【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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リーフィの血統魔法

 ここで一度、サバイバルをする上での優先順位を明らかにしておこう。

 

 サバイバルにおける優先順位は、短時間で命に関わる物から処理するのが定番だ。

 

 指針として有用なのは、次の格言だろう。

 

『過酷な環境では三時間、水がなければ三日、食料がなければ三週間で人は死ぬ』

 

 では過酷な環境とは何かといえば、熱中症や低体温症を引き起こす環境ということ。

 

 つまりは、気温の話だ。

 

 だから俺は最優先で砂浜を離れて森に入った。この真夏においては、日光を遮るものがない砂浜は危険だと判断したからだ。

 

 幸いにして森は鬱蒼としていて、木陰に隠れながら活動がしやすい。そうなれば次の目標を達成する必要がある。

 

 すなわち、水である。

 

 ここで重要なのが、ただ水を見つけるだけではダメなこと。今見つけた滝つぼも同様だ。

 

 何故か。それは自然の生水というのは、程度に差こそあれ、野生動物の糞尿が混ざっていて汚いから。飲む前には煮沸しないと、細菌で腹を壊すのだ。

 

「だから水を飲むには火が必要って話になるわけだな」

 

「……ガーランドって、何ですか? サバイバルマニアですか?」

 

「黙って枝拾え」

 

 丁寧に説明してやってるのに引き気味のリーフィルテに、俺は唸る。

 

 リーフィルテはそれに、半べそをかきながら枝を拾う。

 

「ホント、最悪なんですけど。イリューシア様ならもっと優しく導いてくださるのに。以前もイリューシア様は、忘れもので困ったワタクシに、こっそり『秘密ですわよ』って」

 

 イリューシア様イリューシア様うるせぇなぁ。

 

「無理して水のために働かなくてもいいんだぞ。水よりシアに会いたいらしいしな」

 

「ちがっ、何ですか!? 心の支えに以前の麗しい記憶を思い出すのも許されませんか!?」

 

「知らん。で? シアを探しに行くのか、水のために動くのかどっちだ」

 

「……水のために、動きます。イリューシア様もこの島にいるかどうかは分からないので」

 

「よし」

 

「くっ……偉そうに……!」

 

 リーフィルテはプルプルと「血統魔法さえ浸透すれば……」とか何とか言っている。

 

「よし、だいぶ集まったんじゃないか? そっちは」

 

「こ、これくらいですけど……」

 

「うん、十分だな。じゃあ滝つぼの近くに戻ろう。あの辺りはちょっとした洞窟もあったし、あそこを拠点にする感じで」

 

 俺は乾いた枝の数に満足して、二人で滝つぼの近くに戻ることにした。

 

 いくらか歩き、再び滝つぼへ。「さて」と俺は腕を組む。

 

「じゃあ次は火を用意したいわけだが、リーフィルテは汎用魔法で火とかつけられるか?」

 

「……っていうか、冷静に考えたら、何であなたタメ語なんですか。ワタクシ伯爵家なんですけど。騎士家の下級貴族出身なら、敬語使うべきだと思うんですけど」

 

「おぉ、ってことはここから生還までのそれこれ全部に、責任を持って下さるってことですね? いやぁ流石、伯爵家の御令嬢は頼りになるなぁ!」

 

「うぐぐぐ……ッ! 分かりました! ワタクシの方が敬語を使わせていただきます!」

 

「いや、別にそこまでは求めてないが……」

 

 タメ語でも丁寧語でも、話しやすい方で話せばいいと思う。俺は気にしないし。

 

「で? 魔法で火は」

 

「……血統魔法と相性が悪くて、火関連はダメなんです……」

 

 ものすごく言いづらそうに言葉を絞り出すリーフィルテ。

 

 それに俺は、頷いて答えた。

 

「了解。じゃあ頑張って火をつけよう」

 

「……え? あの、女の癖に役に立たないとか、そういうこと言わないんですか……?」

 

「仲違いして良いことないだろこの状況下で……少なくとも働いてはくれるんだし」

 

 それに、と俺は言う。

 

「枝を一緒に集めてくれた時点で、役に立ってないなんてことはない。お互いの得意分野で頑張ってくれればそれでいいよ」

 

「……分かり、ました、けど」

 

 リーフィルテは唇を尖らせ、そう答えた。

 

「じゃあ火付けは俺がやっておく。水を煮沸させるための器の用意を頼めるか?」

 

「どんなのが必要なんです?」

 

「基本は木の皮を使って器にするのが定石だな。薄いから熱が伝わりやすい」

 

「……燃えません? それ」

 

「水が中に入ってれば大丈夫だ」

 

「へー……?」

 

 リーフィルテは頷き、そっと髪飾りに触れた。

 

「もう少し、ですね」

 

「どうした?」

 

「ああ、いえ。仕込みが終わりそうって話です。また後で話しますけど、それで器はどうにかなると思います」

 

「ふーん? じゃあ任せる」

 

 言いながら、俺はメイの力で短刀を生み出し、枝を削って木くずを作る。

 

 武装は水着で身に着けていなかった俺だが、幸いにしてメイの指輪だけは付けていた。メイ自身はまだ気を失っているのか応答がないが、その鉄生成能力は、ある程度俺も使えた。

 

 さらに、ちょうどいい板も先ほどの枝拾いで拾っておいたので、それにくぼみを作って火付け板にする。

 

「よし、このくぼみに木くずを置いて、と」

 

 合わせて拾っておいた長めの生木の枝に、ツルを割いた繊維を巻きつけて弓のようにする。これを別の枝に絡ませれば、弓引き式の火起こし道具の完成に―――

 

「ちょっ、ちょっちょっちょっと待ってください」

 

「何だよ」

 

「何で次々するっと道具が出来ていくんですか? 絶対おかしいんですけど。え? 無人島生活見越して道具用意してました?」

 

「してないが。手が空いてるなら焚き木組んどいてくれるか?」

 

「おかしい……。絶対おかしいのに、ワタクシの発言権がほとんどない……」

 

 ぶつくさ言いながら、リーフィルテが焚き木を組む。俺はそれを横目に、弓をスライドさせて枝を回転させ、その摩擦熱で火付けを頑張る。

 

 重要なのは、木の乾燥だ。弓引き式なら、さほど頑張る必要はない。ただし木が乾燥していなければ、どれだけ頑張っても火はつかない。

 

 そして、その辺りはちゃんと選別済み。だから―――

 

「よし、ついた」

 

 木くずに、火が点る。

 

 俺は燃え始めた木くずを慎重に持ち上げ、息を吹きかけて酸素を送りながら、リーフィルテが組み途中の焚き木の上に置く。

 

「わっ、あ、あの、まだなんですけど! まだなんですけど!」

 

「頑張って組め! もう火はついてんだ!」

 

「ひっ、ひぃ~んっ!」

 

 半べそでリーフィルテは焚き木を組み、俺は必死に息を吹きかけて火の勢いを強くする。

 

 そうして火がしっかり焚き木に燃え移った時、ちょうどリーフィルテは組み終えていた。

 

「よしっ! お疲れ、リーフィルテ。うまく木を足していけば、しばらくは火も大丈夫なはずだ」

 

「お、お疲れさまでした……喉乾いた……」

 

「そうだな。次は水の煮沸だ。頼んどいた器だけど……」

 

 ずっとここにいて、できてるのか? という視線を送る。

 

 リーフィルテは、こう言った。

 

「……あなたは、何ていうか、普通の男子とは全然違うんですね」

 

「どうしたよいきなり」

 

「いえ、その、男子に頼もしいな、なんて感情を抱くのが初めてで、ちょっと戸惑っているっていうか」

 

 そこまで言って、リーフィルテはハッとして俺を見る。

 

「か、勘違いしないでくださいね!? だからと言って、認めたわけではないんですけど! イリューシア様は、あなたとはぜぇったい釣り合わないくらい立派な方なんですからね!」

 

「褒めたいのかディスりたいのかどっちなんだ」

 

「イリューシア様は本当に素晴らしい方で、いつも優しいし、笑顔が素敵だし、紅茶と花の香りが混ざったようないい匂いがしますし……イリューシア様ぁ……」

 

「解像度がキモい」

 

 そして器は。水を入れる器はどうした。

 

 と、そこで気付く。周りの木々が、リーフィルテに近づくように、ゆっくりと動いているのを。リーフィルテに手を伸ばすように、枝を下ろしているのを。

 

「ただ、まぁ、友人としてなら、認めないでもないっていうか。少なくとも、無人島から生きて脱出するまでは、ちゃんと協力してもいいっていうか」

 

 リーフィルテは言いながら、近くの枝に触れる。触れた先から木の皮が剥がれ、ひとりでに器の形になってリーフィルテの手の上に乗った。

 

「ですから、改めて、名乗らせてください」

 

 リーフィルテは立ち上がり、胸元に手を当て、俺に言う。

 

「ワタクシはリーフィルテ。リンドホルム伯爵家が五女。そして」

 

 リーフィルテを称賛するように、周囲の木々が、リーフィルテの背後に枝葉を伸ばす。

 

「血統『ヤドリギの魔女』、次代第一席―――リーフィルテ・リンドホルム」

 

 リーフィルテは、ちょっと強がるような目で、俺に言う。

 

「と、特別に、リーフィと呼んでも構いませんけどっ」

 

 ふんっ、とリーフィルテ、改めリーフィは、恥ずかしさをごまかすようにそっぽを向く。

 

 それに俺は苦笑して、こう答えた。

 

「じゃあ、俺もテクトでいいよ。よろしくな、リーフィ」

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