【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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聖印バイクと主の福音
名誉の交渉


 翌日の昼、俺はウィズと並んでアイギス、シアに詰められていた。

 

「さて、テクト、陰キャ。アンタらが何で呼び出されたか分かる?」

 

 にこやかに笑いながらも、腕を組んで威圧感を出すアイギス。傍の椅子に座って紅茶を啜るシア。アイギスに呼ばれたのか、五ねぇもアイギスの背後で微妙な顔をしている。

 

 一方俺とウィズは、地べたに正座である。膝が痛い。

 

「……グリフォンを倒したから、か?」

 

 俺が答えると、アイギスは頷いた。

 

「よく分かってるじゃない。ねぇテクト? アンタは陰キャと一緒に散歩組に振り分けたわよね? 何で森の深部に踏み込んでるの?」

 

「それは、その、色々あって」

 

「色々って?」

 

 アイギスが淡々と問い詰めてくる。

 

 それに俺は考える。素直にメイの所為だ、というのも男らしくない。そもそもメイ、指輪の状態で、アイギスにおびえて震えてるし。

 

 仕方ない。と俺はため息をつき、答える。

 

「グリフォンを見つけて、つい飛び出しちゃったんだ。悪かったな」

 

「……はぁぁああああ。そんなことだろうと思ったわよ、このおバカ!」

 

 アイギスが手を挙げる。俺は覚悟して目をつむり、歯をぐっと食いしばる。

 

 するとアイギスの平手が、ぽふ、と俺の髪を撫でた。

 

 ……ん?

 

「今の何?」

 

「じゃあこれでテクトの分のお仕置き終わり。次は陰キャの監督責任ね。歯ぁ食いしばりなさい」

 

「えっ私もなんですか、ぐぎゃあっ!」

 

「ウィズ―――――――!?」

 

 アイギスの跳躍アッパーカットを食らって、ウィズの体が格ゲーみたいな浮き方をする。そのまま投げ出され、バタンと倒れるウィズは白目をむいている。

 

「じゃあ陰キャを尊い犠牲として今回の処断は終えるわ」

 

「ちょっ、ちょっちょっちょっ! おかしい! おかしいだろ!」

 

 何で主犯の俺が「ぽふ」で、ほぼ無関係のウィズがアッパーなんだよ!

 

 俺が食い下がると、アイギスが唇を尖らせて言い訳する。

 

「だってアタシ、テクトのこと叩きたくないし……」

 

「い、いや、その気持ちは嬉しいけど、ウィズも女の子なんだから、もっと優しく」

 

「女なら雑に殴ってもいいでしょ。頑丈だし。陰キャだし」

 

 そうだここ貞操逆転世界だった! 俺は歯を食いしばって、ウィズの安否を確かめる。

 

「ウィズ……大丈夫か……?」

 

「はっ。一瞬気絶してました。ちびっこ! この恨みは忘れませんからね……!」

 

「うわぁ頑丈」

 

 俺ならアゴくらい割れてるアッパーを、ギャグで済ませている。

 

 そこで、シアがパンと柏手を打った。

 

「お叱りは済みましたわね。では今後の話をいたしましょう」

 

「イリューシアがいると話が進んで助かるわ。この後は一任するわね」

 

 シアが立ち上がり、代りにアイギスが椅子に座る。俺たちは立ち上がり、各自適当な場所に立つ。

 

「今回のテクトのグリフォン討伐ですが、実は中々度し難い問題になってきます」

 

「え? そうなのか?」

 

 俺はてっきり危険を冒したから叱られたのだと思ったが。シアは解説する。

 

「というのも、討伐演習は軍事・武芸系の貴族子女にとって、非常に重要な成績の得点源になってきます。森の主を倒した者には出世の道が開かれるほどで」

 

「え、じゃあ俺出世できる?」

 

 俺が無邪気に聞くと、みんなが嫌そうな顔で俺を見る。何で。

 

「……テクトがやる気満々なのは愛らしいとして」評価の方向性おかしくない?「そう暢気にも構えていられません」

 

「何でだ?」

 

「男子の成績なんて、誰も気にしないからです。なのに男子のテクトが最も大きな点を獲ってしまった。率直に申し上げて、これは恨まれる要因になります」

 

「え」

 

 俺は言葉を失う。何となくみんなの顔色を窺うと、五ねぇと目が合う。

 

「……テッ君だから許すけどね~。やってくれたなぁとは、思ってるかも~……」

 

 含むところがありすぎる物言いで、苦笑気味に五ねぇは言った。それに俺は、あ、ホントにまずいことしたかもしれん、と自覚する。

 

 それから、事態を理解すべく、貞操逆転フィルターに掛けた。

 

 ええと、つまり、男たちが将来をかけて必死に営業成績伸ばすために頑張ってたのに、基本寿退社が前提の女子が成績一位取っちゃった、みたいな?

 

 ……あ~……。実力だからまぁ、みたいな気持ちと、関係ない奴がしゃしゃり出てくんなすっこんでろ、みたいな気持ちが混ざる感じだ。

 

 悪いことをしたかもしれない、と思う。いやでも俺、将来は稼ぎたいんだよな。俺だって将来は掛かってると思うんだが。

 

「今は一旦アイギスとわたくしで組んで、テクトが関与したことは内密にしている状態です。で、テクトにしたい質問なのですが」

 

 シアが俺に問う。

 

「自分の功績にしたいですか? テクトは身分の関係で、稼げるようになりたい、という話は聞いています。そこを喧伝しつつ得票とすれば、そこまで恨みは買わないでしょう」

 

「あ、それはそれでいいんだ」

 

「わたくしたちも、テクトの邪魔をしたいワケではないですから。ただ、それでも悪目立ちはします。ですので、もう一つわたくしたちから、選択肢を」

 

 シアは指を立て、こう言った。

 

「今回の手柄ですが、有望な人物に譲る、というのはいかがですか?」

 

「……譲る、か」

 

「はい。譲られた相手はかなり恩を感じるでしょうし、内容が内容だけに強力な貸しと弱みになります。しかも、そのままテクト自身の功績にするより角も立ちません」

 

 俺は貞操逆転フィルターに掛けつつ、吟味する。

 

 悪くない、と思う。恩を売る相手次第では、その人物に稼げる仕事を差配してもらう、みたいなこともできる。何より悪目立ちのデメリットもない。

 

 倫理的には褒められた行動ではないが……それも込み込みで向こうの弱みになるワケだしな。俺からの文句はない。

 

「アリ、だな。相手がすんなり受け入れるかだけ、気になるところだけど」

 

 そこで、俺は聖印のバイクのことを思い出す。となれば、とニヤリ笑って、問いかける。

 

「シア。ちょっと話が遠回りになるが……実は今、聖教会に伝手が欲しいんだ。聖教会に関連するもので、直したいものがあってな」

 

 それを聞いたシアは、眉を上げ「なるほど、だとしたら、この得票は強力な交渉材料となるでしょうね」と賛同する。

 

「実はですね、わたくしの討伐隊に一人、聖教会でもいずれ頂点に近い立場になるでしょう人物がいます。その人物に上手く話が運ぶように、手を回してみましょう」

 

「そんな人がいたのか。どんな奴なんだ?」

 

 俺が問うと、シアは言った。

 

「聖女」

 

 その言葉に、俺たちは揃って目を丸くする。

 

「セラフィ・ミゼリコルディア。次代『聖女』候補筆頭。類まれなる聖魔法の使い手です」




6/20に、本作第一巻が発売予定!
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