【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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セラフィとの初試練

 セラフィは、初手からずっと怯えていた。

 

「あ、あのあのあのあの、こ、今回は、わたくしが不出来な所為で無用なお手数をおかけしてしまって、ごごごごご、ごめんなさ」

 

「いや、そんな風に思ってないからいいって……」

 

 記念すべき初試練に挑む道で、セラフィはしきりに俺たちに頭を下げていた。

 

 そう。俺たちは出会って即、試練へと挑むこととなっていた。

 

 理由としては、俺がなるべく急いでほしいと考えていたのもあるが、ロザリンド司祭の説明が後押ししたのもある。

 

『元々今日は、放課後に準備を整えて試練に挑む予定でございましたから。セラフィ様一人でも問題ないので、お二人は見学という体でご一緒されては?』

 

 それで、じゃあせっかくだし、と俺とシアはセラフィに同行することとなったのだ。

 

 セラフィはおどおどした足取りで、学園へと戻っていく。それから守衛さんに重要そうな書類を見せて、夜間滞在許可証を受け取って、校舎の中に入って行く。

 

「試練って校舎の中なのか?」

 

「ひゃわっ、ひゃ、ひゃい。その、が、学園地下に、し、試練への転送魔法陣が、あ、あり」

 

 セラフィは青い顔をして答える。俺は人生でも怖がられたのが初めてて、ちょっとショックを受けつつ「うん……ありがとな」と答える。

 

 そこで口を挟んだのはシアだ。

 

「セラフィ、普段あなたそんな風ではないでしょう。もう少し落ち着きなさい」

 

「……男慣れしてるモテ王女に、そんなこと言われたくないので」

 

 暗い顔でシアを睨んでそんなことを言うものだから、俺は驚く。

 

 シアにタメ語を使うのもそうだが、臆病が前に出ているから、苦言に言い返すとは思わなかったのだ。

 

 思ったよりいい性格してるのかもしれない、と思いながら、俺はセラフィについていく。

 

 見通しきれないほど縦に伸びた螺旋階段を、下ったことがないほど下る。学園とは思えないほど武骨な、石造りの道を進む。

 

「ここ、です」

 

 そして辿り着いた広い部屋には、無数の魔法陣が設置されていた。

 

 見渡す限りの空間に、魔法陣がみちみちと密集している。うわ、と思わず思うほど。

 

「こ、これが、試練の転送陣、です。その、その内、は、半分まで攻略済み、なので」

 

「へー! すっげ。この中の半分終わってんの?」

 

「ひゃっ、ひゃ、ひゃい、きょ、恐縮、なので……」

 

 セラフィはびくりと震えながら答え、噛んだのが恥ずかしかったのか、顔を赤くして俯く。

 

 俺は苦笑して、セラフィを励ました。

 

「あの、そんな肩ひじ張んなくていいぞ? 同学年なんだしさ。な?」

 

「……ひゃい。その、今日はわたくし一人でどうにか、なる、なるはずなので、はい……」

 

 俺は頭を掻く。心を開いてもらうにはまだまだ掛かりそうだ。シアを見ると、「男性が苦手なんです。大目に見てあげてください」と小声で囁く。

 

「ん~……でも、流石に数が多いな。残り半分か……」

 

「あ、えと、心配はご無用、なので。遺物の修理くらいなら、多分あと三つとか試練こなせば、直せるようになるはず、ですから」

 

「あ、そうなのか。悪いな、気を遣わせちゃって」

 

 俺が肩を竦めると、セラフィは腰の引けた体勢になって「い、いえいえ、こちらこそ……」と頭を下げる。そんなへりくだらなくても。

 

 それから、セラフィは魔法陣に触れた。

 

「起動」

 

 魔法陣が光り出す。セラフィが俺たちを見るので、俺たちもセラフィについて足を前に。

 

 そして三人で魔法陣の上に立つと、魔法陣の光が増した。

 

「飛びます、ので。全身を魔法陣の中に、お願いします。此度挑むは―――圧倒の試練」

 

 気を付ける。そして光で目がくらんだかと思ったら、景色が切り替わっていた。

 

 暗がり。湿った岩と動物の臭い。洞窟。だが、それそのものは些事だった。

 

 周囲が、魔物で埋め尽くされている。

 

「っ!? お、おい、これ――――」

 

「テクト、動かないでください。セラフィが一人でこの場を凌ぐという話で、ここに連れ来たのですから」

 

 シアの制止に、俺は動きを止める。

 

 だが、だからと言って、この数は尋常ではない。

 

 周囲を窺う。俺たちは僅かに小高い地面の上に居て、360度全方位に、数える気にもならないほどの多種多様な魔物が蠢いている。

 

 気づかれれば襲われ、なすすべなく物量に押し流されるような数だ。グラップルで天井に避難して、それからどうにか……と俺が必死に考えを巡らせていると、セラフィが言う。

 

「じゃあ、適当に待っててもらえれば」

 

 意識が魔物たちに向かっているのか、ある程度まともな口調でセラフィは言う。

 

 そこで、魔物たちが一斉に、俺たちに気付いた。

 

 連中は獰猛に唸る。俺たちに向かって駆け出そうとする。俺はセラフィを信用しつつも、念のためパイルバンカーを放てるように準備しておく。

 

 だが、その準備は、丸っきり無駄だった。

 

「ダル……ここまでの試練乗り越えた使い手に、この試練は舐めすぎなので」

 

 セラフィが目を伏せ、手を組む。

 

 そして、言うのだ。

 

「主よ、福音をもたらしたまえ」

 

 光が、差す。

 

 ゴ―――――ン、ゴ―――――ン。と巨大な鐘の音が、どこからともなく響き出す。その音に魔物たちが反応し、セラフィに視線を集中させる。

 

 福音。そんな言葉が脳裏に浮かぶ。神々しいまで光が、この空間すべてを満たす。

 

 その時点で、すべてはとうに終わっていた。

 

 魔物たちは俺たちに襲い掛かる前に、ふら、と足元を揺るがした。そして倒れる。見れば、一斉にすべての魔物が眠りこけている。

 

「……っ」

 

 その光景に、俺は息を飲んだ。

 

 すさまじい。この数の魔物を制圧するのに、ウィズや騎士団が健在だったシアでも相当の時間がかかっただろう。だがそれを、セラフィは瞬時にやってのけた。

 

「すごいでしょう。セラフィは数少ない聖魔法の使い手。その中でも、同世代では頂点に立つ人物なのですよ」

 

 もっとも―――とシアがセラフィに目を向けると、セラフィがふら、とよろめく。

 

「危ないっ!」

 

 俺が咄嗟に受け止めると、セラフィは顔を青ざめさせて「うぅ……」と白目を剥く。

 

「このように、一度使ったら魔力どころか体力まで持っていかれるみたいで、連発はできないのですけれどね」

 

「……うるさい……。聖魔法は消耗が大きいので……」

 

「せめて動けるだけの体力くらいは身に着けては?」

 

「だから、うるさ……え?」

 

 てっきり自分を支えているのがシアだと思ったのか、顔を上げて俺と目が合い、目を丸くしてパチパチとセラフィはまばたきをする。

 

「なっ、ななななっ、なんっ、なん……!?」

 

「え、どした? 大丈夫か? 立てるか? あ、でも血色良くなってきた」

 

「多分赤面してるだけですよそれ」

 

 青ざめていた顔が、段々と紅潮していく。と思っていたら、弾かれるようにセラフィは立ち上がり、弁解するように手を振った。

 

「あっ、あのあのあの、す、すいませんあのごめんなさいセクハラするつもりじゃなくてあのごめんなさい本当にふらついただけなのでごめんなさい許してくださ」

 

「いや、俺が自分から支えたんだから、そっちのセクハラなワケないって。むしろごめんな? そんな嫌がらせるっていうか、セクハラするつもりはなくて」

 

「男の子が女に何してもセクハラではないのでは……?」

 

「そんなワケなくない?」

 

 前世でも女性が男性に、何してもいいってことはなかったぞ。いや、前世も相当甘めに見積もられてはいたが。

 

「……」

 

 しかし俺の受け答えに驚いたのか、信じられない、という目で俺を凝視するセラフィ。

 

 それから、セラフィはこそっと、シアに囁いた。

 

「……王女様の彼氏、何か、ちょっと変じゃない……?」

 

「テクトはまぁ変ですね。そこが愛らしいのですが」

 

「お前ら何なん? あと彼氏じゃないぞ」

 

 シアも否定しろよ、と俺は半眼で睨む。シアは何故かしゅんとしていた。

 

 

 

 

 

 さて、その後は至極スムーズにコトが運んだ。

 

 何せ魔物が全員倒れているものだから、そのまま洞窟の奥の道を進んで、眠っているデカめの魔物の横を通って、試練の証とされる宝石をセラフィが手にしたら終わった。

 

 宝石が輝き、セラフィの気配が強くなった。セラフィは淡々と宝石を、元々置かれていた台座に置いて「で、でででで、では、終わり、なので、はい」とまた元来た道を戻った。

 

 そうして試練の間からまた階段を上って学外に出ると、思いの外時間が過ぎていたのか夜になっていた。

 

 俺が二人に「送ろうか?」と言うと、奇妙な顔をされ、結局シアがセラフィと俺を送ることになった。何で? と思いながらも流され、セラフィを聖教会に送った帰りだった。

 

「……あれ、あいつ……?」

 

 何の気なしに振り返ると、見覚えのある偉丈夫が立っていた。一拍遅れて、思い出す。

 

 プライダス・ディ・フェラーラ。公爵家の嫡男。自分を見ていただけの女子、取り巻きの女子にボコらせたイカレ野郎。

 

 奴は何故か一人で、閉ざされた聖教会の扉に触れていた。ピリ、と嫌な予感に俺は睨む。

 

 だが、プライダスはそれ以上何をすることもなく、そっとその場を離れた。

 

「テクト? どうかしましたか?」

 

「いや……何でもない」

 

 俺はシアに送られ、男子寮に戻る。胸騒ぎを懐に抱えながら。




6/20に、本作第一巻が発売予定!
ご応援のほどよろしくお願いいたします!
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