室への帰り道、中庭に差し掛かった時、俺たちはそれを見た。

 

「もっ、申し訳ございません! ほ、本当に申し訳ございませんでした!」

 

 下級貴族クラスの女子が、地べたに額をこすりつけて、上級貴族クラスの大柄な男子に必死に謝っていた。それを、上級貴族クラスの男子は冷ややかな目で見つめている。

 

「は? 何だアレ。どういうことだ?」

 

 あの男子、と思う。どこかで見かけた気がするが。確か、五ねぇが攫われた時に、焦る俺に『女如きで男が慌てるな』とか言ってきた奴だったような……。

 

 そこで、男子が言う。

 

「本当に、女という生物は気色が悪いな」

 

 男子の取り巻きと思われる女子が、土下座する女子に蹴りを入れる。

 

 一人ではない。数人掛かりで「何プライダス様を見てんのよ!」「アンタが見て良い相手だと思ってんの!?」と罵声を浴びせながら、蹴りの雨を降らせていた。

 

 それに男子は酷薄な笑みを浮かべて、女子を嘲った。

 

「下級貴族の虫けらが。オレの魂が穢れただろう。どう責任を取ってくれる」

 

「あぎっ、も、申し訳ございませんっ、いぎっ、申し訳ございませんっ!」

 

 その、悲惨すぎる光景に、俺は目の色を変える。

 

「は? いや、ちょっ、おま―――」

 

「何を考えているんだ君はッ!」「テクト君っ! だっ、ダメですよ!?」

 

 そう、前に出ようとした俺を、ナルシス、ウィズが必死に止めた。

 

「相手がだれか分かっているのか!?」

 

「誰だろうと関係ない。何だあいつ。女の子に見られたからって土下座させて踏みつけてんのか? あんな奴生かしちゃおけないだろ」

 

「生かし……!? いや、関係ありますよ。彼は、いえ、あのお方は―――」

 

 ウィズは苦み走った表情で言った。

 

「プライダス・ディ・フェラーラ。フェラーラ公爵家嫡男。コンスタンティン王家ですら易々とは動かせない、フェラーラ公爵の一人息子ですよ!?」

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