TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う 作:蓋然性生存戦略
ヒイラギさんが絶妙に好感度を稼ぎ切れなかったルート
本編5話で「生きろ」「一緒にいよう」ってちゃんと口に出して言わないとこうなる
「エソラっ……!どこだ、どこにいった……!」
ザァザァと降りしきる雨の中。
私は傘も差さずにただやみくもに走り回っていた。
アレから三日。
私は未だにエソラを見つけることができていない。
三日前、エソラは忽然と姿を消した。
いや、兆候はあった。
私が見過ごしてしまった。
それを見過ごしたくないから私はヒーローを目指したのに。
私はまた、それを見逃してしまった。
アジトから手掛かりを探そうとして、見つかったのはたった一つの遺書。
私は一も二もなく飛び出した。
幻楼院の摘発はもう終わっている。
謎の突然死が相次ぎ、混乱に乗じて全て捕えた。
キミが死ぬ必要などない。
だから、お願いだ。
消えないでくれ。
逝かないでくれ……!!
『……《ブレイディア》』
「言うなっ!!あの子はまだ生きてるっ……!!」
『極東連邦跡地。あそこは未だエイリアンの汚染も激しい場所だが、自死するにはうってつけの場所だ。あの小娘の異能が未知数だが、まだ間に合うかもしれない』
「っ……!!」
《テリトリア》のその言葉を聞いて、私はすぐに進路を変え、全速力で走った。
誰よりも速く駆けることができるはずのこの肉体が、今はどうにも鈍間に思えて仕方がない。
間に合え、間に合え、間に合え。
一番汚染の激しい奥地まで走って……現実が、私の眼に映る。
「エ、ソラ……」
驚くほど綺麗な顔だった。
まるで先程眠りに入ったかのような、そんな安らかな顔だった。
その手には、一冊の黒いノート。
そして、無骨な何かしらの機械。
震える手で、エソラに触れる。
ああ、冷たい。
冷たい、冷たい、冷たい、冷たい。
あれだけ暖かかった体温が、今は欠片も感じられない。
何も感じない、何も動かない。
鼓動が何も、感じられない。
現エソラは、もう、死んでいる。
「あ、あぁ……あぁ”ぁぁ”ぁああ”ぁああ”ああッ!!」
『……《ブレイディア》』
「何が、何がッ……ふざけるな……っ!!守りたかったものなんて何一つ、守れやしなかったじゃないかッ……!!」
もう、キミは私に何も、語り掛けてはくれない。
キミは私に与えるだけ与えて、何も受け取らず逝ってしまうのか。
私は、キミになにも返せていないのに。
『……すまない』
「……いい。もう、何も要らない……」
『……折を見て、一度本部まで来てくれ。お前なら問題ないとは思うが、バイタルチェックは必要だからな』
ただ、私はエソラの遺体を抱きしめることしかできなかった。
守りたかったものは、何一つとして守れない。
それが、私の宿命だったのだろうか。
エソラの遺体を抱き上げながら、ノートと無骨な装置を手に取る。
装置はどうやら、音声記録装置のようだ。
スイッチを押し、再生する。
『あ、あー。万が一、おねーさんがここまで来ちゃった時のために、ビデオメッセージを残しておくね。
とりあえず、そこの黒いノート、ボクの他におねーさんだけに使えるようにしてあるから、必要だと思ったら使って欲しい。
用が済んだら一応燃やしておいて、使い方はノートに書いてある。
さて、本題に入ろう。
まず最初に、ごめんね。
ボクは弱いから、一番確実な方法がこれしかなかった。
最後に、やっぱり癪だからノートを使って精一杯の反撃をしたけど、このノートにも弱点がある。
討ち漏らしが発生したら大変だからね、やっぱり死ぬことにするよ。
でもね、これだけは覚えていてほしいんだ。
おねーさんとの四か月、とっても楽しかった。
リンカが死んじゃってさ、そんなときにおねーさんを拾ってさ。
誰かがアジトにいるってだけで、ボクは嬉しかったんだ。
だから、ありがと。
遺書にも書いたと思うけど、あのアジトのもの、全部あげる。
おねーさんなら、きっと悪いことには使わないだろうし。
ボクには、処分なんてできそうもないし。
この四か月の精一杯の感謝の気持ちとして、遺しておくね。
たぶん気に病むと思うから言っておくけど、おねーさんは悪くないからね。
これは、ボクの勝手な我儘。
生きる理由を無くしちゃった、そんな愚かな人間の末路だよ。
だからさ、ちゃんと立ち直ってね、ヒイラギおねーさん。
おねーさんはさ、ヒーローなんだから』
……。
なぜ。
なぜ、エソラのような子供が、こんな悲壮な決意を固めなければならない?
間違っている。
例え、例えエソラに前世の記憶などというものがあったとしても。
「キミは……子供じゃないか……!!」
守るべきもの、大人の責務として守らなければならないもの。
未来を約束されていたはずの、小さな命は。
私の命を拾い上げて、散って行った。
嗚呼。
私の中で、何かが砕け散った気がした。
「目の前の子供一人救えない私が……ヒーローなわけがないだろう……!!」
私はもう、ヒーローにはなれない。
キミを見殺しにした私に、それを名乗る資格はない。
私は……ただの殺戮者だ。
それを自覚した瞬間、何かがすとんと腑に落ちた気がした。
「は、はは、ははは……血で薄汚れた人間に、何かが救えるはずなかったんだ……」
私にできることは、ただ、多くを殺すことだけ。
それだけだった。
「はは、あはははは、アハハハハハハハハハハハハハ!!……ああ、反吐が出る」
そうだな。
だがキミはそれを望まないだろう。
あくまで私をヒーローと呼ぶのなら。
私はそうあろう。
例え、ニセモノだとしても。
私は物言わぬ肉塊と化したエソラをアジトへと連れ帰り、荼毘に付した。
用意の良いことだ、キミは私がこうすることも想定内だったのか。
付与された権限で入れるようになった部屋の中には、火葬場があった。
本当に、本当に用意の良いことだ。
キミは、こんなにも小さくなってしまったのだな。
遺灰の入った壺を、エソラの部屋に安置し、私以外は入れないように設定した。
ただの自己満足だ。
それでも、キミはそこにいたと思い出したかった。
それから、私は本部に顔を出した。
色々と聞かれたが、全て放置した。
バイタルチェックを済ませ、私は《テリトリア》に告げる。
「以降、激しい武力制圧が必要な時だけ呼んでくれ」
「《ブレイディア》、それは」
「議論する気はない。それではな」
それから、随分な時間が経ったような気がする。
私は異能の影響か、肉体は衰えることなく、未だ健在だ。
重犯罪の現場を斬って斬って斬り続けて。
記憶も、いつしか摩耗して行った。
だが、それは流石に覚えていた。
かつての大乱、その再来を。
ああ、また来たのだな。
あの時以上の規模で、あの時以上の殺意を以て。
「関係ない。死ね」
私は、全てを斬り捨てた。
天蓋を覆う大船団を、一刀のもとに。
ああ、それが良くなかったのか。
私は英雄から、恐怖の象徴となった。
「私を殺すか、老婆」
「……ああ、お前はもう、私を認識することすらできなくなっていたのか……《ブレイディア》、もう休め。お前はもう十分に働いた」
「……そうだな。真似事すら出来ぬのでは、もはやあの子の望みを果たすことすら叶わん」
「……名は、思い出せるか」
「自分の名は忘れた。ただ、エソラという名だけは覚えている」
「そうか……すまない、死んでくれ、
「そういえば、そのような名だったな」
恐怖の象徴は、必要ない。
私の存在が誰かを脅かすのなら。
もう、必要ないだろう。
とす、と軽い音で、私は心臓を潰された。
さしもの私も、心臓を潰されれば死を免れない。
「あぁ……やっと……」
私の意識は、暗転した。
「はっ!?」
何だ、今の夢は。
私は不安に駆られ、隣を探る。
そこには、安らかな寝顔のエソラがいた。
ちゃんと暖かい、生きている。
「今のは……あり得たかもしれない、未来なのか……?」
いや、私にそんな異能は無い。
潜在的な不安が見せた幻か……。
いずれにせよ、エソラは隣にいる。
「んぅ……おねーちゃん……?」
「起こしたか。すまない。まだ夜中だ」
「ん……おやすみ……」
「あぁ、おやすみ」
だが、もし、もしもだ。
私が今まで以上の恐怖を覚えているのだとしたら。
私も、認めざるを得ないのかもしれない。
エソラの額に唇を落とし、私も再び眠りについた。
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