【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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述懐

 ナルシスの第一声はこうだった。

 

「……。ガーランド君、悪いが別件だ。君一人だけ来てくれるかい?」

 

「あ、そうなのか? じゃあ」

 

 俺が前に一歩出たのとまったく同じタイミングで、メイは言った。

 

「嘘。ご主人はあなたに適応してる。あなたが嘘を吐けば、メイはいつでも分かる」

 

 俺は足を止める。それから、ナルシスの顔を見た。

 

 ナルシスは、苦々しい顔でメイを見つめていた。しかし、俺に対する悪意らしいものは見当たらない。

 

 それで、理解する。ナルシスが俺だけを連れ出そうとした理由を。

 

 恐らくは、メイに対する気遣いであると。

 

「……メイ。そんな邪険にするなよ。嘘って言っても、そんな感じじゃ」

 

「嘘を吐くのは悪い人だけ。それに、この人は『王家の秘密』でご主人と争ってた。ご主人にまた酷いことをするつもりだと思う」

 

「……失敬だな。ガーランド君、君の剣だろう。ちゃんと躾けるべきじゃないかい」

 

「悪いな、ナルシス。メイはいいから、あっちに行こう」

 

「ご主人!」

 

 俺はウィズに視線を送ると、「はいはーい、ちびっこはこっちで私と遊びましょうね」とメイを引き留めてくれる。メイは暴れているが、素の力ではウィズのが強い。

 

 それで俺はナルシスと一緒に、少し離れた場所まで歩いた。

 

 茂みの中で、ナルシスが足を止める。振り返り、肩を竦める。

 

「君も察しがいいね」

 

「いや、メイがうだうだ言い出したところでやっと気付いた。気遣わせたみたいで悪いな」

 

「気にしないよ。君と下手にケンカすれば、ひどい目に遭わされるからね」

 

 で、とナルシスは続けた。

 

「調査結果だけれど、少々重いのが出てきた」

 

「重い?」

 

「オルヴィエート家の暗部というかな。まったく、余計な気を利かせたせいで、見るに堪えないものを見たよ」

 

 俺は眉を顰める。

 

「……何を見たんだよ」

 

「……君はメイとか呼んでる剣だけれどね。アレは、僕の大叔母に当たる人物だそうだ」

 

「は?」

 

 俺は意味が分からなくて、疑問に声を上げる。

 

「いや、メイは、剣だろ? 剣って言うか、刀って言うか」

 

「そうだとも。剣だよ。水が如く変幻自在の剣。オルヴィエート家お抱えの凄腕鍛冶師による、悍ましい魔剣だ」

 

 俺は、話が見えなくて沈黙する。ナルシスは淡々と続ける。

 

「鍛冶師はね、意志を持ち、変幻自在に姿を変える魔剣が作りたかったんだそうだよ。そして、そのために意思を持った水が欲しかった」

 

「……意志を持った水ってのは」

 

「人間はね、驚くことに、体のほとんどが水で出来ているらしい。人によってはこう表現するんじゃないかい? 人間とは、意志を持った水であると」

 

 ぞわ、と怖気が俺の背筋に走った。

 

 一方で、とナルシスは続ける。

 

「当時のオルヴィエート家は困窮していてね、子供がたくさんいたみたいだよ。27人とかだったかな。男児にはちゃんと恵まれたが、いかんせん養うには子供が多すぎた」

 

 嫌な予感がする。そういう語り口で、ナルシスは続ける。

 

「そんなオルヴィエート家が受けたのは、一つの特命。『王家の秘密』を模った鏡の迷宮を作ることだった。とんでもない金を積まれたそうだ。それですべて解決するほどに」

 

 けれど、一つ問題があった。

 

「それは、王選の聖剣だ。こればかりは一点もので、再現ができない。だからレプリカを作ることになった。でも、ただの名剣ではダメだ。王族をも騙すような、特別な剣でなければ」

 

「じゃあ、それが、まさか」

 

 俺は、歯を食いしばる。聞きたくない、とメイの顔を思い浮かべる。

 

「そして、オルヴィエート家と鍛冶師の目的は合致した。オルヴィエート家は、メイドに産ませた庶子を差し出し、鍛冶師は()()で剣を作った」

 

「……ッ」

 

 俺は、口を押える。吐き気がこみあげてくる。メイの言葉が、脳裏に巡る。

 

「そして、偽物の『王家の秘密』は完成した。学園に設置され、長らく目的が罠にかかるのを待った。結果は散々なものだったようだけどね」

 

「……それが、メイの正体だって、言うのか」

 

「僕が君を連れ出した理由は、ご理解いただけたかな?」

 

「ああ、痛いほどな」

 

 言えない、と思う。こんなこと、絶対本人には聞かせられない。

 

 聖剣と言い張る癖に、魔剣のような言動をするワケだ。本人が自覚していないだけで、魔剣なのだから。

 

 そこで、くしゃ、と背後で足音がした。

 

 目を剥く。ゆっくりと、振り返る。話に夢中になりすぎた、と後悔する。

 

 そこには、メイが立っていた。動揺の目で、ナルシスを見つめている。

 

「……今の話、本当……?」

 

「め、メイ。何で」

 

「はぁっ、はぁっ! ご、ごめんなさいテクト君! ちびっこ2、捕まえておこうとすると急にするりと手から抜けるようになってしまって……!」

 

 遅れて、息を切らしたウィズが現れる。メイは首を振りながら、「うそ、うそだ」と呟く。

 

「……まずったな。もう少し警戒すべきだったようだね」

 

「メイ、今のは違うんだ。その、何ていうか」

 

 俺はどうにか言葉を探す。だが、メイはナルシスから目を離さない。

 

「そ、そんなの、嘘。わ、ワタシは、ワタシは本物の聖剣! お、王選、の……!」

 

「……そうだね。悪いねガーランド君、実は君をからかうための嘘だったんだ」

 

 ナルシスは悪い笑みを浮かべる。だが、それは空虚なものだった。今更、誰もナルシスの嘘なんかに騙されない。

 

 ぽろ、とメイの目から涙が伝う。「うそ、うそ、うそ……!」と後じさる。

 

 そして、メイは駆けだした。

 

「ちょっ、メイ!」

 

「嘘! 全部、全部嘘! ワタシは、ワタシは聖剣だもんッ! 聖剣なんだもんッ!」

 

 俺は追いかける。本来なら、メイの幼い逃げ足くらい、逃がすはずはなかった。

 

 だが、メイは予想外の動きをした。

 

「ッ」

 

 手の中に現れたのは、クロスボウだった。鉄製。メイの能力で作ったものだろう。パシュッ、とボルトが放たれ、俺は咄嗟に回避する。

 

 クロスボウは、まるで俺たちからは的外れな場所に飛んだ。元々当てる気がなかったのだろう。だが、それで確実に俺たちは一テンポ送らされた。

 

 その、一テンポが大きかった。

 

 メイの手から、紐が放たれる。鉄線めいた紐。それが木に絡まり、メイが飛び上がる。

 

 まるで、俺のグラップリングフックのように。

 

「――――ッ」

 

 俺の朝の訓練を見て、学んでいたのか。俺は動揺で反応しきれず、メイを見失ってしまう。

 

「っ! メイを追うぞ! ウィズ、ついてきてくれ!」

 

「てっ、テクト君! でも」

 

「でも、何だよ! 今のメイを一人には」

 

 俺が言い換えそうとすると、ウィズはこう続けた。

 

「め、メイさんが進んだ先は、森の中央側、それも地図ではもっとも危険度の高いエリアです! わ、私がどうにかするので、テクト君はここで―――ッ」

 

 俺はウィズの言葉を、最後まで聞かなかった。

 

 走り出す。グラップルを放ち、メイ同様に木の上に跳び上がってその後を追う。

 

 危険なら、なおさら一人になんてできない。俺は最速で、メイを追う。

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