【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
朝の目覚めは、リーフィの悲鳴で迎えることとなった。
「キャァァアアアアアアア!?」
「っ!? 何だ! 何があっ……あ」
俺は素早く飛び起きて、臨戦態勢に入る。そしてリーフィを見て、理解した。
リーフィの上に、メイが馬乗りになっている。
「んー? 誰? あ、ご主人。おはー」
「誰って、こっちのセリフなんですけど! てっ、テクト! 助けてテクト!」
「……なんてややこしい意識の取り戻し方を」
俺はため息交じりに近づき、後ろからメイを抱きかかえてリーフィの上から退ける。
「悪いなリーフィ。こいつはメイ、俺の愛刀だ。聖剣で、人間とか指輪になれるもんでな」
「はい……? 聖剣……?」
「そう。メイはご主人の聖剣」
むふー、とメイはぺったんこの胸を張って言う。俺はその頭をとりあえず撫でておく。
メイ。『明鏡止水』と名付けた、俺の愛刀にして聖剣である。人間形態では、この通り真っ白で長い髪を伸ばし、黒い浴衣を身にまとった幼女の姿をしている。
「昨日は水没で意識なかったんだ。で、意識取り戻して今ってところだろうな」
「? よく分かんないけど、海から落ちたらここだった」
「それを意識がなかったって言ってるんだぞー」
メイを地面に下ろすと、メイは俺に振り返って、ぎゅっと抱きついてくる。
「ご主人、ぎゅー……」
「甘えん坊だなメイは」
「甘えん坊じゃない。メイは最後まで自立心たっぷり」
「最後ってなんだよ」
お菓子のCMみたいなことを言うメイに引きはがす。
するとそこで、メイは俺たちの服装に気付いて、俺、リーフィ、そして自分で見比べる。
「ご主人たち、水着」
「ん? ああ。まぁ水着で船から落ちたからな」
「……メイも一緒がいい」
「え?」
メイが、バッと浴衣を脱ぐ。すると何故か、内側にはフリルの付いた黒のビキニが現れる。
「何でメイ、内側に水着着てんの?」
「むふー。チャミーのお屋敷で、ご主人が水着選びしてる時にもらった」
「それは盗んだって言うんだぞ」
「? チャミーはくれるって言ってた」
「知らん間に愛刀がチャミーと顔見知りになってる……」
油断も隙もない、と思いつつ、俺はメイの頭を撫でる。
「ま、ちょっと大人びてるが、似合ってて可愛いな」
「むふー。ご主人は見る目がある」
メイは俺に褒められて満足げだ。
そんな俺とメイのやりとりを怪訝そうな目で見るリーフィに、俺は言う。
「じゃあリーフィ。とりあえず朝飯食べながら、今日の動き方を相談しようぜ」
メイが俺の側面に抱きつくのを甘受しつつリーフィを見ると、リーフィは「まぁ、はい……」と釈然としない様子で頷く。
昨日の残りを食べながら決めたのは、『まず罠を確認しに行こう』ということだった。
「毎日ちゃんと魚が釣れるかどうか分かりませんし。出来れば保存もしたいです」
「そうだな。ひとまず、罠を見て回って、そのあとは釣りをしながら塩を作るか」
サバイバル名物『丸一日何も食べられない日』を味わっていないのに、リーフィは食料の心配ばかりしている。意外に食いしん坊なのだろうか。
そんな話をしつつ、俺たち三人は、昨日仕掛けた罠を確認しに拠点を離れた。
罠は歩き回れる範囲で散らばって仕掛けたので、見て回るだけで午後になるだろう。上手く罠にかかっている動物がいれば、その処理でもう半日潰れるかもしれない。
「昨日の魚は美味しかったんですけど、やっぱり塩だけでいいから味付けが欲しいですよ。絶対美味しいはず。ヤダ無人島なんかで人生一おいしい料理更新したくない」
「どっち?」
「メイもお魚食べたーい」
とか言いながら歩いていると、最初の罠の場所にたどり着く。
「あっ! テクト、掛かってますけど! アレ、ウサギじゃないですか!?」
パァッと喜んで駆け出すリーフィ。俺はそれを微笑ましく見守ろうとして―――
「違う、アレ魔物だ」
ダッシュ。からのリーフィの襟首を掴んで、引き留める。
直後だった。
「ひゃ、ひゃあ……」
「間一髪だったな。こいつはウサギじゃない。アルミラージだ」
アルミラージ。ユニコーンのように、額に角の生えた大型ウサギだ。外見は愛くるしいが、魔物の一種で平然と人間を襲う。ゴブリンよりもよほど怖い魔物である。
アルミラージは、ピョンピョンと跳ねてこちらに突撃しようとしては、くくり罠で引き留められて戻るのを繰り返している。
拘束されててこの殺意か、と恐ろしくなる。魔物とは、徹頭徹尾人間の敵らしい。
「メイ」
「ん、ご主人」
俺が呼ぶと、メイが俺の手をつないで光をまとう。光がほどけると、俺の手の中に愛刀、明鏡止水があった。
構える。見る。息を吐く。
そして、駆けた。
アルミラージの首が落ちる。俺は明鏡止水を強く振るい、刀に付いた血を払う。
「……え、テクトって、戦えもするんですか?」
「多少はな」
「多少……? 今のが……?」
リーフィはしゃがみ、アルミラージの角に触れる。
その時だった。
「ッ。全員こっちだッ」
「ひゃっ」「わ」
俺は可能な限り声を絞りながら、二人に警告を告げ、その手を引いた。三人で、木々の後ろに隠れる。
直後、落ちたアルミラージの頭部が、石化した。
パキッ、と音がして、石の塊へと変貌する。
「……っ!?」「……わお」
リーフィは息をのみ、メイすら驚いて目を丸くしている。
そこに、ズルズルズル、と這いずるように接近するモノがいた。
それは、巨大な蛇のような魔物だった。だが細い四肢があり、細い頭にはトサカがあり、トカゲには至らない、文字通り蛇足のついたような、そんな魔物だった。
それが、石になったアルミラージの頭に食らいつき、バキバキと砕いて食らう。そして飲み込んだかと思いきや、スルスルと木の上に登って、そのまま枝伝いに消えていった。
それから十数秒ほど、俺たちは息を殺していた。しばらくし、息を吐く。
「……もう行ったか……?」
気配が遠ざかっていくのを感じて、俺は物陰から出る。そして、石の破片に触れる。
石化。確実にアルミラージは、石にされていた。それも、攻撃の前触れなく。
「おいおい。どんな魔法があれば、こんなことができんだ……?」
前触れがなかったということは、恐らく見ただけとか、そういう簡単なことで石化がもたらされたのだろう。そして、そんなことができる魔物は、そう多くない。
有名どころだとメデューサなどだが、先ほどの姿を考えるに……。
「バジリスクです。魔物学で学んだので知ってます。今近くにいたのは、バジリスク―――蛇の王とも呼ばれる、強力な魔物です」
リーフィは言う。それから「バジリスクなんていう危険な魔物が出て、恐らくジェノーヴァに近い、無人島……」と下唇を噛む。
「リーフィ、どうかしたか?」
「いえ……昨日から、少し考えていたんですけど。ここがどこなのかって。自分の命を守るために行動するとしても、いずれ来る脱出に向けて、目途を立てておく必要はありますし」
で、とリーフィは続ける。
「港町ジェノーヴァの周辺には、こういう無人島はいくつかあるんです。その内のどこかかな、とは思ってたんですけど……バジリスクが住み着くのは、一つしかなくて」
リーフィが、人差し指を立てる。
「『ジェノーヴァの魔獣島』。古代遺跡が眠っていたり、地龍やバジリスクといった危険な魔物が住まう、人類未踏の危険地帯。……多分、ここがそうかもって、話、なんですけど」
リーフィの顔色はどんどんと青くなっていく。俺はそれに「マジ?」と問い返す。
その時、地震が起こった。
俺たちはビクリと肩を跳ねさせ、視界の端で動いたものに、同時に目を向けた。
それは、山だった。
いや、山ではない。だが、山が動いているとしか、脳は認識しなかった。
だって、山のようなサイズのドラゴンだなんて、言われるまで想像すらしていなかったから。メイが「ご主人、アレ、山じゃなかった……」とつついてくる。
「……リーフィ。アレは」
「地龍、です……うわぁぁあああ……! もうおしまいなんですけどぉぉぉおお……!」
リーフィが突っ伏して泣きだす。メイが「おぉ~……」とただ感嘆しながら、動く地龍を見つめている。
それに俺はただ「すっげぇとこに来ちゃったな……」と他人事のように言うのだった。