【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
ウィズが周りの女子に聞いたところ、こう言う事だったらしい。
「下級貴族クラスの女子が、プライダス様を見ていたんだそうです。背が高くて格好いい、と友達に囁いていたとか。で、それにプライダス様が気付いて」
『下級の虫がオレを見ている。気色が悪い』と言ったのだという。それで、取り巻きの女子が動き出した。
結局あの女子は、ボロボロにされて、保健室へと運ばれて行ったという。プライダス一味にはお咎めなし。悠々その場を去っていったとか。
「……そんなことがあるか?」
「まぁ……見るハラ、とか言うじゃないですか。ジロジロ見られてハラスメント、みたいな。それも、上級貴族相手にそんなことしたら、仕方ないですよ」
「は……!? いや、それで言ったら、見るハラが発覚してる時点でプライダスとか言うのも女子の事見てるだろ! 何言ってんだ!?」
俺は言うが、ウィズは沈鬱な顔で目を伏せている。それで、ウィズに言っても仕方ないことなのだと俺は悟る。
「……ごめん。ウィズに言う事じゃなかった」
「いいえ、むしろ嬉しいです。『そんなのおかしい』って言ってくれる男子がいるだけで、救われます」
放課後、授業を乗り越えての問答だった。
結局俺はナルシスとウィズに止められ、プライダスとかいうクソ野郎を殴ることができなかった。しかし今では、止めてもらってよかったか、と思わないでもない。
「フェラーラ公爵家は、聖教会にも多額の献金をしていますからね」
聖教会。王室に並び立つ宗教的権威。高位貴族を中心に絶大な求心力を持ち、その教皇ともなれば王室正妃ですら首を垂れるという。
「ただでさえ公爵家の人間だというのに、聖教会にも影響力があるとなれば、正直王族でもその行いにはほとんど口を出せません。しかも、彼は男性ですから……」
つまり、シアと同等レベルの権力者なのだという。いや、男である分、もっとひどい。男爵家子息の告発で、侯爵家子女くらいは社会的に死に得るのだから。
つまり、もし考えなしにプライダスを殴っていれば、ウィズ、アイギス、シアに留まらず、俺の家族にまで責が行っていた可能性すらあったのだ。
『……』
あんなことがあったからか、午後のメイは静かだった。生々しい暴力を目の当たりにして、メイにも思うところがあったらしい。
俺はため息を吐く。嫌なものを見てしまって、午後の授業は散々だった。だが、これ以上引きずるのもバカバカしいというもの。
俺は両頬を、パンッ、と叩く。
「よしっ、気分を入れ替えよう。せっかく放課後になったんだ。やることやろうぜ」
「はい……? やることって何ですか?」
ウィズの問いに、俺は笑みと共に答えた。
「決まってるだろ? メイの身の周りのものを買い揃えるんだよ」
『……んにゅ?』
俺の脳内で、メイのキョトンとした声が響く。
言うまでもないが、メイは人型になると半裸である。ウィズのローブを羽織っているだけでほぼ全裸だ。
だが、一度着せたものは変身しても失われないようで、メイが人型に戻る度にローブで身を包んでいる。
それで俺は考えた。メイにはちゃんと服を用意してあげるべきだ、と。
『ご主人、ここは?』
「服屋さんだぞ~」
ウィズと一緒に洋服屋さんに訪れた俺は、もう面倒になって人がいる場所でも全然メイに答えていた。とはいえ、人が多いのでさほど気にする人もいない。
むしろ、妙な独り言を言う俺よりも、良くない目立ち方をしているのが一人。
「てっ、テクト君とデートっ。ちびっこ2は指輪ですし、これはもう完全にデートっ」
ブツブツと呟きながら、私服に着替えたウィズが、一人ブルブル震えている。耳まで真っ赤で、まだ初夏だけど暑いのかな、と俺は熱中症を心配する。
「ウィズ、大丈夫か?」
「はっ、はい! あの、あのあのあの、きょっ、今日はえへ、えへへへへへ」
「情報量ゼロだったな今」
まぁ笑顔が可愛いからいいと思う。
「とりあえずメイ用に子供服を買い揃えてく感じで行こう。俺だけだと、どうしても男目線になっちゃうから、ウィズも選んでやってな」
「はいっ! まっかせてください!」
「ウィズ、この短時間で元気になったなぁ」
喜ばしい限りである。さっきまで空気が重かったからな。
一方メイはと言うと。
『ご主人。ワタシの切れ味を試したいの? いいよ。ここにある服、全部切ってみせる』
「刀がよ」
お前は切る側じゃなくて着る側じゃい。
とりあえず子供服エリアに移動して、二人で適当に物色する。思いの外服を選ぶのは楽しくて、俺はウッキウキで良い服を探し回る。
ウィズも同様で、離れたところから「これ良いですね!」「おお、これは……!」なんて声が聞こえてくるほど。
それから数分。お互い一着ずつ選んで、再集合した。
「じゃ、お互いに見せ合おうぜ」
「はいっ! では早速私から行きますね! こちらです!」
ウィズは自信満々で服を取り出した。
その手にあったのは―――謎のドクロとよく分からん魔法文字がたくさん入った、クソダサTシャツだった。
「どうですかこれ! すっごくいいでしょう! 私、こういう服があるの初めて知りました! ドクロから魔法文字まで全部いいですよね!」
「……っとぉ……」
俺はウィズの性格を思い出す。内気で研究者タイプのオタク気質。
そして前世では、その手の人々は中学生で卒業するタイプの服を気に入りがちで。
「……えっとな? その、ウィズ……」
「はいっ、何でしょう!」
俺がどう言葉を選んだものか考えていると、メイが俺とウィズ両方に聞こえるように脳に直接メッセージを送った。
『ダサいからヤ。着たくない』
「えーっ!?」
ガーン、とショックを受けるウィズ。
俺はウィズの屍を拾うつもりで「じゃ、じゃあ俺の番だな!」と服を取り出した。
「俺が選んだのはこれ! 作業着をアレンジしたタイプの、多機能オーバーオールだ! やんちゃな子供でも安心! 汚れにくい頑丈な生地に、ポケットがなんと十個も」
『ご主人……』
「テクト君、それはちょっと……」
「あ、アレ? ダメ? 動きやすいし便利だぞ? ほら、ポケットの数だけ魔石が入る」
訴えるも、二人して渋い反応。くっ、こういうことじゃないのか。便利だと思ったのに。
そんな風にしていると、メイが勝手に人間の姿になる。「あっ、ちょっ」と呼び止めるも、俺たちにあっかんべーをして、メイは言った。
「ご主人たちに任せてたら、ダサいのしか出てこない。ワタシが自分で選ぶ」
「ぐはっ」「あうっ」
俺とウィズは揃ってショックを受け、その場で立ち止る。その隙にメイはまた走り回って行ってしまう。
「あ、あいつ……! 俺たちを的確に傷つけやがって……!」
俺は一拍遅れて追いかけだす。すると意外にも、メイはすぐに見つかった。
「まったく、メイ。勝手に行くなって」
「ご主人、これ」
「ん?」
言われて、指し示される先を見る。そこには、黒い生地の浴衣があった。
「浴衣? そんなのもあるのか」
「これ、気に入った。これにしよ」
「なるほど……」
確かに似合うかもしれない、と俺は思う。そもそも変身ができるメイだ。服の頑丈さは考えなくてもいいのかもしれない。
見れば、服の上に『異国より仕入れた特別品!』と看板が書かれている。値段もお手頃。
「分かった。じゃあこれにしようか」
「うんっ。……ご主人、あそこ何?」
「ん? ああ、あれは試着室って言って、買う前に試しに着て問題ないか確かめる部屋でな」
「じゃあ一緒に入ろ、ご主人」
「はっ?」
メイに手を引かれ、一緒に試着室に入る。入るなりメイがローブに手を掛けたから、俺は慌ててカーテンを閉める。
メイがローブを脱ぐ。再びの全裸になって、俺に両手を伸ばしてくる。あばらの浮いた幼い少女特有の体付きが露わになる。
「じゃあご主人、着せて」
「……はいはい」
まぁ刀に服は着れないか、と思いながら、俺はメイに浴衣を着せていく。洋服と違って、腕を通すだけだから楽なもの。
そうして帯を巻きながら、不意に思いついて、「ああ」と呟いた。
「ちゃんとパンツも買ってやらんとな……」
買い忘れずに済んでよかった、と思いながら、俺はメイに浴衣を着せ終える。