【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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プライダスの傲慢

 フェラーラ公爵家嫡男。プライダス・ディ・フェラーラの人生は極めて困難なものだった。

 

 類まれなる美貌に、高い身長、身分。男という性別に生まれたことを後悔するほどに、女という羽虫が寄りついて回る人生だった。

 

 幼少期から、ちょっと目が合えば女を魅了してやまず、不躾な女に近寄られ「好きです!」だの「プライダス様に従わせてください!」だのと迫られ、辟易してきた。

 

 だから、プライダスは女に容赦しなかった。

 

 女は男の人生を侵略し、自由からかけ離れた生活を強いる加害者である。故にプライダスは、女から性欲を向けられたと感じた時、その分の被害を徹底的に返すことにしていた。

 

 やり方は簡単だ。

 

 プライダス自ら暴力を振るう必要などない。プライダスの周りを取り巻く、他の女に比べれば少しマシな連中に「あの女がオレにこんな気持ちの悪いことをしてきた」と言うだけだ。

 

 プライダスは、自分に性欲を向けてきた女が、自分の取り巻きたちに叩きのめされるのを見るのが好きだった。お前如きが身の程を知れ、と半笑いで眺めるのだ。

 

 そんなプライダスの人生に転機が訪れたのは、コンスタンティン王立学園入学後。聖女候補筆頭と言われる女との出会いの時だった。

 

 プライダスは女に欠片の興味もなかったが、フェラーラ公爵家が聖教会と仲良くしている。だからいずれ権力を握るだろう、聖教会の女とは仲良くせよと言われたのだ。

 

 それで適当に、その聖女候補筆頭、セラフィ・ミゼリコルディアに挨拶した。どうせこいつもオレを見れば、教会の聖性も忘れて欲情するのだろう、と。

 

 だが、セラフィはプライダスを拒絶した。

 

『しょ、初対面で敬意に欠ける方とは、接しとうございません。では、わたくしはこれで』

 

『な……っ』

 

 初めてだった。女に拒絶されたことなど、この人生で一度もなかった。

 

 たから、プライダスはその衝撃をしばらく受け止められなかった。必死に、何故そんなことになったのかを考え、数日後にやっと、結論が出た。

 

『……そうか。照れ隠し、というヤツか。ふ、流石、聖女候補筆頭と言われるだけはある。中々貞淑ではないか』

 

 プライダスは女から性欲を向けられるのが嫌いだ。だから、それを隠そうとするセラフィに、初めて女相手で好印象を受けた。

 

 だから、セラフィが素直になれるように、優遇してやった。

 

『お前のような女、オレくらいしか受け入れたりはしないぞ? 大人しく従え』

『聖女候補筆頭とは、貴様のような愚物でもなれるのか。……おい、何か言え』

『お前の魂胆は分かっている。拒絶で気を引こうというのだろう? 無様だな』

 

 多少言葉に棘があったかもしれないが、この程度を気にするようなつまらない女は、こちらから願い下げだ。セラフィはそんな女ではなかろう。

 

 しかしセラフィは、ずっとプライダスにツレなかった。そんな対応を取られる度に『貞淑にもちょうどいい塩梅というものがあろうが……っ』とプライダスは苛立った。

 

 しかしそれも込み込みで、プライダスはセラフィとの逢瀬を楽しんでいたのだ。

 

 だが、それは終わることとなる。

 

『とりあえず、この手放せよ。嫌がってんだろ』

 

 突如現れた、下級貴族の男。奴は不遜にもプライダスに歯向かい、セラフィとの逢瀬を邪魔してきた。

 

 無論、そんなもの本来なら相手にもならない。だが奇妙なことに、その男はアイギス・グロリア・アラゴニアの後ろ盾を有していて、脅しでは手が出せなかった。

 

 それで取り巻きの女が対処しようとしたら、事態はもつれにもつれ―――最終的に、セラフィがプライダスに言ったのだ。

 

『プライダスサマも、そろそろ懲りてもらえる? 性悪高身長美男子って確かに重要あるけど、ぼくの好みじゃないので。従えてる取り巻きもパッとしないし』

 

 それは、プライダスの人生のすべてを侮辱するような、悪魔のような言葉だった。

 

 こんなことをオレに言う女に、オレは入れ上げていたのか。プライダスは激昂した。だから殴り掛かった。殴り殺さねば気が済まなかった。

 

 だが、それを名も知らぬ下級貴族の男が止めた。

 

 プライダスは転び、人生で味わったことのない様な、激しい苦痛に襲われた。そんなプライダスを心配する様子一つ見せずに、セラフィたちは去っていった。

 

 許せなかった。プライダスは人生最大の苦痛を負わされた。だから、セラフィの人生最大の苦痛を追わせてやろうと考えた。

 

 それで、強引に襲われた、という嘘を吐いたのだ。後悔させてやりたい一心だった。

 

 学園理事はそれに激昂した。あれよあれよという間に話がまとまり、セラフィは確保次第死罪に処すという事が決まった。

 

 殺すのか、と少し驚きはしたが、オレにあれだけの苦痛を味わわせたのだ、当然か、と納得した。それで聖教会に訪れ、罠に嵌め、拘束し、あとは牢屋に入れ処刑するだけとなった。

 

 しかし、そうならなかった。セラフィは這う這うの体で逃げ出したのだ。

 

 まぁそれならそれでいいと思った。無様に逃げる様が滑稽で、ある程度溜飲が下がったからだ。どうせすぐ掴まるか、逃げ延びても物乞いとして人生を終えるに違いない、と。

 

 あとはまぁ、何だ。次はあの名も知らぬ下級貴族男子も追い詰めるか、なんて思っていた。

 

 なのに。

 

「なのにッ! どうして貴様らはッ! のうのうと姿を現したぁッ!」

 

「あいつ隙だらけだしぶっ殺してやろうかな」

 

 プライダスが叫ぶと、下級男子がうんざりした表情で呟いた。

 

 それに、プライダスは激昂する。「貴様如きにそれができると思うのかッ!」と叫びながら、馬車内に控える取り巻き―――赤髪ポニテの少女、ランスベルに命じる。

 

「剣を持て! 奴はこの手で葬ってくれる!」

 

「っ? しかしプライダス様、危険です! ここは我々にお任せを」

 

「おい……! ランスベル。貴様オレに歯向かうのか?」

 

 ドスを利かせると、ランスベルは息を飲んで跪く。

 

「し、失礼いたしました。プライダス様の愛剣、グランド・ヴィクトリアでございます」

 

 ランスベルが、プライダスに大剣を献上する。それに満足したプライダスは、受け取って肩に担いだ。

 

 プライダスは見た目通りの偉丈夫である。鍛えたこともないし碌に訓練もしたことはなかったが、才能ひとつで大剣を振り回すことができ、その実力は女すら圧倒する。

 

「さぁ、この手で捻りつぶしてくれる! おい! 馬車を寄せろ!」

 

「総員! プライダス様が下手人の処断をお望みだ! 下手人を捕縛し、抵抗も回避もできないように追い込めぇッ!」

 

 プライダスの呼応するように、ランスベルが号令を出す。衛兵たちは、「誰?」「被害者の公爵嫡男」「え、普通ヤられたらこんな表出てこなくない?」と言い合いながら馬車を駆る。

 

「やらせるかよッ!」

 

 下級男子は腕のクロスボウ(あんな連射できるクロスボウがあるのか?)か放たれる矢で抵抗するが、それを遥かに上回るほどに、追手の馬車が集結している。

 

 当然だ。連中は罪人。ただプライダス陣営と戦っているのとはわけが違う。この学生街の、すべてが奴の敵として立ちはだかっているのだから。

 

「チッ、流石に数が多いな……!」

 

 それを理解しているらしく、下級男子はボルトをまき散らしながらも細い路地に入って行く。プライダスは消えた下級男子に、舌を打つ。

 

「ランスベル! 奴らが消えたぞ! どうにかしろ!」

 

「下手人は路地より迂回した模様! 推定一番通り、二番通り、三番通りに現れることが予見される! 先回りしろ!」

 

 ランスベルの号令を受けて、馬車が散っていく。プライダスが鼻を鳴らすと、ランスベルが「これでまた、すぐに捕捉できるはずです、プライダス様」と笑みと共に言う。

 

 それがウザったくて、プライダスはランスベルを蹴りつけた。

 

「この程度で誇るな。オレの取り巻きなら、この程度全員出来る。早く連中をオレの前に刺しだせッ! それができないなら、傍付きを解いてやるぞ!」

 

「ッ、し、失礼いたしました。総員! 急げ! ああ、もう! 御者、代われ!」

 

 ランスベルは御者を引っ込ませて、自ら手綱を握ってプライダスの馬車を繰った。激しく雨に打たれ、寒さに震えるが、果敢に馬を操る。

 

 そうして、プライダスの的確な指示により、すぐにまたプライダスたちはセラフィたちを捕捉した。「はぁっ?」と下級男子が声を上げ、プライダスは勝ち誇る。

 

「一丁前に逃げたつもりだったようだな、下級貴族風情が! だが、これが生まれの差! 遺伝子の優秀さの差だ! このまま貴様を追い詰めてくれる!」

 

 セラフィたちを、いくつかの馬車が囲うように走る。そのどれもが、網を構えて一斉に捕獲に掛かろうとする。

 

 下級男子がクロスボウで一つまた一つ度馬車を落としていくが、その程度では追いつかない。

 

「さぁ、お縄につけ! セラフィ・ミゼリコルディア!」

 

「総員、投げ―――ッ!」

 

 プライダスが勝利宣言をし、ランスベルが号令を掛けようとした瞬間だった。

 

 プライダスの前の馬車が、不自然に止まる。

 

「っ!?」

 

 異様な動きだった。クロスボウに撃たれたわけでもないのに急に止まり、プライダスたちの馬車に激突しようとした。

 

 慌ててランスベルが馬を操作し、衝突を避ける。プライダスは揺れ、「ランスベル! 貴様オレに怪我をさせるつもりか!」と責める。

 

「もっ、申し訳ございません! い、今の馬車は何で止まった……?」

 

 ランスベルが違和感にか呟く。

 

 しかし、それでは止まらなかった。

 

 下級男子のクロスボウとは別。撃たれてもいないのに、馬車が次々に急停止し、プライダスたちの前に立ちふさがる。ランスベルはそれを巧みに躱しながら困惑を示す。

 

 そこで、ランスベルへと、何かが襲い来た。

 

「――――ッ!? 槍よ!」

 

 ランスベルが血統魔法で出現させた馬上槍で、攻撃をいなす。それに、跳躍し襲い来た影が「わ」と暢気な驚きの声を上げた。

 

「この視界最悪環境で、わたしの奇襲を凌ぐとはやるね。自信失っちゃうな~」

 

「貴様、何者だッ!」

 

「名乗るワケないでしょ~! 強いて言うなら~」

 

 顔を隠した襲撃者が、くるりと手元で刀を回す。

 

「『最弱』でも頑張る、健気なお姉ちゃんだよ~っ!」

 

 ギィンッ! と鍔迫り合いに金属音が響く。対人戦闘なら学年でもトップ争いをするランスベル相手にこうも優位を取るこの女は、何者だとプライダスは思う。

 

「くっ、だが、貴様の剣は弱い! 不意打ちでもなければ怖くはな―――」

 

「知ってるよ。だから不意打ち専門なんだよね~、わたし。フリーズ」

 

「ぐっ」

 

 降りしきる雨が襲撃者の汎用魔法で、氷の矢となってランスベルを襲う。

 

「こ、ぐぅっ、この、程度でぇ!」

 

「この程度でも人間は、冷静さを失うってね。学年トップレベルでも……私の捨て身の一撃なら、落馬しちゃうくらい」

 

「な――――」

 

 隙を突いて、襲撃者は刀でランスベルの袖を絡めとった。その所為で得物は無力化。からの体当たりで、馬車から二人で落ちていく。

 

「パンテラさんに貸し作ってまで、ここまでひっくり返したんだもん。あなたみたいな怖い使い手は、ここで退場願うよ」

 

「待て、やめっ、貴様ぁぁあああ!」

 

 落馬。プライダスはその激しい戦闘に、息を飲んで動けない。

 

「な、な、な、なん、だ。何だ、今のは! ランスベル! ランスベル!? クソッ、あの無能が! 貴様もはやく御者台に戻れ!」

 

 プライダスに蹴られ、御者が慌てて御者台に戻り、馬の制御を取り戻す。

 

 それで事故だけは辛うじて避けるが、速度は落ちるし、馬車同士の連携もガタガタだ。

 

 そこに畳みかけるように、状況は悪化する。

 

「止まりなさい、プライダス・ディ・フェラーラ! あなたには今、虚偽の罪を無辜の民に着せた疑いがかかっています!」

 

 プライダスが振り返る。そこには、自陣営でない馬車の数々が、後方から追ってきていた。

 

「っ!? 何だ。何故この件に、第三王女が絡んでくる!」

 

 イリューシア・ファラーチェ・コンスタンティン第三王女。プライダスと同じクラスでありながら、同性愛者との噂ですり寄ってくることのなかった女。プライダスの興味の外の輩。

 

 学園内においてはプライダスよりも発言力に劣るが、学外においては若い身の上ながら公務に携わり、信用を得ている。ことこの場においては、非常に厄介な相手だ。

 

「チィッ! 奴が何でここに……! だが、そんなもの関係ない! この手にセラフィ・ミゼリコルディアを確保すれば、後はどうとでもなる!」

 

 プライダスは顔を歪ませながら、負け惜しみのように叫ぶ。

 

 その視線の先では、周囲を取り囲む馬車をクロスボウで退けながら、セラフィを載せた鉄の馬が聖教会へと向かっていた。




6/20発売日まであと2日!
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