【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
寮父さんに呼ばれて男子寮の入り口に向かうと、ロザリンド司祭がいた。
外では激しい雨が降っていた。司祭はずぶ濡れだった。その様子に、ただ事ではないと感じて、問いかけた。
「セラフィに何かありましたか」
「はい。男性のあなたにもこんなことをお頼みするのは、大変心苦しいのですが、どうかセラフィ様のために、力をお貸しいただけませんか……!」
それで俺は、準備を手早く整えて、雨の街へと飛び出した。
司祭は俺以外にも、セラフィに関係のある人間全員に声をかけて回っているという。詳しい事情は聞いていないが、セラフィは今、冤罪に遭って逃げているのだと。
見つけた時、セラフィは水たまりに沈んでいて、今にも気絶してしまいそうなほど衰弱していた。
だから俺はセラフィをうまく隠して、シアの寮へと向かった。俺がセラフィを背負って現れると、ヘッダさんは何も言わずに裏手に案内してくれた。
「申し訳ございませんが、寮内で匿う事は出来かねます。ただし、それ以外の協力は惜しみません。イリューシア様もすでに、別口で手を回しています」
「なら、路銀をいくらか包んでもらえますか? しばらく学園を離れます」
「喜んで。テクトさんは言うまでもなく、セラフィ様もイリューシア様の大切なご友人でございますので」
俺はヘッダさんから路銀といくらかの食料を受け取り、それらをカバンに詰め込んだ。それから馬を借りようとした時、セラフィが目覚めた。
「テクト、さん……。あの、バイク、じゃないの……?」
「ああ。セラフィ、今かなりきついだろ。これ以上負担はかけられないから」
俺が言うと、セラフィは首を横に振った。
「寝て、少しだけ、気力戻ってきた、ので……。それに、馬よりもバイクのが、速い、し」
「……分かった。逃げるのも、バイクのが速いもんな」
俺たちは防寒、防水の魔法がかかった外套を借りて、バイクにまたがる。セラフィの両手には拘束具がついていたが、セラフィは「大丈夫、なので」と言った。
「主よ、……福音をもたらしたまえ」
鐘の音は鳴らなかった。光は差さなかった。だが、バイクは動き出した。
シアの庭から、俺はセラフィと二人で、バイクに乗って飛び出した。
学園寮のエリアから抜け出し、学生街に差し掛かる。そのまま街の城壁を越えて、街道を進んでいく。
激しい雨の夜で、追手は掛からなかった。
俺の腕の中で、セラフィはブルブルと震えていた。小さな手で、俺の腕に触れ、顔を寄せて泣いていた。
「ごめん、なさい。迷惑かけて、ごめんなさい……っ。ぼくの所為で、みんなに、テクトさんに、迷惑かけてしまって……っ」
「……迷惑なんて、思ってない。良いから、黙って休んでろ」
バイクで、夜の街道を慎重に駆け抜ける。これ以上の災いが、セラフィに降りかからないように。
数時間バイクを走らせると、中規模の街に差し掛かった。学生街よりも大きな街だ。村に下手に身を潜めたら、すぐに嗅ぎつけられそうだと考え、ここまで飛ばした。
夜の雨ともなると城壁を守る女兵士もかなり気が緩んでいるようで、バイクで正面から飛ばしたら「ひぃっ! 幽霊だ!」と止められなかった。
それで俺たちは街にまんまと入り込み、上手く陰になる場所にバイクを止めて、ちょうど空いていた宿を借りることに成功した。
「ふー、疲れた~……。セラフィは大丈夫か? 寒くないか?」
「はい……」
二人部屋。外套があってなお、びしょぴょに濡れた俺たちは、適当に服を暖炉の傍に吊るしていた。
ヘッダさんから路銀を大目に貰っておいて大正解だった。少しグレードの高い、暖炉付きの部屋は、体を冷やした俺たちにはぴったりだった。
その所為というか何というか、体を冷やすのも良くないという事で、二人して半裸で暖炉近くに身を寄せ合っているが……こんな状況だ。気にはするまい。
そう。俺は気にしないのだ。薄着でセラフィのえっぐいプロポーションが露わになっていることも。身体の華奢さに対して、やっぱおっぱいデカすぎだろというのも。
「それで、何があったんだ? 司祭様からは冤罪だってだけ聞いたけど」
俺が話を促すと、セラフィはぽつぽつと話し始めた。
「……その、プライダス、様がね」
その内容は、俺を激昂させるのに十分なものだった。
「―――は!? そんな、マジかよ……!」
冤罪。性犯罪の。男が女に。何の根拠もなく。しかも、求刑は死罪ときた。
前世でも、それ系の冤罪には怯える立場だった俺だ。電車とか両手上げて乗ってた。
だからこそ、怒りで震えた。先日いざこざはあったにしろ、それで人の命に届く強権を振るうのも、実際にそれで、セラフィがこうも追い詰められているのにも、納得いかなかった。
「ぼくが、悪かった、ので」
セラフィは、すすり泣きながら言った。
「ぼくが、調子に乗った、ので。プライダス様に逆らうような、ナマイキを言って。だから、こんなことに、なって。テクトさんにも、迷惑、かけて……!」
「―――そんなことないッ!」
俺は泣きじゃくるセラフィの手を取る。
「セラフィ、お前は悪くない! 悪いのはプライダスだろ! あのクソ野郎が、ムカついたからってセラフィに冤罪を吹っ掛けた! 悪いのはあいつと、それに乗った連中だ!」
「テクトさん……っ」
セラフィが怯えた目で、俺に両腕を伸ばしてくる。それに躊躇うほど、俺は臆病ではなかった。
俺はセラフィの手を取って、その体を抱きしめた。セラフィは息を飲んで、安堵に泣き始めた。その体はひどく冷たかった。暖炉にあたってなお、冷え切っていた。
許せない。許さない。プライダス。あのクソ野郎に、相応しい報いを受けさせる。
セラフィは、俺のバイクを直してくれた恩人だ。大切な友達だ。それを、こんなに追い詰めやがって。
だが、どうすればいい。敵を全員殺すか? と短慮に走りそうになるが、身分とは厄介なもので、報復が起こるような手ではダメだと考え直す。
そこで、部屋をノックする音が響いた。
「あ、誰、だろ……。店主さん、かな……」
「しっ。俺が様子を見る」
俺は足音を立てないように扉に近づく。それからドアに耳を付けて音を聞こうとした瞬間、扉が破られた。
「ッ!? 敵襲か! 何でバレ……え?」
俺は咄嗟にパイルバンカーを装着すべく暖炉に戻った瞬間、誰がこの場に現れたのかを知って、目を丸くする。
そこに居たのは、見知った顔だった。
だが、普段俺が接している相手の、誰でもなかった。
「よぉ、久しぶりだねぇテクト。あたしの男。そんなチビ女と乳繰り合うくらいなら、あたしと一晩どうだい?」
その人物は――――
「……青豹の、パンテラ?」
「えっ、誰? テクトさん、このガラの悪い人と知り合い……?」
青豹のパンテラ。以前倒した盗賊団の頭領。背も胸も尻もデカイ、青い髪をした獣人の大女。露わにした腹筋も、豹のように穴だらけのタイツも、記憶通りだ。
俺が呆気に取られていると、不敵な笑みを浮かべて、パンテラは言った。
「大体事情は聞いてるよ。あんたらに、起死回生の一手を授けに来た。ただし、貸し一だ。どうだい? 乗るかい?」
青のケダモノ、パンテラは、俺たちに悪魔の契約を吹っ掛ける。
6/20に、本作第一巻が発売予定!
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