【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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車上跳梁

 着地は、見えていた。

 

 学生街に再侵入するのが、一番の鬼門だった。何せこの深夜だ。街を覆う高い城塞に、厳重な門。普通なら突破は不可能。

 

 だが運が俺たちに味方して、修繕中の仮設の足場を登って突入した。その過程で衛兵に見つかって追手がかかろうとしているが、どうせ追手は遅かれ早かれかかっていた。

 

 それで俺たちは宙に浮いていた。だが、着地に俺は心配をしていなかった。この辺りはちょうど城塞から下り坂が続いている。だから―――

 

「着、地ぃッ!」

 

「ひゃああああっ! あ、い、生きてる。生きてるぅぅぅう……!」

 

 俺の腕の中で、セラフィがガタガタと震えている。俺はそれに苦笑しつつも、バイクをそのままに走らせた。

 

 雨。地面は滑り、そもそも整備され切っていない道では速度は出しにくい。しかも視界は雨に夜と劣悪だ。無茶な走行はできない。

 

 俺は前方から無数の雨粒に襲われながら、セラフィに叫ぶ。

 

「まずは聖教会を目指すぞ! 不惑の試練の『なぜかたどり着けない』ってのを、実際に確かめに行こう!」

 

「う、うんっ! 行こっ、一緒に!」

 

 俺は出せる全速力で、雨の夜を駆け抜ける。

 

 学生街のことは分かっている。この路地をまっすぐ行けばあの路地に出る。あの大通りは校舎に続いている。

 

 何だかんだ、もう三か月は住んだ街だ。休日はよくみんなと遊びに出たのもあって、迷うことはない。

 

 ない、はずなのだが―――

 

「……? アレ、この道ってこんなに長かったっけ……?」

 

 深夜の夜闇。雨で視界は劣悪。だとしてもここまで迷うのは不自然だった。闇って言ったって、俺はそもそも暗視ゴーグルをしているのだし。ライトだって灯ってる。

 

「……。セラフィ、道分かるか? 何か、街の構造が、全然分からなくなってる」

 

「ぼ、ぼくも、なので。こ、ここ、どこ……? 歩いたことがあるはずなのに、分からない」

 

 それを聞いて、俺は確信する。なるほど、これが不惑の試練というワケだ。

 

 そこで、背後がうるさくなってくる。サイドミラーで確認すれば、複数の馬車が俺たちを追ってきている。

 

「そう悠長に走り回れはしないってか……! ま、想定通りだ。セラフィ!」

 

「なっ、なにっ?」

 

「追手が来てる! 追いつかれたらバイクに乗りながら戦闘だ! でも、セラフィには手出しはさせない。だから」

 

 俺は、にっと笑いかける。

 

「不惑の試練、乗り越えてくれよ。セラフィの迷いがなくなれば、それがゴールだ。俺はセラフィを守ることしかできない。覚悟を決めるのは、セラフィにしかできないからな」

 

「……っ。う、ん。……頑張る、ので」

 

「ああ、じゃあ―――始めるぜ」

 

 馬車がすぐ背後まで迫ってくる。女の衛兵たちが馬車から顔をのぞかせ、「止まれー! あなたたちには指名手配が掛かっている! 今すぐ停止せよ!」と告げる。

 

 それに俺は、ただ腕を振った。

 

 右腕が露出する。発動する魔導回路は氷。「メイ」と短く告げる。

 

「準備はいいか?」

 

『いつでもおーけー』

 

 俺はバイクを運転しながら、背後に振り返る。右腕を馬車に向け、獰猛に笑い、言った。

 

「さぁ、開戦だ」

 

 右腕から、秒間37.5発のボルトが放たれる。バババババッ、と激しい音が響く。

 

「ッ!? 何だそ、うわぁああああああ!?」

 

「車輪が撃たれた! くっ、気をつけろ! 下手人一味は妙なクロスボウを所持!」

 

 俺の狙い通り放たれたボルトが、馬車の車輪を瞬時に破壊する。馬車はガタンと動きを止め、馬が急激に勢いを止められて停止する。

 

「一台撃破っ! 土地勘が狂う以外に、試練の影響はないみたいだな!」

 

「何それぇっ!? テクトさんっ、前から思ってたけど、持ってる武器変だと思うのでっ!」

 

「ロマンだよロマン! 魔力もなくて素じゃまともに戦えない俺でも、どうにかこうにか戦うためのロマン武器だぁッ!」

 

 バイクを傾け、背後から突進してくる馬車を避ける。バイクは車体としては軽い部類に入る。車体のぶつけ合い、アタックで勝負はできない。

 

「チッ、避けられた! だが、近づいたぞ!」

 

「今だ! 網を投げろ!」

 

 並走してきた馬車が、俺たちに罠で出来た網を投げ広げてくる。絡めとられたら即横転。下手すればしっかり事故死。

 

 だから俺は、腕を振ってモードを変える。炎の魔導回路が起動する。

 

「その程度で、止められると思うなよッ! パイル、バンカーァァァアアアア!」

 

 パゴォォオオオオオン! と軽快な金属音が響く。杭が放たれ、有り余る炎熱が網を焼く。

 

「っ! 網が一瞬で燃やされた……ッ!?」

 

「くそっ! 馬車の幌に火が付いた! 停車しろ!」

 

「この雨だぞ! 気にするな! 追え! 追」「いや、止まっとけって」

 

 バババババッ、とマシンクロスボウで馬車の車輪を破壊する。停止した馬車が後方に置いていかれるのを見送って、俺はガシャコンとパイルバンカーを仕込み直す。

 

「て、テクトさん、すご……っ。戦闘慣れしてるのは知ってたけど、こんな強いの……っ?」

 

「ボチボチな。でも、油断はまだまだできないぜ」

 

 俺が言った途端、他の路地から「発見! 下手人発見!」「追跡隊に合流する!」と声を上げながら、また複数の馬車が現れる。

 

 仕方のないことだ。冤罪とはいえ、表向き罪人に手を貸すのはこういうこと。今この場で、この町のすべてが敵となるのだから。

 

 だがその時、ふと背後に、妙に豪華な装飾のされた馬車が現れたことに気付く。

 

「……もしかして、あれ」

 

 俺がぽつりとつぶやいた瞬間、馬車上の戸を開けて、ある人物が顔を出す。

 

「この期に及んで、往生際の悪い! 神妙にお縄につけ! セラフィ・ミゼリコルディア!」

 

「っ……! あいつ……!」

 

 セラフィが歯噛みして睨む。一方俺は「おうおう、お早い登場じゃねぇの」と不敵に笑う。

 

 雨に濡れてなお傲岸不遜。整った顔を怒りに歪ませ、奴は号令する。

 

「早く捕まえろ! このオレを侮辱した、あのまがい物の聖女候補を後悔させるのだ!」

 

 プライダス・ディ・フェラーラ。今回の発端。冤罪の仕掛け人。被害者面のクソヤロウ。

 

 俺はただ、震えるほど怒りを露にするセラフィの肩に触れ、「集中しろ」と告げる。

 

「あんなクソは、お前の敵じゃない。セラフィの敵は自分自身。不惑の試練だけだ。あの程度の奴には―――俺で十分だってな」

 

 俺は雨に濡れたゴーグルを拭う。セラフィは強く歯を食いしばり、手を組んだ。

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