【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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鉄で出来た馬

 無事二つ目の試練を乗り越えた俺たちは、翌日シアの個人寮の庭に集まっていた。

 

「昨日は全然戦力になれなくてお恥ずかしい限りです……」

 

 シアはお茶会の席に座って、神妙な顔をしている。俺は苦笑して「相性が悪かったな」と。

 

 一方辛辣なのがセラフィだ。

 

「王女様次から来なくていいので。今のところ足手まといだし」

 

「足でまと……っ」

 

「セラフィ、言いすぎだ。シアも頑張ってるんだから」

 

 俺はあんまりな物言いに、苦言を呈する。

 

 するといつものようにセラフィは慌てだ―――さなかった。

 

「……ごめんなさい。王女様、その、傷つけるつもりはなかった、ので」

 

「あ、ええ……。いえ、次こそはちゃんと、頑張らないといけませんね」

 

 セラフィはバツが悪そうに、口をもにょもにょとさせている。

 

 俺とシアは、それにアイコンタクトを交わす。

 

「テクト、セラフィに何かありました?」

 

「俺は知らんが……」

 

 セラフィは一人、バイクに向かって聖魔法を行使している。以前はすぐに息が切れていたのに、今はかなり長持ちしている。

 

 前回の試練が過酷だったからだろうか? 試練って意味があるんだなぁ、と俺は思う。

 

 バイクの修理の数回目だった。二回目の試練の前にも何回か頼んだが、今回はかなり進捗が良いらしい。

 

「テクトさん、この遺物が、魔石でも動くようにしたいんだった、よね?」

 

「ああ、うん。いや、一旦直ったら、他は自分でやる予定だったんだけど」

 

「でも大変、でしょ? ぼくの方で、頑張ってみる、ので」

 

 セラフィはにへらと笑って、再び手を組みなおす。光がより強く差し、パキパキと音を立ててバイクが変形する。ありがたい。ありがたい、が。

 

「……シア、聖魔法ってやっぱ何かこう、おかしくね?」

 

「目の当たりにするとすごいですわね。『完成された魔法』とはよく言ったモノです」

 

 現実改変能力を伴った領域の構築、支配。聖魔法。主の力。

 

 主とは何か、と思う。キリスト教的なサムシングとしか思っていなかったが……。

 

 そんなことを考えながら、俺は自分で焼いたケーキを、フォークで切り分ける。

 

 すると何故か、シアが「あーん」と口を開けた。こいつも甘えん坊だな、と思いながら、俺はシアの口にケーキを。

 

「ちょっちょっちょっちょっちょっ!」

 

 と思っていたらセラフィが割り込んできた。

 

「おお、どうしたセラフィ」

 

「どっ、どうしたもこうしたもないのでっ! テクトさんっ!? 何で王女様にあーんしようとしてるの!? 彼氏じゃないんじゃなかったの!?」

 

「彼氏じゃないって。なぁシア」

 

「はい、遺憾ながら。だからせめて、あー……」

 

「あーんを続けようとしないで!?」

 

 セラフィが言うと、シアが嫌そうに眼を細める。

 

「何ですかセラフィ。テクトとの蜜月を邪魔する理由は何ですか」

 

「蜜月って言った! 蜜月って! テクトさんっ!」

 

「まぁ仲良しではあるよ」

 

「テクトさーんっ!?」

 

 セラフィがかつてなくうるさい。どうしたんだ、と思っていると、セラフィが俺のフォークにぱくっと食らいつき、シアから「あーん」を奪った。

 

「セラフィ!? 一体何を……ハッ! ま、ままままま、まさか、あなたもテクトを……!」

 

「……」

 

 セラフィはムッツリ黙り込んで、耳を赤くしてシアからそっぽを向いている。かと思いきや、俺の方を向き、フォークを握る手を取った。

 

「て、テクトさん、来てほしい、ので」

 

「え、何々?」

 

 引かれるままに移動する。セラフィは庭の塀扉を開き、バイクの傍に俺を誘導した。

 

「テクトさんは、この遺物が直ったら動かせる、の?」

 

「ああ、動かせる。……え、じゃあ、もしかして」

 

「その、まだ聖魔法の熟達が十分じゃないから、ぼくも一緒に乗る必要がある、けど」

 

「~~~~~ッ!」

 

 その返答に、俺はワクワクが止まらなくなる。

 

「分かった! 乗ってくれ! ああ、聖魔法使い続ける必要があるなら、前か! よし、乗せるぞ!」

 

「ひゃっ、わわ、わ」

 

 俺はセラフィを持ち上げてバイクに乗せる。体躯に不釣り合いなほど巨大な胸が揺れるのは見ないフリ。それから俺もまたがり、ハンドルを握り、サイドスタンドを跳ね上げた。

 

 指輪になっているメイに「鍵役頼む」とお願いして変化してもらい、差しこみ、回す。計測器のランプが付き、メーターの針が回る。ギアを踏んで調節する。

 

 俺はクラッチとブレーキを握りこむ。それからスターターボタンを押すと、トトトトと排気を始める。この、懐かしい感覚。

 

 俺は思わず、ゾクゾクと来てしまう。異世界の地で、バイクが起動している。俺の下で、動き出そうとしている!

 

「わ、す、すごい……」

 

 セラフィも、俺の腕の中で、バイクの挙動にまばたきをしていた。俺はセラフィが振り落とされないように少し抱き寄せてから、耳元で感謝を告げる。

 

「お礼と言っちゃなんだが、相乗り一号はセラフィだ。一緒に風を感じようぜ」

 

「ひゃ、ちか。ぼ、ぼくが一号……!?」

 

 ブレーキを手放す。クラッチをゆっくり解放していく。

 

 そして、バイクが走り出した。

 

「うわ、わ、わ、わわ、わ、わわわ!」

 

 バイクがゆっくり進み、段々とクラッチに合わせて加速していく。速度が上がるにつれてフラフラとしていた車体が、一本の芯が通ったように安定していく。

 

 そして俺たちは、風の中へと飛び出した。

 

「来た来た来た来た! これだよこれぇ!」

 

 シアの庭を飛び出す。学園外周の、夕焼けに染まる道を駆け抜ける。

 

「わ、す、すご。ば、バイクって馬だったの……!? でも、う、馬よりもずっと速い……!」

 

「仕組みは違うけどな! この速度が最高なんだよ!」

 

 安全志向の俺は、二人揃ってヘルメットを付けたいところだったが、残念ながらこの世界に安価なものは存在しない。だから安全運転の範疇で、速度を出して駆け抜ける。

 

 ああ、この、人間の足では感じられない風よ。エンジンの駆動音よ!

 

「まさかこんなところで、この楽しみに再会できるなんて……! セラフィ、本当にありがとうな」

 

 風か感動か、僅かに滲んだ涙をさっと拭って、俺は腕の中にセラフィに感謝を告げる。

 

 するとセラフィは恥ずかしそうに身じろぎして、小さな声でこう言った。

 

「……そんなに喜んでくれるなら、聖魔法を頑張った甲斐があったな、なんて。ぼくの頑張りも、苦しみも、きっと全部、テクトさんのためだったの、かも」

 

「え!? ごめん、風がうるさくて聞こえない!」

 

 俺がそう返すと、セラフィは「き、聞こえなくて、いい、ので!」とはにかみながら笑うのだった。

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