【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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セクハラ攻防戦

 グリーディア女史は、チャミーが「ああ、こちらこそ初めましてだ、グリーディア殿」と返すのに「ええ、ええ。光栄です」と受け答えしながら、俺たちを睥睨した。

 

 女の子たち三人には冷たい目を、特にセラフィには睨むような眼を向け、一方俺とチャミーは舐めまわすような眼で見た。

 

 こいつは、と俺は思う。セクハラ目線はどうでもいいが、何だ今の女の子たちに向けた目は、と。

 

 グリーディア女史は、「ところで……」とチャミーに言う。

 

「そこな聖女候補筆頭殿について、先日の事件のことを、第二王子殿下は」

 

「存じている。無用な言及は避けていただこう」

 

「……チッ。そうでございましたか。それはそれは、余計な気を回してしまいました」

 

 一瞬ひどく冷酷な顔をしてから、すぐに媚びへつらうように女史は笑う。

 

 俺含め、チャミー以外の全員が顔をしかめた。

 

 ―――こいつは、敵だ。

 

 それだけは分かる。何がどうなったとしても、こいつが味方になることだけはない。

 

「ところでぇ……いやぁ、流石絶世の美貌を謳われる殿下でございますね。この老齢ながら、殿下の美しさに腰砕けになってしまいそうでございますよ、オホホホ」

 

「そうか。誉め言葉として受け取っておこう」

 

「もちろんでございます! ええ、もう。いやはや、まったく」

 

 言いながら、女史はそっとチャミーの太ももに触れる。

 

「領地継承権なんて些細なことと感じてしまうほど、あなたは魅力的でございますねぇ、殿下。どうです? 一晩お相手願えるのなら、目もくらむような額の資金援助を」

 

 チャミーの耳元で、女史が囁く。そのあんまりな内容に、「ちょっ、アンタ」と俺が割って入ろうとしたとき、チャミーが身をひるがえした。

 

 俺の、背後に。

 

「おっと、悪いが少し所用があって、歓談に興じられるのはここまでだ。女史、あなたの今の話は、聞かなかったことにしよう」

 

「は、え、あ」

 

「そして、テクト」

 

 俺の肩を叩き、チャミーが言う。

 

「この場を上手く凌いでくれ。それで本心からひと夏いっぱい、あの屋敷で客として受け入れるに足る恩と受け取る。どうだ」

 

「……分かった。任せろ」

 

「お前はまったく、良いやつだよ」

 

 カノン! とチャミーが呼ぶと、どこからともなく偉丈婦カノンが現れる。ビキニ姿なのに全く女を感じさせない筋骨隆々な姿は、もはや流石の一言だ。

 

「エスコートを頼みたいが、どうだ?」

 

「こっちだ」

 

 端的に言って、カノンはチャミーを連れ去った。

 

 残されるのは、そのあまりに颯爽とした退散に、呆気にとられる俺たちばかり。

 

「……チッ。まぁいいでしょう」

 

 チャミーが消えて、女史が俺たちから興味を失ってくれれば、と考えていたが、しかしそれは儚い期待だったようだ。

 

 女史は俺にねっとりとした目を向けて、問いかけてくる。

 

「それで、第二王子殿下の付き添いを務めていたあなたは、どこのどなたなのかしら? 鍛え上げられた肢体の美少年さん」

 

「俺が美少年……?」

 

 まったくそんなつもりがなかった俺は、動揺に顔を険しくしてしまう。

 

「……まぁ、テクトはそうですよね」「異論はないので」「否定はしないですけど……」

 

 後ろで美少女三人が何か言っている。鏡で見る限り顔立ちは普通だろ俺。どゆこと?

 

「ええと、こほん。私はプロテクルス・ガーランド。ガーランド家の長男です」

 

「まぁ! あの? 伝説的な騎士、ガーランド様の」

 

「上の世代の人絶対俺の母親知ってますよね」

 

 何をやらかしたんだろうとたまに思う。あんまり母は武勇伝を語らないのだ。

 

「なるほど、見たことないから下級貴族なのかしらと思っていたけれど、確かにその出自なら目を掛けるのも頷けますわね。それも、ああ」

 

 女史はうっとりした様子で、俺の腹筋を指先でなぞる。

 

「こんな見事な肉体、中々見れませんもの。美しい……。あなたの彫刻を掘りたいわぁ♡」

 

「……」

 

 ゾワ、と気色の悪さが勝ち始める。すごいぞこいつ。女に甘い俺でも厳しくなってきた。

 

 そこで、シアとセラフィが動いた。俺の肩を掴み、後ろに下げながら前に出る。

 

「その辺りにしていただけますかしら、グリーディア女史。彼はわたくしの大切な友人。それ以上の愚弄は見過ごせません」

 

「そうです……ッ。テクトさんはあなたのような人が、触れていい相手じゃないので」

 

「……生意気なクソガキどもが」

 

 シアとセラフィ、グリーディア女史の間で、致命的な緊張が走る。まずい。これでは、チャミーの言う『上手く凌ぐ』が達成できない。

 

 それで俺が再び前に出ようとしたとき、リーフィルテが俺の手を掴んだ。

 

「っ? え、何?」

 

 俺が驚いて振り返ると、リーフィルテは俺を睨み、小さく言う。

 

「やめたらどうですか? その、『僕だけは女の子の味方だよ』みたいなフリ」

 

「は?」

 

「イリューシア様もセラフィ様も騙されてるようですけど、ワタクシは騙されませ」

 

 その時だった。

 

 何の脈絡もなく、船で爆発が起こったのは。

 

 轟音、激しい揺れ。甲板にいたほとんどが、その場にひざまずく。恐慌が渦巻き、悲鳴が上がり始める。

 

「なっ、何だ! 何が起こった!」

 

「っ!? なっ、何、何事っ、何事なのですか!? えっ、あのっ、あわ、あわわわわ」

 

「シアは慌てすぎだからまず落ち着け! っ、とぉ!?」

 

 ガクン、と一気に船が傾き、甲板が斜め四十五度になる。大量の人々が斜面に絡めとられ、坂の下に転がっていく。

 

「つっ、掴まれ! みんな大丈夫か!? シア、セラフィに」

 

 二人がそれぞれ設備にしがみついているのを確認する中で、俺はハッと気づいた。

 

 リーフィルテ。シアの取り巻き、緑髪の少女が、転がり落ち、傾いた船のヘリに、ギリギリでしがみついていることに。

 

「っ!」

 

「テクト!?」「テクトさんっ、どこへ!」

 

 俺はとっさに飛び出して、斜面を滑り、リーフィルテの元にたどり着く。

 

「や、ば……っ、ま、ずいん、です、けど。もう、ちから、が……っ」

 

「掴め!」

 

 ギリギリで耐えていたところに駆けつけ、俺は手を伸ばす。リーフィルテは咄嗟に手を伸ばそうとして、俺に気付き「っ?」と戸惑う。

 

 その戸惑いが、運命を分けた。

 

 ガクン、とさらに船が傾く。その衝撃でリーフィルテが海に投げ出される。

 

「あ――――」

 

 リーフィルテの体が宙に浮く。海の中へと落ちていく。

 

 それに俺は、考える間もなく、飛び込んでいた。

 

「――――ッ」

 

 泳ぎには自信がある。実家の訓練で鎧を着て着衣水泳したことすらある。何で鉄鎧で泳げんの? と家族に不思議がられたくらい得意だ。

 

 それが今は、ずっと泳ぎやすい海パン一丁。だから―――助けられないわけがない!

 

 視線の先で、リーフィルテが海に沈む。一泊遅れて俺も水面に飛び込み、素早くリーフィルテの手を取った。

 

 もがくリーフィルテを連れて水面に上がる。そこで俺は、目をむいた。

 

 船からはがれた大きな破片の一つが、俺たちの頭上に落ちてくる。

 

「~~~っ」

 

 無意識に腕を振るおうとするも、海パン一丁ではパイルバンカーもありはしない。俺は落下物に強く頭を打ち、そのまま意識を失った。

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