TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う   作:蓋然性生存戦略

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第五話:元TS転生ヴィランロリの大健闘

――キィィィィィィィン

 

私達の死体を弄ぶ輩と戦闘を開始してから約一分。

大まかに動きが掴めてきた。

だが、余り悠長にしていられるものでもない。

何度目か分からない剣戟の後、エソラの援護を受けて一度下がる。

エソラと並び、確信を得た事項を伝える。

 

「エソラ、奴らはあの身体で動くことにそこまで慣れていないようだ。反応から動くまでに間がある」

「それは良くも悪くもデカい情報だね。ちなみにボクからもさらにニュースがある」

「ほう?」

「色々アイテム出してはみてるんだけどね、どうにも未知の技術体系の痕跡が見られるんだよね。アレ、大乱の時のエイリアンの技術だったりしない?ってボク思うんだけど」

 

エソラに言われ、思案する。

言われてみれば、覚えはあった。

かつての大乱で、死んだ友軍が味方を襲うゾンビになる戦場なら経験している。

確かに、可能性はある。

だが。

 

「……状況は酷似している。だが死体はどこから」

「そこまではわからんけど……何故か殺したはずなのに復活してる女もいるから何とも言えないし……」

 

ああ、幻楼院リンネか。

エソラが死にかけたあのとき、念には念を入れて捜索した時に見つけたのだよな。

幼子の姿で復活したあの女を。

無論、監獄で厳重に監視されている。

 

「襲ってきた部隊の方も確認すべきだったな。こっち側に来たのは余波で全て粉々だしな」

「もしかしたらゾンビ兵だったかもって?そうなってくると新興ヴィラン組織は大分怖いわ。やーね」

 

さて、意識を目の前の死体に移そう。

相変わらず動きにくそうにしているが、それも慣れられてしまえば戦況は悪化する。

ただでさえ面倒な相手だというのに、だ。

 

「あっちのキミを、キミが仕留められれば話は早いのだが」

「髄液くん10000Lが有無を言わさず焼かれちゃったのがちょっと気がかりなんだよねえ。何を使ったかまだ分かってない。ただ、アイギスで防げた辺り概念干渉までは行ってなさげ。ただただバカみたいな高出力で蒸発させられたっぽい」

「……連発出来ない類のものであることを祈るが……思うに、狙われたのは生徒ではなく我々では?」

「説はありけり。さて、スガヤさんもそろそろ危なそうだから避難してもらうか。ぽちっとな」

 

戦況は膠着状態。

時間が経てば経つほど悪化する可能性をはらんだ状態で、だ。

 

「さて、エソラ。なにか打開策は?」

「ないと思う?」

「信じてる」

「にひ、あるさ」

 

無論、無策で一分も時間を費やしたわけではない。

自分たちの能力の事は、自分たちが良く分かっている。

 

「選手交代だ。10秒だけヒイラギの相手をする。ボクを仕留めて」

「無茶を言う。死んだら恨むぞ」

「死ぬかよ。奥の手は、量産しておくものだぜ。ただまあ……ちょっと終わったら慰めて欲しいなあ、なんて」

 

エソラはそういって、一本の瓶を取り出した。

 

「それは?」

「めっっっっちゃ強力なドーピング剤。後遺症無しのクリーンなブツです」

「副作用は?」

「尋常じゃないレベルでムラムラする」

「……」

 

……呆れた。

キミ、それ副作用が主目的じゃないか?

 

「いや違うの、そんな眼で見ないで」

「言い訳は後で聞こう」

「うぅ……仕方なかったんだよ……ええい、ままよ!一気!!」

 

エソラはそれを飲み下して、再び収納具に瓶をしまった。

もしかしてそれ、時間経過でまた使えるな?

 

「うっ……」

 

思わず駆け寄りたくなるが、我慢する。

エソラの準備が終わるまでは守り切らなければならない。

相手も死体ではあるが脳無しではない。

なにか来ると分かっていながら、仕掛けないほど愚かではないのだ。

全てを守りに集中し、絶えず止まずやってくる攻撃を防ぎ切る。

 

「うぅ……クハッ!……あははは……キタキタキタキタキタァ!!」

 

今決めた。

二度とこれは使わせない。

後遺症もなくドーピング剤としては強力な代わりに、興奮作用が高過ぎる。

そういった代物なのだろう。

 

「この状態じゃないとアレは使えないからなァ……!カモーン!!《描き千手》!!」

 

決めた。

説教だ。

裏でこれを実験的に使ったことがあるな?

 

「10秒。それ以上は無理だ。頼むよ」

「あんな偽物のキミ程度、3秒もいらん。残りはキミの説教だ」

「え」

 

私は反撃に動き出す。

追加装備を背負ったエソラが、あちらの私に猛攻を仕掛ける。

なるほど、《神話武装(ミシック・ウェポン)》の飽和攻撃か。

確かに、あれならば私と言えど防御に専念せざるをえまい。

だが、それはエソラの損耗が激しいことも意味するが……いや、そのためのあの装備か。

 

「っ……!」

「その悪夢(ユメ)はここにあってはならないモノだ。今一度荼毘に付せ」

 

魔剣が、私の決意に呼応して燃え上がる。

死者に弔いを、安らかな眠りを。

 

「《劫剣(ごうけん)焔送(ほむらおくり)》」

 

私は燃え盛る剣で、死したエソラの首を断った。

死体は、切り口から燃え広がり、灰燼へと還していく。

 

「さ、て。あとはあの私だな」

 

 

 


 

 

 

ひゅー!!

千手モードで猛攻撃しても倒れないとかマジで嫌になる!!

この人間大の理不尽め!!

これだからヒイラギは……!!

ちなみに三秒経過であっちのボクは倒れましたが、その間にボクの千手装備は約300の手が撃墜されました。

馬鹿がよ!!本当に10秒しか保たないじゃないか!!

これで技量的には型落ちだってよ、ふざけんなばーか!!

 

「けど、無駄に手を増やしたわけじゃないんだよねえ!!」

 

この手全部に神話武装を持てれば最強だもんなあ!!

1/3ぐらい撃墜されたけど。

まあいい、あっちのボクはもう終わった。

死体丸ごと燃やすとかロックだね。

であれば、ボクの役回りは再びヒイラギの援護だ。

 

「ヒイラギ!突破口は用意する!!合わせて!!」

「カウント!」

「10!!」

 

ヒイラギが相手となると、並大抵の武装は意味をなさない。

必然、ボクが呼び出せる装備の中でも、大仰なものを使わざるを得ないのが、ヒイラギという存在だ。

無論、一対一の状況でそんなものを使えるほど、ヒイラギという女が持つスペックは低くない。

だが、この状況はその前提をひっくり返している。

ヒイラギ相手に、前衛としてヒイラギをぶつけることができる。

シチュエーションとしては最高で最低だ。

 

ボクは、アイテムボックスからそれを取り出す。

アジトの倉庫に置くことすら恐ろしく、常に持ち歩いていないと不安になる、神話武装ですらない、されど恐怖の象徴。

 

何故か、呼び出すことができた。

何故か、余りにも容易く手に落ちた。

 

故に。

それらだけは呼び出してはいけなかったのだと、痛感したもの。

 

人生、一度は夢見る絵空事。

だけど、それが実現した時、人は怯え、そして多くは愚かな選択をするだろう。

ボクもあるいは、その一人か。

 

「幻想より現となりて、命運を断て。死告剣」

 

非存在を呼び出せるからこそ、それは良く手に馴染む。

だってそうだろう。

それはいつだって自分の中にあるモノだから。

 

ただ、それを愛する人の形をしたものに、ぶつけることになるとは思わなかったけれど。

 

「汝、遍く超常を斬り裂く剣。夢を現実に陥れる夜醒めの悪魔」

 

そう、そうなのだ。

ボクはいつだって何かをモチーフにしてきた。

それはある種、自らに課した枷である。

最初に能力を使ってこれを生み出したとき、ボクは恐ろしくなった。

だから、だからあの頃は、逃げることを選んだのだ。

 

「目覚めの時だ!泡沫よ、ここにて潰えよ!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()で、世界を壊せちゃ堪ったもんじゃない。

ボクは小心者なんだよ。

 

「……!?」

「今!!」

「応!!」

 

ズバーンと一撃。

フン……()()()使()()()()()()()能力者などただの木偶人形ですな。

 

荼毘に付しちまえ、そんな死体。

死者はちゃんと弔うもんだよ、全く。

勝利したヒイラギが手をあげてこっちに向かってくる。

ボクのヒイラギは最強なんだ!二度と逆らうなクソどもが。

 

さて……。

急いで装備をしまおう。

()()()()()()前にね!!

いそいそ。

っし、間に合った。

 

「ヒイラギ~」

「なんだ?」

「これからボク指一本動かせなくなるからよろしく」

「は?」

 

あ~、力が抜けてく~~……。

……。

待って?

指一本も動かせないまま副作用でムラムラした状態を過ごすの?

やっべ、マズい。

こんなのヒイラギに潰されるか放置されるかの二択じゃん……!!

やだぁーー!!

 

 

 


 

 

 

胃痛が凄まじい。

もはやエソラの能力を隠しきることが出来なくなるという非常事態。

各国の反応が簡単に想像できる。

勘弁してほしい。

当の本人たちは疲れたと言ってアジトに引き籠った。

ふざけるな、事情聴取くらいさせろ。

 

「スガヤ……私は今猛烈に日記に書かれた情報が嘘だと思いたいんだが」

「すみません、徹頭徹尾見たままの情報です」

「(アセリアスラング)!!!!」

「気持ちは分かりますが、その……」

「いやな、あの時のヒイラギほどではない。だがな?私も流石に限界を感じて来た……」

 

ヒーローをやめたいと思うほどではない。

ただ、少しだけで良い。

休みが欲しい。

いっそのことしらみつぶしにヴィランを潰すか?

一番早く休みが取れそうだ。

 

「……諸外国との折衝はどうしましょう」

「エソラの能力をすべて開示するわけにはいかない。それは分かるな?」

「はい」

「だが今回の件で、偽装工作が無に帰した。しかも相手にヒイラギとエソラをコピーできる何かしらの手段があると判明した上でだ。状況としては最悪の一言に尽きる」

 

既に諸外国からの問い合わせが凄まじい。

ただでさえヒイラギという戦力を抱えているから妬まれているというのに、その上エソラの存在まで明確に露見してしまっては、それはもう嫌味の嵐だ。

くそ、何も知らないくせに好き勝手言いやがる。

ヒイラギとエソラを引き離したらどうなるか分かってないからそんなことが言えるんだ。

私でもどんな被害が出るか分からないというのに……!!

 

「諜報部の仕事量も飽和状態だというに……スガヤ、一度監視の任を解く。工作員の出入りを洗ってくれ。サポートは付ける」

「了解」

 

どうせもう工作員を動かしているだろう。

少なくとも、エソラを何とかしようという動きはあるはずだ。

馬鹿どもが。

アレをどうにかできるのならとっくに始末してる……!!

アレがその気になれば世界のどこからも姿を晦まして制圧することなど容易いんだぞ……!!

ふぅ……落ち着け私。

それを露見させるわけにはいかない。

最悪戦争が起きるからな……戦いにすらならない蹂躙だが。

 

いつだったか、エソラに聞いたことがある。

この国、アセリアを制圧するのにどれほどかかるかと。

その時の答えは何だったと思う?

『被害を度外視したうえで、ヒイラギがいないなら』という前提ではあるが……半日だ。

国を滅ぼせる規模の怪物でも出してアジトに引き籠ってれば勝手に壊滅してる、だそうだ。

ふざけやがって。

 

半日あれば世界最大国家を滅ぼせると豪語するバケモノを相手に、友好な関係を結ぶ以外に何があるというんだ。

普段は隙だらけだが、その気になったら隙なんぞ無くなる。

もし仕留め損なってみろ、ヒイラギもセットで警戒に入るんだぞ。

 

私とヒイラギの関係性があるからこそ、私はエソラとの橋渡しができているんだ。

ヒイラギとの関係も冷え切ったら、もうなにも打てる手はない。

仕留めきれたとしても、ヒイラギがどうなるか未知数だ。

クソ、エソラが口癖のように配信で言っている、人間は愚かだという言葉を噛み締めることになろうとはな!!

 

「あの、《テリトリア》さん」

「なんだ」

「携帯、鳴ってます」

「……ありがとう。それと、退出して構わない。短いだろうが6時間ほど休憩を取ってから任務を始めてくれ。すまないな」

「いえ。《テリトリア》さんこそ……お大事に……」

「まだ大丈夫だ」

 

さて、電話に出るとしよう。

ヒイラギか。

電話越しでも聴取できるか?

それなら有難いんだが……。

 

「《テリトリア》だ」

『ヒイラギだ。今回起きたことを報告しようと思ってな。スガヤを途中から避難させた手前、報告した方が良いと思ってな』

「だったら最初から頼む……」

『すまない。エソラを至急速やかに()()()必要があってな。今寝かしつけたところで、連絡した』

「何が起きた」

『私たちを襲った私たちと同じ姿の存在だが、エソラが言うには正真正銘、私たちの死体だったそうだ』

「なんだと?」

 

二人が生きているのに、二人の死体?

どういうわけだ?

 

『また、未知の技術系統の痕跡が見られるとも言っていた。死体が動く、未知の技術という観点から、エソラは大乱のエイリアンの仕業ではないかと推測していた』

「その前に、お前たち二人の死体だと?何かの間違いじゃないのか?」

『私もそう思いたいが、事実としてアレは死体だった。また、あれらは私たちと同じ思考と技量を持った存在ではなく、これはエソラにも言っていない事だが、人間としての動きに不慣れなように感じられた。人間ではない何かの介入は否定できないというのが私の所感だ』

 

……そういわれると、エイリアンどもの介入は否めない。

再来に備え、世界単位で軍備を進めているが、潜入工作を行われている可能性も、考えなければならない所か。

しかし、動く死体か……。

 

「……またあの地獄の再現か?」

『わからん。だが、新興ヴィラン組織は怪しいと思っている。エソラが落ち着いたら、対抗策を講じるつもりだ』

「……すまない、頼む。私は……またあの地獄に立てる自信はない」

『分かっている……すまない、緊急事態だと判断してエソラを解放した』

「いや、その判断は間違っていない。お前と互角以上の戦闘になる敵性存在を野放しにする方が怖い。諸外国の折衝くらい任せておけ」

 

ヒイラギと同等以上の戦闘力。

エソラと同質の異能。

どちらも放置するには危険過ぎる存在だ。

多少露見してでも、仕留めに行ってくれたのはありがたい話だ。

二度と出現しないでほしいが。

 

『……どうしても弱ったらアジトに来い。復帰も考える』

「はっ、余計なお世話だ《ブレイディア》」

『エソラ曰く、ヒーローの本質は余計なお世話だそうだ。引用らしいがな』

「そうか。元ヴィランのくせに言ってくれる……」

『全くな。さて、伝えるべきは伝えた。切るぞ』

「ああ。ところであのクソガキはどうした」

『どうにも相手が強くてな。打開するためにドーピング剤を飲んだのだが、興奮作用が強かったみたいでな……その……』

「わかった、もう良い。言うな」

『すまん……』

 

まっっったくあのクソガキは。

私の心配を返せ。

などと思っている暇はなかった。

 

『あ、待て、忘れていた』

「なんだ?」

『幻楼院リンネに、面会を求む』

「なんだと?」

 

今日一番の困惑が、私を襲った。




・ドーピングエソラ:千手ファ〇ネルモード
相手が悪過ぎるだけで本来はチートモード。
工房バフが無い状態ならこれが一番強い。
弱点として戦闘が終わると物凄くムラムラする。
エソラの名誉のために言っておくが、副作用目的ではない。
純粋に効果を高めた結果、興奮作用が大きくなり過ぎた。
改良案は模索している。

元からヒイラギ以外の全てを蹂躙できるが、エイリアン艦隊を一撃で撃墜できる修羅ヒイラギスペック相手に10秒も勝負になる。
なに?ヒイラギはどこぞの大蜘蛛なの?
なお、本来の修羅ヒイラギ相手では3秒も保たない。
相手が悪過ぎた……。

余談だが、潰された。


・黒歴史装備
エソラは軽く出せた風に言ってるけど実際はそんな簡単に出せているわけじゃない。
そもそも中二病拗らせた設定厨がちゃんと隅々まで作り込んでたからすんなり通っただけの話。
ただ、ちゃんと隅々まで設定を作り込んでいるためか、神話武装よりは出しやすい。
ちゃんとそれ相応の武装自体のクソデカデメリットも存在するし、詠唱しないとちゃんと起動しないという制約が存在する。
今回のは相手を問答無用で24時間無能力者に陥れる代わりに、自分も24時間動けなくなる自爆前提装備。
味方がいる場合、相手に死を告げるに等しいため、死告剣と名付けられた。
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