【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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帰郷

 ずっとここに留まるわけにはいかない。

 

 そうセラフィが覚悟を決めたのは、それから数十分した頃だった。

 

「……セラフィ、もういいのか?」

 

 俺は、ただ無言でその場に座り込み、セラフィのことを待っていた。

 

 これは、セラフィの問題だ。だから無理に突き動かすことはできない。何より、無理にやったところで、セラフィの心が固まらないと活路がない。

 

 だから、セラフィが立ち上がったのを見て、俺は声をかけた。それにセラフィは、こう言った。

 

「よく、ない。何も良くない。最悪。ホント最悪」

 

「……うん」

 

 余裕がなくなって、素が出ている。セラフィの素は口が悪くて、臆病さが引っ込むから、分かりやすい。

 

「ぼく、この世界が嫌い。家族も、聖教会も嫌い。王女様も無神経だし、ロザばぁも厳しいし、プライダスなんか死んじゃえばいい。ぼくが強姦とか、バカみたいな冤罪……!」

 

 グチグチと、セラフィは吐き捨てる。両手をぎゅうと握り締めて、その腕をプルプルと振るわせて、それでも大声で叫ぶことすらできずに、愚痴を吐く。

 

「でも」

 

 セラフィの拳が開かれる。だらんと腕が揺れる。セラフィが顔を上げる。

 

 天使の輪のように頭上に輝く魔法陣が、光を増した。

 

「このままじゃ、ダメなので。テクトさんが、こんなところにいるなんて、ダメ。それも、ぼくに付き合わせて、こんな埃っぽいとこに居させて。それが一番、最悪」

 

「……俺は気にしてないぞ?」

 

「ぼくが最悪って言ったら、それが最悪なので」

 

 俺は肩を竦めて立ち上がる。小柄なセラフィは、疲れた笑みを浮かべて、俺を見上げる。

 

「テクトさん。ぼく、試練に挑むので。一緒に来て、くれますか?」

 

「今更そんな確認要らないって。ここまできたら、一蓮托生だ。やろうぜ、聖女様」

 

「あ、えと、まだ聖女じゃないので」

 

「この局面を乗り越えられた後で、セラフィが聖女になれないなんて思わないね」

 

 俺が言うと、セラフィは少しむず痒そうに身じろぎしてから、「うん」と頷いた。

 

「じゃあ、聖女に、なるので。……テクトさんが、言ったんだからね」

 

 俺たちは歩き出す。階段をのぼり、教会を出て、二人でバイクにまたがる。

 

 そして、発進した。

 

 暗視ゴーグルを被る。クラッチを開く。バイクが雨音を浴びながら、俺たちは疾走する。

 

 

 

 

 

 学生街にて、門番を務める衛兵は、篝火を見上げてあくびをかましていた。

 

 本当なら、非番の日だった。昨日は給料日だったから、酒場の看板息子にちょっかいを掛けるつもりだったのだ。

 

 だが、その計画も今は頓挫した。何故かといえば、学生街の最高権力者の一人、学園理事のグリーディア女史から招集の声がかかったからだ。

 

「こんな深夜に、いきなり仕事だなんてツイてないよねぇ」

 

「仕方ないでしょ。公爵家の嫡男がどーたらこーたらって話だよ」

 

「何よどーたらこーたらって。エロい話?」

 

「そうそう! 聖女候補様が公爵家嫡男に手を出したとかで、逃げてるから捕まえろって」

 

「うわ、そんな三文小説みたいな展開あるんだ。えっろ」

 

 集められるだけ集められて、特に何も異変がないとなれば、門兵の交わす会話などこんなもの。ただでさえ学生街は平穏な地域にあるから、平和ボケしているのだ。

 

「え、でもこの雨の中でしょ? うわー、捜索班大変そ~」

 

「数時間前に逃げ出したとかだったから、もう道々の捜索はやめて、関係者の女子寮周りを探してるって。誰かが匿ってるとしか思えない~とか言ってさ」

 

「それで捜索される側はたまったもんじゃないよねぇ」

 

 言いながら、壁に寄りかかる。すると「ちょっと、そこ修繕中」と手を引かれ、「ごめんごめん」と寄りかかるのを止める。

 

 衛兵の背後には、学生街を守る城壁の修繕箇所があった。以前に壁が一部崩れたとかで、足場を組んで修繕中なのだ。今は木で、仮組をしているところ。

 

 だが、そんなことは二人の興味を引くには足りない。二人はまた事件の話に戻る。

 

「アレ、でもまだ見つかってないの?」

 

「そ。それであたしたちは非番なのに駆り出されてるってワケ」

 

「うぇー、迷惑~。聖女候補だか何だか知らないけど、さっさと捕まって、あたしたちを解放して欲しいもんだよ」

 

「そうそう。今頃脱出目指して動いてるのかもだけど、こうして門は閉じてるワケだし」

 

 衛兵たちは門を見下ろす。夜になると、城塞に囲われた学生街は門を閉ざす。起こっている事件だけに、明日の朝になっても門は開かないだろう。逃げられはすまい。

 

 そんなことを言い合っていると、不意に門の外に、チカチカと光が見えた。

 

「んん? 何あれ」

 

 衛兵は目を凝らす。火の灯りではない。それよりももっと無機質な、弱い太陽のような光。

 

 それが、門の下に近づいてくる。かなり速いように、衛兵の目に映った。それで、衛兵はビクビクと震えだす。

 

「ね、ねぇ。アレ何か分かる? 何か近づいてきてない?」

 

「え? どれ? ……うわ、何アレ。近づいてきてる。近づいてきてるよ!」

 

 ブォン、と微かに音が聞こえてくる。光が向かってくる先は、ちょうど衛兵の足元辺り。

 

 衛兵は慌てて見下ろす。門の下には修繕のために組まれた足場や、仮設の傾斜坂がある。

 

 そこに、怪しい光が突進した。

 

 怪しい光が、一気に仮説の坂を駆け上がる。ブロロロロロ、と不可解な音を伴って迫りくる。そしてそのまま壁を登り、衛兵の眼前に現れた。

 

 それは、鉄の馬のようなものに乗った、二人組だった。運転手は男。そしてその腕の中にいるのは、聖教会の服を身に纏った―――

 

「おらぁぁあああああ! 壁、突破だぁぁあああああ!」

 

「キャー―――――! 怖いのでっ、怖いのでぇぇええええええ!」

 

 叫びをあげながら、鉄の馬に乗った二人は壁を越え、学生街の内部に着地する。勢いそのままに、学生街の奥へ奥へと駆けて行く。

 

「い、い、いま、今の」

 

「だっ、だよねっ。そうだよねっ」

 

 あまりの衝撃に動けなかった二人は、震えながらお互いに頷き合い、そして叫んだ。

 

「下手人発見! 下手人発見―――! 聖女候補の下手人は猛スピードで学生街に侵入した! 追え! 追え―――!」

 

 カァンカァンカァン! と警鐘を鳴らす。衛兵たちはこぞって馬や馬車に乗り、追跡に走り出した。

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