TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う 作:蓋然性生存戦略
P.S.
いつも誤字報告ありがとうございます。
月間3位にまで昇っててびっくりしましてよ(2025/10/09時点)。
拙作をご愛読いただき感謝の念がつきません。
気が向きやすくなりそうです。
なぜ。
なぜ私は学園に戻されたのだろう。
余命だけはそのままで、表面上は健康な身体で。
異能は封じられたままで。
「キミへの刑罰ってヤツ。どう捉えるかは任せるよ」
あの女は、そう言って私を学園に差し戻した。
まあ、好きにすればいい。
どうせ、私は求められていないのだから。
どうだっていい。
そう、思っていたのに。
「一ノ瀬!!」
教室にたどり着いた瞬間、私は抱きしめられた。
なぜ?
わからない。
私は捨てられたのに?
胸が、少しだけ熱い。
「ごめん、ごめんな。ちゃんと向き合うから……!」
何に向き合うというのだろう。
わからない。
もう、放っておいて欲しいのに。
どうしてみんな、私を見るの。
「あなたの帰りを、一期生一同、待っていたのですよ。どれだけ重罪を犯したとしても、我々は道を共にする同志だったことには、変わりないのですから」
なんで?
なんでなんでなんでなんで。
私にそんな価値はないんじゃなかったの?
「放っておいてよ……」
「ほっとかないっすよ。それが一ノ瀬さんに課せられた刑罰っすから」
……あっそ。
好きにすれば良い。
どうせ私に選択権はない。
それから一ヶ月が経った。
私はオペレーターとして学園にいることになるらしい。
例外として、私はヒーロー科のままだけど。
何をしろって言うんだか。
教科書とかを山積みにされたけど。
「……これ全部?」
「まあ全部とは言わんけど最低限これとこれとこれは覚えた方がいいんじゃない?キミがまだ四神に何か思うことがあるならね」
本当に、あの女は。
何を考えているのかわからない。
なんとなく、ムカつくからやった。
何をイラついているのか、自分でもよくわからないけど。
勉強して、オペレーターの実践を積んで。
もう一度クラスメイトと交流して。
そうして半年が経つ頃には、三年生になる頃には。
私は、自らの過ちを正しく理解し始めていた。
だとしても、わからない。
私に理解させて、何をしたいのか。
全くもってわからない。
本当にこれは刑罰だろうか。
クラスメイトは以前と変わらず。
レンくんたちは今までよりも親しくして。
私は以前と変わらない、それどころか以前よりも充実した生活を送っている気がした。
わからない。
わからないわからないわからない。
あの女の考えていることが、全くわからない。
けど。
ここまで思い通りなのだとしたら。
最後にきっと、私は後悔するのだろう。
そんな気がした。
それから、それから。
時間が過ぎ去って。
ああ、死が近づいてる実感が湧いてきた。
希薄だったそれが、確かな輪郭を纏って近付いてくる。
いやだ、いやだ。
死ぬのはいやだ。
だって、まだ足りない。
だって、まだ生きたい。
そうして死ぬまでの時間が一年を切った時、私はようやく理解した。
ああ、これが罰なんだ。
どう足掻いたってやり直せないという、死の宣告こそが、私への罰。
憎い。
憎い憎い憎い。
けど。
私のせいだ。
私が、過ちを犯さなければ。
こうはならなかったのだ。
レンくんたちには言えない。
あくまで気丈に振る舞おう。
死なんてどうだっていい。
ずっと前からそうだったように。
今度は、悲しませたくないから。
私は平気だよって、そう伝え続けて。
あんまり私に頼らないでねって言って。
そうして卒業を迎えて。
「で、人間生活どうだった?」
ああ、やっぱり。
この女はそれが狙いだったんだ。
ニヤニヤと憎たらしい顔でこっちを見ている。
「……別の意味でお前が憎い。もう半年しか時間が残されてないなんて」
「ガハハ、いい刑罰になったんじゃね。どう思うヒイラギ?」
今にも高笑いしそうな顔で、私たちを見下ろすエソラ。
ヒイラギの肩の上で、偉そうに踏ん反り返っている。
必然、私も少し本音が漏れた。
「そのようだな。四神たちも精神的に成長したようだし、悪くはない手だったな」
「先生……」
「これで変化なしだったらどうしてくれようかと本当に思ったけど……うん、十分だ」
何が十分だというのだろう。
私はもう、用済みか。
「目を瞑りな。キミは罪人だからこれ自体がオマケだと思ってくれたまえ。ヒイラギの寛大な心に感謝しながらこれからを生きるがいい」
あまりにも眩しい光が輝き始めて、私は言われずとも目を瞑った。
何か奇妙な感覚と共に、私は私を構成する何かが吸い出されるのを感じた。
何が起きているんだろう。
わからない。
「よし、もういいぞ」
そう言われて目を開けると、なぜか立っている場所が変わっていた。
特にそれだけで、変わったことは一つも……枷がない。
けど、異能は使えない。
これは一体……。
「じゃあなクソガキ。精一杯オペ子として頑張るんだな」
「……ありがとう」
「上出来だ。ほんじゃま、ボク達は後一年ここでひよっこを担当すっから、顔出すならそのうちにな」
なぜかはわからないが。
私は死なずに済むのだと悟った。
異能を使えないこの身体で、この先長い一生を生きていけと。
そういうことなのだろう。
「ま、これから苦労しろよ、叔母さん?」
「その呼び方はやめて」
「クカカカカ。じゃあなー」
二人はその場を去り、学園へと戻っていった。
私は、それを見て……見送って。
安堵から力が抜けてしまった。
「キリエ!」
「キリエさん?!」
「大丈夫っすか?!」
死ななくていいのだと。
まだ生きていけるのだと。
お別れをせずに済むのだと。
ああ、それはなんて贅沢なんだろう。
「ぅ、あ……」
「キリエ、お前やっぱり……」
「うああぁぁぁああああ……!!」
「死にたくなかったんですね……強がってただけでしたか」
「やれやれっすよ……でもまあ、これからもよろしくっす」
「あ“り”がどう“……あ”り“か”と”う“……!」
死にたくなんてなかった。
もっと先を見ていたかった。
それが叶うのならば。
異能なんて必要ない。
きっと今なら、私は異能を持っている頃よりも。
ずっと上手くやれるから。
それから十年後。
『キリエ、他に事件は?』
「あるわけないでしょ。頑張りすぎ」
『はは。そうは言ってもな。今や俺たちがエースだぞ。張り切らなきゃな』
「バーカ。ちゃんと休みなさいよ、全く」
当時のトップを張っていたヒーローたちは、今や後任に託して次代の育成に励んでおり、現場は完全に新しい世代へと移り変わりつつある。
それでも、時折力を貸してもらうときはあるにはあるが。
概ね時代は私たちに移ったのだろう。
ある種、異能などなくても願いは叶うという証左だった。
「っと、トートシティギガバンクにて事件発生。結構規模が大きいみたい。一応急いで」
『トートか……ま、間に合ったら頑張るさ』
とはいえ、完全に叶ったわけではない。
ヒイラギという壁はあまりにも大きく、それに寄り添うエソラという大きな支えは強固かつ堅牢だった。
つまるところ。
『やっぱ間に合わなかった』
「流石に早すぎる。ちょうどそこにいたんじゃない?」
彼女らのホームでは、決して活躍の場がないということだった。
「一応注意してくれる?一般人が制圧すんなって」
『はは、もう伝わってる』
『久しぶり、《リーパー》。オペ子は変わらずキリエ?』
「ええそうよ!お願いだから一般人は大人しくしててくれない?」
『いやごめーん。子供が一緒だったからヒイラギが張り切っちゃって』
『キリエ〜、おひさ〜』
「ああもう、正当防衛ということで通しておくから!ほんとに頼むからね?!」
『善処はする〜』
「この、このぉ!!」
相変わらず、この女は元気そうで本当に腹が立つ。
『で、人間生活どう?』
「充実してるわ。おかげさまでね!!!!!」
『にゃはは、そらよかった』
『にゃはは〜』
でも、私はこいつに、ずっと感謝し続けるだろう。
憎たらしい、姪っ子め。
クラスメイトは案外受け入れてたという話。
幸せもんだな、キリエ。
クラスメイトたちが聖人すぎる?
それはそう。