【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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次は食料

 煮沸して飲んだ水は、堪らなく美味かった。

 

「ぷはぁっ! あー、生き返ります……!」

 

 ジーン……と感慨深そうにリーフィは目を細める。俺も「うめぇ……」としみじみしてしまうほど。

 

 二人してお湯の入った器を持ち、やっとのことで、煮沸した水にありついていた。

 

 砂浜で目覚めてまだ数時間。まだ夕方にもなっていない時間帯だった。まだ明るく、活動するにも余力がある。

 

 火は燃え続けていて、ちゃんと用意すれば飲み水には困らないだろう。

 

 となれば、今日中に食料の確保まで目指せるか。「よし」と俺は立ち上がる。

 

「じゃあ余裕ありそうだし、次は食料確保を目指して動こう」

 

「そう……ですね。喉が潤ったら、お腹が空いてきましたし」

 

「ちなみになんだが」

 

 俺は聞く。

 

「リーフィの血統魔法、植物を操れるんだろ? それで木の実とかは作れないのか?」

 

「作れますけど、今はまだ浸透が足りないです。で、浸透には魔力が必要で、魔力を蓄えるには体に栄養を蓄える必要がある、という感じで」

 

「なるほどな。じゃあまずはやっぱり、地道に動いていくしかないか」

 

 なお、先ほど聞いたのだが、リーフィの言う『浸透』とは、血統魔法が木々たちにどれだけ染み込み、操れるようになったのかを指す言葉であるという。

 

 ヤドリギというだけあって、そこにある植物を速攻で完全支配、というワケには行かないらしい。逆に言えば、浸透しきればかなり幅のある使い方ができるのだとか。

 

 俺が考えていると、リーフィも立ち上がってきて、俺に問う。

 

「それで、何から手を付けるんですか? 罠を作るくらいなら、十分な浸透ができてると思いますけど」

 

「頼もしいな。じゃあ夏だから服はいいとして、罠より先に靴が欲しいな」

 

「靴……べ、別に、素足でも問題ないですけど! 仕方なく作ってあげるんですからね!」

 

 俺はリーフィの足を見る。大きな怪我は転んだ膝以外にないが、細かい傷が少しあった。

 

 それからリーフィは木々を操って、木の皮で二組の靴を作った。そのうち一組を貰って履いていると「そ、そういえば」と何故か顔を赤くして、リーフィが俺に尋ねる。

 

「その、服は気にしないんですか? その、お、男の子が、ずっとそんな肌をさらして」

 

 あー、最初は気にしてたけど、水着と木陰であんまり困らなさそうなんだよな。

 

「夏だしよくね? そんなこと言ったらリーフィだって水着のままだし」

 

「女は別に、怪我とか以外で服を気にすることはさほどなくないですか?」

 

 この水着もメイドが選んだものですし……、と無頓着っぷりを見せる。うーん貞操逆転。

 

「ま、まぁ、テクト本人が気にしないなら、良いんですけど……」

 

「いずれ欲しいけど、その辺ほっつき歩くなら、夏の今は要らないかなってさ。それより次は、動物罠、魚罠が欲しい。構造なんだが―――」

 

 俺はリーフィに説明して、植物で動物罠、魚罠はどう作るのか、という話を聞かせる。

 

「なるほど、大体分かりましたけど……。となると、こんな感じですか?」

 

 リーフィが指を曲げると、周囲の木々が枝をしならせ、木で編み込んだカゴを作り出していく。そしてその入り口には、入り込むのは簡単でも、出られない逆トゲができている。

 

「そうそう! これを水底に沈めておくと、魚が入りこんで出られなくなるんだ。連中、狭いところに入り込む習性があるからな」

 

「あと、動物用の足くくり罠ですね。例えば、こんな風ですか?」

 

 若木が自らしなりだし、他の木々からツルが降りてきて輪っかを作り、通った小動物を跳ね上げ吊るす、自然の罠が出来上がる。

 

「……便利だなぁ、リーフィの血統魔法」

 

「元々軍事血統ですから。叩き込まれた人間用の罠の知識で、何となく想像がつきます」

 

「へぇ、そうなのか。軍事血統っていうと、アイギスみたいな?」

 

「『小さな要塞』はさらに一段上ですが……知らないんですか? 一応名門なんですけど」

 

「俺が知ってる血統は、友達のくらいだよ」

 

「じゃあ教えてあげますけど! いいですか? 『ヤドリギの魔女』はイリューシア様のようなやんごとなき人々の番人として、森を守護する血統なんです」

 

 リーフィは薄い胸を張って、自信満々に続ける。

 

「『ヤドリギ芽生えし森に踏み入れるべからず』とすら言われて、『ヤドリギの魔女』を擁する森は、外敵が通過できないとすら言われているんですから!」

 

 ―――アイギス様の『小さな要塞』とは似て非なる軍事血統なんです。とリーフィは語る。

 

 確かに、アイギスの『小さな要塞』は、単独ないし少数で、突如要塞が現れるような効果を戦場にもたらす。一方でリーフィの『ヤドリギの魔女』は、森を陣地とし不可侵とする。

 

 攻防一体の『小さな要塞』に、森限定で鉄壁の守りと化す『ヤドリギの魔女』。面白いな、と俺は各血統の役割に感心する。

 

「欲を言えば、この魔法でイリューシア様を喜ばせたかったんですけどね……何が悲しくて、男子のために血統魔法を使わなくちゃならないんですか」

 

「はいはい。リーフィはホント、シアが好きだなぁ」

 

 俺が呆れて言うと、「当然です!」とリーフィは言う。

 

「イリューシア様のように完璧な方はいらっしゃいません! 何をするにも一番! 見目麗しく、人柄もお優しく、しかし芯は強く、曲がったことを許さない! まさに完璧!」

 

 こいつに寝起きのシアを見せたらどうなるんだろう、とか気にならないでもない。朝のシアは赤ちゃんだからな。流石に可哀想から言わないけど。

 

 俺は肩を竦めて、話を戻す。

 

「そうかい。ま、これほど頼もしい魔法使いがいるんだ。今回のサバイバルは楽勝だな」

 

「さっきまでの緊張感はどこに行ったんですか? まだ脱出からはほど遠いんですけど」

 

「そう言うなって。普通サバイバルなんて、最初三日間は飯なんて食えないんだぜ?」

 

「確かにそう考えるとペースは良い……え? 何でそんな経験済みみたいな、まさか」

 

「さ、行こうか」

 

「え? う、嘘ですよね? サバイバル経験者なんですか? 男の子で!? 何で!?」

 

 騒ぐリーフィを連れて、俺は歩き出す。

 

 

 

 

 

 ひとまず俺たちは周囲を歩き回って、動物の痕跡が残った場所に、適当に罠を仕掛けて回った。それから、川沿いに魚罠も。

 

 そうしてから、海辺へと戻ってくる。砂浜ではなく、海岸へと。

 

 ある程度時間も経って、だいぶ日も傾いていた。太陽は赤々と水平線を照らしていて、うだるような暑さは鳴りを潜めていた。

 

「つ、疲れたんですけど……。え、これ今日中にご飯にありつけますか?」

 

「分からん。今日のは今から釣るし、今まで仕掛けてた分は明日以降のアテだし」

 

「えぇ~……? お腹すきましたって~! もう泣きそうなんですけどぉ……」

 

「そう言うなって。腹空かせて食う飯はうまいぞ~?」

 

 先ほどリーフィに作ってもらった竿を揺らし、俺はその辺の虫を植物性の針につける。

 

「ほら、リーフィも針に餌付けて」

 

「ひっ! む、虫! ごめんなさい虫ムリです付けてください本当にダメなんです!」

 

「森を支配するような血統魔法なのに……」

 

 植物と虫はセットなイメージがあるのだが、上級貴族ともなると、そうもいかないか。

 

 仕方ないので虫を付けて渡す。とても嫌そうな顔をして、リーフィは竿を受け取った。

 

 そうして、二人して竿を振る。ヒュッ、と音が鳴って、糸の先が海に投げ込まれる。

 

「あとは、座って待ちだ」

 

「……お腹空いたんですけどぉ……」

 

 ぐす、とリーフィは鼻を鳴らす。普段から強がっている様子で何となく分かっていたが、メンタルが弱いなこいつ、と俺は苦笑する。

 

「「……」」

 

 それで、二人で静かに釣り竿を持って待っていると、「あの」とリーフィが言った。

 

「何でテクトは、平気なんですか……?」

 

「何が?」

 

「何がじゃないですけど! 無人島に二人きりで投げ出されて、水は飲めましたけど、食べ物はなくて、お腹が空いて、帰る目途も立ってなくて……!」

 

 そこまで言って、リーフィは俯く。

 

「ワタクシは、女なのに。女なら泣くなって言われて育ったのに、不安で、泣きそうで。なのに、テクトが泣く様子一つ見せないと、ワタクシも泣くに泣けないじゃないですか……」

 

 ぐす、とリーフィは涙ぐむ。俺は「んー……」と少し考えて、答えた。

 

「まぁ、お察しの通り、サバイバルが初めてじゃないって言うのもあるんだが」

 

「ズルなんですけど」

 

「ズルかねぇよ。でもさ、元々人間、文明がなきゃこんなもんだし。逆に言えばさ」

 

 俺はリーフィを見る。

 

「今日のサバイバル経験があれば、何があってもやっていけるって思えば、むしろ心強いだろ? 何もなくとも、自然があれば生きられる。その自信があれば、どうとでもなるって」

 

「……何があっても、生きていける」

 

 ぽつりと、リーフィは呟く。

 

 そこで俺は気づいて、言った。

 

「リーフィ、釣り竿、反応してないか?」

 

「えっ? わ、わ! き、来てますか? 来てますよね!?」

 

「来てる! いいぞ! 竿を立てろ! 来たぁ!」

 

 リーフィの竿が大きくしなる。不慣れさからか竿ごと持っていかれそうになるのを、俺が後ろについてサポートする。

 

「わ、わ、わ! て、てく、ちか、近いんですけどっ」

 

「釣り竿に集中! 重心を落として、踏ん張れ! くっ、この手ごたえは大物だぞ!」

 

 前世とは違い、リールなどはない原始的な竿だ。男ならこのまま後ろに下がって、魚を引きずり上げるところだが……ッ。

 

「リーフィ! 腕力には自信はあるか!?」

 

「た、多少は! 軍事系の血統ですから! 多分テクトの五倍くらいはありますけど!」

 

 そんなにあんの? 五倍マジ?

 

「なら、一本釣りだ! 魚の動きが鈍った瞬間に、大きく竿を引き上げて―――今だ!」

 

「ッ! たぁぁぁぁあああああああッ!」

 

 リーフィが、大きく竿を持ち上げる。その勢いに魚は負け、水面から飛び出した。

 

 全長、五十センチはくだらないような大物が、宙を舞って俺たちの下に跳んでくる。

 

「確保――――!」

 

 その大物の着地点を予想し、俺は駆ける。両腕を広げ、衝撃に備える。

 

 そして、受け止めた。

 

 強い衝撃。続いて、魚が大暴れする。ヌルヌルの表皮に、思わず逃しそうになる。

 

 が、逃さない。メイの能力で手にハンマーを出現させ、頭を強打した。

 

 沈黙。魚が動かなくなる。リーフィが恐る恐る、俺に問うてくる。

 

「ど、どう、ですか……?」

 

「リーフィ」

 

「はっ、はい……」

 

 俺は、満面の笑みで、リーフィに言った。

 

「今日は、ごちそうだ。お手柄だな!」

 

「――――ッ、やったぁー!」

 

 ぴょーん、とリーフィが飛び上がって喜ぶ。

 

 先ほどまでの不安は、釣り上げた大物で、どこかへ行ってしまったようだった。

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