【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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蛍火デコイ

 帰ってくるなり、リーフィは頭を抱えた。

 

「マズイ……マズいですよ相当。よりにもよって魔獣島とか、最悪なんですけど……!」

 

 半ベソをかいて唸るリーフィに、俺はアルミラージの肉を焼きながら聞く。

 

「まぁ、とんでもない場所だとは思うけど……そんなか?」

 

「そんなですけど!? 状況理解してます!?」

 

「あんまりしてないかもしれん。解説頼む」

 

「もう! もうもうもう! やりますけど! いいですか!?」

 

 リーフィは強弁する。

 

「魔獣島は元々、コンスタンティン王国屈指の不可侵領域の一つなんです! 危険すぎて調査計画も凍結中! 国が直々に『侵入不可』と定めた場所なんですからね!」

 

 で! とリーフィは続ける。

 

「事故とはいえ侵入したワタクシたちは、いわば法律違反に近い状態! 何があっても自己責任なんです! そんなところに、危険を冒して救助隊を向かわせますかって話で!」

 

「きゅ、救助隊、来ないかもなのか?」

 

「……分かりません。どっちもあり得ますけど。むしろ怖いのは、来てしまった場合で」

 

 リーフィは語る。

 

「救助隊は領主お抱えの騎士団になると思います。つまり、血統魔法とか特別な力を持たない人々です。その人たちがこの島に来て、もしバジリスクや地龍と遭遇したら……」

 

 俺は、一気に血の気が引く。

 

「ま、マズいな、それは」

 

「はい。相当数の被害が出るはず。それを打破する見通しが立ってないなら、むしろ来ないでほしいくらいなんですけど」

 

「なるほど……来ないかもしれない、来ても被害が大量に出るかもしれない、か……」

 

 難しくなってきた。というか、今この瞬間でも、バジリスクが来たら俺たちは全滅しかねないのだ。思った以上の窮地だと再認識する。

 

「だから、もう、ヤバいんです……。はぁぁあ……まさかこんなところで人生終わりとか、本当に勘弁してほしいんですけどぉぉぉお……!」

 

 リーフィは突っ伏してうずくまる。元々追い詰められていたのもあって、限界が来たか。

 

 思えば、以前学園でも、こんな姿を見た記憶がある。元々メンタルが弱くへこたれることが多くて、それをシアが慰める、という場面をよく見た。

 

 ……シアの本性を知る俺からすれば、シアは外では頑張ってたんだなぁとか思ったり。

 

 そこで、勝手に火の具合を見て、焼けた肉を食べ始めていたメイが、言った。

 

「リーフィ、弱虫?」

 

「おいトドメを刺すな」

 

 リーフィがメイに言われて、泣き声すらあげなくってしまう。俺はメイの耳を引っ張る。

 

「あたたたた。ご主人、ご主人、痛い」

 

「もう少しメイは、空気を読めるようになろうな?」

 

「ごめ、ごめんなさい。でもご主人も思うでしょ?」

 

「何が」

 

 離すと、メイは耳をさすりながらこう言った。

 

「嘆いてる暇があるなら、動いた方がいいって」

 

「……」

 

「ご主人は大変な時、いつも走り回ってる。それで毎回解決してきた。メイ、見てたもん」

 

「……そうだな。うん、その通りだ」

 

 俺はメイを撫でる。それから、リーフィに言った。

 

「リーフィ。俺たちには、もっとちゃんとした装備が必要だ」

 

「……装備で、ここの魔物たちをどうにかできるんですか?」

 

「分からん。ただ、泣いてるよりはマシだ。少なくとも、地龍は近づかなきゃさほど問題はなさそうだし、バジリスクも対処できると俺は思う」

 

「え……?」

 

 リーフィが顔をあげる。泣いていたからか、顔が真っ赤だ。

 

「元の装備でも、バジリスクの対処は難しい。見られたら終わりだしな。だから徹底的な情報戦(かくれんぼ)で戦う必要がある。欲を言うなら暗視ゴーグルは欲しかったが……」

 

 無いものねだり、というものだろう。だから、対案を出す。

 

「―――デコイ。対バジリスクに必要な装備は、デコイだ」

 

「デコイ……」

 

 すなわち、囮、誘惑物。敵の気を引く装備品。

 

 簡単なものなら鈴やコインでいい。軽く遠くに飛ばすことで敵の気を引き、その隙に行動する。そのクレバーな有様、戦法そのものがロマンという代物。

 

 その中でも、母に教わった即席デコイレシピの一つ。

 

「『蛍火デコイ』。これを作る。材料は軽くて手のひらサイズの固形物なら何でもいい。平たい石でも、貝殻でもな」

 

「蛍火……? ちょうどこれとか、平べったいですけど」

 

「それでもイケる。貸してくれ」

 

 リーフィが足元で拾った石を受け取る。メイの鉄を彫刻刀にし、魔導回路を刻み込む。

 

「ところでリーフィ、魔導技術はどのくらいできるんだ?」

 

「えっと……、さほど、ですけど。社交術とか、血統魔法の方で成績取ってるので」

 

「そうか。じゃあ簡単な説明だが、魔導技術ってのは基本的に、魔石から取り出した魔力で動かすのが基本だよな?」

 

「? そりゃそうです。魔導技術の基礎の基礎なんですけど。バカにしてますか?」

 

「してないって。でも技術には、基礎の基礎では教えない例外がある。例えば―――ごく僅かな魔力しか消費しない魔導回路の場合は、魔石なしでも起動ができる、とかな」

 

 刻み終わった魔導回路に、魔力が走り始める。それを見て、リーフィが目を剥く。

 

「魔力がないのは男だけだ。他のものには、それこそ空気にすら魔力は存在する。その空気から捻出した微細な魔力でも、簡単な魔法は行使可能だ」

 

 例えば、『発光』。他にも、すでに軽いものをさらに軽くする『軽量化』。

 

 魔導回路を刻まれた軽石は光りだし、手を離すと羽のようにゆっくり落下した。

 

 手をかざし、払う。すると魔導回路は閉じ、光を失って元の重さに戻る。

 

「これで、闇の中で敵の目を奪う、『蛍火デコイ』の完成だ。いきなりバジリスクは荷が重いだろうから、夜になったら他の罠をめぐって、少し練習してみようぜ」

 

 いきなり強力な魔物と退治するのは、流石に荷が重いだろう。だが、罠にかかって動けない魔物をデコイで誘引するくらいなら、練習にぴったりのはずだ。

 

「……これで練習して、バジリスクと戦えるようになれば、脱出も早まるってことですか」

 

「まぁ、そうなる」

 

「随分気長な作戦ですけど」

 

「……それは、認める」

 

 悠長な作戦だ。だが、今すぐ取り掛かれる策なんて、こんなものだ。

 

 しかしリーフィは、クスッと笑って、蛍火デコイを手に取った。

 

「けど、少しでも前に進めるなら、十分じゃないですか? 無駄じゃないと思いますけど」

 

 俺は、キョトンとしてリーフィを見た。リーフィは「な、何ですか。ワタクシだって、認めるときは認めるんですからね!」とそっぽを向く。

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