【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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手が出るのが早い奴ステークス3連単

 ある日の放課後、俺はシアの庭でバイクの手入れをしていた。

 

 セラフィの第三の試練も近くなってきた頃だ。何でも、夏休みに入る前の最後の挑戦とするらしい。

 

 実際、そろそろ期末試験だ。それを乗り越えたら夏休み。実家に帰る人もいれば、学校に残る人もいると聞くが。俺はどうしようかな、なんてことも考えたり。

 

「試験勉強もそろそろちょこちょこ始めてかなきゃなぁ」

 

「テクトは見かけによらず勤勉ですよね」

 

「俺が不真面目に見えるって?」

 

「どちらかというと、興味あることに一直線、というイメージでしょうか」

 

 シアに言われ「まぁそういう振る舞いはしてきたか……」と呟きつつ、メイが変化したレンチで肩を叩く。

 

 ちなみに俺に言ったシアは、絶賛復習中だった。期末試験周りも女子の熱気はすごい。男子なんてどこを見ても遊び惚けているというのに。

 

『ご主人。もう整備終わり? 人の姿戻っていい?』

 

「ああ、そうだな。この辺りにしておくか。もう戻っていいぞ」

 

 俺が許可を出すと、メイがレンチから人の姿に戻る。それから抱き着いてくるので、適当に抱き上げて勉強するシアの正面席に座る。

 

「メイも見慣れてきましたね。お菓子食べますか?」

 

「食べる、あーん。ん、ご主人のつくるお菓子はいつも美味しい」

 

「お気に召したようなら何よりだよ」

 

 メイにあーんするシアを見て、この二人は相性いいな、と思う。シアがメイを子供として可愛がるからだろうか。ウィズは張り合うもんな。張り合うな子供相手に。

 

 メイは俺の膝の上に座りなおして、パクパクとお菓子を食べ始める。俺は何となくメイの真っ白な髪を撫でつけつつ、シアに問いかける。

 

「そういや今日、セラフィ来ないな。そういう日だっけ?」

 

「あら。そういえば見ていませんね。今日は来ると言っていたのですが」

 

 何か用事でもあったかな、と俺は思案する。それから、「あ」と思い出した。

 

「アイギスに用事あったんだ。同じクラスだし、ついでにセラフィの様子見てくるよ」

 

「そうですか。ではその間、メイをみておきましょうか?」

 

「そうだな、頼む。メイ、シアを困らせないようにいい子にしてるんだぞ」

 

「ん。シアの世話は任せて」

 

「お前だお前」

 

 くしゃくしゃっとメイを撫でてから、俺は支度をしてシアの庭を出た。そのまま、校舎の方へと戻っていく。

 

 アイギスもセラフィも、シアと同じ上級一号クラスだったはずだ。あちらの方に一人で行くのは今だに少し腰が引けるのだが、用事がある以上仕方ない。

 

 俺は一年の廊下に辿り着き、閑散とした道を進む。偶に上級貴族クラスの生徒に見られ、居心地の悪い思いをしつつ、目的地に辿り着く。

 

 そこで、妙な声を聴いた。

 

「あ、あの、やめて、くだ、さい……っ」

 

「何故だ! 何故オレの手を振り払う! お前のような元平民の薄汚れた女を、気にかけてやっているのだぞ!」

 

「ッ?」

 

 俺は息を飲む。教室に入り、素早く状況を確認する。

 

 そこにいたのは、セラフィと、あのムカつく公爵嫡男、プライダスだった。プライダスはセラフィの細い腕を取って、強引に引き寄せようとしている。

 

 蘇るのは、以前プライダスが取り巻きに痛めつけさせた、女の子の記憶。

 

 あの時はギリギリ我慢できた。ムカついたし、許せなかったけど、最後には理性が勝った。

 

 だが、身内はダメだ。セラフィは、俺の友達だ。

 

 だから俺はそれを見て――――少々、カッとなりすぎた。

 

 

 

「パイル、バ」

 

 

 

「ちょっ、何しようとしてんの!?」

 

 ガシャコン、と俺が右腕を振るって飛び掛かろうとした瞬間、俺を羽交い絞めした者がいた。アイギス。それに俺は、ハッとして我に返る。

 

「……っ? 何だ、貴様は。下級クラスの男子が、何故こんなところにいる」

 

 タッパのあるプライダスが、俺に気付いて威圧的に声をかけてくる。俺はそこで、やっと冷静になって状況を確認できた。

 

 プライダスは変わらずセラフィの手を掴んでいる。その背後には、セラフィをけん制するように立つ取り巻きの女どもが数人。そして俺の背後にアイギス。

 

 俺は、短くアイギスに問う。

 

「アイギス、手短に状況共有頼めるか」

 

「聖教会絡みでセラフィに迫るプライダスと、拒絶してるセラフィ。取り巻きに一人強いのがいるのと、性差、身分差でアタシからは手が出しづらい。正直テクトの登場は助かるわ」

 

「分かった。行っていいか?」

 

「冷静にね。ここは戦場じゃない。武器はダメよ」

 

 俺が頷くと、アイギスが俺を解放する。俺はプライダスに近寄り、セラフィを掴む腕を掴む。

 

「とりあえず、この手放せよ。嫌がってんだろ」

 

「テクトさん……」

 

 俺が言うと、セラフィが目を潤ませて俺を見る。相当怖かったらしい。

 

 一方、そうすんなりと行かないのがプライダスだ。

 

「突然現れて、何を好き勝手言っている、下級貴族風情が。今すぐ下がらねば、お前の家を潰してくれるぞ」

 

「あら、残念。テクトの家はウチのとこの騎士長だから、そんなことはさせないけど?」

 

 プライダスの脅しに、アイギスが言い返す。プライダスはギロとアイギスを睨むが、アイギスはどこ吹く風。

 

 なるほど、と俺は何となく力関係を掴む。

 

 セラフィを庇いたいのはアイギスも同じだが、アイギスが直接掴みかかっては、こちらが悪者になってしまう。アイギスは男より強い、女であるから。

 

 しかし矢面に立つのが同じ男である俺なら、俺を脅しから守るという名目で、アイギスも口を挟みやすい。

 

 実際、アイギスが後ろ盾となる俺は想像より度し難いらしく、忌々しそうな目でプライダスは俺を睨む。

 

「いいから」

 

 俺は、プライダスの腕を強く掴む。

 

「この手を、放せってんだよ……!」

 

「ぐっ、貴、様……!」

 

 俺の訓練された握力は、ちょっとタッパのある程度のプライダスでは抵抗しきれない。ギ、と腕が軋み、プライダスが顔をゆがめる。

 

 そこで、取り巻きの一人が飛び出した。

 

「貴様ッ! 下級貴族の男子風情が、プライダス様に乱暴を―――」

 

 その取り巻きは、真っ赤な髪をポニーテールにしていた。しなやかな動きで俺に掴みかかろうとしてくる。強い。俺は対応を考えながら動こうとする。

 

 その時、背後でアイギスの気配が揺らいだ。

 

 殺気。とてつもない熱量のそれに、赤髪ポニテは咄嗟にその場から仰け反った。

 

 その空間を薙ぎ払うように、教室の椅子が豪速で飛んだ。椅子は壁に激突し、砕けながらめり込む。みんなの視線が、恐怖と共に、ゆっくりと椅子が放たれた方に向く。

 

 そこには、金髪ツインテの、小さな悪鬼羅刹がいた。

 

「アンタ、男の子に何しようとしてくれてんの? それも、テクトに」

 

 血走った目を剥いて、アイギスが投球フォームで赤髪ポニテを見ていた。赤髪ポニテは冷や汗を流し、ゴクリとツバを飲んで後退する。

 

 マズい。俺以上にアイギスがブチギレている。理性とか飛んでる顔をしている。

 

 こうなると、アイギスは一通り暴れない限り収まらない。俺は、すでにプライダスの腕がセラフィから離れていることを確認して、セラフィを連れてこの場から離れようと―――

 

「アイギス、さん」

 

 そう思っていたら、セラフィが前に出た。いつものように、どこか怯えをにじませながら、しかし勇気を宿した目で、アイギスを見る。

 

 そして、腰を折った。

 

「怒らせてしまって、ごめん、なさい。でも、もう大丈夫、なので」

 

「何が大丈夫だってのよ。あいつはテクトを怪我させようとしたのよ。なら、その浅慮の代償は払わせないといけないじゃない」

 

 アイギスが言う。それに、どうセラフィが言い返すのかと一同で見守る。

 

 だが、セラフィは反論をしなかった。

 

「うん。だからそれ、ぼくがする、ので」

 

「は?」

 

 アイギスか呆気にとられた声を出す。それから、セラフィの表情に気付いて、ビクッと肩を跳ねさせる。

 

 くるりと、セラフィがアイギスから赤髪ポニテへと振り返る。

 

 そこで、俺たちはやっと気づくのだ。

 

 セラフィが、アイギスと同等以上に激怒していることに。

 

「主よ、福音をもたらしたまえ」

 

 セラフィが手を組む。鐘が鳴る。光が差す。

 

「―――ッ!?」

 

 赤髪ポニテは、ガクンと腰砕けになる。しかし意地があるのか、完全に無力化はされず、椅子に縋りついてセラフィを睨む。

 

 そんな赤髪ポニテに、セラフィは近づいた。暗い顔で、じっと見下ろしている。

 

「何、考えてるの? テクトさんは、男の子なんだけど。男の子に暴力振るおうと、したの? ありえないので。頭おかしい。それでも女?」

 

「ぐ、が、きさ、ま……っ」

 

「あなたたちは、崇拝するプライダスサマ(笑)がぼくを気にかけてるのが、気に食わなかった。だからぼくのこと見下してた。キモイ体つきとか、平民上がりとか言って」

 

 にぃ、とセラフィは嗤う。

 

「で? そのキモい平民上がりに、手も足も出ない気持ちはどう? ずっと我慢してたんだ。ザコがぼくのこと見下してるの、どうボコってやろうかって」

 

 アイギスが俺の隣で、じわじわ冷静になっていく。「あ、あの。セラフィ? その辺りでいいんじゃないかしら……?」と声をかけるも、セラフィは止まらない。

 

「プライダスサマも、そろそろ懲りてもらえる? 性悪高身長美男子って確かに需要あるけど、ぼくの好みじゃないので。従えてる取り巻きもパッとしないし」

 

「ぐっ、が、貴様……貴様ァッ! 薄汚れた平民風情がぁぁあああ!」

 

 言われて、プライダスは顔を真っ赤にして震えだす。セラフィに駆け出し、その頬に拳を放とうとした。

 

 この世界の女は、男に多少殴られようとも抵抗しない。明らかに女の方が強いからだ。

 

 だから―――男からの暴力から女を守ってやれるのは、男しかいない。

 

「やらせねぇよ、でくの坊」

 

 俺は、プライダスの拳をいなして、軽くこけさせてやる。

 

「ぐぁっ、ぎゃぁあああっ!」

 

 プライダスが椅子を巻き込みながら地面に倒れる。セラフィが合わせる手をほどくと、赤髪ポニテ以外の取り巻きたちが、「プライダス様!」と駆け寄る。

 

 それを見て、セラフィは一言、こう言った。

 

「ぷっ、ダサ」

 

 プライダスが、セラフィを睨みつける。セラフィはもはやプライダスを見すらせず、俺に向き直った。

 

「て、テクト、さん。そ、その、……ありがとう、なので。ほら、ここ空気悪いから、もう行こ?」

 

「え? あ、ああ」

 

「そうね。にしてもセラフィ、アンタ中々やるじゃない。見直したわ」

 

「そ、そう……? アイギスさんも、結構頼りになるっていうか」

 

 女子二人は和気あいあいと、お互いに賞賛を送りながら、俺の手を両側から引いて進む。

 

 そんな俺たちの背に向けて、怨嗟の声が響いた。

 

「――――許さん……! このオレにここまでの恥をかかせたこと、万死に値する……!」

 

「……」

 

 振り返ると、憎悪の目でプライダスが俺たちを睨んでいる。

 

「後悔させてやる。絶対に後悔させてやるからな、セラフィ・ミゼリコルディア……!」

 

 プライダスに呼ばれ、セラフィがチラと見る。

 

 だがそれ以上何もせず、セラフィはまた笑顔を取り戻して、歩き出した。

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