【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
目が覚めると、俺はどことも知らぬ砂浜にいるようだった。
「……良かった。死なずに済んだか。何だったんだあの爆発……」
のそり、と起き上がる。体の節々に砂がついていたので、パッと払う。
それから立ち上がり、周囲を見渡した。
「……ジェノーヴァの海辺と思ったけど、違うか……?」
そこは、見渡す限り、砂浜と海しか見当たらなかった。
砂浜、砂浜、砂浜。海、海、海。
ジェノーヴァの砂浜は少しだけ見たから分かるが、こんな風ではなかった。もっと人通りが多く、賑わっていたはずだ。
しかしここには俺だけしかいない。
「……ん? 俺だけ?」
ハッとする。それから呼びかける。
「リーフィルテ! みんなー! いるかー!? 大丈夫かー!?」
リーフィルテ。俺が助けようとして助けきれなかった、シアの取り巻きの少女。
最後の記憶では手を掴んでいたし、流されているのなら似たような場所だと思うのだが。
「ゴホッゴホッ、ゲホッ」
そこでせき込む声が聞こえて、俺はその方向に駆け寄った。
見れば、特徴的な緑髪にガーリーな水着をした少女が、そこに流れ着いていた。
リーフィルテ。どうやら俺の行動は、全くの無駄ではなかったらしい、とほっとする。
「あ、アレ……? ここ、どこ……」
「良かった、無事みたいだな。他のみんなはいないか……」
俺の知る限りでは海に落ちていたりしないし、無事だといいのだが、と息を吐く。
「っ! 何であなたが。と、というか、ここはどこですか! 知らない場所なんですけど!」
とかやっていたら、リーフィルテもやっと覚醒して、驚きの目で周囲を見回している。
俺は肩をすくめてこう返した。
「分からん。分からんが、多分こうだろうな、という予測はある」
「予測……?」
怪訝な顔をするリーフィルテ。俺はそんな彼女に、こう言った。
「無人島だろ、この感じは」
悲しいことに、軽く見回った限り、ガチでここは無人島のようだった。
「えぇ……? よりにもよって、あなたとワタクシの二人きりで無人島とか……ありえないんですけど……イリューシア様ぁ……」
リーフィルテは半泣きで呟いた。俺も同じ心境だが、こうなっては仕方ない。
「ま、二人きりの相手が嫌いな俺なのは同情するが、ひとまずそんなこと言ってる場合じゃない。協力してやっていこうぜ」
俺はリーフィルテを軽く慰めつつ、砂浜にでっかくSOSを書いてから(異世界だけどSOS通じんのかな?)、今後の方針を考える。
当然だが、救助隊の到着を待つべきだろう。ここに流れ着いてますよアピールも大事だが、何より重要なのは、救助隊到着までに無事生き残ること。
まず取り掛かるべきは、飲み水の確保に、体温を保持するためのそれこれだ。
二人して水着だからな。昼は近くの森で日光を凌げるが、夜は冷えるし火が欲しい。
と、そんなことを考えていると、キッとリーフィルテは俺を睨んでくる。
「協力だなんてそれらしいことを言って、どうせワタクシを奴隷のように扱うつもりでしょう!? 狙いはバレバレなんですからね!」
「何が?」
俺が呆れ交じりに問い返すと、リーフィルテは俺を指さしてくる。
「ワタクシは、今まであなたを王子様扱いしてきた女とは違いますから! 協力と言うからには、ワタクシにおんぶに抱っこで居られるとは、思わないで欲しいんですけど!」
言ってやった! という顔になるリーフィルテ。それに俺は、
「……そりゃそうでは……?」
何を当たり前のことを言ってるんだろう、とポカンとしてしまった。
「……あ、アレ? 何か反応が思ったのと違う……」
「バカなこと言ってないで動こうぜ。のどの渇きはどうだ?」
「あ、えと、結構……?」
「じゃあ夏で暖かいし服は後回しとして、まずは飲み水だな。ってことは火もか」
呟きながら、俺は歩き出す。魔法で出した水を飲めばいいと思うかもしれないが、あの手のは体内に入れると魔力に戻ってしまって、意味がないのだ。男はすぐに魔力が散るしな。
するとリーフィルテは「あっ、ちょっ、ちょっと待ってください!」と追いかけてくる。
「え、あの、どこに行くつもりですか?」
「のど乾いてるんだろ? じゃあすでにちょっと脱水症状気味ってことだ。湧き水か溜まった雨水か、ともかく水源を探す必要がある」
「あ、は、はい。……く、詳しいんです、ね?」
「まぁちょっとな」
全裸で森の中に投げ出されるサバイバル訓練は、すでに数回こなしている。慣れればそう大変なものではない。
俺たちはそのまま砂浜を離れ、森へと入って行った。歩きながら、「リーフィルテ、足元は気をつけろよ。街とは違って、こういう時のケガは結構まずいからな」と告げる。
「は、はい。……。……? アレ? なんか……イメージと違うんですけど……んん……?」
「何だよ」
「いや、あの、え? 男子ってこうでしたっけ? 無人島で二人きりとかになったら、ヒステリックに泣きわめくようなイメージがあるんですけど」
「水分の無駄だろ」
「いや、まったくもってその通りなんですけど、あれー……?」
首をかしげるリーフィルテ。俺はこの世界の男子を思い浮かべ、確かにヒステリックに泣き喚きそうだなとげんなりする。
「と、とりあえず、森がある以上はやっておきますか……」
「?」
リーフィルテは、髪飾りから葉っぱを一枚千切った。そして、適当な木に根を差す。
「何やってるんだ?」
「え!? ああ、き、気にしないでください! あなたには関係ない事ですから!」
邪険に扱われ、俺はむっとする。リーフィルテは葉の様子を確認してから、俺を見る。
「にしても……ガーランドって、何か、変ですよね……? いや、そもそも男嫌いのイリューシア様に気に入られている時点で変なんですけど」
「こんな状況でケンカ売ってこないでくれ。まずは命の危機を脱するのが優先だろ」
「あっ、いや、違くて! ……えっ、命の危機なんですか? ワタクシたちは」
「そうだろ。過酷な環境では三時間、水がなければ三日、食料がなければ三週間で死ぬぞ」
幸いにして、今は森の木陰が俺たちを守ってくれる。もっとも夜までに服は欲しいが。
「……!」
俺の言葉に、リーフィルテは顔を青ざめさせる。無言になるから、淡々と前に進む。
そこで、俺の耳が水の流れを掴んだ。
「こっちだ」
「あ、え、はい」
俺は慌てずに、音のもとへと進む。すると耳が捉えた通り、そこには小さな滝つぼが見つかった。
「わっ! み、みず!」
自己申告以上に喉が渇いていたのか、リーフィルテは駆け出した。「ちょっ、気をつけ」と俺は言うが、遅かった。
リーフィルテが、木の根につまずいて転ぶ。「キャインッ!」と鳴く。
「……言わんこっちゃない。大丈夫か~?」
「い、いだい……」
涙目で立ち上がるリーフィルテ。見れば膝から血が出ている。
「あーあーすりむいて。こういう時の傷はマジで怖いんだからな?」
「あ、あの、えと、いたっ、痛い! 何するんですか!」
「手当てしようとしてんだ邪魔すんな」
俺はリーフィルテの膝に着いた土を払う。傷の程度は、さほどか。不幸中の幸いだな。
だが、放置するのもよろしくない。ちゃんとした手当てはまた後でするとして……。
「今はこうだな」
「え?」
リーフィルテの困惑を無視して、俺は自分の水着を破り、切れ端をその膝に巻き付けた。
「えっ!? あの、ちょっと!? そ、そこまでするほどじゃ」
「今はこれで勘弁してくれ。煮沸した水が用意できたら、また手当てし直すから」
「……」
リーフィルテは口を閉ざして、俺を見る。俺は立ち上がり、リーフィルテに言う。
「ひとまず、あの滝つぼの水を汲もう。ただ、すぐ飲むのはダメだぞ。煮沸しないと腹を壊して、むしろ危ないからな」
「……はい」
俺が進むと、リーフィルテは大人しくついてきた。何だか急に態度が変わったな、と思いながら、俺はひとまず滝つぼへ向かう。