【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
俺がクラス全員から半分無視されることになって不貞腐れていると、「あ、あのっ」と声をかけてくる影に気付き、顔を上げた。
「……あ! ウィズだ!」
「は、はいっ。テクト君のウィズです……っ!」
笑顔で挨拶してくれたのは、学園到着の日に馬車に相乗りしたウィズだった。
俺があげた髪止めで前髪を押さえ、長い黒髪に大きな目、中々のサイズの胸元と、ストレートに正統派清楚系美少女が赤面交じりの満面の笑みで、俺を見つめている。
……ん? 今テクト君の、って言った? ……いや、気のせいか。そんな激重ワードぶっ込まれる理由ないもんな。
ともかく、嬉しい再会だ。俺は笑みと共に話しかける。
「クラス表見て、『ウィズいる!』って思ってたんだよ。さっきのごたごたで話しかけられなくてごめんな?」
「う、ううんっ! そんな、全然です! テクト君、一瞬でクラスの皆さんに囲まれてしまって」
「はははっ、そうそう。それでナルシスの言葉で、すぐに全員から見放されてな」
三日天下どころではない。三十秒天下だった。我が世の春が短すぎる。
すると、非常に小さい声で、ぽつりとウィズが呟く。
「……でも、その、私はテクト君とこうしてしっかり話せて、嬉しいです。囲まれてたら、多分話しかけられもしなかったと、思うので……」
「……確かに。ウィズ、ポジティブシンキングの天才か?」
「えぇっ!? い、いやそのあの、そ、率直な感想というか、その!」
「ははは、そんな謙遜しなくても」
ひとまず友達と話せて、俺もホッとする。新年早々ぼっちは嫌だしな。
にしても、と俺はウィズの背後に視線をやる。
そこには、ナルシスを中心とした人の群れが出来上がっていた。
ナルシスを中心に、クラスの女子が二層三層と取り囲んでいる。傍から見れば儀式一歩手前だ。
その中心で、ナルシスが我が物顔で好き勝手なことを言っている。
「君、可愛い顔してるね。一番前に来ていいよ」
「えっ、は、はい! ありがとうございます!」
「君はちょっと見てくれが悪いな……。入学前の宿題、僕白紙なんだけど代わりにやってくれる?」
「えっ? あ、あの、それは、自分でやるものじゃ」
「ああ、そう。じゃあ君は要らないや」
「えっ。あ、あの!」
「ちょっと! ナルシス君に要らないって言われたんだから下がりなさいよ!」
「私! 私ナルシス君の宿題やりたいな! やらせてくれる?」
「いいよ、じゃあ君に任せよう。ほら、前に出て取りに来て」
「はい!」
ナルシスは入学初日にもかかわらず、クラスの女子全員をほとんど使用人のように扱っていた。
い、いや。男女比1:30は確かに驚異的だけどさ。にしてもだろ。こんなことにはならないだろ。
「……やっぱり、アレが普通の男子ですよね……」
「ウィズ?」
俺はふと横を見たら、ものすごく嫌そうな顔でナルシスの群れを見るウィズに気付く。
……普通の男子? アレが? マジで?
「えっ、あっ、テクト君っ? ど、どうかしました?」
「あ、いや、ガイダンス終わったし、教室出ないか?」
「は、はい! 出ます!」
俺は立ち上がり、昼飯時と早くに訪れた放課後を、ウィズと共に歩き出すのだった。
廊下を歩いていて気付くのが、どのクラスも同じようなことになっている、ということだ。
四十もいる女子のクラスメイトを、たった一人の男子が思うがままに従えている。男子が二人いるクラスは人気が二分していたが、それでもほぼ同じ光景だ。
「……なぁウィズ、貴族学園ってこれが普通なのか?」
「らしい、って聞いてます……。特に貴族は、実家から学園での婚活に圧を掛けられますから切実というか……。私も子爵家なので、伯爵家狙えとか無理を言われてますし……」
「そっか……」
騎士家の男子、というのも中々な境遇だなと思っていたが、女の子は女の子で大変そうだ。
歩きながら、俺はウィズに笑いかける。
「いやぁ、にしてもウィズが話しかけてくれて助かったよ。あのままだったらボッチで学校生活過ごすところだった」
一応ウチの領地の姫様は同学年にいるが、残念ながら姫様は上級貴族クラスである。俺からはあんまり遊びに行けないのだ。
そんなことを考えつつ呟くと、ウィズが顔を青ざめさせる。
「……わ、私も、勇気を出して話しかけて良かったです。男の子が一人ぼっちなんて、洒落になりません……」
「え? いや、洒落にならないなんてことはないと思うけど」
俺がそう訝しむと、バッ、とウィズが俺に向かう。
「ダメですよ、テクト君! 男の子はか弱くて、すぐ襲われちゃうんですからね!? 確かに結婚相手には選ばれない騎士家でも、襲うだけならそんなの関係ないんですよ!?」
「勢い」
そして、ぱっと見華奢な雰囲気のあるウィズから見ても、男というのはか弱い生物にカテゴライズされるらしい。
うーん貞操逆転異世界。
俺は苦笑気味に了承する。
「分かったよ。じゃあなるべく、ウィズと一緒に居ればいいか?」
「……~~~! はっ、はい! ぜ、ぜぜぜ、是非ともそうしてください!」
カクカクと頭を上下させて、激しくウィズは首肯する。
それから明後日の方を向いて「今のッ、今のものすごくファインプレー! ナイス私!」と小声で何か言っている。
「ウィズ?」
「はっ! あ、えとその、そ、それであの、テクト君は、この後どうするんですかっ?」
ウィズに問われ、俺は「ああ」と答える。
「欲しいものがあってさ、森に行く予定だったんだ。えーと、これ。オークの森」
俺の言葉に、ウィズは瞠目する。
「オークの森!? 予定だったって、一人で行くつもりだったんですか!?」
「うん。その為の装備くらいは揃ってるし」
俺があっけらかんと答えると、ウィズがわなわなと震え、聞いてくる。
「……テクト君って、命知らずとか、よく言われません?」
「え、何で俺の実家でのあだ名知ってんの?」
訓練でも、魔物狩りは良くやっていた。俺は真っ先に飛び出していくから、姉や妹に『命知らず』とか『自殺志願者』とか、訓練開始初期の頃はよく言われたものだ。
そんな俺の答えに、ウィズは頭を抱える。
「……テクト君。私もついていきますね」
「え? いいよそんな、悪いって。このくらいなら一人で」
そこまで言った時だった。
ガシッ、と俺の両腕が、ウィズに掴まれる。女の子の華奢な手で、しかし万力に挟まれたように俺は腕を動かせなくなる。
ウィズは顔を赤くして、涙目で、ぷるぷる震えながら念押しした。
「私も、ついていきます。いいですね!」
「……よろしくな、ウィズ」
身動きが取れないから、実質選択肢がないというのもあったが……。
女の子の可愛い上目遣いには、どうやっても勝てない俺なのだった。