【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
この貞操逆転世界において、聖女という存在は、少々ニュアンスが違うらしい。
例えば俺みたいな元日本人の感覚だと、聖女というのは特別な存在で、権力体系的には上層部に存在するオンリーワン、みたいな存在だろう。
だがこの世界においては、聖女というのは聖教会におけるトップオブトップ。ニュアンスとしては、教皇に近い。だから聖女の下には次代聖女、司祭、シスターと続くのだとか。
逆に教皇は俺の感覚の聖女に近いらしく、指名された特別な人物が、オンリーワン的に就任するのだとか。
つまり今回俺が手柄を譲る相手は、将来聖教会のトップを見込まれている人物となる。
「まぁ! そんなお話を持ってきていただけるなんて。とてもありがたいことでございます、イリューシア王女殿下」
そう答えたのは、学生街に建てられた聖教会の主、ロザリンド司祭だった。
穏やかで柔和な笑みを浮かべたお婆さんだ。少し凝った修道服を身に纏っている。
そんな司祭の答えに、シアも「喜んでいただけて幸いですわ、ロザリンド司祭」と微笑む。
俺たちはロザリンド司祭と、聖教会・学生街チャペルの応接室で、向かい合って話をしていた。基本は王族のシアを立てる形で、俺は控えとして隣に座っている。
「あら、こんなお話を持ってきてくださる方に、白湯なんて失礼ですわね。お待ちください、良い茶葉がございますから」
そう言って司祭は立ち上がって、パタパタと奥に引っ込んでいった。
俺はそれを見送ってから、小声でシアに言う。
「……まさかこんなすんなり話が通るとは思ってなかったよな」
「言ったでしょう? 聖教会は清廉潔白な組織ではありません。王女のわたくしに、最初は白湯で済まそうとするくらいですから」
「確かにそれはちょっと驚いた」
というよりは、第三王女程度ならおもねる相手ではない、という態度だった。思ったより怖い組織かもしれない、聖教会。
そしてシアが社交的な場ではガチすぎる。今朝俺、こいつの赤ちゃんぶりを世話したばっかなんだが。
そうこうしていると、司祭が紅茶を淹れて戻ってくる。俺たちの前に差し出し、茶菓子まで用意した上で、笑みを湛えて言う。
「改めて、この度のお話、誠にありがとうございますわ、イリューシア王女殿下。その功績、是非ともセラフィ様がさらなる躍進をするのにいただきたく存じます」
「それは良うございました」
「お礼でございますが……セラフィ様が聖女となった暁には、殿下の後ろ盾に」
「ああ、いえ、実はそういう話ではないんです」
司祭が勝手に話を進めようとしてしまうのを止め、シアは言う。
「まず、大前提なのですが、此度の功績を勝ち取ったのは、こちらの男子学生になります」
「――――っ? まぁ、それは、それは」
ここにきて、初めて司祭が動揺を示した。え、ここまでの流れで驚くことがなかったのに、俺がグリフォン狩ったって事実には驚くの?
「わたくしはあくまで仲介役。功績を譲る代わりに、彼の要望を叶えてあげて欲しいのです」
「……承知いたしました。では、お坊ちゃん? あなたはどんなご用事で来られたの?」
明らかに声色が優しくなるのに苦笑しつつ、俺は答えた。
「聖印がついた特殊な機械を見て欲しいんです。可能なら修理をお願いしたくて」
「特殊な機械……? 見せていただける?」
「少し大きいモノですので、学友に描かせた絵をお持ちいたしましたわ。こちらを」
シアが懐から絵を取り出す。取り巻きに描かせたものだそうだ。気が回るなぁシア。
描かれた絵は、シアの個人寮の庭に安置されている。回収したときそのままの姿だ。聖印も見て取れるようになっている。
「……」
司祭はそれをまじまじと見つめて、「大体事情は分かりました」と頷く。
「こちらは、恐らく異界召喚の儀式により取り寄せたものでしょう。別世界の遺物ですね」
「……別世界」
俺は、ごくりと唾を飲む。あるのか、そういう技術が。いや、俺がまず異世界転生者なんだから、存在はするんだろうけど。
司祭は言う。
「修理はそう難しくはございませんね。いただいた功績の分で問題なく可能です。むしろ、頂き過ぎてしまっているくらい」
「本当ですか!」
「ただ、申し訳ございませんが、時間がかかります」
難しい顔で言う司祭に、俺はしゅんとする。
それに司祭は慌てて「あ、ええと、まだ落ち込むにはお早いわ。最後まで聞いてくださる?」と続けた。
「というのも、この修理ですが、無論別世界ですから仕組みを理解して修理するのは困難です。しかし我々には、理解を抜かして
最善? と俺は首を傾げる。シアは訳知り顔で、こう言った。
「聖魔法、ですね」
「その通りでございます。聖魔法は高位のものになれば
司祭が、俺の目を見つめる。
「当たり前のことですが、それは使い手がいれば、の話になります」
「……じゃあ、今は使い手がいない、と」
「学生街にはおりません。呼び寄せようにも、聖魔法の覚醒者ともなれば高位の聖職者となります。多忙の中で時間を割くとなれば、予定の調整は困難になりますから」
それで時間がかかる、という事なのか。と俺は納得する。「でも」と俺は促す。
「落ち込むには早いんですよね」
「ええ。こちらは取引ではなく相談になるのですが……セラフィ様の覚醒を、手伝っていただけませんか?」
「覚醒?」
「はい。聖魔法は覚醒を経ることで、より強力になります。その為には多くの試練を超える必要があるのですが……そのいくつかで、男性の力が必要になるのです」
「男性」
俺は自分を指さす。司祭は首肯する。
「特に、あなたはグリフォンを男性の身で倒した傑物なのでしょう? セラフィ様のお供にぴったり! もちろん手伝っていただけるなら、それはまた別の恩として勘定します」
「……なるほど」
俺は考える。待つか、それとも聖女候補様に力を貸して覚醒させ、その力で早く修理してもらうか。
まぁ、何ていうか、アレだな。
迷う余地がないな。
「受けます!」
「テクト、即断即決は、少々浅慮では……」
「シア、悪いけど待ってるのは性に合わん。それなら努力して解決するこっちの方がいい」
俺が肩を竦めると、シアはむっつりと「分かりましたわ。仕方がありませんから、わたくしも手伝います」と言う。
喜んだのは司祭だ。
「まぁ! 王女殿下もご助力いただけるなんて、なんてありがたいことでしょう。では、まずは顔合わせをいたしませんとね」
司祭が振り返って「では、こちらにおいでください、セラフィ様」と呼びかける。
すると、おずおずと扉を開けて、小さな影が入ってきた。
その人物は、小柄だった。と言っても、アイギスやメイほどではない。150cmぴったりくらいの身長だろうか。腕も足も細い。
だが、そんな特徴全部吹き飛ばす特徴があった。
「でっっっっっっっっっっ……!?」
デカイ。胸が。
シアもかなりデカイ方だが、もしかしたらシア以上にデカイ。そんな胸が、アイギスに毛の生えたくらいの華奢な体の少女についている。
何か、何かもう、すごい。すごいが先に来る。こんな子がいたのか。
そこでハッとして、俺は全体を見る。
その子は、薄い紫のフワフワしたロングヘアをしていた。頭頂部では、三つ編みを結ってカチューシャのようにしている。
そんな、小柄ながらも極端にデカイ少女が、俺たちに近づき頭を下げた。
「ひゃ……こ、ここここここここ、今回、は、ご、ごごごごごごご、ご協力、あり、ありありありありあり、ありがとうござい、ます。せ、セラフィ・ミゼリコルディア、です」
限界まで足を追い込んだのかというくらい、ブルブル足を震わせながらの言葉に、俺は生まれたての小鹿を連想していた。
6/20に、本作第一巻が発売予定!
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