【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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変態機構

 一旦解散してから装備を整えて、俺たちは下町を出てオークの森を前にしていた。

 

 俺の装備は簡単な革鎧に、弓矢と刀だ。実家から持ってきた、実戦想定の武器である。

 

 一方ウィズは、丈夫そうな外套に、短い杖だけを手にしていた。それ以外は、胸元のバラといいほとんど普段着だ。

 

 恐らくは魔法使い型の戦闘スタイルなのだろうが、我が家は結構着込むので、その軽装備っぷりに少し驚きだ。

 

 そんな風に俺が思っていると、ウィズが言う。

 

「思ったより鬱蒼としてますね……。テクト君、今からでも考え直しません? 危険じゃないですか?」

 

「昼だからまだまだ明るいな。ほら、ぼやぼやしてると置いてくぞ?」

 

「えっ!? あ、あの! だから危険だから、せめて私の後ろを歩いてください!」

 

「ははははっ」

 

 最初は緊張しっぱなしだったのに、今のウィズは砕けた態度で心地いい。

 

 俺に追いついてきて、「まったくもう」とウィズは並んで歩き出す。

 

「それで、テクト君。欲しいものって何ですか? 私、採集を実家でやってたので、教えてくだされば楽に済むかもしれません」

 

「ああ、俺が欲しいのはアレだよ、高純度魔石」

 

 俺が言うと、ウィズは訝しむ顔。

 

「……何でそんなの欲しいんですか? 強い魔物しか落とさないですし、そもそも基本的に、兵器運用ですよねアレ」

 

「ウィズ詳しいな」

 

「そりゃあ私は、『魔導博士』の血統ですから」

 

 ちょっと得意げに言うウィズに、「ほー、そりゃすごい」と感心する。

 

 血統。それは女系貴族における、一族のブランドとか実績とか、そういう意味合いの概念だ。

 

 貴族は男系ならば家で連綿と後世に繋ぎ、女系なら血統を紡いでいくものとされている。

 

 中でも二つ名付きの血統は、歴史に名を残すような偉業を為し、二つ名を時の国母に与えられたことの証拠だ。

 

 悲しいかな、家の爵位と血統の歴史は必ずとも釣り合うわけではないが……二つ名付きの血統は、それだけで由緒ある血族の証明なのだ。

 

 そんな理解と共に、「『魔導博士』か……。そんな二つ名なら、俺がやろうとしてることも分かるかな」と、俺は腕に付けてきた、袖に隠れた武器を見せた。

 

 すなわちそれは、ガントレット。ゴテゴテしつつも、ギリギリ袖に隠れる手甲。

 

 杭の埋め込まれた、俺の肝いりの特殊武器――――一撃必殺のパイルバンカーだ。

 

 そう。すでにパイルバンカーは、学園出立寸前の段階で、ほとんど完成状態に差し掛かっていた。

 

 生憎と家族は一人もこのすごさを理解できなかったが、果たして。

 

 そうウィズを見ると、ウィズはじっとパイルバンカーを見つめて、言った。

 

「……え、何ですかこのイカレた武器」

 

「うぉおおおお! 一目で、一目でそこまで見抜くのか!」

 

 家族の中でも、前情報なしでこれを武器と見抜けた奴はいなかったくらいなのに!

 

 俺が感動していると、ウィズが「え? ほ、本当に何ですか? これ。見れば見るほど分からないんですが」とパイルバンカーに触れ、顔を近づけ見つめてくる。

 

「火炎の魔法回路が、内側に放出される構造なんですが。それを杭の射出威力に全部回してる? ものすごい火力を杭一つに込めようとしてますよねこれ。えぇ?」

 

「ふっふっふ……。ウィズ、流石だ。一目で良くそこまで見抜いたな」

 

「あ、えと、一応専門なので……。あ、そっか。高純度魔石って、最初の慣らし用の魔力燃料ですか。慣らしで粗悪魔石使うと、部品の消耗が違いますもんね」

 

 説明もなしに、俺が高純度魔石を欲しがる理由まで言い当ててしまうウィズだ。俺は段々、こいつマジの専門家なのでは? と疑い始める。

 

「でも、なんて言うか、ピーキーな造りですねこれ……。排熱機構もあるので、杭が当たらなくても火炎放射的に使えなくもないですが……ん、んん?」

 

 ウィズはさらにパイルバンカーに見入って、混乱し始める。

 

「よ、よく見たらこの造り、ものすごくしっかりしてません? 火炎魔法の内燃機関の気密用に、わざわざ裏にまで魔法回路が彫られてます。何ですかその念の入りようは」

 

 混乱しつつも、ウィズの目がキラキラと輝き始める。

 

「テクト君っ、この、この武器の制作者ってどなたですか!? 是非会ってお話したいです。この人、ウチの血統でもやってけるくらいの変態技術者ですよ! すごい腕してます!」

 

「……」

 

 褒め言葉に『変態』が入ると、一気に恥ずかしさが誇らしさに勝っちゃったな。

 

「いや、見れば見るほど執念がすごいですよこの変態機構……! 後生ですから、後生ですから教えてください! この制作者はどなたですか!?」

 

 正統派美少女の外見をしているのに、挙動が完全にロマンに魅せられた工学系オタクのウィズに詰め寄られ、俺は恥ずかしい思いをしながら手を上げる。

 

「……俺です。これ作ったの、俺……」

 

「――――」

 

 その時のウィズの顔は、筆舌に尽くしがたかった。

 

 何というか、驚きを土台に、ものすごい多方面の感情の奔流があらぶったような、そんな顔だ。

 

「……テクト君が、これを……?」

 

「う、うん。ウィズ大丈夫か? すごい顔してるぞ」

 

「あ、えと、何というか。テクト君が開発者で嬉しい気持ちと、男の子が開発者っていう事実でプライドがズタズタにされるのと、他にも諸々……」

 

 在野の開発者ってだけでも結構プライドぐらついてたのに、しかも男の子……? とウィズの足元がフラフラし始める。

 

 物言いは、男としてはむっと来ないでもないが、確かにナルシスみたいな甘やかされクソ男が、訓練していた自分並みの成果出してたら、ぐらつく気持ちは分からないでもない。

 

 俺が元居た世界的に考えれば、生まれてからずっと機械いじりしてたオタクが、クラスの陽キャ女子に自分レベルの開発物を出されるようなものか。それは凹む。

 

 苦笑しつつ、俺はフォローを入れる。

 

「まぁ、俺も重税回避のために必死だったからな。この開発に年単位かけてるし」

 

「……え……そんな情熱を注いで……?」

 

 ウィズの目がうるっとする。それから、俺の手を握った。

 

「テクト君が女だったとしても、親友になれたと思います。是非仲良くしてください」

 

「お、おう。こちらこそよろしく」

 

 ウィズの好感度の上がり方にちょっと引くも、その後ウィズがしきりにパイルバンカーに見入っているのを見て、本当にこの手のものが好きなんだな、と腑に落ちた。

 

 なるほど。『魔導博士』の名は、伊達ではないらしい。俺もこの手の工学はかなり好きだし、仲良くできそうだ。

 

 その時だった。

 

「ウィズ」

 

「はい? 何で―――むぐっ?」

 

 俺はウィズの手を引き、素早く口を押える。ウィズは動揺するが、赤面しつつも力を抜いていて、抵抗する様子はない。

 

 俺はそのままで木のそばに寄り、耳をそばだてる。聞こえるのは風。木々のざわめき。

 

 その中で響く、微かな声。俺の鋭敏な耳でなければ、聞き取れないような小さな音。

 

「ふ、はは……! 見ろ、連中ザコオスを連れていたぞ……。しかも、守っているのは弱弱しいメスだ……。メスを殺して、オスを奪うぞ……」

 

 敵意、殺意の込められた言葉。侮りと確信。俺の戦意が急激に高まっていく。

 

 そして、ウィズに囁くのだ。

 

「先に捕捉された。俺の索敵範囲的に、先に気付かれる声量じゃなかったはずなんだがな」

 

「む、むぐ? むぐぐ?」

 

 困惑するウィズに、俺は告げる。

 

「会敵した。敵は情報戦(かくれんぼ)に長けた強敵だ。だがこっちも捕捉した以上、情報戦はイーブンになる。むしろ、気付いたことに気付かれてない俺たちのが有利だ」

 

 一つ気がかりなのが、敵は人間の言葉を口にした、という点だ。

 

 ―――オークの森では、山賊でも居ついているのか? だから先にバレたのか……。

 

 ならば、迷っている暇はない。即座に先手を打つべきだ。

 

 俺は、静かになったウィズから手を外し、素早く弓を構えて矢をつがえる。

 

 そして木陰から飛び出し、矢を放った。

 

 ワンテンポ遅れて、遠くで「ギィッ」と悲鳴が上がった。この甲高い感じは、ゴブリン?

 

 山賊じゃない。敵は魔物。つまりは――――

 

「総員に告ぐ! 奇襲に失敗! 向こうは我々に気付いていたぞ! 陣形を包囲型に再構築! 人間を狩れぇ!」

 

「はっ? 知性モンスターが統率してんのかよ! 妙だなと思ったら、そっちか!」

 

 俺はウィズの手を引いて走り出す。考えるのは、今聞こえた野太い声。

 

 ゴブリンの声は甲高い。だが今の言葉は低かった。となると、ゴブリンを率いているのは別のモンスター―――恐らくはオークの知性個体。

 

「ったく、知性モンスターとはツイてない!」

 

 知性モンスター。魔石を有する動物である魔物の内、魔石を発達させ、人間同様に知性を獲得した特別個体。

 

 この知性モンスターが発生したとき、魔物の群れの脅威レベルは一気に上がる。考えなしの個々の動きが、統率の取れた軍隊のそれに切り替わる。

 

 普通なら、軍隊が動くような存在だ。まかり間違っても、学生二人で立ち向かう相手ではない。

 

 ウィズも事態を理解して、必死な表情で俺と共に駆けた。

 

「うっ、うそ。そんな、ち、知性モンスターだなんて、私たちじゃ手に余ります……っ」

 

「そうだな! けど、状況は悪くない! こっちが先に奇襲を掛けたお蔭で、連中多少もたついてるぜ!」

 

「ぜっ、全然分からないです! 私には、未だにモンスターの影も形も見えてないんです!」

 

 そうだろう。基本的な貴族の戦闘訓練は、歩兵軍隊に即したそれだ。

 

 大軍だから情報戦(かくれんぼ)はなく、機動力戦(鬼ごっこ)は敵前逃亡で処罰を受ける。直接戦闘(ガチンコ)のみに特化するのが普通なのだ。

 

 だが、こういうゲリラ戦では、その理屈は通用しない。

 

 少人数での散兵戦。場所は森の中。隠れる場所は無数に存在する。情報戦(かくれんぼ)で優勢なら、一方的に奇襲し続けられるのがゲリラ戦だ。

 

 そこに特化した俺や敵モンスターたちでは、ウィズとは隔絶した実力差がある。敵が見えず戦えないウィズに対して、ウィズを一方的に見つけて攻撃を仕掛けられる俺たち。

 

 そんなウィズに、俺は囁く。

 

「安心してくれ。俺がウィズを守る」

 

「えっ……」

 

 ウィズの顔が赤くなる。キメてやったぜ、と俺は内心でガッツポーズ。

 

 さぁ、ここからだ。俺の目指した『女の子を守る男』を、ここから始めるのだ。

 

 そんな決意と共に、俺は「ウィズ! 抱き上げるぞ!」「きゃぁっ!」とウィズをお姫様抱っこして、さらに足を加速させた。

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