TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う 作:蓋然性生存戦略
自分で気付けなかったところ見つけてもらうとデバッグしてもらった気持ちになりますね。
「ぜぇぇああ!!」
さて。
ボクはなんで元同級生と戦っているんだったか。
普通にコイツら並のヴィランより強いが?
なるほど、手合わせを願うだけはある。
だがしかし。
「ボクを玉座から動かせないようでは、まだ足りないね」
ボクは戦闘開始から一歩も動いていない。
某慢心王のように髄液くん玉座で見下ろしている。
そもそもの話、髄液くんは元々演算装置である。
原作から大きく魔改造してもはや内部構造も最大体積も原形をとどめていないこれは、しかし依然として高機能演算装置である。
展開すればするだけ演算領域が広がり、ボクに余裕ができるというインチキ武装だ。
つまるところ、ヒイラギが相手でもない限り、真っ当に負ける道理はないのだ。
真っ当じゃない負け方?するかよ。
精神干渉及び物質干渉、概念干渉、時間干渉に対応した耐性を付与していますが何か。
たとえ世界中がフルーツな赤ちゃんに寄生されておかしくなったとしても、ボクとヒイラギだけは正気でいられるというわけだぁ!ガハハハ!
……そんな世界興味ないから壊すね(豹変)。
という冗談はさておき。
左から四神くん、右から三堂くん。
後ろの方から双葉さんが攻撃を仕掛けてくるね。
一ノ瀬さんは言いつけ通り走り込みを鍛えてきたみたいで、ボクの攻撃を良い感じに避け続けている。
もうちょっとギア上げても良いかな、まだ余裕が見える。
しかし四神くんの印象がなあ、今のところ超劣化ヒイラギなんだよなあ。
裏を返せば出会った頃のツヤツヤヒイラギ並に育ちそうだけど、そもそもヒイラギがバケモンという話がですね。
空を走れて大鎌を召喚して強化した肉体で振り回すって、ソレ得物を変えただけで劣化ヒイラギなんよ。
いつだったか全力でヒイラギと戦ったボクだからこそわかる。
こいつバケそうだけどヒイラギが実質現役なうちはダメだろうなって。
も、勿体ねえ〜〜。
仲間に恵まれてるだけに勿体ねえ〜〜。
あと1世代遅く生まれていれば君は英雄だった。
間に合うかどうかはさておいて。
三堂くんも悪くないねんな。
異能自体はぱっと見しょぼいんよ。
どう足掻いてもしょぼいんよ。
でも本人のスペックが高いからバケモンなんだよね。
大体なんでも掴める能力と言えばしょぼそうに見えてやばいのが分かるだろうか。
あいつなんでも掴むんよ。
空気だろうがなんだろうが掴むんよ。
だから何もないところで猿みたいな挙動すんのよね。
エグいわお前。
で、双葉さん。
お前ダメ絶対。
《テリトリア》の同類じゃねーか。
さっきからボクの髄液くんに干渉しようとしてるのは分かってんだぞ。
凄くボコボコにしてやりたい。
手加減とか関係なくボコボコにしたい。
我慢我慢。
一ノ瀬?アイツはまあ今の段階でも骨折レベルの怪我を一瞬で完治させてるっぽいから良いよ。
適度に追い詰めて賑やかしにさせてる。
で、なんでボクはこいつらと模擬戦してるんだっけ。
ちょっと思い返そうか。
時は少し遡る。
「エソラ先生、いやエソラさん。この後、俺達と手合わせお願いできませんか」
新年度が始まってひと月。
体力が足りなさそうだから異能を伸ばしつつひたすら身体トレーニングをさせまくっている今日この頃。
その日の授業も一通り終わり、ヒイラギと職員寮に帰ろうかと二人で歩いていたところ。
異能バトルラノベ主人公一行こと
「ボク?ヒイラギとどちらかじゃなくて?」
「はい。
そう、わざわざボクを指定して模擬戦を申し込んできたのだ。
いやまあヒイラギに勝てないって分かり切ってるのはよく分かる話だけど。
「ん~、まあそれは構わないけど、なんで?」
「ひとつ。エソラさんの実力が未だ未知数であること。
ふたつ。同世代で多くの実績を持っていること。
みっつ。授業で垣間見える高い実力に、俺たちがどこまでついて行けるのか。
理由としてはそんなところです」
「要するに気になるわけだ」
好奇心……どちらかと言えば挑戦心の方が強いか?
四神くんにはいつだったか戦うところを見せたしね。
髄液くんで、という話だけど。
「今の時間は、第四グラウンドなら使っている者がいなかったはずだ。受けて立つならば手配して来るが」
「お願いしてもいい?全く、タチが悪いよ。ボクはその眼には弱い」
全く、困ったもんだよね。
挑戦って言葉に弱いんだ、ボク。
「まとめて受けて立ってあげる。今の時期なら自分用のコスもあるでしょ、着替えてきなよ。待っててあげるからさ」
「ヒーローコスチュームも……?」
「キミたちのためを思って言ってるんだよ。高速で振るわれた流体金属を生身で受けて無事で済むと思ってんの?」
「そうっすね!みんな、着替えてくるっすよ!それじゃエソラ先生、第四グラウンドで!!」
三堂くんは察しが良くて助かるね。
他三人を引き摺ってコスチュームを取りに行った。
さて、ボクは第四グラウンドに……「待てエソラ」え、なに。
「ヒーローコスチュームが相手なら、ヴィランのコスプレが妥当だろう」
「なんでやおかしいだろ」
「本音を言えば私が見たい」
「おっけー着替えてくる」
……我ながらチョロいな。
エソラが戦うところを第三者としてみるのは初めてだろうか。
……よくよく考えてみれば、エソラが戦う姿を見るのは二度しか機会が無かったか。
私と相争った時と、共に幻楼院を撃滅に動き出したとき。
そのいずれも、今回とはまるで異なる……否、エソラ本来の戦い方だった。
私も、流体金属を用いて戦う姿を見るのは初めてだ。
「さて……一応実戦形式だからね。ヴィランとして相手をしてあげようじゃないか」
「……なんでエソラさんまで着替えてるんです?」
「ヒイラギがヴィランっぽい姿を見たいって言うから」
それは言わなくて良い情報なんだが……まあいい、私は満足だ。
エソラはこういう時、軍服モチーフの衣装を好む。
今回のも、軍服風のドレスアーマーと言ったところか。
禍々しい王冠がアクセントとして際立っている。
普段着の愛らしい姿で戦うのもある種ヴィランらしさが出るので良いが、こういうのも良いな。
「一応昔作ったコスチュームでね、それなりに性能は良いと自負しているよ。まあ、今となっては無用の長物だけれど」
……昔、か。
私と出会う前のことだろうな。
まあ、深くは掘り下げまい。
エソラが自ら引っ張り出してきたということは、エソラの中で区切りがついたことなのだろうから。
「さぁ、まずは20Lから様子を見ようか?」
エソラの袖から、流体金属が顔を出し始める。
その仕草はどこか仰々しく、役者のようだ。
どこからか聞きつけたのか、観戦者も増えてきている。
まるで演劇のようだ。
「まずは一人、貰いたいね?」
「あっぶなーーーー!?」
「訓練の成果が出ているようで何よりだよ、一ノ瀬さん。どこまで耐えられるか、見ものだね?」
「その前に!」
「仕留めるっす!!」
20Lの流体金属を出した後、エソラは流体金属で形成された玉座に座った。
座ったままで十分だということだろう。
頬杖までついている。
そして、王の様に腕を振り、流体金属を細く突き出した。
刺さりはしないだろうが、それなりの速度が出ている。
手加減はされているはずだが、当たり所が悪ければ骨折はあり得る速度だった。
恐らくエソラならば速度を落とさず軌道修正することも可能だろうが……手加減だろうな。
あくまで攻撃は直線的な攻撃に限ると言ったところだろう。
狙われた一ノ瀬をこれ以上狙わせまいと前衛担当の四神と三堂が前に出るが、やはりここは差が出るな。
経験では二人の方が上回っているが、エソラの人間離れした反応速度がそれを許さない。
その経験も、そのうちエソラによって修正が行われて優位性が失われるだろう。
二人とも三次元機動からの急襲が得意な能力者ではあるが、いかんせん速度も攻撃力もエソラの前では能力不足も良い所だ。
ゲームでなら私に勝つことも多いエソラは、裏を返せばゲームという土台の上でなら私と勝負になるほどの反応速度を有している。
音速を優に超える速度を制御できる私の反応速度に、ある程度付いてこれるということだ。
いくつか事件に関わった程度の経験で、覆せる差ではない。
「四神くん、三堂くん、私がサポートします」
「頼む!」
「ちょっとあの液体金属の手を割いて欲しいっす!!」
「私はーーー!?」
「この状況だと賑やかしにしかなりませんね」
「そんなぁーーーーー!!」
ふむ……?
確か双葉の異能は《テリトリア》に似ていたな。
周囲の物体全て、とはいかないようだが、土、石材、金属に干渉し、自在に操る能力だったか。
どうやら表情を見るに、エソラの流体金属に干渉しようとしているようだが……まあ無理だろうな。
《テリトリア》との一件があってから、エソラは全ての非存在アイテムに干渉不可、もしくは高度な干渉耐性を付与している。
以前、ギアスを用いて散々《テリトリア》
諦めずに干渉を試しながらグラウンドの土を用いて攻撃している姿はとても評価できる姿勢だが、乗っ取れる手応えが無いのならば早々に諦めてリソースを集中させるべきだ。
結果論だが、行動としては及第点をあげることはできないな。
「ふむ。流石に双葉さんの手数まで加わっては、このままだと厳しいか」
「四神くん、今!!」
「ぜぇぇああ!!」
だがまあ、現段階での手数は都合することに成功したようだ。
20Lという枷を付けた防御網を突破することができたのだから。
ただ……エソラは確か、私が知る限り、
「ボクを玉座から動かせないようでは、まだ足りないね」
攻撃が届く寸前、エソラは笑みを深めて流体金属の量を増やした。
倍か、それ以上か。
「
なんてことはあると思うぞ、エソラ……そういう演技なのかもしれないが。
魔改造に魔改造を重ねられたアレは、もはや水銀など比較にならないほどの密度を誇っている流体金属だ。
私を以てしても、全力で振るわれれば回避か迎撃を選ぶ。
その重さ、1Lあたり50㎏……水銀の約3.7倍の密度を誇る。
重量による攻撃力もさることながら、圧倒的密度による防御力、またそれを自在に操ることができるのは、十二分に脅威だ。
「うそでしょ……?!ぎゃー!!また私の方にきたー!!」
「あの精度の操作を、3倍の量でもできるっていうんすか……?!くっ!!」
「……流石にあの量を捌きながら攻撃する余裕はないぞ、防御で精いっぱいだ」
「同じく、ですわ。私の操作能力では棒立ちで注力しても対応できるか怪しいですね……」
攻防の拮抗は完全に崩れたな。
それに、エソラはもう詰めにかかっている。
「呆けててい~の~?君たちはもう、包囲されている!なんてね」
「!?」
四人が諦めの空気に入ったのを察し、一瞬にして流体金属で鳥籠を作り上げた。
恐らく地面の下にも張り巡らせているな。
徐々に動ける範囲を狭くしている辺り、性格が悪い。
エソラは玉座から降りて、悠々とその場で舞い始めた。
あれだな、完全に煽っているな。
無駄に優美なのが腹立ちポイントだろうか。
「~~♪」
「くそ、斬れない……!!」
どうにかして脱出しようと藻掻いているが、攻撃力が足りていないな。
唯一どうにかできる可能性があるのが四神だが……焦りからか上手くいかなかったな。
時間切れだ。
得物を振りかぶることのできないところまで包囲網を狭め、身動きできない状態になった。
「チェックメイト。勝敗は明白だと思うけど、どうする?」
「降参です。ここまで見せつけられて認めないのはダサすぎる」
「よろしい。満足したかな?反省会はギャラリーと一緒にすると良い」
「ええ。エソラさんが恐ろしく強いってことが分かりました。ちゃんとやりますよ」
……まあ、その異能は真っ赤な嘘なのだが。
偽装として用意したものがちゃんと強いので説得力と共に偽装に成功しているのが恐ろしい。
大手を振ってあんなものを振るっても疑問に思われないのだから……。
私がそんな事を考えている間に、鳥籠は解除され、流体金属はエソラの秘密の収納具にしまわれていった。
地味に反則なのはあの収納具なのでは?
もしかしなくてもそうだな……。
「しかし、これほどお強いのであればヒイラギ先生との戦いも見てみたいですわね」
「無理無理。ゲームなら勝てるけど、現実でよーいドンは無理。絶対ヒイラギが勝つ」
果たしてそうだろうか?
いまの流体金属で1000L想定は……勝てるな。
私の方が速い。
「さぁさぁ、これにて演目はおしまいおしまい!!ギャラリーも散った散った!!エソラ先生はこれからヒイラギ先生とデートだ!!」
エソラがそう宣言すると、周囲から黄色い声が上がる。
まったく、上手いこと誘導するものだ。
私はエソラのもとへ歩いて合流し、横抱きにして抱え上げる。
「じゃ、また明日!アデュー!!」
「それではな」
エソラに負担にならない程度の速度で離脱。
さっさとアジトへ戻るのだった。
「うっす、お疲れさま。エソラちゃん強過ぎだろ」
俺達が寮の共同スペースに戻ると、同級生たちが出迎えてくれた。
どうやら見ていたらしい。
労いの意味なのか、スポーツドリンクを寄越してきた。
「おう。アレは無理だ。土台からしてモノが違う」
「流体金属にも干渉できませんでした。一切手応えを感じなかったのは初めてですね」
「俺の空中機動に対応されたのも悔しいっすよ。結構死角に入ってたつもりなんすけどね」
「私は賑やかし~~……ちょっと身体能力が足りなさ過ぎるかなあ……」
共用スペースにあるソファーに各々座り、観戦組も交えて感想を交わす。
「いやあれ見た目の派手さに反して相当緻密な操作してるぞアレ。エソラちゃんどうなってんのアレ」
「意味分からんよね~~。頭脳系異能とのマルチホルダーの可能性あるくない?」
「前からそれは言われてたけど濃厚になったよな」
「てか感知系もあったりせん?明らかに後ろ見ないで対応しとったやんか」
「影見た説は?」
「ないない、逆光」
流石に1年実習や研修も含めてここでの経験がある分、意見交換もスムーズだ。
「仮に攻略するとしてどうする?」
「手数飽和させるか遠距離からの不意打ちしか無くね?少なくとも視認できる範囲からは不意打ちでも無理だべ」
「やるとしたら学年総力戦になりそ~~。そもそもまだ底が見えてないんだよね」
「何Lまで対応できるんだろ」
「いやぁ、ヒイラギさん見てたらなんか言いたげな顔してたからだいぶ手加減されてそうだぞアレ」
「勝利の舞に対しての顔じゃないのアレ」
「それより前からビミョーな顔してた」
「最低でもイチ湯舟は使えそうよな」
「単位が湯舟なの笑う」
「そういえば手合わせ組はアレ攻撃弾いてどんな感じやった?」
そうだな……。
速度を加味しても、異常に重かったな。
「普通の金属じゃないですね。多分水銀よりも重いと思います」
「確かに。めちゃくちゃ重かったな」
「俺は避けるしかしてないっすけど、一回掠った時かなりヤバそうな音したっすね」
「私は分かんない!」
「一ノ瀬には期待してないから安心してくれ」
「ぶっ飛ばすよ!?」
水銀よりも重い、つまりそれ以上の密度を持つ流体金属か……。
そんなもの、この世に存在するのか?
そもそもあの流体金属をどこから出していたのかという問題がある。
もしかしたら、流体金属を操る能力ではなく……。
「自在に操れる流体金属を生み出す能力、か?」
「今のところそれが一番ありそう」
「えぐない?」
「だとしたら限界あるくね?生み出す量に」
「結局何もわからんやんけ!!」
「一応一般人枠だから能力詳細が出てこないのが辛い」
「考察スレ覗いた方が情報出るってそれ一番言われてるから」
「異能上限がやたらと高い可能性はない?」
「もう本人から禁則事項扱いの証言出てるしそれは説としてありそう」
まあ、なんだろう。
いっそのこと清々しいほどまでの完敗を喫したが……。
盛り上がるのならばやった甲斐はあったかもしれない。
「しっかし、あれほどの強さを以てしてなお、ヒイラギ先生には勝てない、か」
「マジ?」
「いやまあヒイラギ先生と比較するんも難しいけど、本人談?」
「エソラさんがそう言ってた」
「マジか……」
「ただ、気になることは言ってたんだよな。よーいドンは無理って」
逆に言えば、万全の態勢で迎え撃てば可能性はあるのだろうか。
その可能性に気付いて、俺はかつて見た背中の遠さを思い知った。
・四神レン
やはりエソラに脳を焼かれていた主人公みてえな男。
現状劣化ヒイラギ。
ヒイラギよりも身体が脆弱で、力も弱く、速度は出せず、三次元機動力でも負けて、召喚する大鎌は普通に鋭いだけで、概念を斬ったり、気合ブーストを実現してくれたりはしない。
ただしこれらすべてに『今は』と付くため、可能性のバケモノ。
成長性で言うといずれは二代目《ブレイディア》を名乗れるレベル。
ヒイラギは勝手に後方腕組師匠面してる。