【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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捏造

 プライダスはセラフィにとって、何故かよく絡んでくる面倒な人物だった。

 

 むろん、男女の身体能力差があるから、向こうから何をされたとてどうということはない。だが、最初に拒絶の意思を見せた以上、お互いのために距離を取るべきだろうに。

 

 毎度そう告げているが、プライダスは何が目的なのか、セラフィに関わってこようとした。

 

『お前のような女、オレくらいしか受け入れたりはしないぞ? 大人しく従え』

『聖女候補筆頭とは、貴様のような愚物でもなれるのか。……おい、何か言え』

『お前の魂胆は分かっている。拒絶で気を引こうというのだろう? 無様だな』

 

 セラフィはずっと本気で関わりたくないと伝えているのに、プライダスは延々とこちらに寄ってきて迷惑だった。

 

 だから、テクトが現れた一件では、心底スカッとした。テクトが男なりにセラフィを守ってくれたのも嬉しかったし、あれ以来プライダスが近寄ってこなくなったのも快適だった。

 

 それでセラフィは、翌日にテクトたちとの三つ目の試練を控えた夜、ひとしきりテクトを想像し()()()、一息ついていた。

 

「ふぅ……。……またやっちゃった……。ごめんなさいテクトさん……」

 

 テクトで致すことの良くないところは、賢者タイムに入ると罪悪感が湧くところである。セラフィは下半身丸出しのまま、男子寮の方に向けて頭を下げる。

 

 その時、扉をノックされ、セラフィは慌てて布団を被った。

 

「なっ、何? ロザばぁ」

 

 扉越しに声を掛けると、親代わりのロザリンド司祭が、沈鬱そうな声でこう言った。

 

「セラフィ様……、なるべく身綺麗にして、一階においでなさい」

 

「え……? 何か、あったの?」

 

「いいですから……! 早く、おいでなさい」

 

 まるで、怒りを押し殺すような物言い。ロザリンド司祭がそんな風になったのを見たことがなくて、セラフィは不気味さに困惑した。

 

 ともかく、言われたからにはさっと室内で水浴びをし、準正装ほどの装いになって一階客間に訪れた。

 

 そこに居た面々に、セラフィは眉を顰める。

 

 ロザリンド司祭はいい。居るだろうと思っていた。

 

 だが、プライダスやその取り巻きの赤髪ポニテ、そして妙に偉そうな老女の存在に、セラフィは事態の異様さに気付く。

 

「セラフィ様……っ、こちらへ」

 

 司祭に呼ばれ、セラフィは動揺と共に司祭の隣に座った。すると、老女が言う。

 

「あなたが、次代聖女候補筆頭、セラフィ・ミゼリコルディアね」

 

「は、はい……」

 

「申し遅れました。私はコンスタンティン王立学園理事の一人、グリーディア・ギルディン・ジェノーヴァ。本日は彼、プライダス・ディ・フェラーラ様の告発で訪れました」

 

「告発……?」

 

 先日のゴタゴタを告げ口したか。そうセラフィは疑う。だが、アレは結局、セラフィに殴りかかろうとしたプライダスがテクトに転ばされただけのはずだが。

 

 そう当たりを付けようとするセラフィに、信じがたい言葉飛び込んできた。

 

「プライダス様は、セラフィ様、あなたに組み敷かれ、強引に姦淫された、と訴えています」

 

「……は……?」

 

 セラフィは、その言葉を理解するのに、ひどく苦労した。

 

 だってそんなの、何の心当たりもない。むしろ、自分は距離を取っていた側だというのに。

 

 しかし、グリーディア女史は続ける。

 

「聖女候補筆頭たる方が姦淫の罪を犯すとは、言語道断! それも、公爵家のプライダス様をなんて! 聖教会はあなたを破門し、その身は神に焼かれることとなるでしょう」

 

「え、いや、ち、ちが。ぼ、わたくしは、そんなことしていませ」

 

「この期に及んで言い訳ですかッ!」

 

 厳しく叱責され、セラフィは言葉を失うしかない。

 

 そこで、プライダスが顔を覆い、感情的に息を飲む。

 

「あんな、あんな屈辱は、初めてだった。魂を殺されたような、苦しみだった。女の膂力で組み敷かれ、オレは、なすすべもなくて」

 

「ああ! 可哀そうなプライダス様! もう大丈夫でございますからね! この忌まわしき聖女候補に、死罪を与えてやりましょうとも! 私にお任せを!」

 

 プライダスはひどく傷ついた様子で陳述する。セラフィは何が起こっているのか、まったく分からない。ただ、グリーディア女史が恍惚と正義に酔っている様を見せつけられる。

 

 そのとき、顔を覆う手の隙間から、プライダスの口元が嗤っていることに気付いた。

 

 それでやっと、理解するのだ。セラフィは今、冤罪に掛けられようとしているのだと。

 

「ぷ、プライダスさん、あなたは、まさかぼくを」

 

「っ! 何をするつもりだ! まさか聖魔法でオレたちを無力化し、もう一度この身を穢そうというのか!」

 

「っ!? そっ、そんなこと」

 

 セラフィが言うと、その手を赤髪ポニテが素早くつかみ、手錠型の拘束具をあてがった。

 

 ガチャリ、と施錠される。すると、体に虚脱感が現れる。赤髪ポニテが嗤っている。

 

「これは聖魔法をも拘束する、強力な魔法拘束具だ。これをもって、セラフィ・ミゼリコルディア。貴様を拘束する」

 

「――――ッ」

 

 セラフィは、視界が暗転するような感覚を抱く。

 

 そんな。これで人生終わり? プライダスの恨みを買ったから? 冤罪を証明する機会は? 家族と引き離されて、辛い修行を乗り越えて、なのにこれで終わり?

 

 ぐるぐると目が回る。人生が終わるのだと突きつけられ、それを企てた奴が目の前で笑っていて、被害者ぶられ、加害者に仕立て上げられて。

 

 セラフィは、椅子にもたれて、何もできなかった。全身から力が抜けてしまった。

 

 そうすると、最後にテクトの顔が思い浮かんだ。

 

 自然と、涙がこぼれた。身体が震える。下唇を噛んで、ポツリと呟く。

 

「ごめんなさい、テクトさん。手伝ってもらったのに、ぼく、全部無駄にしちゃった……」

 

 その時、ロザリンド司祭が動いた。

 

「―――このッ、大バカ者が!」

 

 パァンッ! と大きな音を立てて、司祭がセラフィの頬を平手で打った。セラフィはその勢いのあまり椅子から投げ出され転がる。

 

 そこに、鬼気迫る様子で司祭が迫る。襟首をつかんで、顔を寄せ、小さく囁く。

 

「セラフィ様、お逃げなさい。今すぐにです」

 

「え……?」

 

「まさかあなたが、とは思っていました。そしてこの場の雰囲気で分かりました。やっていないのでしょう? ならばお逃げなさい。名誉を汚され、ただ死ぬなど許しません」

 

「で、でも。ぼく、拘束されて」

 

「ぼくではなく、『わたくし』です。それに、その程度の拘束、覚醒した聖魔法の前にはさしたるものではございません。恐らく―――次の試練を越えた時、障害にもなりませんとも」

 

 セラフィの目に、光が灯る。ロザリンド司祭は、強い光を湛えた目で、セラフィを見つめ返している。

 

 もう一度腕を振りかぶりながら、言った。

 

「もう一度、大きく吹っ飛ばします。それを機に、逃げ延びるのです」

 

 そして腕が振るわれた。

 

「うじうじと言い訳を抜かすのを止めなさい! この、恥知らずが!」

 

 ドンっ、と鈍い衝撃と共に、セラフィはまた吹っ飛ばされる。

 

 痛い。だが――――動ける!

 

 セラフィは地面に手をつき、ドタドタとみっともなく走り、教会の裏手から逃げ出した。

 

「ちょっ、一応セラフィ様は裁判で裁く予定なのですから、この場で痛めつけすぎるのは困りもの……あっ、ちょっ!」

 

 そこでようやく事態を掴んだグリーディア女史が、困惑と共に叫ぶ。

 

「セラフィ様が逃げ出しています! 彼女を捕まえなさい!」

 

 内に外に、追手がかかる。セラフィはもう何が何やら分からないままに、ただひたすらに走り出した。

 

 外は雨だった。初夏ながら、冷たい風の吹く寒い夜だった。石畳の床を雨が打ち、雲間のない夜はひどく暗かった。

 

 それはセラフィの逃亡を隠すと同時、ほとんど着の身着のままのセラフィから、急激に体力を奪っていった。身体が冷え、かじかみ、それでも走った。

 

 何でこんなことをしているんだろう。セラフィは分からなかった。息は切れて苦しくて、雨は冷たくて痛いほどで、怖い声が後ろの方で無数に追ってきていて。

 

 二時間もそうやって彷徨って、セラフィはほとんど限界だった。どこに逃げても追手の火が眼前を照らす。なぜ自分が今も捕まっていないのか、それも分からないまま走る。

 

 だがついに、セラフィの僅かな体力が切れた。

 

 まるで糸が切れた人形のように、雨に濡れた道にセラフィは投げ出された。指一本動かなかった。これで終わりだと思った。

 

 何で抗ったんだろう。こんな辛い思いをするくらいなら、そのまま捕まってしまえばよかったのに。

 

 そんな風に諦めようとすると、何故かまた、テクトの顔が脳裏に浮かんだ。

 

 でも、もうダメだ。だって、体に何の力も入らないのだ。

 

 殺されるまでもなくセラフィは死ぬのだと、そう諦めかけた時だった。

 

「―――フィ? セラフィ!」

 

 雨の中、誰かがセラフィを呼んでいた。顔も動かないほどの疲労で、結局セラフィはひっぱりあげられて、その人物が誰かを知った。

 

「……てく、と、さん……?」

 

「セラフィ! ああ、良かった。もう大丈夫だ。逃走経路は確保してある。だから、どうか耐えてくれ……!」

 

 テクトは軽々とセラフィを担ぎあげ、そのまま駆け出す。セラフィは何もできないままに、テクトの背中で意識を落とした。

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