【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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聖剣・明鏡止水

 グリフォンは空を飛びながら、地を這う二足歩行の猿を観察していた。

 

 今日は、やたらあの二足歩行の猿が、森に侵入しているようだった。グリフォンはそれを、目障りに感じていた。

 

 その大半は少し脅かせば必死で逃げて行ったが、今真下に隠れる猿たちは、様子が違っていた。グリフォンの配下たる怪鳥たちを、またたく間に撃ち落して見せたのだ。

 

 忌々しい。グリフォンはそう思う。だから、棘を射出する猿をどう狩るかを考える。

 

 グリフォンは、知性個体であった。喉の構造が発声に向いていないために会話こそしないものの、概念を取り扱う知性があった。

 

「クルルルル……」

 

 グリフォンが合図を出すと、配下の怪鳥たちが散会する。あの猿はどの位置、どの角度から襲撃すればいいかを、調べさせる意図だった。

 

「キョェエエエエッ」

 

 怪鳥の一匹が数十メートル離れた場所で鳴き声を上げる。グリフォンはそこまで飛んでいき、地面を確認した。

 

 そこには、先ほど針を射出した猿がいた。傍には、長い黒髪を伸ばした猿がいる。先ほど見た時にいた白い猿は、と思うが、グリフォンには些事だった。

 

「グルォ……」

 

 威圧を含んだ短い号令。それで怪鳥たちが、一気にグリフォンの背後に控える。

 

 ハッと地上の猿がグリフォンに気付く。グリフォンは冷徹に見下ろしながら、一鳴きした。

 

「グルァッ!」

 

 怪鳥たちが、一斉に地上へと急襲する。

 

「数を揃えてきたかよ、クソ鳥がァッ!」

 

 地上の猿が吼える。腕を構える。グリフォンは怪鳥たちの後ろ、更に上空に飛び上がりながら、様子を観察した。

 

 猿の腕から、棘が射出される。怪鳥たちが、猛烈な勢いで撃ち落されていく。

 

 グリフォンはその棘を、舐めていなかった。だから怪鳥たちを使役して、どの程度なのかとその効力を測っていた。

 

 まずもって、上空数十メートルも上昇すれば、猿の棘はまともに届かない。当たってもさしたる威力はないだろう。狙いもまばらだ。

 

 しかし、とグリフォンは観察する。

 

「っしゃあ! 襲ってきた奴は全滅させたぞ!」

 

 猿が叫ぶ。グリフォンは苦々しく地面を見下ろす。

 

 グリフォンの配下の怪鳥は、全滅していた。そのどれもが体を穴だらけにして、びくりとも動かなくなった。

 

 それに、グリフォンは静かに激昂する。自らが差し向けたとはいえ、それは森の主たるグリフォンの所有物である。それを傷つけ殺し尽くすとは何事か、と。

 

 だが同時、グリフォンは冷静に分析していた。

 

 ―――あの猿の棘は、高速で連射され、しかも絶え間がなかった。

 

 無尽蔵に発射される棘なのだろう。となると、魔法に近いものか。さらに怪鳥を呼び寄せ、対処に戸惑っている隙を突くつもりだったが……それでは足りないか、と考える。

 

 グリフォンは「クル……」と静かに鳴く。そして、答えに辿り着く。

 

 防御力。あの猿を落とすのに必要なのは、絶え間ない弾幕を突破する防御力だろう。

 

 だが、あの猿は不気味だ。防御を張って強引に突破しても、その後に妙な動きをしてきてもおかしくない。

 

 とすれば、とグリフォンは、もう一匹の猿に目を向けた。

 

 棘猿よりも小柄な猿だった。長い黒髪を伸ばした、恐らくはメス。普通はメスの方が強いものだが、棘猿はその例に収まらないらしい。

 

 となれば、グリフォンは狙いを定めた。メスの猿を狙い、棘猿の動揺を誘う。そこから一気に攻め切ると。

 

「カロロロロロロロ」

 

 グリフォンは詠唱を行なう。グリフォンの周囲に、渦巻く風が現れる。

 

 棘を射出する猿は、以前にも遭遇したことがあった。連中の棘は、この渦巻く風で狙いが逸れる。あとは蹂躙してやるのみ。

 

 グリフォンは睥睨する。準備は整った。さぁ、と翼を折りたたむ。

 

 そして、強襲を始めた。

 

「ッ! 来たぞ! 構えろ!」

 

 棘猿が叫ぶ。腕をこちらに向け、無数の棘を射出する。

 

 それを、グリフォンは驚異的な動体視力でもって追っていた。

 

 30。それが棘猿の放つ棘の総数のようだった。30を超える棘は魔法によって回収され、再び射出される。

 

 それは掃討の弾幕としては有用だったが、グリフォンのような空の王には通じない。

 

「ッ! あの野郎、何であの巨体でこの弾幕を避けられんだよ!」

 

「テクト君っ、それだけじゃないです! 風の魔法で、矢除けがされてます!」

 

 肉薄。グリフォンと猿たちの距離は、もはや一秒に満たない時間で接触する。

 

 普段ならこのまま鉤爪で狩り取ってやるまで。だがグリフォンの動体視力は、捉えていた。

 

 棘猿が右腕の出っ張りを引っ込め、別の棘を露出させて腕を振りかぶるのを。

 

「パイルッ、バンカーァァアアアアア!」

 

 パゴォオオオオオン! と軽快な金属音が響く。高らかに火が花開く。

 

 それを、グリフォンは見抜き、避けていた。

 

「躱しやがったか!」

 

 グリフォンは着地と同時に身を屈め、冷静に棘猿の襲撃を回避していた。

 

 やはり、とグリフォンは確信する。この棘猿は不気味だ。こいつを直接狙うべきではない。

 

 だから、グリフォンは目を向ける。黒髪を伸ばしたメス猿に。

 

「グルォッ!」

 

「わぶっ、目が」

 

 グリフォンは着地の際に飛び散った土を払い、棘猿の視界を奪う。だがこうしても棘猿は攻撃に反応するだろう。

 

 だから、グリフォンはメス猿に飛び掛かる。華奢なメスだ。魔力防御も薄い。勢いそのままに突撃するだけでへし折れる――――

 

 そう接近した瞬間、メス猿は笑った。

 

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 その笑みに、グリフォンは敗北を悟った。

 

 メス猿の影が蠢く。それは、グリフォンの傑出した動体視力がなければ、認識すらできない動きだっただろう。

 

「剥ぎ取って、影の獣(シャドウビースト)

 

 メス猿の言葉と同時、影から獣が浮き上がった。

 

 それは、獰猛でしなやかな獣だった。重厚な筋肉を有した獣。ジャガーにも似た猛獣。

 

 それはどこか、棘猿に似ていた。

 

 それは、グリフォンを遥かに上回る速度で、グリフォンと正面から激突し、はじき返した。

 

「グルァガハァッ!?」

 

 グリフォンはもんどりうって地面を転がる。見ればすでに、影の獣は消えている。

 

 代わりに、グリフォンが投げ出された先では、銀の棒を持った棘猿が――――

 

「お前の動きは分かってた。頭の良さも。知性個体だろ? だから全部読んだ。俺の演技はどうだったよ。上手いこと騙されて、気持ちよくなってくれたか?」

 

 棘猿が銀の棒を振りかぶる。日の光を受けて、銀がギラついた。視界の中で揺らめく。まるで日の光を反射する、水面のように。

 

「お前は俺の想像を越えなかった。パイルバンカーは避けられると思いながら撃ったし、ウィズのキメラには負ける確信があった。つまり……俺はお前に、適応した」

 

「グルォッ! グルォォォォオアアアアアアア!」

 

 グリフォンは必死で体勢を立て直す。翼は折れていても、四肢は違う。関節をいくつか痛めていても、それでもグリフォンは棘猿よりも強い!

 

 だが、気付けば棘猿は、グリフォンの背後に駆け抜けていた。

 

 グリフォンの視界に、そもそも映っていなかった。ただ遅れて、水面の輝きのような光が一閃、グリフォンの視界に斜めの残像を落とした。

 

「グリフォン。お前は、聖剣の箔になれ。明鏡止水―――それがお前を切った、刀の名だ」

 

 グリフォンの視界が傾く。一拍遅れて、グリフォンは自らの首が両断されたことに気が付いた。

 

 

 

 

 

 メイはご主人がメイでグリフォンを落としたのを見ながら、パチパチと光が弾けるような感覚に浸っていた。

 

 ご主人の姿が、輝いて見えた。光に包まれていた。今メイが、人間の姿を取っていなくて心底良かったと思った。人間の姿だったなら、涙がきっと止まらなかったから。

 

 ―――やっぱり、ご主人は本物だ。

 

 メイは思う。もし自分が偽物だったとしても、メイを引き抜いたご主人は本物だと。メイは偽物の聖剣でも、ご主人は本物の器だと。

 

 だから、メイは決める。

 

 本物になるのだと。本物の王選の聖剣になるのだと。ご主人にふさわしい剣になる。その為に何でもする。

 

 だから、ご主人様。どうか、どうかおなりください。

 

『―――王に。王に、おなりください。ワタシがそれを、導くから』

 

 メイは誰にも伝えないまま、心でそう呟いた。

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