【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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チャミーの邸宅

 毎度第二王子が「プロテクルス・ガーランド」とフルネームで呼んでくるので「テクトでいいですよ」と言うと、「じゃあ私のこともチャミーでいい」とか言いだした。

 

「……チャミーですか」

 

「ああ。よろしく頼むぞテクト。それと妹と仲良くしているようだし、私もタメ語でいい」

 

「マジかよ」

 

 兄妹揃って距離の詰め方が早い。そう思いながら、俺はチャミーの案内で廊下を歩く。

 

 連れてこられた、チャミーの邸宅でのことだった。

 

 チャミーの邸宅は流石王族というべきか、かなり大きなものだった。それこそ今まで訪ねて全滅した宿を、全部合わせたくらいのサイズ感だ。デカすぎる。

 

 港町らしいというか、観光地らしいというか、どこも小ざっぱりとしていて爽快感のある造りの邸宅だった。暖色のタイルや白い壁が、南国感を抱かせる。

 

 そんな風にまじまじと眺めていると、チャミーは立ち止まり扉を開けた。

 

「ひとまず、しばらくはこの部屋に泊まっていけ」

 

「うぉぉおおおお!」

 

 案内されたのは、巨大な部屋だった。

 

 一泊ウン十万とかしそうな高級リゾートの一室。そんな雰囲気の部屋だった。様々な調度品の数々や、キングサイズのベッドに俺は恐れおののく。

 

「い、いいんですか。こんなところに泊まっちゃって」

 

「敬語に戻ってるぞ」

 

「戻るわ! え? マジでいいの? 本当に?」

 

「ああ、どうせ使っていない客室だ。存分に使ってくれ」

 

「うひょー!」

 

 俺は興奮のあまり、そのまま走って巨大なベッドにダイブしてしまう。

 

「ああ……! 放浪した身に、こんなにもベッドが染みるなんて……!」

 

 泣きそうなくらいしみじみ寝っ転がっていると、「ふ、くく」とチャミーが笑う。

 

「なるほど、シアが気に入るわけだ。表裏のない奴だな」

 

「ありがとうチャミー!」

 

「このくらい気にするな。妹が世話になった礼だ」

 

「あぁ……まぁ……シアのことは、世話してるか……」

 

 寝起きの世話に食事洗濯歯磨き着替え。まぁ呪いの件で助けられたり、セラフィへの渡りをつけてもらったり。給料も貰ってる以上、こちらの方が受け取っているのだが。

 

 そんな風にしていると、俺の腹がぎゅるるると鳴った。

 

「何だ。腹を空かせているのか。夕食は食べていないのか?」

 

「その、宿探しで時間が取れなくて」

 

 思えば昼から食べていない。もう深夜十時を回るころだというのに。

 

 するとチャミーはこう言った。

 

「なら、今から作らせよう。何か好みはあるか?」

 

「えっ!? いやいやいや! そんなに世話にはなれないって」

 

「だから気にするなと言っている。肉、魚、野菜。何が食べたい」

 

「……じゃあ、港町だし、魚を」

 

「カノン、伝えてくれ」

 

 カノンと呼ばれ、無言でチャミーに付き従っていた鎧の偉丈婦は「分かった、チャミー」と一言答えて部屋を出ていく。思ったより可愛い名前してるな、とか思う。

 

 そこでチャミーは、俺のベッドに腰掛け「しかし災難だったな」と声をかけてくる。

 

「男一人知らない町で宿もないとは、さぞ不安だったろう。この後どうする気だったんだ」

 

「あー、まぁ仕方ないから野宿かなって」「野宿!?」

 

 どこか超然とした様子のチャミーが、目をむいて驚く。

 

「正気か? 男が野宿!?」

 

「え、そんなにおかしいか?」

 

「おかしいに決まっている! 女ならまだしも、男だぞ!」

 

 俺は性別を逆転させて考える。知らない町に女の子一人野宿……あ、うん。やばいわ。

 

「……へへ」

 

「ヘヘではない! お前すごいな!? 笑ってごまかすのかテクト!」

 

 チャミーは戦々恐々として俺を見つめている。俺は『だって仕方ないじゃん。この世界の男の感覚に慣れたくないんだよ』と言葉にならない抵抗の意志。

 

 そうしていると、トタトタと部屋の外で走る足音が聞こえてくる。

 

「チャミーお兄様、こんな深夜にお食事なんて、どうしたのです……テクト!?」

 

「あ、シアだ」

 

 俺が手を振ると、寝間着姿のシアが俺とチャミーとの間で視線を右往左往させる。

 

 シア。イリューシア・ファラーチェ・コンスタンティン。ピンクのドリル髪が愛らしい、このコンスタンティン王国の第三王女。

 

 そして俺の娘である。毎日丹念に世話をしているので実質娘。

 

 そんなシアは、俺がこの場にいるのがあまりにも驚きだったのか、目を見開いている。

 

「えっ!? てっ、テクト!? なん、えぇっ!? 実家に帰省したのでは!?」

 

「解散後に、実家への船の航路にクラーケンが出たらしくってさ。それで諦めた。シアは? シアも帰省で船に乗ったと思ってたんだけど」

 

「は、はい……ええと。船に乗る直前にチャミーお兄様に捕まりまして、しばらくはこの町、ジェノーヴァに身を寄せようかと」

 

「正妃殿下がジェノーヴァに視察に来るようだったからな。それならわざわざ大変な船旅をする必要もない」

 

 チャミーの解説に、納得する俺だ。お互い解散後に状況が変わったらしい。

 

「で、でも、だからと言ってテクトがここにいるのはまだ別では」「それは私が回収した。こいつ、野宿をしようとしていたのでな」「野宿!?」と会話する兄妹に、俺は問う。

 

「にしても、二人は仲がいいんだな。今までシアの口からチャミーの話を聞いたことがなかったから、あんまり仲のいい兄弟がいないものだとばっかり」

 

 俺が言うと、二人して微妙な顔をする。何だよ。

 

「仲がいい……とまではいきませんわ。ただ、チャミーお兄様はまともですから」

 

「そうだな。私も同感だ。イリューシアは姉妹の中でもかなりまともだから、重要な話は回すようにしている」

 

「まとも……?」

 

 何その、他の兄弟はまともじゃないみたいな。

 

 そんな風に俺が反芻すると、二人は揃って顔を背け、ぽつりと呟く。

 

「第一王子殿下とか、でしょうか」「兄上殿とかな」

 

「あっ、分かった。もう触れないようにする」

 

 俺は察して聞かないことにした。第一王子はヤバい。俺の耳に届くくらいヤバい。

 

「でも、そうですか。じゃあ、しばらくテクトはここで過ごすのですね?」

 

 嬉しそうに聞いてくるシアに、俺は苦笑気味に首を振る。

 

「あー、いや。明日には出て、しっかり宿を取ろうと思ってるんだけど」

 

「おい、明日には追い出すような狭量と思っているのか? 無礼だな」

 

「うっ」

 

 チャミーから言われ、俺は身を固くする。

 

「で、でも、迷惑だろ……?」

 

「そんなことはない。お前とは仲良くしたいと考えていたんだ、テクト。ぜひ客人として、この夏はここで過ごしてくれ」

 

「いやいやいや。それは流石に申し訳なさすぎる。初対面だぜ? 俺たち」

 

 せめて、こう、何か頼みごとを聞いたとかならまだしも……。

 

 そんなことを考えていたら「ふむ……じゃあそうだな」とチャミーは言った。

 

「明後日、ここの領主が催す船上パーティがある。私やイリューシアも参加予定なんだが、付き添いが欲しくてな。頼めるか?」

 

「そのくらい全然! 任せてくれ」

 

 俺が胸を叩くと「イリューシア、お前中々見る目があるな」とチャミーは言い、シアが「からかわないで下さいまし……」と赤面する。

 

 そこで、少しシアが考え込み、呟く。

 

「……明日のパーティ、テクトを毛嫌いしているリーフィルテも参加予定なのですよね。大丈夫ですかしら」

 

「ん? シア、何か言ったか?」

 

「ああ、いえ。何でもありませんわ。……最悪わたくしが守ればいいことですものね」

 

 俺が首を傾げていると、シアは自分で解決したらしく、ニコニコと俺を見守りだす。何?

 

 そこで、偉丈婦のカノンが戻ってきた。

 

「チャミー、軽食」

 

「ああ、できたか。では向かおうか、テクト。ジェノーヴァの食事は新鮮でうまいぞ」

 

 チャミーが立ち上がり、そのあとに俺は続く。




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