【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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それでも試練に挑まねば

 次の試練という事で、俺、シア、そしてセラフィの三人で集まった時の空気は地獄だった。

 

「「……」」

 

「何で二人はそんなに気まずそうなんですか?」

 

「聞くな」「王女様、黙るので」

 

 シアがキョトンと俺たちに問う。察せよ。察してくれ。お前察し悪くなかっただろ。

 

 とある日の放課後。三人。とりあえず聖教会前での集合だった。

 

 セラフィが「こ、こほん」とわざとらしく咳払いする。

 

「と、とりあえず、今回はちゃんと試練でて、てく、テクトさ、ん、……の手伝いが必要になるから、その辺りの認識のすり合わせを、す、する、ので」

 

「セラフィ、もっとハキハキ喋りなさ痛っ?」

 

「王女様はほんと! 空気! 読むので!」

 

 セラフィがシアの足をしきりに踏んでいる。シアって偉いはずなのに上級貴族組からは扱いすごい雑だよなぁと思ったり。

 

 まぁ赤ちゃんだからな中身、と涙目のシアをスルーしつつ、俺はセラフィの話を聞く。

 

「……今日行く試練は、前回みたいな簡単なのとは別、なので」

 

「セラフィだから辛うじて簡単くらいの難易度だったけどな……?」

 

 俺でもアレ対処困ったぞ一瞬。落ち着けば行けるけど。

 

「今回の試練……『忍耐の試練』では、男性、つまりテクトさんに頼らざるを得ない状況が出てくる、らしい、ので。その、お、おね、お願い、します……!」

 

「おう! 任せろ。こう見えて俺は頼りになる男だぞ」

 

 ニッ、と冗談めかして言うと、「はっ、はい、恐縮なので……!」と本当に恐縮にされてしまう。やりづらい。

 

「他に分かることはないのでしょうか?」

 

「大まかな概要しか、忠告されてない、ので。この情報だけでどうにかやる、しか」

 

 セラフィに言われ、俺たちは首肯する。とにもかくにも、飛び込まなきゃ始まらない。

 

 そうして俺たちは武装して学園に戻り、前回通り階段を下って試練の間へ移動した。

 

「起動」

 

 魔法陣に乗って、セラフィの言葉で転送される。

 

 転送先は、前回とは打って変わって、全体が水晶で出来た洞窟のようだった。どこからか僅かに光が差していて、それが水晶で乱反射している。

 

「何だここ、目が痛いな……」

 

 俺は目がシパシパするのに、顔を顰める。ちょっとヤな感じ。

 

 だが、女子二人は、それでは済まなかった。

 

「――――ッ、セラフィ! 福音、を……っ」

 

 シアは鋭くセラフィに言いながら、急激に全身から力が抜けたようにふらつく。

 

 同時セラフィも冷や汗を掻きながら、手を組んで素早く叫んだ。

 

「主よ! 福音をもたらしたまえ!」

 

 鐘の音が鳴る。光が差す。だがそれでも、セラフィはガク、と片膝をついた。

 

「そういうこと……っ。男の人が必要って言うから、魔力絡みだとは思ったけど……ッ」

 

「ふっ、二人とも大丈夫かっ!? 何があった!?」

 

 俺は結局そのまま倒れそうになったシアを受け止めながら、問いかける。

 

 見ればシアは、顔を青くして気絶している。セラフィも全身を震わせながら、説明した。

 

「この水晶、魔力散らし、なので……ッ。ぼくみたいに、領域作って影響を遠ざけられないと、女はすぐに魔力切れで気絶、する……!」

 

「マジか。そういう……」

 

 男は生来魔力を持たない。だからこの水晶に囲まれても、目がくらむくらいで居られるのだろう。一方女の子たちは、魔力を失ってこれだけ追い込まれている。

 

「っ、そりゃあ、あのスパルタロザばぁが、口酸っぱくして男連れしろっていうワケなので……ッ。女だけで入ったら、いざという時に打開のしようがない……!」

 

 セラフィは見たこともないほど険しい顔つきになって、唸るように言う。それから、ハッとして、気まずそうに俺を見た。

 

「テクトさん、ごめん。今回ちょっと、ヤバいから。あんまり気遣えないかも、なので」

 

「……え、俺?」

 

 俺は思わずキョトンとしてしまう。それから少し考えて、いつもの態度に納得した。

 

 俺は苦笑気味にセラフィの前に屈み、目線を合わせる。

 

「気にすんなって。俺は肩肘張ったのが苦手だって前に言ったろ? それより、危ないなら自分に集中してくれ」

 

「……。う、ん。……ありがと」

 

 たどたどしく頷くセラフィ。俺は立ち上がりつつシアを背中に負ぶって、一息ついた。

 

「ともかく、進もう。帰還の魔法陣もないしな。セラフィは大丈夫か?」

 

「……ちょっと、待って……! 今、福音の範囲を絞って、長持ちするように調節、してる、ので」

 

 差し込む光が段々と弱まっていく。範囲も一筋ほどに小さく変わる。だがそれでも消えることはなく、鐘の音は遠く響き続けている。

 

「……もう、大丈、夫。でも、集中してる、ので、あの」

 

「先導するよ。手、掴むぞ」

 

 俺はセラフィの組む手の手首を優しくつかんで、「こっちだ」と歩き出す。セラフィは俺を信用してくれたのか、たどたどしく呼吸しつつもついてきてくれた。

 

「ふっ……、ふっ……」

 

 歩く。前に危険がないかを確認し、後ろに異常がないかを定期的に振り返る。セラフィは荒く呼吸をして、足取りはふらふらと覚束ない。

 

「セラフィ、大丈夫か?」

 

「う、うん……。大丈夫……大丈夫……」

 

 大丈夫な奴とは思えない物言いだが。しかし言葉を交わしている間は、足取りが少ししっかりする。

 

 魔物も見えないし、会話した方がいいな、と判断して、俺はセラフィに質問を投げかける。

 

「そういえばセラフィ、聖魔法ってどんな魔法なんだ? 汎用魔法、血統魔法は知ってるんだけど、聖魔法はあんまり知らなくてさ」

 

「え……、今……? ……違う、今だから、なので」

 

 俺から言わずとも、意図を理解するセラフィ。頭いいな、と感心していると、セラフィは話しだす。

 

「まず、前提だけど……汎用魔法は、女なら誰でも使える魔法。血統魔法は、その血統独自の魔法、で……。じゃあ聖魔法は、っていうと、聖教会が独占する魔法、なので……」

 

 緩んだ手を組み直して、セラフィは進む。

 

「効果は、福音と共に、指定範囲を魔法使用者の『都合よく』改善する、こと……。限定的な現実改変能力って、言ってよくて……。あるいは、指定領域を支配する、みたいな……」

 

「……何か、思ってたよりすごいな、聖魔法」

 

 それは、何というか。神の力を借りる魔法、というよりか。

 

 神そのものの力と言った方が、正しいような、そんな力じゃないか……?

 

 そんな風に静かに困惑する俺に、セラフィは続ける。

 

「この世に存在する、数少ない『完成された魔法』の一つって、言われてるから……。だから使い手の素質があると、無条件で聖教会は囲いにかかる、ので……」

 

 笑っちゃうよね……、と皮肉っぽくセラフィは口端を釣り上げ、言った。

 

「宗教の癖にさ……、聖魔法の才能は、信仰にはまったく関係ないんだよ……。だってぼく、主も、聖教会も、大っ嫌いなので……」

 

「……」

 

 俺は、無言で先導を続ける。セラフィは、途切れ途切れになる意識を必死に保ちながら、話を続ける。

 

「ぼくね……、元は平民って、話した、でしょ……? 聖魔法の才能が見つかって、聖教会に無理やり、家族と引き離されたの……」

 

「……それは」

 

「家族には、沢山のお金が渡されたって、聞いてて、ね。家族は結構貧乏で、口減らしも兼ねて売られて……。その日まで、仲良し家族、だったのに。ホント、嫌になる、ので」

 

 セラフィは、組む手にぎゅっと力を入れる。

 

「だからぼくは、全部、嫌い……。ぼくを売った家族も、強制的に取り立てて聖女候補にしてきた聖教会も、こんな運命にした主も、全部……」

 

「……そうだな」

 

 辛い運命はある。どうしようもないことは多い。だからすべてを厭うような、何もかもが嫌になるようなことはある。前世でも今世でも、あった。

 

 だから、俺は、セラフィに言う。

 

「でもさ、セラフィはこうして試練に挑んでんだから、偉いよな」

 

「えっ……」

 

 俯きがちに歩いていたセラフィが、俺を見る。俺は軽く振り返って微笑みかけてから、また前を進む。

 

「運命を恨む。全部嫌いになる。でも、やることはやる。偉いよ。本当に偉いと思う。本当なら無関係だったはずのこんな試練に、まじめに取り組んでるんだからさ」

 

「そ、それは、やらざるを得ない、だけなので……」

 

「やらざるを得ないことからも逃げる奴なんか、ごまんといるって」

 

 夏休みの宿題とか、確定申告とか。そしてやらずにひどい目を見るのだ。それを考えれば、セラフィはしっかり事に当たっている。それのどれだけ尊いことか。

 

「……テクトさん……」

 

 セラフィが、どこか含みの籠った声音で俺を呼ぶ。「ん?」と俺が振り返ると、セラフィは言った。

 

「……あの、先日はその、ほ、本当に、お見苦しいものを見せてしまって……」

 

「今!? その話忘れないか!? もう気にしてないって! むしろこっちこそゴメン!」

 

 見てしまったこっちのが、よほど申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

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