【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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バイクの聖印

 俺はぶっ殺したグリフォンを確認していたところ、鉤爪に指輪のようなものがあることに気が付いた。

 

「何だこれ」

 

「あ、テクト君それ、グリフォンの宝物庫の鍵じゃないですか?」

 

「また宝物庫? グリフォンって魔物だろ?」

 

 俺が言うと、「チッチッチ」と得意げにウィズは首を振る。何だよ。

 

「グリフォンを初めとした鳥系の魔物はですね……光るモノを巣にため込む習性があるんですよ! つまり! 実質宝物庫!」

 

「カラスかよ」

 

「ドラゴンも同じですよ」

 

「カラスかよ」

 

 強い魔物が財宝をため込む理由が全部カラスと同じなの、何だかな、とちょっと思う。

 

 とはいえ、貰えるものは貰う主義。俺は指輪を取り「鍵っていうか指輪だけどな」と眉を顰める。

 

 グリフォンを退治した、直後の事だった。

 

 森の主を、全然査定外ポジにいた俺たちが討伐してしまったワケだが、まぁ報告とかは後回しでいいだろう、という事になったのだ。

 

 だって怪鳥とかも倒しまくっちゃったし。報告したら色々騒ぎになるだろうから、今の内にしたいことをしてしまおうの構えである。

 

「ご主人様……♡」

 

 そして戦後からずっと、メイが俺に抱き着いて離れない。抱き着いてずっと顔をすりすりしている。ウィズが最初引き剥がそうとしていたが、泣いて嫌がるのでウィズも諦めた。

 

 落ち込んでいたところを懸命に励ましたが、何とも懐かれたものだ。と俺は肩を竦める。

 

「テクト君、指輪を貸してもらえますか?」

 

 言われて渡すと、ウィズは短杖で「ディテクト」と指輪を叩いた。すると指輪が、ウィズの手の上で僅かに動く。

 

「あっちですね。行きましょうか」

 

「やっぱ魔法って便利だな……」

 

 戦闘では血統の魔法が目立ちがちだし強いのだが、シンプルな汎用魔法って舐めたものじゃないよな、とか見てて思う。

 

 そして俺たちは、ウィズの先導に従っていくらか移動した。メイを発見した場所を通り過ぎ、更に先へ行くと、苔むした石の扉が現れる。

 

「これ、か……?」

 

「テクト君、どうぞ」

 

「え? あ、おう。行くぞ」

 

 俺は何故か返却された指輪を手に、扉に近づく。すると指輪から光が放たれ、石の扉に魔法の紋様が浮かびだす。

 

「おお……! うぉおおお……!」

 

 こういうのに弱い俺は、思わずワクワクしてしまう。そんな俺を眺めて、ウィズはウンウン頷きながら満面の笑みで腕を組んでいる。

 

 そして、石の扉が開き出した。俺たちは奥に進み、キョロキョロと周囲を見回す。

 

「これは……何というか」

 

「あちゃ~、グリフォンは集めるだけ集めて、ろくに管理とかしなかったみたいですね」

 

「まぁ魔物だしなぁ……」

 

 金銀財宝、らしきものはあった。

 

 が、そのほとんどがまともな形を保っていなかった。魔道具らしきものも朽ちていたし、金らしきものも銀らしいものも、バラバラの破片ばかりが積み重なって苔に覆われている。

 

「前回の盗賊砦が正直美味しすぎましたよね。私のキメラも、あの時手に入った素材で大半は作りましたし」

 

「そういえば、ウィズが作ったキメラって結局どんな風になったんだ? 影がシュッて走ったと思ったら、グリフォンが弾き返されてたし」

 

「え、そのレベルで見えてたんですか? テクト君動体視力ヤバいですね」

 

 俺たちは適当にモノを漁りながら会話をする。メイは俺の背中にコアラのようにしがみついている。

 

「常人には、残像も残らない速度で動くように作ったんですけどね……うーん、やっぱり達人レベルになると視界に捉えるくらいはしてきますか」

 

「俺は別に達人じゃないが……?」

 

「そもそもテクト君の髪も素体の一つですし、当然と言えば当然ですが」

 

 そう言われると、少し誇らしい気持ちになってくる。俺を素材に足してあれだけ強いキメラになるのなら、ちょっと髪をあげるくらい安いモノだ。

 

 と、そこで俺は、妙な物を見つけて、「ううん?」と唸った。

 

「どしたの、ご主人」

 

「これさ、何か人工物っぽいというか。いや、他のも人工物なんだけど、これだけやたら」

 

 前世の日本感がある。

 

 俺は口を閉ざして、破片を隠す瓦礫を退かした。

 

 そして、目を剥く。

 

「……うわぉ……」

 

「テクト君? 何か見つけました? ……何です? これ」

 

「いや……ちょっとまだ再現できないつもりだったんだが……。これは、どういうことだ? 俺の魂が日本から来たみたいに、物体もこの世界に流れ着いたのか?」

 

「ご主人?」

 

 ウィズ、メイが不思議そうな目で俺を見つめる。俺は手でパッパッと埃を払って、改めてそれを見た。

 

 それは、寂れたバイクのように見えた。

 

 そう、バイク。バイクだ。車に並んでポピュラーなガソリンで動く車両。原動機を搭載した二輪車。

 

 俺は前世の知識を必死に思い出しながら、パーツを確認していく。ヘッドライトやタイヤは破損していたが……エンジンは不思議なくらい傷がない。

 

 俺は、ごくりと唾を飲み下す。直したい。直して乗りたい。バイクは男のロマンだ。こんなものを見つけて、回収しないなんて俺じゃない!

 

 が、直し方が分からない。エンジンが壊れていないのは不幸中の幸いだが、壊れている部分の大半は今の俺の技術では修理が難しい。というかそもそも回収が難しい。

 

「く、くぅ……こんな、こんなことってあるかよぉ……!」

 

 それで俺は、ぐぬぬと唸る。こんなの生殺しも良いところだ。すぐ目の前に欲しくて欲しくてたまらないものがあるのに、手に入らない。

 

「え!? 何で泣いてるんですかテクト君!?」

 

「ご、ご主人、落ち着いて。泣かないで。な、慰めてあげるから」

 

「慰めなんているかよぉ……! うぅ……! バイク乗りたいよぉ……!」

 

 俺はバイクの残骸を抱きしめながらおいおいと泣く。男泣きである。こんな切ないことが人生にはあるのか。クソゥ!

 

 と、そこでウィズが困った顔でバイクの表面をなぞり「これは……」と呟く。

 

「聖印じゃないですか? ほら、聖教会の」

 

 ウィズが指さす場所を見る。十字架っぽいがちょっと違う模様が入っている。

 

「え? うわ、マジだ。え? でも何で聖教会? バイクが? 何で?」

 

 聖教会。王室に並ぶ権威でもある、コンスタンティン王国の大宗教。俺も昔、家族で祈りに行ったことがある。そして聖印とは、聖教会にまつわるモノであることを証明する印だ。

 

 だが、だからこそ頭を捻ってしまう。バイクと聖教会って死ぬほど離れてる概念な気がするんだが。どういうことよ。

 

 そんな疑問に答えるように、ウィズは言う。

 

「この遺物は、聖魔法が関わっているのでしょうか……? 聖教会は聖魔法っていう特殊な魔法の総本山でもあるので、『魔導博士』は調査依頼を出しては断られてるんですが」

 

 『魔導博士』が、ちゃんとマッドサイエンティストとして邪険にされている。

 

「……よく分からんが、このバイクを動かす手がかりとして、聖教会を訪ねるのは手か」

 

 ダメ元で当たってみる価値はある。バイクだし。乗りたいし。

 

 となると、頼るべき相手としては……シアだろうか? 王室は聖教会と強いつながりがあるはず。日頃から仲良くしているし、頼りやすいのもある。

 

 すると、ウィズは言った。

 

「では、これ持ち帰りますか? このくらいなら、キメラの能力で持ち帰れますけど」

 

「マジで!? いいの!? キメラの能力すごくね!?」

 

 俺が褒めると、「ふふん。そうですよ! 私の作ったキメラ、『シャドウビースト』はすごいんです!」とウィズは得意げになる。

 

 そこで、ついに色々突き止めたらしいアイギスが、「ここかぁ! どうせテクトと陰キャでしょ! 出てきなさい!」と乗り込んでくる。

 

 俺たちは顔を見合わせ、「とりあえずこれだけ回収頼んでいいか?」「了解です」と言葉を交わし合って、アイギスの前に出頭する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、ウィズは女子寮のベランダで、一人夜風に当たっていた。

 

 初夏の夜は涼むのにちょうどいい。それに人が少なくて安らげる。

 

 そう思いながら、ウィズは月明かりで出来た自分の影を見て、ポツリ呼びだす。

 

「プロト君、出てきてください」

 

 呼ぶと、影の獣―――プロトと名付けたジャガー型のキメラが、ウィズの影から現れた。

 

 ウィズはそのプロトを、そっと抱きしめる。息を吸うと、獣臭さの中に、確かにテクトの匂いを感じる。

 

 プロト。試しに作ってみてうまくいった、というプロトタイプ的な意味と、テクトの本名である「プロテクルス」の頭の方を貰った名前だった。

 

 ウィズは、そんなプロトの毛並みを愛おしい気持ちで撫でる。テクトの遺伝子を継いだ、ウィズの作り出したキメラ。

 

 つまり、実質テクトとウィズの子供のような存在。それがウィズにとってのプロトだった。

 

「プロト君は言うことを聞くいい子ですね……♡」

 

 撫でながら褒めると、プロトは「ゴロゴロ……」と猫のように喉を鳴らす。それから、身じろぎをして、震えだす。

 

 すると、プロトの背中から、ずりゅんっ、と片翼の翼が生えた。漆黒の翼は、まるで昼に戦ったグリフォンのようだ。

 

「あ。ふふ、上手く迎撃できたのは知っていましたが、そうですか。ちゃんとグリフォンの影も、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 プロトは上機嫌で、漆黒の片翼を広げ、畳む。ウィズはその翼も、そっと撫でる。

 

 影の獣。シャドウビースト。プロトの能力を構築する際、ウィズは隠密性と高いパフォーマンス。そしてそれを実現可能にする燃費の良さで構成した。

 

 元々ウィズは、低燃費でハイパフォーマンスを出す発明が得意だった。血薔薇の杖もその一例だ。敵の血をコストに自己増殖する。その思想を、プロト作成にも持ち込んだ。

 

 ―――プロトは、影を食らうとされる魔物を複数つなぎ合わせ、それらで上手く、ジャガーのような猛獣に()()()ようにしたものだ。

 

 だから、敵に襲い掛かり、迎撃する過程でその敵の影を食らう。食らった影は基本的にはプロトの養分として維持されるが、一定量を超えた栄養は、プロトの強化に回される。

 

 すなわち、自己回復、自己成長する影のキメラ。それがプロトの本質だった。

 

「もっと速く、空も飛んで敵を倒せるようになったんですね。素晴らしいです。流石私とテクト君の子♡ もっともっと、成長してママを守ってくださいね」

 

 ウィズがプロトを撫でると、プロトは上機嫌に喉を鳴らす。

 

 テクトは新たに武器を作り、さらに強くなっていく。だからウィズは、そんなテクトを守れるような女になるため、同様に力を蓄えて行く。

 

「ずっとずっと、私にあなたを守らせてくださいね、テクト君……♡」

 

 愛しいテクトの事を想いながら、ウィズはプロトの毛並みに顔をうずめ、深呼吸した。




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