TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う   作:蓋然性生存戦略

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なんかすごく気が向いてしまったので……

第二部、始めます(エェ!?


第二部:臨時講師二人、ただし最強
第一話:元TS転生ヴィランロリのハネムーンキャンセル


多分、ボクの声はハウアイ空港中に鳴り響いた。

 

「はぁぁぁあ?ハウアイでのボクとヒイラギの新婚旅行を邪魔しようっての!?」

 

婚姻届けを出してから数週間。

名実ともに夫婦……どっちも女だけど夫婦になったボク達は、じゃあせっかくだから新婚旅行に行こう!と思い立ったわけだ。

計画から実行まで実に三日。

あまりにも早い行動、自分たちでも見逃しちゃうね。

で、ようやくリゾート地であるハウアイ島に到着した矢先のことだ。

 

『それについては本当に申し訳ないと思っているが、手が足りなくてな。ヒイラギと共に戻って来て欲しい』

「ぶち殺すぞヒューマン!!ボクたち今ハウアイに着いたんだけど!?このままとんぼ返りしろって!?冗談も大概にしろお前ッ!!」

『申し訳ないとは思っている……』

「ぐぎ、ぐぎぎがぁぁぁあああ!!」

「すまない《テリトリア》。エソラが怒りでどうにかなってしまったので代わる」

 

ふざ、ふざけるなよこのクソストーカー女ぁ!!

フーッ、フーッ……落ち着け、ハネムーンの予定は事前に伝えてあった。

いくら無粋な《テリトリア》でも、よほどのことが無い限りはこんなクソみたいなことはしないはずだ。

つまりそれだけの事態になっている、もしくはなろうとしているってことだ。

そう、無粋クイーンであるあんにゃろうも、なんぼなんでもそこまで無粋ではないはずなのだ。

 

「一応用件を聞いてから判断させてほしい。お前の事だから、それ相応のことはあるのだろう?」

『近年、犯罪件数が増加しているのは知っているな?』

「ああ」

『その中でも若い異能発現者を狙った犯罪が特に多い。政府が見込んだ有望株を中心として、だ』

「護衛でもすればいいか?」

『本質はそうだ。クソガキが卒業したのとほぼ同時に新設した施設があったろう?』

「寮制のヒーロー育成校だったな。確かトートにもあったと記憶している」

『それだ。トート校に近辺区域の有望株を集めていてな。一期生と今年入る二期生は、やたらと狙われている。殺害ならまだいい、誘拐して戦力にされようものなら厄介なひよっこもいる。そこでだ、護衛ついでに臨時講師として鍛え上げてくれないか?』

「……それは本当に私たちでなければならないことか?」

『本来ならば私たちでやらねばならんことは百も承知だ。ただ、人員が確保できない。予定していた人員が、大きなヤマを引き当ててしまって手が離せない。だから二期生が卒業するまでで良い。それまでには何とか都合する。頼む。エソラにはギャラも弾むと言っておいてくれ』

「だ、そうだが」

 

深刻な人手不足と言ったところか。

ヒイラギの引退の波は思ったよりも大きい、といったところ。

だが、だがしかし……。

ハネムーンが……ボク達の、ハネムーンが……。

……。

 

「ぇぐ……ぃぃょ……またくればいいし……」

「……《テリトリア》。想定の倍額は払ってもらうからな」

『……本当に済まない……とはいえお前、日に日にエソラに甘くなっていないか?なあ?』

「切るぞ」

 

ないてないもん。

ないてなんかないもん……!!

 

「帰りのチケットもすぐ取れるわけじゃない。ホテルには事情を話して、少しだけ満喫しよう」

「うん……」

 

半日限りのリゾート地。

うん、楽しかった。

また来よう。

 

 

 


 

 

 

《テリトリア》からの要請を受けて、リゾート地からとんぼ返りした私達は、《ガーディアンズ》本部で《テリトリア》から詳細を聞き、準備を進める。

私達は、アジトという実質移動可能な拠点があるため、新たに入り口を作成することにした。

これで、家にいながらすぐに駆けつけることが可能になる。

まあ尤も、私の場合は空を走ったほうが早いこともあるが。

 

そして、私たちの立場は臨時講師ということになるらしい。

座学は担当せず、実技面で頑張ってくれとのことだった。

私はエソラのストッパー役になりそうだな。

泣き止んでからというもの、不機嫌ですというオーラを隠せていない。

表面上は完璧な営業スマイルだが、誰がどう見ても不機嫌にしか見えない。

口調も表情も仕草も完璧だというのに、ここまで不機嫌だということを隠せない事例は初めてだ。

正直、私でも止められるか怪しいくらいには"ブチギレ"ている。

夜に慰める方向も考えておくか……。

 

季節は春。

桜咲く新しい一歩の季節。

国立ヒーロー育成校トート支部に、新入生たちが入学する。

尤も、ヒーロー育成校と言っても、裏方の方も間口を広げている。

新入生の全てが異能発現者というわけでもない。

が、学校の性質上、問題が起こらないとも限らない。

職員は大変だな。

 

まあ、私たちも一時的にではあるがその職員になるのだが。

 

「新入生、入場」

 

とはいえ、入学式自体は普通の学校とそう変わるわけでもない。

やたらと注目されたが、場面は飛ばしていいだろう。

どこかのクラスを受け持つわけでもない、実技限定の臨時講師だ。

周囲警戒を重点的にした方が良いだろう。

《テリトリア》がこの件の要請をしたということはつまり、学校にまで攻撃が及ぶ可能性を危惧しているからに他ならない。

それだけの情報を掴んでいると見てもいいだろう。

今は部外者であるが故、あまり深くは聞けなかったのが残念だが。

 

「(ニコー)」

「エソラ、気持ちは分かるが……」

「(ニコー)」

「ああ、そうでもしていないと爆発しそうなのか……分かった、何も言うまい」

 

エソラの不満が爆発しそうだ。

エソラ自身、今回の件の緊急性を理解しているため、こうして我慢しているのだろう。

どこかで発散させなければ生徒の方に危害が及ぶな……。

ナメた態度の生徒がいようものならば……いや、全力で止めるが。

 

「この後、新入生を集めたオリエンテーションがある。内容は覚えているな?」

「(ニコー)」

「……あんまり羽目を外さないでくれよ。止めるのは私だからな?」

「(ニコー)」

 

流体金属が袖からチロチロと顔を出している。

ダメかもしれない……。

何事もなければいいが。

杞憂で済んでくれれば、それに越したことはないが……。

 

人間は基本的に愚かな生き物である。

いつしか、エソラが口にしたことがある。

それに則るのならば……期待はしない方が良いのだろうな。

 

そして、その考えは当たっていた。

オリエンテーションにて。

 

「臨時講師に引退したヒーロー?大丈夫なんですかそれ?しかも一般人もいるみたいですけど?」

 

新入生の一人から、そんな声が上がった。

ああ、エソラの笑顔が深まった。

まあ、一度くらいは見逃そう。

この場合見逃すのは彼ではなく。

()()()()

 

彼のためを思えば、痛い目を今のうちに見ておくのが正解だ。

 

対異能戦闘において、外見と事前情報がどれだけ役に立つかなど分からないのだから。

 

「じゃあヒーロー目指すの止めたら?」

 

――ドゴォ……!!

 

彼の足元1㎝。

その周りの床が、寸分の狂いもなく円形にえぐられていた。

流石の操作精度と速度だ。

惚れ惚れする。

 

「対異能戦闘において相手を見た目で判断するなって勧誘してきた人に習わなかった?それとも君、勧誘組でもなんでもない?いずれにせよ、大口叩いておいて今のに1ミリも反応できてない時点で話にならないから荷物纏めて家に帰っていいよ」

 

他の講師が行動する前に、エソラは言い放つ。

資料によれば、彼は身体強化系の異能を保持していたはずだ。

それも全身に及ぶものだ、動体視力なども強化できる類の、当たりとされている部類のモノ。

先のエソラの一撃は、だいぶ手加減が施されていたため、彼がきちんと注意していれば反応できたはず。

エソラの言うことは間違ってはいないのだ。

その程度の気構えでは、この先命を落とすだけなのだから。

 

ただまあ……。

 

床の修繕費はキミのお小遣いから出してもらうからな

「あっ」

 

エソラにそっと耳打ちする。

床を抉るのはやりすぎだ。

私は庇わないからな。

流石に冷静になったのか、液体金属を引っ込めて後ろに下がった。

 

生意気な彼が余程の愚か者でもない限り、今ので彼我の力量差は痛感しただろう。

観衆の眼がある場所で赤っ恥をかいたことに関してはまあ……自業自得と思ってもらうほかない。

 

「コホン。エソラ先生からの厳しい指摘があった通り、対異能戦闘において相手を見た目や事前情報だけで判断してはいけません。ヒーローを目指すのであれば、そしてオペレーターやサポーターを目指すのであれば、胸に刻んでおくように。では本題に戻りまして、今回のオリエンテーションでは、まず自分たちがどれほどの能力を持っているのか、理解してもらおうと思います。良いですか?異能発現者は、少なからず人を容易く殺めることができる能力を持っています。それを忘れることのないようにお願いします」

 

ん?エソラめ、密かに床の修繕を進めているな?

まあ、バレていないようだし、大目に見ておこう。

学校の性質上、破損は前提だ。

うやむやになって終わるだろう。

 

「ボクも思いっきり使えたらな……」

「私もそう思うことはあるが、やめてくれ。キミのは本当に冗談では済まない……」

「それはヒイラギもでしょ……」

 

それはそれとして、私達はもはや自分の全力が分からない領域にまで来ていた。

下手に力を出せば、何かしらが崩壊することは目に見えているからだ。

力とは、時にそれだけで枷になるモノだ……。

 

「「はぁ……」」

 

不満があるわけではないが、羨ましいと思ってしまうのは、人のサガなのだろうな。

 

「トラペゾヘドロンでもつくろ……」

「一応監督役ということを忘れるなよ」

「あそこのとあそこの。ちょっと危ないのは見えてるよ」

「なら良い」

 

見えているのなら言うことはない。

しかし……特例の臨時講師とは言え、私が後進を育てることになるとはな。

『お前は誰かに教えられるような人間じゃない。いや、お前の指導能力が悪いとかじゃない。お前は強過ぎる』と《ジャックジャック》先輩に言われたのが懐かしいな。

 

「はいそこ。限界を知ろうとは言ったけど限界を越えようとしない。そんなくだらない挑戦で死ぬ気?炎熱系なんだから細心の注意を払って。ヒーローをやるなら、キミに最も求められるのは繊細な火加減、火力は二の次だ」

「ぁ……はいっ!!」

 

実際、私よりもエソラの方が人に教えるのは向いてるだろう。

私は力そのものだが、エソラは創意工夫を凝らすタイプだ。

言語化が得意というわけではないが、理論はしっかりと持っている。

そういった面でも、エソラは向いているだろう。

率先してやる気がないだけで。

 

「(エソラさんって結構細やかだよな。動画ではクソガキなのに)」

「(つか視野広くね?現役のウチらより見えてるし)」

「(《テリトリア》さんが特例で呼ぶだけあるわ……)」

 

素質はあるんだがな……いかんせん本人にやる気が……。

勿体無いと思ってしまうこともなくはない。

 

「おいクソガキてめえ筋肉の膨張圧で骨が軋んでるの分からん?そのままやったら骨爆散するけど?別に止めやしないけどそんなこともわからん?」

「っ……!!クソが!!」

 

……口調だけはどうにかならないものか。

まあ、あとで考えよう。

 

 

 


 

 

 

「初日の様子はどうだった」

 

無理を言って頼んだ手前、私には責任がある。

ヒイラギに繋ぎ、雑談がてら報告を受け取る。

 

『エソラの機嫌が悪過ぎて途中まで気が気じゃなかったな。存外真面目にやっていたが』

「切り替えはできると見込んでのことだ。できてもらわなければ困る」

 

それくらいはできるだろうと思ってのことだ。

いや、まあ、タイミング的に本当に悪かったとは思っている。

私だって可能ならばしたくなかった。

エソラの怒りが完全に向いたら、真っ先に犠牲になるのは私だからな。

 

『帰りの便で泣きじゃくるエソラを慰める身にもなってくれ。まだ未成熟な部分も多いんだ』

「……あのクソガキ、もうこっちで15年以上生きているはずだよな?」

『一応言っておくが、エソラは人体改造を施された子供の完璧な複製体だ。何かしらの影響が出ていないとも限らん』

「……留意しておく」

 

……失敗だったか。

いや、まだ分からない。

ヒイラギだけ呼び出せば、事態が悪化していたのは目に見えている。

セットで置いた方がいいのは確実なのだ。

問題は、その場合どんな化学反応が起きて、何が結果になるか分からないことだが。

幻楼院確保の大暴走から旧オートでの出来事が脳裏によぎる。

自分から招いたこととは言え、すでに胃が痛い。

人員がいなかったことは間違いないが、どうにかできたのでは?という思いが頭をもたげる。

 

『まあエソラはなんとか宥めておく。ギャラの用意は忘れるなよ。お前の尊厳がかかってるしな……』

「分かっている……助言をもらうかもしれんが……」

 

ギャラは……私の財布が痛むだけならなんてことはない。

どうせ生活費以外にほとんど使う暇がないんだ、経済を回すという意味でも必要経費として割り切っている。

問題はエソラに対する報酬として何が適切なのか。

私にはそれが判断できないというところだ。

今や同じ趣味を共有しているヒイラギから、助言をもらうほかない。

 

『何度かエソラには打診してるんだがな……【アイツだけはダメ】と突っぱねられた』

「いや、良い。このギアスがあるからこそ、今の信頼関係がある。エソラ自身から解除する気になるまではそのままでいい」

『すまんな。お前にだけはどうも辛辣でな……』

「私の方が一度エソラの地雷を踏んでいるからな。さもありなん」

 

来歴を聞けば、知らなかったとはいえ私が悪い。

エソラがその時ヴィランだったとしてもだ。

この程度で仲を取り持てるなら安いものだ。

 

「それで、明日以降はどうだ」

『幾人か鼻っ柱を叩き折ったからな、様子見だ。非勧誘組の方が扱いは楽なくらいだ』

「勧誘されたことで増長する者が現れるとは思っていたが、お前を前に増長するとはな。引退の波は大きいか」

『私がエソラの手綱を握っているうちはなんとかなるだろう。エソラも、よほどのことでない限り私の言葉は聞いている。ひよっこが相手ならなんとでもなろう』

「そうか。……これは極秘事項だが、ヴィラン組織に大きな動きがあるとの報告が入った。注意してくれ」

『了解。エソラには共有して構わないか?』

「できればやめてくれ。察するだろうがな」

『分かった』

 

ひとまずは何事もない。

であるのならば、備えるのみだ。

 

「報告は以上か?」

『ああ。切るぞ』

「構わん。ではな」




書きたいことは終わったと言ったな。
あの時点では本当だったんだ……でもなんか書きたくなっちゃったんだ……。
嘘じゃないんだ……。
後からなんか降って来たんだ……アイデアが。

というわけで始まります第二部、臨時講師編。
乞うご期待。

そういえば感想欄で幻楼院以外の厄ネタはなさそうだなってもらった記憶があるんですけど、しっかり本編の中に仕込んでる厄ネタはあるにはあったりします。
回収するかはさておいて。
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