【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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蛍火デコイとヤドリギの髪飾り
港町の夜


 コンスタンティン王立学園に入学し早三か月半ほど。学園は夏休みに差し掛かっていた。

 

「……暑い」

 

 期末テストを前に、みんなでひーこら言ったのはいい思い出。夏の解放感にテンション爆上がりだった俺たちは、喜び勇んで夏の準備に取り掛かった。

 

「次の宿の候補は……ここか。ごめんくださーい!」

 

 基本みんなで遊びたいな、という約束を交わしつつ、ひとまず取り掛かるのは帰省準備。何のかんのと言って、実家で数日くらいはゆっくりしたかったのだ。

 

「あ、ダメ。部屋が空いてない……。ありがとうございます。くっそー! ここもか!」

 

 それでここ、交通の要所、港町ジェノーヴァにたどり着いたのが、今日のだいたい昼過ぎ。本当は五ねぇも連れてきたかったが、他の姉に訓練で確保されたのであえなく断念。

 

「えーと……? ここの通りはこれで最後。他の通りは、ここと、ここと、ここで……」

 

 みんなそれぞれの帰路に着くということで解散して、じゃあ俺も、と実家行きの船へと向かったところで、最悪のアクシデントが待っていた。

 

「で、全部ダメだった……と。つまり、うん、アレだな」

 

『残念だがこの便は出ないぞ。航路にクラーケンが出た。迂回するなら別の船に乗れ』

 

「詰んだな。今日は野宿だ!」

 

 そして実家への道を失い、かつ今の込み合う時期で宿も全滅した俺は、見事夜の港町で、お手上げのポーズをとっていた。

 

 時間は夜九時を回ったところ。身寄りのない栄えた港町で、友達も全滅し、孤立無援での出来事だった。

 

「終わった~ははは」

 

 もはや笑うしかないと思いながら、俺は一人、夜の道を歩いていく。

 

 まさか十人近い面々と一緒に行動して、たった数時間でこんな孤独に苛まれるとは思わなんだ。唯一孤独を癒してくれるはずのメイも、夜になって寝てるし。と指輪を見る。

 

 俺はため息をつきながら、トボトボと港町のタイル張りの道を進んだ。

 

 実家への道だが、迂回路で計算すれば、夏休み明けまでに学園へ戻れない。今回は縁がなかったと諦める外ないだろう。適当に手紙でも出して終わりだ。

 

「はぁ~……これからどうしよ。いや、別に野宿くらいで今更ガタガタ言わないけどさ」

 

 かつてはガーランド家の高強度訓練を乗り越えた身である。野宿なんて可愛いもので、水も蓋一つ分飲めればいい方、という地獄に比べれば何のその。

 

 とはいえ、だ。知らん町でアテのない状態というのは、やはり不安なもので。

 

「帰省から帰ってきたタイミングで合流して、夏はしばらくここで遊ぼうって話をしてたんだよな……。となると、元の馬車に乗って学園に一人帰るってのも……」

 

 まぁ、ナシだろ。そういう結論になる。そもそも今の時間で出てる馬車とかないし。

 

 しかし、じゃあ適当な公園で野宿野宿、と気軽に動くのも考えもので。

 

「……こんな夜に、男一人か……」「不用心ね……」「なぁ、あの男、結構……」

 

「……自意識過剰じゃなきゃ、狙われてる感じがするな」

 

 夜一人で歩いて感じるのは、周囲からの視線である。

 

 それもそのはず。この世界は男女比1:30の貞操逆転世界。性的に狙われるのは男なのだ。

 

 セクハラするのは女、されるのは男。襲うのは女、襲われるのは男。働いて稼いで養うのは女、養われ子を育てるのは男。

 

 一方で俺は、前世に日本人の記憶を有する元日本男児。なりたいのは『女の子を守れる男』。女の子しか魔力のないこの世界では、無理難題。

 

 だがこの無理難題を成し遂げなければ、嫁十人のハーレムを成し遂げられず、重税でつぶれる未来が待っている。何故なら俺は騎士家の男。嫁いでくる嫁なんていないから。

 

「……海辺に戻ってきちまった」

 

 ザァア……と穏やかに打ち付ける波の音を聞きながら、夜の海を眺める。

 

 海風が強く吹く中でも、真っ暗な水平線は変わらず、ほぼまっすぐに伸びている。

 

 遠い目で、どこで野宿しようか……なんて考えていると、不意に声を掛けられた。

 

「おっ?♡ なぁ~そこの坊ちゃん。こんな時間に、こんな場所でどうしたのよ~……♡」

 

 見れば女船乗りらしき人物が、俺に声をかけてくる。鼻の下が伸びて、下心が丸見えだ。

 

「……あ、えーと……宿が見つからなくて」

 

「宿ぉ? 可哀そうに~……♡ ならぁ、おばさんの家に泊まるかぁい?♡」

 

「あー……うーん……」

 

 前世の感覚で言えば、逆ナンなんて嬉しい出来事に入るんだが、こうも露骨に下心満載で近寄られると、流石に引くものがある。三十歳は確実に年上の風貌だ。

 

 思えばいつも身内が傍にいて、牽制の目で守ってくれていた。流石に帰省ともなると、みんな移動スケジュールが厳しく、それどころではなかったのが運の尽き。

 

 それでどうしたものかな、と考えていると、「ん?」と横から声が上がった。

 

「どこかで見た顔だな、と思ったら、お前、プロテクルス・ガーランドだな?」

 

「はい?」

 

 俺がキョトンと声の元を見ると、見慣れない二人組が魔道ランタンの光の中に現れた。

 

 まず目についたのは、身長二メートルを超える偉丈()だった。

 

 全身に鎧をまとい、肩に担ぐ巨大な戦槌は、いるだけで一種の威圧となる。ゴツゴツとした無骨な顔は、女性というよりも武人のそれだ。

 

 だが、俺に声をかけたのは、その偉丈婦ではなかった。

 

 偉丈婦よりもずっと小柄。俺よりもわずかに身長の小さいくらいの、どこか妖艶な少年が、俺のことを見つめていた。特徴的なのは、紺色の天然パーマに、高級そうな服か。

 

 偉丈婦の登場で、俺に声をかけてきた女船乗りが「ひっ、ひぃ!」と逃げていく。それに一瞥してから、少年は続けた。

 

「こんな夜に、男一人で何をしている。危険だぞ、今のようにな」

 

「あ、えーと。帰省に乗る予定だった船が、クラーケンで出せないとかになったらしくて」

 

「ああ、なるほど。それは災難だったな」

 

 少年は同情したような目を向けてくる。一方偉丈婦は、無言で周囲を見回し警戒を続けるばかり。

 

 俺は居心地が悪くなって、「その……」と声をかける。

 

「助けてもらったところ悪いんですけど、あなたは……?」

 

 俺の問いに「ああ、そうか。こんな暗がりでは分からんか。申し訳ない」と少年は言う。

 

「改めて、自己紹介させてくれ。私はチャーミリング・レジナルド・コンスタンティン」

 

 コンスタンティン? と俺は怪訝な顔になる。

 

 苗字にコンスタンティンを冠するのは、この国ではたった一家系のみ。つまり―――

 

「コンスタンティン王国の、第二王子だ。妹のイリューシアが世話になっているようだな。プロテクルス・ガーランド」

 

「……はい」

 

 シアに続く、二人目に出会った王族に、俺は助けられたようだった。




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