【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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シアの取り巻き

 シアやチャミーが参加する船上パーティーは、豪華客船上で行われるもののようだった。

 

 このジェノーヴァの町周辺の海をゆったり遊覧する。そんな航路の船の上で、豪華絢爛なパーティというのだから、何とも貴族らしいというかなんというか。

 

 どうやら高位の貴族にまつわる人間が大勢招かれているようで、学園でも上級貴族クラスで見たことのある顔がチラホラと見つかった。

 

 が、重要なのはそこではない。

 

「……マジで水着なのか?」

 

「正式なものというよりは、定期的に行われる社交目的のものでな。ジェノーヴァ領主正妃の趣味で、上級貴族には有名なんだ」

 

 言われて、「へ、へぇ……」と引き気味に俺は相槌を打つ。

 

 そんな俺とチャミーは、揃って二人、海パン一丁で甲板に足を踏み入れていた。

 

 海パン一丁である。チャミーから貸し出された高価な海パンに身を包んで、上裸で、だ。

 

 甲板に出ると、いかにも豪華客船という感じの設備に、高級貴族らしき人物たち(主に女性)が、揃って水着でパーティを楽しんでいた。

 

 うわぁ海外映画のセレブパーティみたいだぁ……と俺は険しい顔。

 

 何がすごいって、甲板にプールがあるのだ。すぐそこに泳げる海があるのに。

 

「金持ちの考えることは分からん……」

 

「何をしている。付き添いをしてくれるんだろう?」

 

「あ、ああ……」

 

 俺は頷きつつ、チャミーの後ろに続く。

 

 俺たちが歩くと、周囲の視線が一気に集まるのが分かった。好奇の、あるいは性的な視線が集まる。

 

「あれは、第二王子殿下ですわね」「あらぁ、やっぱり美人ねぇ」「後ろの子は?」「知らないけど……でも、腹筋が割れてていい体♡」「目の保養ですねぇ」

 

 自分があからさまに性的な目で見られる経験にまだ慣れない俺は、肩身の狭い思いをして虚無の心でチャミーの後ろを歩く。

 

「さて、せっかくの社交パーティだ。テクト、話しかけたい相手はいるか? 縁を取り持ってもいいぞ」

 

「上級貴族は間に合ってんだよなぁ……」

 

 下級貴族の女の子と仲良くなりたい今日この頃である。友達が全員、身分など結婚できない相手ばかりで、俺の婚活はボロボロだ。

 

 そんな風にしていると、「あっ、て、テクトさんっ」と声が聞こえた。

 

 振り向き、俺は瞠目する。

 

「セラフィ! セラフィもいたのか!」

 

「う、うんっ。その、修道院には昨日ちょっとだけ顔を出して、当たり前だけど修道女の顔ぶれ変わってるわ教育係の意地悪ババは変わってないわで、長居したくなかったので……」

 

「ああ……うん……」

 

 全然楽しくない帰郷となったらしい。そもそも実家帰れないしな、セラフィは。

 

 にしても、と俺は改めてセラフィを見た。

 

 セラフィ。薄紫の髪の一部を三つ編みでカチューシャのように結んだ、ふわふわとウェーブする長髪の、小柄な少女。その特筆すべき特徴は―――体格に似合わない爆乳だろう。

 

 その爆乳が、水着であらわになっているのだが、これがもうすごい。

 

 全体的には清楚風な、白を基調とした水着なのだが、大きめのサイズのビキニなのに、セラフィの胸を覆いきれずに疑似マイクロビキニみたいになっている。下乳横乳全部出てる。

 

「何だこれ凶器だろもう……」

 

「テクトさん?」

 

「はっ。いや、ごめん何でもない」

 

「? 変なテクトさんなので」

 

 クスクスと笑うセラフィだ。この世界の女の子はアレだな。自分が性的な目で見られる経験がなさ過ぎて、全然気づかないのがいいな。ありがたい。

 

 とか思っていると、「テクト!」と近づいてくる影がもう一つ。

 

「あ、シア」

 

「よく来てくれましたね、テクト。こんな女ばかりの場所で、その、水着だなんて、やっばり嫌になってしまったのではないかと心配していたのですが」

 

「嫌ってことはないけどな別に。妙な気分にはなるが」

 

 エロい目で見られるの、慣れなくてムズムズする。見る側だったから。

 

 と、改めて俺はシアの水着姿も見た。

 

 シアは普段の制服から打って変わって、紐ビキニな感じの、黒を基調としたセレブ感マシマシな水着だった。「うぉ」と改めて見て漏らしてしまったほど。

 

 セラフィもすごいが、シアもやばい。セラフィは、ッボンッ! キュッキュ、という感じだが、シアは正面からボンッキュッボン、だ。こんな直で性欲煽る水着でいいの? 王女様?

 

 と、そんなエロい目で見てばかりでは申し訳ないので、せめて心ばかりの言葉を伝える。

 

「でも、流石二人だな。良く似合ってるよ。キレイだ」

 

「え? ……はい?」「あ、えと、テクトさん、どうしたので……?」

 

「何でもない」

 

 貞操逆転世界だから、水着姿を褒められてどうのこうのみたいな文化がなかった。まぁうん。確かに女の子に男が水着姿を褒められても、「え?」ってなるけども。

 

「……キレイ、ですか」「似合ってる……そんなこと言われたの初めてなので」

 

 と思ったけど、意外に嬉しそうな二人である。どっちやねん。可愛いなこいつら。

 

 とか思っていると、シア、セラフィの二人は、こそっと俺を見ながら囁き合う。

 

「っていうか、テクトさんの水着姿、やばすぎなので…っ」

 

「そうですよね何ですかあの筋肉。胸筋も腹筋もバキバキでさらけ出してるんですが」

 

「何らかの法律に引っかかってると思うので。アレはダメでしょダメ。法律違反なので」

 

「そうですよねダメですよね。エッチ衛兵に捕まっちゃいますよあんなの。むしろわたくしが捕まえますよ」

 

「二人ともコソコソ何言い合ってんだ?」

 

「「何も」」

 

 ものすごく硬い声色で拒絶の意思を示される俺である。マジで何を話していたのか。

 

「と、お兄様もご機嫌麗しゅう。流石のお姿ですね」

 

「だろう。にしても、驚いたぞテクト。本当に聖女候補筆頭殿と親しいのか」

 

「あ、えと、お久しぶりですので。第二王子殿下」

 

 チャミーと会話する二人である。やっぱりセラフィって出自だけだよな平民なの。平然と王族と付き合いがあるのが強い、と感心する。

 

 と、そこで「イリューシア様! やっと見つけました!」と近づいてくる人物がいた。

 

「……ん? 誰だ?」

 

 ほとんど聞き覚えのない声に、俺は首をかしげる。

 

 見るとそこには、ほとんど言葉を交わしたことのない少女がいた。

 

 だが、知っている。確か、シアの取り巻きの一人だ。初めてシアを訪ねた時、一番嫌そうな目で俺を見ていた――――

 

「あら、リーフィルテ。あなたもいたのですね」

 

 リーフィルテ・リンドホルム。そうだ。リーフィルテ・リンドホルムだ。

 

 緑の髪をセミロングのアシンメトリーにし、葉っぱの形をした髪飾りで彩っている。背丈は女子の平均という感じで、胸含めてスレンダーな体型をしていた。

 

 だからというか何というか、水着はフリルの多い、ガーリーな感じだった。女の子は水着の幅が広いのに、みんなセンスいいなぁと感心する。

 

 にしても、リーフィルテかぁ、と思う。確かこいつ、結構百合っぽいというか、シアにべったりだったはずだ。俺に敵愾心を向けるのも、それが理由だったはず。

 

 と、そんなリーフィルテが合流するなり、キッと俺をにらんできた。え、何?

 

「で。何であなたみたいな下級貴族の男子がいるんですか? 場違いなんですけど」

 

「うおお絡まれた」

 

「絡まれた、じゃありません! イリューシア様に近づいて、卑しい魂胆が見え見えなんですからね!」

 

「っ!?」

 

 俺はそれに動揺する。この貞操逆転世界で、俺の性欲を見破ってくる女の子がいるとは。

 

「い、いや、そ、そんなことは」

 

「ふんっ! 下手な言い訳です。イリューシア様に取り入って良い思いをしようとしても、そうは行かないんですから!」

 

「え?」

 

「んっ? えっ? 違うんですか?」

 

 全然違う下心だった、と俺はほっと一息。リーフィルテが「なっ、何ですか!」と怒る。

 

「そもそもあなたは、下級貴族の癖にいろんなところに出しゃばりすぎなんです! イリューシア様からちょっと気に入られてるくらいで、調子に乗らないでください!」

 

「お、おう……?」

 

 何を言われているのか良く分からず、俺はあいまいに受け取る。

 

 するとリーフィルテは言ってやった! としたり顔でシアに向かった。

 

「イリューシア様! これで一安心ですね! ではここからはワタクシがエスコートを」

 

「リーフィルテ、テクトに無礼を働いたことを謝罪なさい」

 

「そうなので。リンドホルムさん、何言ってんの? 男の子に怒鳴るとかホントないので」

 

「っ!? えっ? あの、えっ?」

 

 シア、セラフィから揃って睨まれ、リーフィルテは涙目になる。可哀そう。

 

 そこで、チャミーが言った。

 

「諸君、知己を深めるのは良いが、ここで一つ緊張感を取り戻しておくことを勧めよう」

 

 注目がチャミーに集まる。チャミーはアゴで示す。

 

 その先にいたのは、妙に偉そうな老女だった。やたら背が高く、肌はボロボロなのにキラキラと光る煽情的な水着を身にまとっている。

 

 その姿に、セラフィがビクッと肩をすくめる。見ればその表情は、恐怖に歪んでいる。

 

「あ、あの、あの人」

 

「聖女候補殿は知っているか。以前の事件では、プライダス何某の後見人だったものな」

 

 プライダス? と名前を聞いて、俺は眉を顰める。

 

 そうこうしていると、老女は俺たちの―――チャミーの前に立ち、笑みを作った。

 

「これはこれは! 本日はご機嫌麗しゅうございます、チャーミリング第二王子殿下。私が開いたパーティにお越しいただき、誠にありがとうございますわ」

 

 老女は、バッと華美な扇子を開いて、こう名乗った。

 

「私はコンスタンティン王立学園理事の一人、グリーディア・ギルディン・ジェノーヴァ。この港町、ジェノーヴァの領主正妃でございます」

 

 その名乗りに、何故チャミーが警戒を促したのか、何となく分かった気がした。

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