【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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バイク修理の聖女様

 翌日の放課後、俺はシアの庭で、セラフィの聖魔法を見つめていた。

 

 譲った功績の分、早速バイクを修理してもらう運びになったのだ。それでセラフィが、バイクの前にひざまずき、目を伏せ両手を組んでいる。

 

「主よ、福音をもたらしたまえ」

 

 どこからともなく鐘の音が響く。光がバイクに注ぎ、バイクが見る見るうちに直っていく。

 

「おぉ……! すごいな」

 

 だが、途中で「っく、はぁっはぁっ」とセラフィが崩れ落ちる。「お、おい、大丈夫か!?」と俺が慌てて支える。

 

「す、すいませ……。異世界の遺物は、修理に、かなり力が持ってかれる、ので」

 

「いや、十分だって。ありがとな。ほら、こっち座って。休憩にしよう」

 

 俺はセラフィを庭の椅子に座らせる。厨房で淹れた紅茶と茶菓子で、セラフィをもてなす。

 

 シアは多忙の身で、今日は用事があるとかで泣く泣くそちらに行っていた。それで俺は、セラフィと二人きりで、その作業を見守っていた。

 

「ふぅ……。あ、う、えっと」

 

「ああ、気にせず寛いでくれ。こっちのクッキーも美味いぞ」

 

 紅茶を飲んで人心地ついた途端、恐縮そうに身を縮こまらせてしまうセラフィ。俺は微笑んで茶菓子を促す。

 

「そ、そう、ですか……? あ、クッキーおいしい……」

 

「お、良かった。今回はうまく焼けたと思ってたんだ」

 

「っ!? て、手作り……!?」

 

「? そうだけど?」

 

 キョトンと俺が首を傾げると、セラフィは菓子を凝視して、小声でボソボソ言い始める。

 

「お、お、お菓子を手作り男子なんて、実在するの……!? しかも、き、貴族で……!?」

 

「そんな驚くことか? あ、でも貴族ってほど貴族じゃないぞ、俺。騎士の家の息子だから」

 

 俺が言うと、セラフィはまばたきをして俺を見る。

 

「そ、そそそ、そう、なんです、か?」

 

「ああ。だから敬語も無理に使わなくていい。ほとんど平民みたいなもんだ」

 

 というか、むしろこっちが使わなきゃだったんじゃ、と今更思う。シアにタメ語だったから、流れでタメ語使ってたが。

 

 そう今更ながら気まずさを感じていると、セラフィが言った。

 

「じ、実は、ぼく、あえっと! わ、わたくし、も、元々平民、で」

 

「そうなの!? え、でも聖女様候補って話じゃ」

 

「聖教会は、あの、広く門戸を開い、てて。聖魔法がちゃんと使えれば、元の身分はあんまり関係ない、というか、……なので」

 

「へぇ~……! じゃあ元々の身分はほとんど同じだ。あ、そういう風に言ったら失礼か」

 

「う、ううんっ! あの、ぼく、じゃなくて、わたくし、周りも貴族だらけで、だから、その、話しやすい、ので、あの」

 

 俺は口を尖らせてセラフィの言葉をひとしきり聞いてから、ぽつりと言った。

 

「ぼくっ娘?」

 

「っ!? ああああ、えとえとえとえと、あの、あのあのあのあの」

 

 顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振るセラフィに、俺は笑ってしまう。

 

「ははははっ。いいよ、話しやすいように話してくれ。元々の一人称はぼくだったのか?」

 

「う、あの、うん。聖教会、厳しくて……。わたくしって言わないと、鞭で叩かれる、ので」

 

「うわ、マジかよ厳しいな。訓練とかは厳しくてもやる気出るけどさ、マナーとかで厳しいのは勘弁してもらいたいよなぁ」

 

 実家でもマナー訓練はやらされたものだ。母さんに、マナー違反した手をピシャリとやられるのが、それはもう痛くて痛くて。思い出すだけで手をさすってしまう。

 

 するとセラフィも同じ思いだったのか、目を輝かせて頷き、俺を見る。

 

「う、うん……! 分かる。ホント、修道院の意地悪ババたちにずーっとイジメられてて、いつか聖女になったら、ババたち全員左遷してやるーって」

 

 そこまで言って、セラフィはハッとする。俺は目を丸くして、それからカラカラと笑った。

 

「あっはははははっ! 昨日の時点でちょっと思ってたけどさ、セラフィ、結構いい性格してるよな? 偉くなって左遷してやるって、あはははは!」

 

「あ、えと、あの、あぅ」

 

「いや、親しみやすくていいよ、その方がさ。俺も堅苦しいのは苦手だし」

 

 にしても、と俺はセラフィを見る。そうか、元々平民なのか。それなら話しやすいな、と俺の中にあった気兼ねみたいなのが、ほどけていくのを感じる。

 

 一方セラフィは、いたたまれなくなったのか、「も、もう一度やるのでっ」と立ち上がり、バイクの前にひざまずいた。

 

「う、うぅ、すぅ、はぁ――――主よ、福音をもたらしたまえ」

 

 深呼吸。どれだけ動揺していても、セラフィは詠唱をどもらない。再び鐘の音が響き、バイクが直っていく。

 

「……ふ、ぅ……ケホッ。あ、あの、多分ちょっとならもう、動くと思う、ので」

 

「マジかっ!? ちょっ、ちょっと触ってみる」

 

 俺は慌てて立ち上がり、バイクに触れる。

 

 すでにバイクからは、目立った傷やこびり付いていた苔などはなくなっていた。

 

 俺は燃料タンクを確認する。ふたを開けると、ガソリンの臭いがした。魔石でも動くように改造は必要だとして―――俺はバイクのエンジンをかける。

 

 すると、ブルン、ブルンブルンブルン……ッ! と音を立てて、エンジンが動き出した。

 

「うぉおおおおお! 動いた! エンジン動いた! すっげぇぇええええ!」

 

「わ、わ、わ……」

 

 俺の大興奮を見て、セラフィは驚いている。だが俺はもう感極まっていてそれどころじゃなくて、半泣きでセラフィの両手を取った。

 

「ありがとう! ありがとう……! こ、こんなにすぐ、この世界でバイクに乗れると思ってなくて、俺、くっ、マジで嬉しくて、ありがとう……!」

 

「そ、そん、な。ぼくだってその、あの、グリフォン討伐なんて功績、譲ってもらっちゃって。ロザばぁが勝手に決めたことだけど……」

 

 俺がしきりに感謝を伝えていると、「で、でも」と口元をもにょもにょさせて、セラフィは言った。

 

「そ、そんなに人に喜んでもらったの、初めて、だから。その、力になれたなら、嬉しい、ので……」

 

「マジで力になってくれてるよ! ありがとう! まだ完全には動かせなさそうだけど、エンジンが動く姿が見えただけで、俺もう感動だよ!」

 

「わ、わ、わ……!」

 

 俺は感動に、セラフィの手をぶんぶん振って悪手する。

 

 バイクが動いたのも嬉しいし、いずれバイクが乗れるようになるのも嬉しい。だが一番うれしかったのは、前世の痕跡が蘇ったことだ。

 

 この世界でもう十数年と生きているが、故郷である前世の日本に、思いの外俺はノスタルジーを感じているらしい。どうしようもなく懐かしくて、嬉しいのだ。

 

「……嘘つき。本当は、喜んでるフリの癖に」

 

「え? 何か言ったか?」

 

「う、ううん。何も言ってない、ので」

 

「そうか? ともかく、ありがとな! 他の試練も手伝うから、これからもよろしく!」

 

「し、試練はむしろこっちがありがとう、だけど。でも、頑張る、ので」

 

 俺が満面の笑みで言うと、セラフィはどこか皮肉っぽい目で、俺を見るのだった。




6/20に、本作第一巻が発売予定!
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