【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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禁欲の反動

 昼、珍しくみんな忙しいから、と適当にほっつき歩いていたら五ねぇに捕まって、姉弟水入らずで裏庭の足場に、横並びで食事を取っていた。

 

「じゃあ今、聖教会の聖女様候補と仲良くしてるってこと~?」

 

「仲良くしてるというか、まぁ、そう」

 

 俺が頷くと、五ねぇはぷく、と頬を膨らませて、半眼で俺を見る。

 

「テッ君はさ~……身分の高い女の子好きだよねぇ~……」

 

「いや、違うだろ。そういうのじゃないだろ。そもそも流れは五ねぇも知ってるじゃん」

 

「知ってるけどぉ~! でも女のわたしから見ても、ちょっと関わり難いなって子ばっかりと仲良くなってな~い!?」

 

「よく分からん」

 

 でも仲良くなる相手全員が婚活の射程範囲外なのは、自分でもどうかと思ってる。

 

 セラフィも聖女候補となれば、元平民でも全然手が届かない相手だし。そもそも聖職者って結婚できんのかな。

 

 と思ってたら、五ねぇは俺に顔を寄せて、囁いてくる。

 

「……ちなみにだけど、聖教会って戒律がめちゃくちゃ禁欲的なの、知ってる?」

 

「何だよ、禁欲的って」

 

「美味しいモノ禁止とか、楽しいこと禁止とか、まぁその辺りは序の口なんだけど~」

 

 五ねぇは俺の耳元で、こう囁いた。

 

「性的なそれこれに、モノすっごく厳しいんだって。姦淫の罪とか何とかいって」

 

「弟に何の話してんの?」

 

「違うじゃん! そういうんじゃないもん! これはただの前置きだもん!」

 

 うるさ。耳元で叫ぶな。

 

「前置きって……。じゃあ結局何が言いたいんだよ」

 

 俺が呆れると、五ねぇはへの字口になって言った。

 

「人間は、動物ってことっ! エッチなことは自然なことなんだから、抑え込めば抑え込むほど、爆発した時が大変なの~っ!」

 

「……まぁ、言わんとすることは分かるけどさぁ」

 

 五ねぇ、俺に新しい女友達ができる度、適当な理屈付けて『気を付けろ』って言うよな。

 

 俺の呆れ顔に気付いてか気付かずか、五ねぇはさらに真剣に言い募る。

 

「聖教会の子と仲良くするなら、あんまり刺激しちゃダメだよ~!? 爆発した時、普通の子とは段違いの行動に出かねないから、注意してっ!」

 

「……はぁ」

 

 女の子がエロ系の話を臆面もなく話す感じは、貞操逆転世界だなぁ、と思う。姉とはいえ。

 

「いつもの通り、『女は狼』って話な。そろそろ耳にタコができそうだ」

 

「も~! お姉ちゃんの忠告はちゃんと聞きなさいっ。テッ君はそれでなくとも隙だらけなんだから……。今まで襲われてないのが不思議なくらいなんだよ!?」

 

「襲われないっての」

 

 そういう瞬間がまったくない人生を送っている。健全すぎる。正直もっと不健全でいい。

 

 

 

 

 

 その、放課後のことだった。

 

 俺はシアと共に、再び聖教会に赴いていた。というのも、シアとロザリンド司祭で、どういう風にグリフォン討伐の功績を扱うかの協議をするとかだそうだ。

 

 俺はその功績元ということで、その付き添いだ。といっても、別に何をするという事もない。いくらか実際の戦闘について共有するくらいのものだ。

 

「……こ、この腕の武器が、グリフォンを狩った?」

 

「いや、これは避けられまくったのでさほどですね。トドメ刺しはこっちです。この刀」

 

 パイルバンカー兼マシンクロスボウ、からの明鏡止水(刀の姿)を見せ、ロザリンド司祭は「ははぁ……、それは、それは……」と険しい顔で見つめている。

 

「……シア、俺、何かまずった?」

 

「いえ、普通男の子が、これだけの武装を持っていることも、使いこなしていることもありませんから。信じがたいだけだと思います」

 

 小声でやり取りする俺たち。ロザリンド司祭は明鏡止水に手を伸ばし、メイに拒否られたか「痛っ」と手を離す。

 

「な、なるほど……承知いたしました。では、シア殿下。ここでしっかりと流れを組みましょうか」

 

「ええ、そうですわね司祭。テクトはしばらく暇にさせてしまいますけれど……」

 

「では、セラフィ様が上の部屋にいらっしゃいますので、お相手いただいても? これからもう二つ試練を共に乗り越えるのですから、親交は深めた方がと思いますし」

 

 司祭の提案に「そうですね。ちょっと話してきます」と俺は頷く。シアは不服そうだが、「まぁ、わたくしのワガママでつまらない思いをさせるのも……」と首肯した。

 

 ということで、俺は司祭の案内に従って、セラフィの部屋へと進む。

 

 セラフィの部屋は、教会奥から階段を上った二階の、更に奥にあった。

 

 歩いていて思うのは、この教会の建物は結構年季が入っていて、体重をかけるとすぐに足元がキィキィ言う事。だが、俺は長年の癖で、足音を立てずに歩いた。

 

 そしてコンコン、と扉をノックする。

 

「セラフィ? 遊びに来たんだけど、部屋に入っていいか?」

 

『ッ!??!?!??!?! てっ、ててててててっ、テクトさんッ!?』

 

 何か扉の向こうで滅茶苦茶驚いている。取り込み中だったかな。

 

「……えーと、ごめん、タイミングが悪かったか? それなら出直すけど」

 

『いっ、いやあのその、ちょっ、ちょっと待って!』

 

 扉の向こうで、どったんばったんと大騒ぎしているのが分かる。俺は気持ちが分からないでもないので、苦笑気味に待った。

 

 しばらくすると、汗だくで息を荒げたセラフィが、頬を紅潮させて、扉の隙間から顔を出す。

 

「お、おまた、せ……! ど、どうぞ、あの、えっと、は、入ってもらって、も」

 

「お、おう……お邪魔します」

 

 セラフィに言われて入室する。すると、女の子の部屋のニオイが、むわと濃く香った。

 

 しかしそれ以外は問題なく、意外にもセラフィの部屋はかなり整っていた。汚部屋を今しがた掃除したような急ごしらえでは、この綺麗さにはならないだろう。

 

 机に手を置いてホコリなどもチェックしてみるが、問題ない。となれば、疑問が一つ。

 

 ……何でさっき慌ててたんだ? 慌てる要素なくない?

 

 どったんばったんと音がしたのも謎……。と思っていると、セラフィが口を開いた。

 

「え、ええと、今日は、あの、えっと」

 

「ああ、下でシアと司祭が色々段取りしててさ。付き添いで来たんだけど、用事が済んだから上でセラフィと遊んでてくれって」

 

「な。なる、ほど。……ロザばぁはホント、タイミングってものが」

 

「セラフィ?」

 

「あ、え、えと」

 

 小声でボソボソと暗い顔で呟いたかと思うと、また慌て気味に俺を見るセラフィ。

 

 その時、ギシ、と音がした。

 

 横を見る。そこにあったのは、部屋備え付けのクローゼットだ。慌てて隠したいものを詰め込むには、ぴったりの場所。

 

 感じ取るのは、崩壊の予感。

 

 俺は、好奇心と、見たら悪いよな、という気持ちの両方に揺れて、動くことができなかった。一方セラフィはシンプルに反応が遅れて、対処できなかった。

 

 結果起こったのは、クローゼットが重みに耐えきれず起こった、隠しものの雪崩。

 

 ―――しかも、数々のアダルトグッズによる、それである。

 

「ひゅっ」

 

「おっ……と」

 

 ガラガラガラ……ッ、とクローゼットから雪崩のようにアダルトグッズがあふれ出す。

 

 セラフィは息を飲み、俺も目を剥いて言葉を失う。

 

 何故なら、かなりサイズがデカかったからだ。

 

 いや、それを入れんの? 入んの? と俺は思わずセラフィと雪崩を起こしたグッズの間で視線を行き来させる。流石にその身長でそのデカさはエグくないか?

 

 あ、っていうかあの一番上にある奴濡れてる。……ってことは。

 

「―――ごめん、やっぱりタイミングが悪かったみたいだ。ちょっと席を外すから」

 

「待ってぇえええ! べっ、弁解! 弁解させて! ちがっ、違うの! 違うからぁ!」

 

 セラフィはグッズに覆いかぶさり、薄紫のゆるふわヘアーを振り乱して、ギャン泣きしながら言い訳をする。

 

 だがまったく言い訳になっておらず、俺はいたたまれない気持ちで頷くばかり。

 

 俺はふと、昼の五ねぇの忠告を思い出す。禁欲、抑圧、大爆発。

 

 抑圧って良くないね、としみじみ実感しながら、俺は地獄の時間に耐えるのだった。




6/20に、本作第一巻が発売予定!
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