【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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秘密の夕方

 最近、シアとセラフィの仲が悪い。

 

 例えば、いつものバイク修理。俺が適当に茶菓子を用意してお茶を淹れようとすると、シアとセラフィが揉め出した。

 

「あ、あの、テクトさん。その、今日はこのお茶に、しない? ほら、これ……」

 

 セラフィから渡されたのは、懐かしい銘柄の茶葉。ほぼ平民の俺としては飲み慣れた味だ。

 

「おお! これ好きなんだよ。そうだな、じゃあ今日はこれにしよう」

 

 俺が受け入れようとすると、シアがむっとした。

 

「テクト? 何ですか、その茶葉は」

 

「ああ、結構安い茶葉なんだけど、思い出の味っていうか。シアもどうだ?」

 

「……テクト、今日は戸棚の奥の茶葉を使って構いませんよ。そちらを飲みませんか?」

 

 その提案に、俺は少し揺れる。興味はあってもヘッダさんが『特別な日にお出しするものです』と出し渋るタイプの茶葉がいくつかあったのだ。だがそれも、シアの許可があれば。

 

 そんな俺の反応を見て、セラフィは目を細める。

 

「王女様は金にモノを言わせるんだ。ふーん……」

 

「相手にないものを使う。あなたも行ったことでしょう? セラフィ」

 

 結局その日は、どっちも淹れて飲み比べになった。片や懐かしく、片やハイクオリティ。中々楽しいお茶会となった。

 

 

 

 

 

 俺がいる前ではこんなものだが、俺がいない場所でも何やらやり合っている様子がある。そもそも二人は同じクラス。俺抜きでの関係性があるのだろう。

 

 だから、ちょっと聞きたいことがあって放課後にシアのクラスに赴くと、シアとセラフィで睨み合っている場面に遭遇した。

 

「やっぱり試練関係は距離を取って欲しいので。試練で必要なのはテクトさんだけだし」

 

「あら、そうですか? しかし、テクトはわたくしの付き人ですから。貸し出している身としては、妙なことがないか監視する義務がありますし」

 

「は……? 付き人って、前やってたごたごたの事? アイギスさんが、その件は終わったって、言ってたので」

 

「ごたごたは終わりましたが、付き人契約は継続しています。お給金を支払って朝の世話をさせていますから」

 

 シアが説明すると、セラフィは瞠目する。

 

 それに正気を見出したか、シアは蠱惑的に笑い、詳しく説明を始める。

 

「テクトは朝、とても優しいのですよ? 例えば毎朝起こしに来てくれて―――」

 

「っ!? そっ、そんな」

 

 そこで俺は割り込んで、愕然とするセラフィの肩を掴み、シアに笑いかけた。

 

「シア? あることないこと言いふらすようだったら、今からでも全然、付き人契約は再終了にしてもいいんだが」

 

「てっ、テクトっ!? ちっ、ちがっ。あのあのあの、そういう事じゃなくて、う、売り言葉に買い言葉っていうかぁ……!」

 

 途端極度に慌てだし、ヘロヘロの涙目で弁解し始めるシアである。父親の威を借る赤ちゃんがよ。いや俺は父親ではないが。

 

 一方、俺はセラフィにも釘をさす。

 

「セラフィも、あんまりシアを邪険にしないでやってくれ。俺も戦えるが、シアじゃないと危ない場面っていうのはある。全員別の強さなんだ。上手く助け合っていこう」

 

「……テクトさんが、そう言う、なら」

 

 むっつりとしつつも、不承不承セラフィは承諾する。一時期のウィズとアイギスみたいだなぁと思いながら、俺はどうしたものかと考えることになった。

 

 

 

 

 

 さて、そんな犬猿の二人を伴って、その日は三つ目の試練の戦略を組んでいた。

 

 というのも、二つ目の試練が結構ヤバかったためである。俺がいたからギリギリどうにかなったが、それでもセラフィが完全に魔力切れで意識を失っていたら詰んでいた。

 

 ただ、聖魔法の試練関係は、聖教会でも関係者以外には知られたくない出来事だそうで。それで人目を避けて話ができる場所、ということで、俺たちはシアの執務室に集まっていた。

 

 放課後即集合。まだ夕日が差すには早い。そんな時間帯。シアのデスクに集まり、セラフィ持ち込みの文献を見ていた。

 

「次の試練は、えと、不惑の試練って言って、『迷い消えるまで進め』って書いてあるので」

 

「迷いなくなるまで、とは抽象的ですね。どんな試練なのでしょう」

 

 二人で、うんうんと唸っている。俺は文献の別の部分の記述を見て、セラフィに問いかける。

 

「『この試練乗り越えし時、使い手はさらなる段階に至るだろう』だってさ。ひと段落するってところか?」

 

「う、うん。テクトさんの言う通り、で。この試練は特に難しいらしくって、突破者の半数以上が、聖女になってるくらい、なので」

 

「そんなヤバい試練なのか……」

 

 見た感じまだまだ試練あったが。もしかして全部クリア必須とかじゃない感じか? 歴代でも全部クリアした最強の聖女とかいたのかな。

 

 そんな風に俺が想像していると、気付けば二人がまたもや揉めていることに気付く。

 

「だから言っているでしょう!? 人海戦術こそ最強! 戦いは数なのです!」

 

「違うもんっ! 聖魔法が最強なので! 手を組んで詠唱すれば全員眠って勝ち!」

 

「何の話してる? 最強議論?」

 

 かなり熱に帯びたケンカだが、内容が小学生男子過ぎてあんまり諫める気にならない。

 

「テクトはどう思いますかっ? 何だかんだ人海戦術が最強ですよね!?」

 

「違うのでっ! テクトさんは聖魔法の強さ知ってるもんねっ!?」

 

「えぇ……? 状況によるとしか言いようがないだろ」

 

 長期戦想定なら人海戦術が勝つ。短期決戦とか不意打ちなら聖魔法。戦略次第だ。

 

 そういう意味では、聖魔法は性質としては爆弾に近いんだよな。広範囲爆弾。いきなり現れてドカン、が一番恐ろしい。逆に手の内が分かっているとそこまで怖くない。

 

 逆に手の内が分かったから何だというのか、というのがシアの唱える人海戦術だ。司令塔を潰せなければ消耗して絶対負ける。機動力がないとまともに戦えない。

 

 そういう意味では―――この場における聖魔法は、まさに突如現れた爆弾も同様で。

 

「じゃあその身で味わわせて、強さを分からせてあげるのでっ!」

 

「はっ?」「えっ、ちょっ」

 

 セラフィは引きどころが分かっていないのか、あるいは聖魔法は傷つける魔法ではないからカジュアルに使う癖がついているのか―――ともかく、急に手を組んで詠唱した。

 

「主よ、福音をもたらしたまえ」

 

 鐘の音がなる。光が差す。俺とシアは急激な眠気に襲われて、共に足元をぐらつかせて、それぞれ椅子の上に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

「あ」

 

 セラフィは二人が倒れこむのを見て、頭に血が上りすぎたことに気が付いた。

 

 昔の悪い癖が出た、と反省する。修道院では、聖魔法同士のケンカがむしろ推奨されていたのだ。思い返せば使い手を見つけるための文化で、セラフィはこれで最強だったが……。

 

「修道院以外でやっていいことじゃなかったかも、なので」

 

 聖魔法は人を傷つけない。強いて言えば眠らせる程度だが、それも体よく言っているだけで、やっていることは無力化だ。

 

「……ど、どうしよ」

 

 二人を見る。安らかに寝息を立てている。聖魔法そのものは、むしろかけられた相手は回復効果で体調が良くなるまであるが。

 

「と、とりあえず、ちゃんとした場所に寝かせてあげなきゃ」

 

 シア王女はちゃんと椅子に座らせてやる。続いてテクトだが、こちらはもっといい眠りになるように、備え付けのソファへと移動することにする。

 

 それでセラフィは、テクトを抱えあげ、ソファへと移動した。女子の魔力補助のかかった身体能力なら、男子の一人くらい軽いもの。

 

 そうして優しくソファに寝かせてから、改めてセラフィはテクトを見た。

 

 テクトは寝ていると、起きている時とはまた違った雰囲気がある、と気付く。

 

 何ていうか、起きているとどこか年上らしさを感じることが多い反面、寝ていると年相応のあどけなさが目立つ、というか。

 

「……可愛い」

 

 ぽつりと、率直な感想が口につく。一瞬眩しさを感じて、外を見れば夕焼けが窓から差し込んでいる。

 

 真っ赤に染まる部屋の中。無防備な男の子が、セラフィの前で眠っている。

 

 ごくり、とセラフィは唾を飲み下した。夏の気候もあってか、体が火照っている。

 

「テクト、さん」

 

 セラフィは屈む。それから、震える手でその体に触れる。

 

 腹部。服越しでも、固い、と思う。鍛えられた男の子のお腹。セラフィの柔らかい腹部の奥が、ずくりとうずく。

 

 まずい。こんなこと、しちゃダメだ。なのに眠りこけるテクトから目が離せない。顔が熱い。呼吸の速度を、下げられない。眼が回る感じがしている。

 

「ごく……っ」

 

 セラフィは気付けば、自らの股間に触れていた。じっとりと湿っている。そこを擦りながら、もう片方の手をテクトの胸板に――――

 

「ん……? アレ、わたくし、いつ寝て……?」

 

「ッッッッッッッ!??!??!?!??!?」

 

 セラフィは跳ねるようにしてテクトから離れる。それから適当な椅子に収まり、本棚の本を素早く手に取って、さも最初からこれを読んでいましたが? という態度をとる。

 

「んん……テクトぉ……。まだ眠いですぅ……」

 

 しかしシアはセラフィに意識を割かず、そのままテクトの下にフラフラと歩いていく。

 

 そしてあろうことか、テクトの胸板に顔をうずめるようにして倒れた。

 

「テクトぉ……むにゃ……」

 

「はぁぁあああああああああ!? ちょっ、王女様!? なっ、ななななっ、何してくれてるのでぇぇええええええ!?」

 

「ひゃぁぁあああああ!? 何ですっ!? 何事ですか!? 敵襲ですか!?」

 

 セラフィはシアに掴みかかり、シアはパニクってワケが分からなくなる。

 

 そんな二人をおいて、テクトはただ、すやすやと安らかな寝息を立てているのだった。

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