【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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その少年

 結局その後、罪悪感に飲まれたプライダスは、セラフィに冤罪を着せようとしたことを己で自白した。

 

「オレは、オレはゴミだ……ッ! ゴミ以下の存在だ……ッ! 尊き主の使徒であるセラフィ様に、何と、何ということを……ッ!」

 

 プライダスの協力者、学園理事のグリーディア女史は、最初セラフィを疑ったが、結局当の本人がこう言っている以上、どうにもできずに退却した。

 

 シアが後ろ盾にいたのも大きいだろう。シアはロザリンド司祭から連絡を受けた時点で方々の有力者に手を回していて、グリーディア女史を退けるだけの包囲網を形成していた。

 

 そうして、セラフィの冤罪事件は、始まったその日の内に収束した。そのお陰で関係者以外にはほとんど話も漏れず、セラフィの外聞にも影響がなかった。

 

 プライダスはその後、罪悪感から抜け出すことができず、そのまま自主退学したという。一人息子なのにも関わらず、出家して廃人同然に昼夜問わず懺悔していると。

 

 だから幸運にも、あの夜以前と以後で、身の回りには何の変化も起こらなかった。

 

 ……唯一の例外を除けば。

 

「テクトさん♡ あーん♡」

 

「あ、あーん……」

 

 昼休み。昼食。中庭。俺はべったりくっつくセラフィに口を開け、食べ物をあーんされていた。

 

「「ッ……!」」「はぁ~……」

 

 それを見て、動揺するのがウィズ、アイギスだ。一方シアは頭を抱えている。

 

「いや、助けましたわ。助けましたけれどね? やっぱりこうなりましたか……」

 

「王女様! 何ですかこれ! 何で聖女候補様があんな甘々になってるんですか!?」

 

「イリューシア! 説明しなさい! 昨日と今日で何があったのよ! どゆこと!?」

 

 二人がシアに詰め寄っている。シアは「話すと長くなるんですが……」と話し出す。

 

 するとそこで、セラフィに対抗するのがメイだ。

 

「ん~! セラフィだけご主人とイチャイチャしてずるい! メイもイチャイチャする!」

 

「わっ、出たな! おこちゃまは引っ込んでるのがお似合いなので!」

 

「生まれてからの期間なら、ワタシの圧勝!」

 

「うるさいのでっ、このロリババア!」

 

 セラフィとメイが俺の上で押し合いを始める。子供のケンカという感じで、見ている分には微笑ましいが……。

 

 そんな風にもみくちゃになっていると、二人の襟首をつかんで持ち上げる者が現れる。

 

「二人とも~? ケンカはいいけど、テッ君を巻き込まないでもらえるかな~?」

 

「「……ひゃい」」

 

 五ねぇの圧で、二人は黙る。俺に関わることだけは影響力あるよな、と俺は五ねぇを見る。

 

 それから、俺は改めてみんなを見た。

 

 シアの説明にウィズは愕然とし、アイギスは額を押さえて空を仰いでいる。五ねぇに襟首を掴まれたメイとセラフィが、ぺいっとその辺に捨てられている。

 

 それから俺はしみじみとこう思うのだ。

 

 ――――俺の婚活、微塵も進捗がなかった、と。

 

 確かに仲のいい女の子はできた。だが全員身分違いか、結婚とかじゃない関係性かのどちらかだ。

 

 俺は考える。俺の考えが悪かったのだろうかと。

 

 いや、そんなことはない。みんなは友達としては、かなり俺を好いてくれている。無論身分が遠いから友情としての好意だろうが、それは確かなはずだ。

 

 しかし、だとすれば何が悪いのか。出会いか。出会う相手に騎士の娘とか男爵の娘とかがいないのが問題か。いや男爵の娘もちょっと手が届かないか。

 

 所詮は騎士家の男。領地貴族とは格が一段違う。みんなのことは好きだが、結婚できないのでは婚活にとっては意味がない。

 

「……十人。十人、なぁ……」

 

 進捗ゼロ人。女の子を守れる男としてはどれほどか。だがこのままだと、学園卒業後は独身、税率十倍の生活苦。

 

「……もう夏かぁ……」

 

 セラフィの一件が終わり、もうすぐ期末テストがある。それを乗り越えたら、ついには夏休み。帰省したりみんなと遊んだり色々だ。

 

 そして夏は恋の季節。だが夏で恋を成就させるには、一学期中に種を撒いてあるのが必須。

 

「……無理かなぁ……」

 

 二学期に賭けよう。今回の夏はみんなと楽しく遊んで現実逃避しよう。

 

 そう決めて、俺は立ち上がり、みんなの輪へと加わっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、とある執務室だった。

 

 デスクでは、年若い少年が作業をしていた。紺色のくねる髪。天然パーマの髪を、手癖のように指でいじりながら作業している。

 

 彼は紙面を眺めてはハンコを押した。許可を出す作業は、学園における王族特有のもの。

 

 紺色の天然パーマの少年は、王族であった。

 

 そんな執務室に、コンコン、とノックがされる。少年が顔を上げた先では、すでに人物が一人立っている。

 

「やぁ、王子サマ。お使いが終わったよ」

 

「ああ、お疲れ。報酬はそこの小箱まるごと持ってけ、パンテラ」

 

 パンテラ。凄腕の盗賊、青豹のパンテラである。鮮烈な青髪に、丸い穴がいくつも空いた豹を思わせる履物の女傑。そんな彼女が、羊皮紙のリストを少年の前に置く。

 

「何だい、ツレないねぇ。もう少し媚びて機嫌を取ってくれたら、報酬が安くても悪い顔はしないのに」

 

「報酬を確認してから言うんだな」

 

 少年の言い返しに、パンテラは拗ねた顔で指定した小箱を開け「おぉ! 大盤振る舞いだねぇ。懐が寂しくなってたところさ。助かるよ」と胸の谷間に仕舞った。

 

 それから、パンテラは言う。

 

「もっとも、あたしにも好きな男が出来たんでね。色仕掛けにはもう乗ってやれないよ」

 

「へぇ? それはどこのどいつだ」

 

「そこの報告書にも載ってる奴さ。囲ってる女のメンツを見たら、あんたでも目ん玉飛び出して驚くことだろうね」

 

 少年はリストを手に取る。リストに書かれている名前は、すべてコンスタンティン王立学園の学生のものだ。

 

 リストはすべて、男子生徒名、その詳細情報、その男子の取り巻き女子、その詳細情報の順で記載されている。

 

「学生か。名は」

 

「プロテクルス・ガーランド。要チェックだと思って該当ページに折り目を付けておいた。一年だから後ろの方だよ」

 

 少年はページをめくる。パンテラはどこかうっとりとした様子で語る。

 

「今でもありありと思い出せるよ。―――有力盗賊団の潜入任務。違法奴隷の扱いも厭わない悪党どもの砦で、やりすぎて盗賊団を乗っ取っちまった、あの砦で出会ったのさ」

 

「ああ。最近崩壊したあの? あの時は笑ったな。『部下が奴隷をさっさと売れってせっついてくるんだよぉ!』なんて泣きごとを聞くことになるとは」

 

「あたしがするのは、ちょっとした盗みと暴力くらいさ。殺しもクスリも人の売り買いもしない主義でね。誤魔化すのが大変だったったら」

 

 そこで、少年は該当ページを見つけた。プロテクルス・ガーランド。騎士家の一人息子? と訝りながら、取り巻き女子の情報を確認していく。

 

 そして、噴き出した。

 

「ぷっ、はははははっ! 何だこれは! 騎士の息子が王族と聖女候補筆頭を落としているのか!? しかもイリューシアとは、妹たちの中でも気難し屋だぞ」

 

 くくっ、と少年は笑う。指でくるくると、紺色の天然パーマをいじる。

 

 それから、少年は言った。

 

「私と同じニオイがするな。()()()()()()()()、あるのは女を囲わなければ重税という重荷ばかり。追い詰められた挙句に必死で知恵を巡らせ、どうにか足掻く男のニオイだ」

 

「ハッ。かもしれないねぇ。そういう男は、凡百の男どもとは隔絶した良い男に育つもんさ。テクトはあんたとも、また違った良い男だったよ」

 

 パンテラは少年に目を向け、その名を呼んだ。

 

「―――第二王子、チャーミリング・レジナルド・コンスタンティン」

 

 少年、チャーミリングは、影のある蠱惑的な目でパンテラを見る。その目で見られると、テクトに決めたパンテラの心すら、揺らぎそうになる。

 

「面白い」

 

 チャーミリングは背もたれにゆっくりともたれかかり、心底愉快そうに笑う。

 

「次男連中を真っ先に抑えるつもりだったが……やめだ。おい、パンテラ。そのテクト何某とか言うのをウチに取り込むぞ。報酬にお前とそいつの仲を取り持ってやる」

 

「はっはっは! その手には乗らないよ。あたしはあたしで、上手く立ち回ってるのさ。これ以上惚れた男以外に、媚びを売るつもりもないんでね」

 

 パンテラはくるりと踵を返す。

 

「もし取り込むんなら、早めにツバを付けておくんだよ。テクトは必ず大物になるから」

 

 ふっ、とまるで影も形もなかったかのように、パンテラは姿を消した。それに口を曲げ、チャーミリングは肩を竦める。

 

「あのパンテラにそこまで言わせるとはな。そういえばそろそろ夏休みだったか……」

 

 そして、少年は、不敵に笑うのだ。

 

「なら、時間は大いにある。悪だくみにはもってこいだ」

 

 第二王子、チャーミリングは企みを始める。

 

 テクトのささやかな婚活計画をよそに、テクトを渦巻く運命は、さらなる広がりを見せるのだった。




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